2017年10月15日のヨーロッパ上空のジェット気流の速度
本格的に地球の上層大気が「壊れて」きている
地球の天候状況が、「何だかおかしい」というところから「もはや完全におかしい」と自覚できるほどになったのが今年を含めたこの2〜3年くらいの間でしょうか。
前回の、
・史上初めての場所に誕生し、史上初めてのコースを取る記録づくめのハリケーン「オフィーリア」。それは地球の海と大気の大規模な変化の象徴そのものであり、自分が死にゆくことを知らない者の象徴でもあり
2017/10/15
という記事では、大西洋の「観測史上最も東」で誕生したハリケーンが、通常のコースとは真逆にも見えるコースをとり、英国のほうに進んでいることなどを取りあげたものでした。
今日のイギリスやアイルランドの報道でも、このハリケーンの奇妙さについて報じているものが多く見られました。
10月16日のアイルランドの報道より
上のアイリッシュタイムズの記事の中で、「なぜオフィーリアはそのような場所で生まれ、このようなコースをとっているのか」ということに対しての質問に答えていたアイルランドの気象学者デイルド・ロウ(Deirdre Lowe)さんは以下のように述べています。
「なぜこんなに東部で発生し、このようなコースなのかということについては、おそらくはジェット気流などの大気の流れとの関係なのではないかとは思いますが、今のところはその理由は私たち気象学者にも特定できません」
ここで「ジェット気流」という言葉が出てきました。
そして、昨日 10月15日にヨーロッパ上空で記録された「ジェット気流の速度」が冒頭のものなのです。
冒頭の図を、大ざっぱですが、ヨーロッパの地図と並べてみますと下のようになります。
2017年10月15日のジェット気流の速度
これを見ますと、10月15日に、
「時速 300キロメートル以上の強烈な速さのジェット気流がヨーロッパ上空を駆けぬけていた」
ことがわかるのです。時速 300キロメートルは、秒速では 80メートルくらいになりますので、「 1秒で 80メートル移動する速さ」ということで、そのすごさがおわかりかと思います。
なお、この速度は、ハリケーンの定義の「カテゴリー5」を上回るすさまじいものでもあります。カテゴリーの区分は風速が基準です。
ハリケーンの強さと風速(秒速)
・カテゴリー5 秒速 70メートル以上
・カテゴリー4 秒速 59 - 69メートル
・カテゴリー3 秒速 50 - 58メートル
・カテゴリー2 秒速 43 - 49メートル
・カテゴリー1 秒速 33 - 42 メートル
このようになっていまして、今回のジェット気流の速度である「秒速 80メートル以上」というのは、カテゴリー5の中でも特に強大な「スーパー・ハリケーンに匹敵するようなものといえそうです。
ちなみに、ジェット気流の「通常の速度」とはどのくらいかというと、ジェット気流 - Wikipedia に以下の数値があります。
・寒帯ジェット気流 → 夏で秒速 20m から 30m、冬で 50m
・亜熱帯ジェット気流 → 夏で秒速 20m から 40m、冬で 40m から 50m
ということですので、おおむね秒速 20メートルから 50メートルの間くらいに収まるものということのようですが、10月15日のヨーロッパのジェット気流は、
・最も速度の「遅い」部分で秒速 40メートルほど
・最も速度の「速い」ところでは秒速 80メートル以上
と、「常識的ではない」速度になっていたことがわかります。
ちなみに、ヨーロッパ上空を通るのは、寒帯ジェット気流のほうです。
ハリケーン・オフィーリアの「奇妙なコース」と、このジェット気流の爆速が関係あるのかどうかはわからないですが、そもそも、こんなにジェット気流の速度が上がったということ自体が、気流のシステムの根本がどうにかしたと考えるのが正しそうですので、地球単位の大きな意味では関係していそうです。
ハリケーン・オフィーリアの10月17日までの予想進路
ただ、今回のジェット気流の速度は確かに驚くべきことかもしれないですけれど、もはや昨年あたりから「地球の気流は壊れていた」という事実もあります。
2015年から壊れた地球の気流は2017年に崩壊の完成を見たのかも
昨年の夏前に以下の記事を書いたことがあります。
・地球の気流が壊れた : ジェット気流が赤道を通過して北極から南極に進むという異常すぎる事態。このことにより、この先の気象と気温はこれまでに考えていた以上のカオスとなる可能性が極めて濃厚に
2016/06/30
これは、2016年にジェット気流に異常が起きたことをカナダのオタワ大学の気象学者が発表したことでわかったということをご紹介したものでした。
詳細については上の過去記事をお読みいただければ幸いですが、大まかにいいますと、次のようなことが起きていたのです。
通常のジェット気流
2016年の春に起きたこと
この発表の際、オタワ大学のポール・ベックウィズ(Paul Beckwith)教授は「何もかもオワタ」とは言わなかったにせよ、以下のように述べていました。
「北半球のジェット気流が赤道を越えて進行し、南半球のジェット気流と合流するという事態が起きました。これは今までになかった新しいジェット気流の動きであり、このことは、気候システムの騒乱が進行中であることを示しています」
「現在の気候システムの動きは、私たちが予想し得ない気象の状況を作りだすか、あるいは過去に経験したことのない新しい、あるいは恐ろしい方法で私たちを驚かせ続けるかもしれません。私たちは今、地球規模の気候緊急事態を宣言しなければなりません」
ここにある、
> 私たちが予想し得ない気象の状況を作りだすか、あるいは過去に経験したことのない新しい、あるいは恐ろしい方法で
ということに関しては、昨年から今年に関しての、日本での台風、アメリカやカリブ海諸国でのハリケーンなどの「前例のない事態」の数々を見ても、その通りのことになっているというようには思います。
先ほどの記事を書いたのは昨年の6月だったのですが、その2ヶ月後、「予想し得ない、過去に経験したことのない気象状況」というのが日本でも出現しました。
2016年の台風 10号がそうです。
下の図は当時の気象図から台風 10号の動きを書き出したものです。正確ではないかもしれないですが、大まかにはこのように台風 10号は動きました。
2016年の台風10号の軌跡
関東沖で発生し、南に下った……と思ったら、そこからまた北に戻り、どうなるのかと思っていたら、そのまま本州に向かってきたわけですが、 8月19日から 9月1日までという長期間を複雑な動きをしながら4カ国に影響を与えて去っていったものでした。
この頃は、他にも台風 9号と 11号も同時に、日本列島付近に停滞して、ムチャクチャになっていた時もありました。
2016年8月22日時点の台風9号、10号、11号の予想進路。ほぼ混在
気流の崩壊は他にも、成層圏の気流のサイクルである「準2年周期振動」というものが崩壊した可能性が、やはり昨年伝えられていまして、
・気流の崩壊は続く : 規則正しく続いてきた成層圏の気流のサイクル「準2年周期振動」の規則性が2015年に崩壊したことがアメリカ地球物理学連合の研究で明らかに
2016/09/04
という記事でご紹介したことがあります。
とにかく、2015年あたりから、これまで長い間ずっと地球の気候を下支えしてきた「地球規模での大きな大気の流れが崩壊し始めた」可能性が高くなっています。
もちろん、崩壊したわけではなく、一時的なものである可能性もあります。
しかし、今年のハリケーンや台風を見ても、あるいは全世界規模での雨や雹や雲や風や空の色……。何をとってみても「私たちが知っている地球の天候ではない」ということが劇的に増えていることから、一時的なものではない可能性が高いと感じます。
もちろん、「崩壊」という否定的な言葉だけではなく、
「大きな変化」
という表現もできなくもないかもしれません。
いずれにしましても、地球の高層の大気状況の根本が大きく変化してきていることが、より鮮明となってきた以上、天候の荒れ幅はさらに拡大するかもしれません。
台風シーズンもハリケーンシーズンも終わりに向かっていますが、次は「冬」が来ますからね。
爆速ジェット気流と非常に強い寒気の組合せが生じた場合、異様な天候や気温が、想像もしない場所に展開される可能性はあると考えられます。
これからは時間を重ねれば重ねるほど、どんどん気候が激しくなっていくということになる可能性がそれなりに高そうです。