戦闘に向かうクルド女性防衛部隊(YPJ)の戦闘員
世界で最も危険な場所で戦う「ふたつの女性武装集団」
ちょうど1年ほど前、イスラエルにお住まいのお知り合いの方が、イスラエルのテレビで放映されていた「世界で一番危険な場所」という番組のことを教えてくださいました。
そのことを、
・「イスラム国」戦闘員が最も恐れるもの - それはクルド人「女性」戦闘員に殺害されること
2014/12/24
という記事にしたのですが、この番組は、
クルド人ゲリラ組織「クルド労働者党( PKK )に参加し、彼らが至近距離で ISIS (いわゆるイスラム国)と戦っている光景と接した。
そして、PKK によって捕虜にされた狂信的な ISIS 兵士たちにインタビューすることに成功した。
という内容のもので、その冒頭に、
「インタビューによって明らかになる ISIS の黒服の兵士たちが野戦で「最も」恐れるものは何か?」
というナレーションが入ります。
さて、IS の戦闘員たちが最も恐れるものは何だったのかというと、それは、
「クルド人女性兵士に殺されること」
なのでした。
「殺されること」ではなく、「女性に殺されること」を最も恐れているのです。
その理由は、原理主義敵なイスラム教に基づいているものらしく(コーランに書かれてあるものかどうかは不明です)、多くの IS 戦闘員たちは、
「女性に殺されると天国に行けない」
と、少なくとも純粋なイスラム原理主義の人たちは信じているようで、そのため、「戦闘で死ぬのは(むしろ天国に行けるので)大歓迎だが、女性兵士に殺されるのだけは、絶対にご免だ」という思想となっているのだそうです。
少なくとも、イスラエルのその番組に出てくる PKK の女性兵士たちそのように語っていました。
そして、捕虜になった IS の戦闘員たちの言葉からも、彼らが「心底、女性兵士に殺されることを恐れている」ことがわかるのでした。これは、イスラム教に描かれている「天国の光景」とも関連するものなのですが、そのことは、先ほどリンクしました記事に少し書いてあります。
そのイスラエルのテレビ番組で紹介されていた兵士は、「クルド労働者党(以下、 PKK と記します)」というクルド人国家の樹立を目指している分離主義組織の女性兵士たちでした。
PKKの女性戦闘員
PKK 自体は、男性も女性もいる組織ですが、その中で IS と戦闘を繰り広げるために最適なのが、「 IS が殺されることを元も恐れている女性兵士たち」だということのようです。
そして、先日、前回のババ・バンガの記事でご紹介した英国のデイリーメールを見ていた時に、他の記事で下のようなものを見かけたのでした。
内容は、さきほど書きました「 IS が女性に殺されることを心底恐れている」ことが書かれてあるものですが、「 PKK の彼女たちなのかな」と読んでみますと、「 YPJ 」という言葉が出てきます。
それを知らなかったですので、調べてみますと、何と、クルド人組織の中には、他に、
「女性だけで組織されている武装集団」がある
のでした。
それは下のような集団です。
クルド女性防衛部隊 - Wikipedia
クルド女性防衛部隊( YPJ ) は、2012年に左翼民兵クルド人民防衛隊( YPG )の女性旅団として設立された武装集団である。
YPGとYPJは、ロジャヴァと呼ばれる、クルド人が多数を占めるシリア北部を事実上統治しているクルド人連合の武装部門である。
この全員が女性の民兵集団は、クルド人抵抗運動の中から育った。現在18歳から40歳までの7000名の義勇兵がいる。YPJは国際社会から何の資金も受け取っていない。
「義勇兵」とありますので、国家の正規兵や職業軍人ではないということになります。
それで、いろいろと調べて、写真なども見たりしていたのですが、以前の PKK の女性たちを見ていた時も、「やや不思議に思った」と言っていいのかどうかわからないですが、そう感じたことがあります。
それは、実に多くの彼女ら女性兵士たちが、
・明るい
・おしゃれ
・よく踊る
ということでした。
「踊る」ということに関しては、クルド人の民族の血的な、つまり、日本人がポルカを聴いたら踊り出すような(どこの日本人だよ)、まあ、そういう民族的なものだとは思いますが、PKK の女性兵士たちが「明るい」のと「おしゃれ」なのは、特に印象的でした。そして、YPJ からは、さらに強く感じます。
YPJ、あるいはPKKの女性戦闘員たち
米国タイム誌の「今年の人」の表紙となったYPJ 兵士たち
・Female Kurdish fighters battling ISIS
YPJ 防衛隊
・Defenders Of Kurdistan
ネスリン・アブドラー( Nesrin Abdullah )YPJ 最高司令官
・galeri.korhaber.com
もちろん、戦闘では、負傷者ならびに戦死者が出ます。
下の写真は、 IS との戦闘で死亡した YPJ 戦闘員の葬儀(2014年8月18日)です。
IS との戦闘で死亡した YPJ 戦闘員エヴリムさんの葬儀
それでも、YPJ 兵士たちは、IS との戦いについて、下のような共通した見解を持っているようです。
YPJ戦闘員へのインタビューから
「(米英ロシアなどの)大国は IS を打ちのめすことはできないと私たちは言い続けてきました」
上の彼女の言うことがある程度正しいかもしれないと思うのは、すでに、「米軍の空爆開始から1年4ヶ月も経っていて、何が進展しただろう?」ということは、実は誰でも考えていることからも何となく思います。むしろいろいろ意味で悪化しているだけでもあります。
これに関しては、今年 10月のニューズウィーク記事の、
というタイトルがいろいろとあらわしているような気がします。
上の記事には、
オバマ政権はこれまで40億ドル(約4800億円)の費用を投じて7300回近い空爆を続けてきた。シリアでは、アサド独裁政権やISISと戦う穏健な反体制派の軍事支援も行ってきた。それでも戦況は変わらず、ISISの支配地域も一向に狭まっていないようだ。
失敗だったのは空爆だけでなく、反体制派への軍事支援も同様だ。穏健派のシリア反体制派を訓練し、武器を提供するという5億ドル(約600億円)をかけた計画だったが、1年で5400人、向こう3年で1万5000人を訓練するという目標とは程遠く、今では数人の兵士しか残っていない。AP通信によれば、訓練を受けた80人足らずの反体制派兵士の多くは、戦場で逃亡するか、捕まるか、殺されたという。
とあります。
> 反体制派を訓練し、武器を提供するという5億ドルをかけた計画だったが、今では数人の兵士しか残っていない。
というのは、なかなか衝撃的な話ですが、比較をすれば、ほとんど費用をかけずに、(難民に紛れたりしながらも含めて)どんどんとヨーロッパに戦闘員を送り込み続けている IS とはずいぶんと違う結果となっています。
それからも空爆はいろいろな国が参加していて、そのうち、全体の費用も1兆円、2兆円とふくれあがるということなのでしょうかね。
まあ・・・結局、「膨大な資金と、膨大な軍事力のある者が勝つ」というアメリカ的な考えは、少なくとも、この1年半では通用しなかったと。
そもそも、基本的に、IS 戦闘員の多くが、「(戦闘で死ぬと天国に行けると本気で考えている兵士たちは)死を恐れていない。あるいは、そのように、訓練されるか思想統制されている」のですから、空爆なんて怖いはずもない。
泥沼化は進むか
いずれにしても、すでに、アメリカの当初の計画は破綻しているわけですが、そこに出てきたのが、タイトルにもした、ロシアのプーチン大統領の「核」という言葉を含む発言なのですね。
これは、ロシアのプラウダなどが報じた、プーチン大統領による、「シリアのロシア人への IS の脅威を排除するために、IS を破壊するための緊急のあらゆる手段を講じろという大統領命令」についてのもので、その手段の中から核を排除していないというような物騒な話ではあります。
しかし、物騒ということを別にして、「核」という名前を持ち出せば、何らかの効果があると思っているあたり、ロシアもアメリカも、考え方には大差ないことがわかります。
何しろ、「死が怖くない」のなら、核兵器が怖いわけがない。
そして、先ほどのニューズウィークにありますように、
> 2万人殺しても2万人増える IS
というあたりのことも含めて、力での対立というのは、現段階では憎しみを増大させる効果しかないようにも思います。
そして、やればやるほど、「これまでになかった新しい憎しみ」が増大していること。
もともと、「 IS なんてイスラム教徒とは関係ない」と思っている人が大多数だったはずだったのに、次第に、憎悪が新しい支持者を増やしていくかもしれないというような今の感じもあります。
そんな憎しみだらけの状況であるだけに、戦闘のまっただ中にいながらも、「憎しみで戦っている」ことをあまり感じさせない PKK や YPJ の女性兵士たちに、一種の驚きともいえる感情を持っているのかもしれません。
そして、彼女たちは、世界で最も「 IS 戦闘員を恐れさせている」兵士たち。
まあ、現実として、戦闘員の実数、資金、武器などのあらゆる面で、PKK や YPJ よりも IS がはるかに上回っているのは事実ですが、シリア全体ではなく、一部地域に限定すれば、PKK や YPJ の影響力はかなり強いです。
それにしても、写真などを調べていますと、凄惨な場面にも出くわし、あるいは、女性戦闘員が IS にナイフで殺害されているような正視に耐えないものもあるのですが、日々のそのような生活の中で、PKK や YPJ 戦闘員はどうしてあれほど明るく振る舞えているのだろうかとは思います。
目的のための意志?・・・うーん、わからないですが、笑顔が多いからこそ、底知れない強さも感じさせてくれます。
彼女たちに頑張ってほしいと思う理由も動議も私には本来はないのですが、それでも、まあ、単なる心情の問題としては、彼女たちに早く平和というのか「目的達成の日」が来るといいなとは思います。
そして、前回のババ・バンガの記事にありました「イスラムの大聖戦がヨーロッパで起きる」と、バンガが述べたとされる 2016年はもうすぐです。
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