植物の生命を損なうことのないパーフェクトな発電
最近、日本の報道の見出しを見ました際に、ふと「あ、これはもしかして」と思うものがありました。
きわめて短い報道で、これだけだと何だかわからないかもしれないですが、ご紹介します。テレビ朝日のニュースです。
意外なものからスマートフォンを充電します。植物を使ったヘアケア商品を開発する BOTANIST などは植物と土を使った発電でスマホの充電を体験できるスポットをオープンしました。
植物の光合成で作られた糖分を土の中の微生物が分解する際に発生する電気を利用します。植物が元気に保たれている間は安定して発電でき、1時間でスマホの電池容量の20%ほどを充電できるということです。 (テレ朝 news 2022/04/07)
これだけでは何ともいえないとしても、
「あー、これは植物の、あの《慈悲ある特性》を利用したやつだ」
と確信しました。
もう 7年前になるのですが、以下の記事で、オランダの企業が、
「植物を使って発電する」
ことについて、外灯などへの使用を含めて実用化したことを取り上げたことがあります。私自身、大変に感動した内容でした。
[記事] オランダの女性たちが発見した奇跡のエネルギー生成 : 生きた植物と生きた微生物と水のコラボレーションが生み出した驚異の発電法 - Plant-MFC
In Deep 2015年07月04日
「植物で発電する」という響きからですと、何だかこう、植物そのものを材料にしてエネルギーにするような響きを感じられる場合もあるかと思いますが、そうではないのです。
植物の「生きるための働きを借りる」もので、「光合成のメカニズム」に着目したものです。
光合成によって生成される有機物には、植物の成長を促す成分が含まれていて、植物はそれにより成長します。
つまり、植物は水と光で育つのですけれど、この オランダのプラント-e社という企業の CEO は、植物の光合成の研究の中で、「ものすごい特性を見つけた」のです。
どんなことかといいますと、何となく植物は完全なメスニズムで栄養を水と光から取り入れているようなイメージがありますが、
「植物の光合成は 70%が無駄になっている」
ことが見出されたのです。
植物は、自ら光合成で作った成長エネルギーの約 70%を「外部に捨てて」いることがわかったのです。
その 70%のエネルギーはどこに行くか。
それは、
「植物の根の周囲に集まる《微生物たちのエネルギー源》となっている」
ことがわかったのでした。
つまり、植物という存在は「自分が作り出したエネルギーの 3割しか自分では使わず、あとの 7割を他者に与えている」ことになります。
植物はかなりの部分で「他者のために水と光でエネルギーを作り出している」のでした。
そして、微生物が有機物を消費する際には「電子が放出されている」そうなのですが、それを発電に利用したのです。
先ほどのブログ記事でご紹介しました海外の経済記事では、以下のように書かれています。
(2015年の海外の経済記事より)
> 植物が光合成を行うと根から様々な有機化合物を生産するが、その有機化合物が、 微生物により無機物に分解される。そのときに発生する余剰電子により発電が行われることを応用したものだ。
>
> プラント- e 社は、植物が光合成をする際に、その 70パーセントが使われていないことを発見した。
>
> 根を通って排出されるその廃棄物は C6H12O6 (グルコース)の化学構造を持っており、それが微生物によって分解され、二酸化炭素(CO 2)、プロトン(H+)と電子(e - )になる。
>
> この自然のプロセスを利用して、プラント- e 社はこれを電気エネルギーに変換できることを見出した。この電力は実際の電子機器に使うことができる。
概念図としては以下のようなものです。
植物の光合成と微生物による発電のメカニズムのイメージ
Plant-e
この図を見ておわかりの通り、「植物を栽培しながら発電できる」のです。
というか、
「植物が生きていてこそ発電できる」
のです。
発電量の目安としては、当時のプラント-e 社の説明には以下のようにありました。
(ブラント-e 社による2015年の発電量に関しての説明)
> 現在、この Plant-MFC では、1平方メートル 0.4ワットの電気を発電させることができる。この発電量は、同じサイズのバイオガス発酵プロセスから発生した電気を超えている。
>
> 今後、本プロダクトは、1平方メートルあたり 3.2ワットの電気を作ることができるようになる。ノートパソコンを駆動させるには、わずか 15平方メートルの植物の栽培面積があればいいということになる。
>
> 100平方メートルの土地の面積を持っている場合なら、発電量は年間 2,800キロワットに達する。この量は、オランダの家庭や他のヨーロッパ諸国の基本的な電力需要を満たすことができる量だ。 (Plant-e)
9畳くらいの部屋の広さの水田があれば、ノートパソコンの駆動が可能で、100平米の広さの水田なら「家庭用の通常の電力がまかなえる」のです。
小さな LED ライトを点灯させるだけなら、「いくつかの観葉植物」だけでなし得る可能性があります。以下は、2012年の Plant-e社の社内の写真です。これは写真ですけれど、この電動の地球儀は観葉植物が作る電力で回転しています。
この写真の女性は、当時のプラント-e 社の CEO マージョレイン・ヘルダーさんという方です。
ただですね……。
7年ぶりにプラント-e 社のウェブサイトを見てみますと、これらのプロジェクトに関するページが「消えて」いました。
会社そのものはあるようなのですが、どうも事業が停滞しているのか、他の理由があるのかわからないですが、この植物による優れた発電方法については、このオランダのプラント-e 社に関しては、その後大きな進展があるようにはウェブサイトからは見えません。
ただ、方法論として、非常に素晴らしいものであると共に、「植物の光合成に、そういうシステムが含まれていた」ということを発見したということ自体が素晴らしいことだと思います。
「そういうシステム」というのは、
「植物は、自分より他者(微生物)に多くの食べ物を与え、そして、それは電子という、エネルギーとして人類が利用できるものを結果として生成している」
ということです。
この発電方法には、地球の自然にダメージを与えたり、地球から搾取する部分はほぼありません (ただ、そのための部品や機械を作るためのいろいろはあるでしょうけれど)。
植物の光合成と、微生物の作り出す電子を、「人間が利用させてもらう」というものです。
微生物が有機物を消費することで作り出す電子は、それは微生物にも植物にも基本的には不要なものですので、要するに、
「人間は、植物と微生物たちからの排泄物を使わせてもらう」
ということになります。
人間の排泄物(ウンチくんなど ← 具体名はいいから)はなかなかうまく利用できないですが、植物と微生物のコラボの結果としての排出物である「電子」は人間が利用することができます。
植物や微生物たちにとって電子は必要なものではなく、搾取にはあたりません。
良い発電方法だと思うのですけどねえ。
もちろん、問題は「大きな電力を作り出すことが難しい」ということですが、これからの世の中、過剰な電力を使うことのできる時代がいつまで続くかどうかは微妙です。
エネルギー価格の上昇は今後さらに「どうしようもないレベルになる」とする意見が、欧米の専門家などでは支配的であり、おそらく、今度のエネルギー危機は、「 1970年代の石油ショックなどと比較にならない」規模に発展していく可能性があります。
今後のエネルギーの推移について、アメリカのエネルギー関係の報道のトップ・メディアである OIL PRICE が数日前、「このエネルギー不足は1970年代の石油危機よりも深刻になるのだろうか」というタイトルの記事を投稿していました。
その冒頭には、概要として以下のように書かれています。
( 4月7日の oilprice.com より)
▶ 1973年に中東の石油生産者が米国への輸出の禁輸を宣言したとき、石油価格は高騰し、米国は重大な燃料不足を経験した。
▶ 今日のエネルギー危機は、石油だけでなく、天然ガスや石炭も含んでおり、1970年代の悪名高い石油危機よりもさらに悪化する可能性がある。
▶ EUがロシアの石炭を禁止する動きをし、米国が LNG のコミットメントを果たすことに苦心しているため、現在のエネルギー危機はすぐに悪化する可能性がある。
Is Today’s Energy Shortage Worse Than The 1970s Oil Crisis?
それと共に、最近よく書かせていただきますが、「これまでのような食糧供給と流通が、いつかは(一時的にしても)滞るか、途絶える」という可能性さえあります。
そうなった場合、自給自足などで作物を作るような動きが各地で出てくるかもしれないですが、
「農作の副産物として発電することができる」
というのなら、まさに、虻蜂取らずですよ(たとえが違うわ)。
……ああ、虻蜂取らずではなく、一挙両得ですよ。
日本でも安価に、このメカニズムを利用した家庭用の植物発電システムのようなものが販売されるといいのですけどね……。
どなたか、リッチな起業家さん、お願いッ(どこまでも他力本願)。
なお、食糧のことですけれど、少し前に、国連の人道問題調整事務所(OCHA)が、
「飢餓のハリケーン」
という表現を文中に使った今後の飢餓の問題を文書でリリースしていました。
ここでは、主に、いわゆる開発途上国に差し迫っている飢餓について書かれてありますが、「どのような国が、特にロシアとウクライナの小麦に依存しているか」ということなどがわかると共に、これを読んでいると、
「発生の時間差はあっても、今後の食料危機に途上国とか先進国とかの差はない」
と思えるものです。
食糧の大生産国はまだしも、主要国であっても、食糧とエネルギーの自国の生産が乏しい国々は大変な状態になっていくと見られます。
その国連人道問題調整事務所のニュースリリースをご紹介して締めさせていただきます。
ウクライナ戦争は南の発展途上国の飢餓を悪化させる
Ukraine War Exacerbates Famine in the Global South
reliefweb.int 2022/04/01
繰り返して述べていることではあるが、現在の戦争は、その影響が戦場をはるかに超えた苦しみを引き起こすことを示している。
ウクライナに対するロシアの侵攻は、アフリカと中東の多くの国で食糧危機を悪化させている。
何年にもわたり飢餓は減少していたが、今、飢餓は世界的に再び増加している。国連食糧農業機関(FAO)によると、世界が危機的な段階にある理由は数多くあるが、多くの場所での激しい紛争により、食糧の栽培と収穫、加工と輸送、供給と販売が不可能になっている。
これに加えて、気候変動のますます劇的な結果がある。気温の上昇、降雨パターンの変化、干ばつや鉄砲水などのより頻繁な異常気象により、食糧事情はますます不安定になっている。コロナウイルスの危機も、世界的な飢餓を再び増大させた。
そこに、ウクライナへのロシアの攻撃が追加された。
ウクライナとロシアは、現実として、世界の「ヨーロッパの穀倉地帯」と見なされている。両国は合わせて、世界の小麦需要の約 30パーセントを供給している。何年もの間、ロシアとウクライナは、小麦、トウモロコシ、菜種、ヒマワリの種、ヒマワリ油の最大の輸出国にランクされてきた。
戦争が始まって以来、ロシアは小麦の輸出を大幅に削減した。また、一方のウクライナは、国内の物資を確保するために、もはや穀物を海外に輸出していない。
ウクライナの、特に北部では農業が崩壊している。農家の人々はもはや自分たちの畑にたどり着くことができず、肥料と燃料が不足しており、彼らは国内の他の地域に逃げているか、ウクライナの軍隊に徴兵されている。
すでに播種された小麦が夏に収穫できるかどうかはまだ分からない。さらに、夏の穀物とトウモロコシは 3月に播種されるべきものだった。来年の播種がどうなるかもまだ分からない。
しかし、明らかなことは、多くの開発途上国がロシアとウクライナの小麦に大きく依存しているということだ。国連食糧農業機関によると、ロシアとウクライナの輸出規制は世界市場での食料と飼料の価格を最大 22パーセント上昇させる可能性がある。アラブの春が、特にパンの価格の上昇が北アフリカ諸国での広範な抗議につながったことを思い出す。
国連事務総長は「飢餓のハリケーン」を警告している
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、3月中旬にこの戦争の世界的な影響について緊急に警告した。穀倉地帯は爆撃されており、「飢餓のハリケーン」が脅かされていると事務総長は述べた。
ウクライナが食品輸出国として非常に重要であることを考えると、侵略は「世界で最も脆弱な人々や国への攻撃でもある」と述べた。
国連食糧農業機関によると、世界の食料価格は依然として上昇しており、史上最高レベルに達する可能性がある。
世界の後発開発途上国 45か国は、小麦の少なくとも 3分の1をウクライナまたはロシアから輸入しており、そのうち 18か国は 50%以上を輸入している。
これらには、エジプト、コンゴ民主共和国、リビア、ソマリア、スーダン、イエメンが含まれる。これらの国では、何百万人もの人々が大規模な飢餓に苦しんでおり、戦争以前から人道援助と食糧供給にすでに依存していた。
この戦争はヘルベタス(スイスの援助団体)が活動している国々にも影響を及ぼしている。たとえば、マダガスカルは小麦の 75%をロシアとウクライナから輸入しているが、食糧事情は目に見えて悪化している。
マダガスカルでは、すでに長引く干ばつと気候関連の異常気象にひどく苦しんでいる。年の初めに、4つのハリケーンが 4週間以内にこの島を襲った。
ウクライナから小麦のほぼ 40%を購入しているチュニジアでは、小麦の価格が高騰している。チュニジアの大統領は、ウクライナの戦争とそれに伴う食糧投機の悪い状況を非難している。チュニジアの債務はこれまで以上に急増しているため、チュニジア政府は戦争が勃発する前に国際通貨基金(IMF)に財政援助を要請した。
小麦の 75%をロシアとウクライナから入手しているレバノンも、他の国の小麦輸出業者を必死に探しているが、これまでのところ見つかっていない。現在、レバノンでは、配給制となっており、今後も急激な価格上昇の恐れがある。
ロシアから小麦のそれぞれ 30%以上と 25%以上を購入しているブルキナファソとマリも、戦争の影響を感じている。国連世界食糧計画によると、気候変動とCovid-19により、2022年のこの地域の国々の飢餓人口は、ウクライナでの戦争勃発前の 2019年の 10倍に達した。輸入の減少と価格の上昇により、これらの国々の状況はさらに悪化するだろう。
最後に、アフリカの角(エチオピア、エリトリア、ジブチ、ソマリア、ケニアなどが含まれる地域)では、1300万人がすでに飢餓で苦しんでいる。
エチオピアは小麦の約 40%をロシアとウクライナから、ケニアは 30%、ソマリアは 90%以上を輸入している。2022年中に、世界のこの地域で最大 2,000万人が危険にさらされるだろうと世界食糧計画は警告している。
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