2016年12月10日の米国ニューヨークポストより
今年は、アメリカの「行方不明の現実」に関しての記事をいくつか記したことがあります。
・アメリカの行方不明者たちのいくつかで共通している「異常に不可解」な事実から推測できる「全世界に広がる失踪システム」
2016/06/23
という記事や、
・アメリカの行方不明研究者の事例にある失踪あるいは「消滅」の強烈な実態…
2016/09/07
などがありましたが、これらは、どこか謎めいた部分があるものでしたが、今回の冒頭のアメリカのメディアの記事は、そういうミステリアスなものではありません。通常の日本の「蒸発」についてのことです。日本では、比較的ポピュラーな概念である「蒸発」や「夜逃げ」といったものは、外国の人から見ると、信じられないほど奇異なことのようです。
これは、フランス人ジャーナリストのレナ・モーガーさんという方が、日本での「蒸発」という現象に衝撃を受け、5年の歳月をかけて、日本を取材し、『消滅 : 日本で蒸発した人々』というタイトルの本を出版しました。冒頭の記事はそれを紹介したものです。
記事を読んでみますと、日本について、やや勘違いしている部分もないではないとはいえ、自分が住んでいる国のこととして考えると、いろいろと思わせてくれる部分もありましたので、ご紹介したいと思います。
かなり長い記事ですので、あまり前振りなしで本文に入ろうと思いますが、ただ、ここで取りあげられている「蒸発する人の数」に関してですが、ご紹介する記事の中で、
> 1990年代半ば以降、毎年、少なくとも 10万人の日本人の男女が蒸発していると推定
と「 10万人」と書かれてありますが、実際はこれよりかなり多いと思われます。
というのも、日本で毎年見つかる「変死体の数」が、それ以上だからです。たとえば、2005年度ですが、警察庁が発表で「見つかった変死体は 13万6092人」となっていて、13万人以上が変死で見つかっています。年により差はあっても、おおむね、このような数の変死体が日本で見つかります。
変死というのは「死因がわからないものも」ですが、それがこの数ですので、蒸発や失踪の数はそれ以上になっていると思います。
というか、世界的な基準では、変死者の約半分を自殺として扱うということがあるのですが、その計算ですと、日本の自殺者数は、年間7万人から8万人くらいとなる可能性があります。
私自身は、客観的に警察発表の数値から計算すると、この「7万人以上」という数のほうが明らかに正しいとしか思えないですが、これについては諸説ありますので、今回は特にふれません。リンク先の記事の資料などをご参照いただければ幸いです。
いずれにしても、
「日本では、10年間ほどで 100万人くらいが「死因がわからないまま」となっている」
という事実はあります。この中のかなりの部分が蒸発した人たちの可能性もあると思われます。
それでは、ここから記事です。
明るい話ではないですが、いくつかのことは日本の現実です。なお、名前の漢字がわからない人に関しては、カタカナ標記とさせていただきました。
The chilling stories behind Japan’s ‘evaporating people’
nypost.com 2016/12/10
日本で「蒸発する人々」の背後にある数々のぞっとする話
1980年代、武道の指導者でもあったイチローという名前の日本人男性は、当時、輝かしい未来だけを想って日々を生きていた。
彼は新婚であり、妻のトモコと共に、東京の隣にある埼玉県の桜が咲き乱れる街に住んでいた。
ふたりは最初の子どもを授かった。ティムという名の男の子だった。
彼らは、マイホームを持つことにし、また、レストランを開くためにローンを組んだ。
ところが、その後、株式市場の暴落から始まる大きな経済ダメージが日本を襲い、イチローとトモコは、大きな借金を負うことになってしまった。
このふたりの話と同じような状況を、数十万人以上もの日本人たちが体験している。
彼らの多くが家を売り、家族とわかれ、そして、姿を消した。
それが最も良い選択だと判断して。
イチローはこの取材の中でこのように述べる。
「人間は臆病なものだよ。そんな状況になった時の誰もが逃げ出したいと考えて、蒸発してしまいたいと思うんだ。そして、自分のことを誰も知らな場所で暮らしたいと考える。俺は、自分自身は、逃走の果てに死に向かうなど想像したこともない……でも、失踪は死へ最も近い道だよ」
日本には、文化的に特有の数々の異様に思えるものが存在する。
例えば、日本には猫のカフェがあり、あるいは、墓地の撤去通知から、樹海と呼ばれる「自殺のための森」もあるのだ。樹海では、毎年 100人ほどが自殺により命を絶っている。
しかし、日本特有の異様な文化の中で、おそらく、最も誰にも知られておらず、それでいて大きな好奇心に駆られることが「蒸発する人々」についてだ。
1990年代半ば以降、毎年、少なくとも 10万人の日本人の男女が蒸発していると推定されている。
彼らは、離婚、借金、雇用の喪失、試験の不合格など、大なり小なりののさまざまな失意や恥辱を理由に自ら消滅する。
フランスのジャーナリストにより書かれた書籍『消滅 : 日本で蒸発した人々についてのストーリーと写真(The Vanished: The Evaporated People of Japan in Stories and Photographs)』は、この現象について最初に書かれた興味深いレポートだ。
フランス人ジャーナリストのレナ・モーガー(Léna Mauger)氏は 2008年に、この日本における蒸発の存在を知り、そして、その後の5年間、共同研究者のステファン・リメルと共に信じられないような話を報告し続けた。
レナ・モーガー氏は、ニューヨークポストに、以下のように語る。
「このことは本当のタブーなのです。その実際を語ることはできない何かなのです」
日本社会には、一般的な社会の下に別の社会が存在するため、人々はそこに消えていく選択をすることができる。消滅することにより、生き残る方法を見つけだそうとするのだ。
日本にサンヤ(山谷)という街がある。これは、モーガー氏が書いているように、どの日本の地図にも明記されていない。日本の法律の上では、このサンヤは「存在しない」のだ。
この東京のスラム街の名称は、日本の当局によって消去されている。
ここで見つけることができる仕事は、日本のマフィアであるヤクザや、あるいは安価で帳簿外の労働者を探している雇用者たちによって運営される。
蒸発した人々は、しばしば、インターネットや個人用のトイレのない小さくて不便な簡易宿泊所に寝泊まりしている。ほとんどの宿泊所では午後6時以降の会話は禁止されている。
モーガー氏は、ここで、ノリヒロという男性と会った。彼は現在 50歳で、今から 10年前に姿を消した。その頃、彼は、エンジニアとしての職を失ったのだが、そのことを妻に言うことができなかった。
仕事を失った時に、彼は最初のうちは、朝にはいつものように起き、スーツとネクタイを着用し、ブリーフケースを持ち「出勤するフリ」をした。玄関を出る時には、妻と別れのキスもしていた。
そして、在籍していた会社のオフィスビルに行った後は、勤務時間のあいだ、自分の車の中で過ごした。ノリヒロはこれを1週間おこなった。仕事がなくなったことが家族にばれる恐怖はすさまじかった。
夜は、仕事が終わった後にいつも上司や同僚とお酒を飲んでから家に帰るのが普通で、早い時間に帰宅すると怪しまれるため、周囲をブラブラ歩いて時間を費やしたりした。
しかし、給料日になれば、すべてはわかってしまう
会社に在籍していれば給料日だった日、彼は身だしなみを整え列車に乗った。その電車はサンヤに向かう電車だった。
「もうそれ以上は(通勤しているフリ)は無理だった」
彼は言葉も手紙も家族に残していない。家族は、おそらく彼が樹海かどこかで自殺したと考えているはずだと彼は言う。
現在、ノリヒロは仮名で暮らしている。住んでいる部屋には窓も鍵もなく、南京錠でドアを固定している。彼は毎日、大量の酒を飲む。彼は、この被虐的な苦行を繰り返しながら残りの人生を活きていくことを決意したと言う。
ノリヒロは言う。
「ここに来た後の時間の中で、俺は昔の自分を取り戻せたのかもしれない。けれども、今のこの俺の状態を家族に見られたくはないよ。俺を見てみなよ。何者にも見えないだろ。俺は存在しないも同然なんだよ。もし、俺が明日死ぬとしても誰も俺のことを知らないままで死んでいきたいんだよ」
ユウイチという男性は、1990年代に蒸発した元建設労働者だ。
彼は病気の母親の世話をし、健康管理と食べ物の用意、家賃などの生活費をまかなっていたが、ある日、資産が尽き破産した。そして、母親の世話をすることができなくなった。
彼は母親を安いホテルに連れて行き、部屋を借りてそこに母親を残した。そして、本人はそのまま姿を消した。彼はサンヤに消えた。
ユウイチは、サンヤでこのように言った。
「あんたがたには、たとえば、そこ(山谷の通り)に歩いている人たちの姿が見えるだろう。でも、あれらはすでにこの世に存在していないんだよ。社会から逃げた時、俺たちは消えたんだ。そしてこの場所で、俺たちはゆっくと殺されていく」
日本で急増している「蒸発」
日本では、第二次世界大戦の余波の中と、そして、1989年と 2008年の金融危機の影響の後に「蒸発」数が上昇した。
そして、失踪して発見されたくない人たちにサービスを提供する「影の経済活動」が登場する。たとえば、疾走を拉致のように見せたい人たちに、あるいは、家が奪われたというように見えるようにしたい人たちなどにサービスを提供する。
夜逃げ屋(Nighttime Movers)と呼ばれる仕事が日本にある。ショウ・ハトリ(羽鳥翔)という男性が最初に始めたものだ。
ハトリは運送業をおこなっていたが、ある夜、カラオケバーで、ある女性がハトリに「家具と一緒に消滅するように姿を消すような手配ってできますか?」と聞いた。彼女は、自分の人生を台無しにした夫の負債に耐えられないと述べていた。
ハトリは、真夜中の仕事であるとして、 3400ドル(約 40万円)なら引き受けられると言った。
その後、彼の顧客は広がり、様々な人々が彼に「夜逃げ」の手配を依頼した。
ハトリは、この現象(夜逃げが増加していること)について、日本のテレビ番組でコンサルタントを務めたこともある。
『夜逃げ屋本舗』は、1990年に、真の逸話に基づく架空の物語として、映画とテレビドラマとして日本でヒットした。
年間平均300件の依頼があり、作業は難しい
日本では、家族が行方不明になっても、それが本人の恥のような理由が原因であるならば、残る家族が警察に通報しない場合も多い。家族は捜索を警察に依頼するのではなく、情報を非公開にした上で行方不明者の家族の支援をしてくれるプライベートの調査グループに依頼することが多い。
そういうグループのあるひとつの本部は、小さな部屋ひとつと、ひとつの机があるだけのものだった。このグループには、一年に平均 300件の以来があり、捜索の作業はとても難しいという。
米国と異なり、日本には、行方不明者に関しての国家のデータベースがないことも、発見の難しさと関係する。
社会保障番号などの書類や識別方法もない。これらがあれば、国内で移動した人々を追跡することができる。
また、日本では、ATMの取引や財務記録には、警察もアクセスすることが法律で禁じられている。
このグループの代表であり、探偵であるサカエ・フルウチ氏は、「ほとんどの調査は途中で終了する」と述べる。
その理由として、私立探偵を雇うための非常に高い費用を挙げる。それは、一日 500ドル(58000円)もかかり、一ヶ月なら 1万5000ドル( 175万円)などの費用がかかり、普通の人には支払うことが不可能だ。
しかも、借金などのために失踪して残された家族に、そんな金銭があるはずもないのだ。
フルウチ氏は、以下のように言う。
「借金や暴力から逃げた人々は、名前を変え、時には姿も変えます。あるいは、家族などが自分を探そうとしているとは考えない人たちもいます」
フルウチ氏は、20歳で失踪した若い男性の学生を発見できたことがある。その学生は試験を受けた後に家に戻ってこなかったが、偶然、彼の友人の一人が東京都の南部で彼と会ったという。その学生は、試験に失敗し、家族を失望させたと考えていて、これからどう生きていいのかとわからないと、自殺願望に苛まれていたという。
解決されなかったケースもある。
障害のある8歳の男の子を持つ若い母親の例だ。学校で子どもの演奏会があった日、その母親は姿を消した。少年には、席の最前列に座っていると約束したのにも関わらず、最前列の母親の席は空のままだった。彼女は姿を消し、再び見られることはなかった。
彼女の夫と、そして子どもは、このことにより精神的に非常に苦しんだ。彼女は、それまで、家族に1度も悩んでいる様子や苦しむ姿を見せたことはなかったのだ。
多くの点で、日本は「喪失」の文化だ。
世界保健機関(WHO)の 2014年の報告によると、日本の自殺率は世界平均よりも 60%高い。日本では1日に 60件から 90件の自殺がある。
日本の文化は、個人に対するグループの重要性を統一する性質がある。
日本には、「出る杭は打たれる」という格言があるが、社会に適合できない人たちや、日本の厳格な文化的規範に従うことができない人たち、あるいは宗教的に近い勤勉な献身を守ることができない人たちにとって、消滅することは、ある種の自由を見つける行動の一種なのかもしれない。
若い日本人たちで、人と異なって生きたいが、家族や友人との関係を完全に切り離したくないと思っている人たちは妥協点を見つけるしかない。
ここまでです。
いろいろと思うことはありますけれど、
> 社会に適合できない人たちや、日本の厳格な文化的規範に従うことができない人たち、あるいは宗教的に近い勤勉な献身を守ることができない人たち
という人たちこそ、おそらく貴重な人たちなんですから、蒸発どころではないですよ。
そもそも私がずっとそうだった(何にも適合できない)のですけれど、そんなの気にせず厚顔で生きていればいいんですよ。
生きていくことがすべてではないけれど、蒸発とか失踪で周囲に「苦痛と悲しみ」をばらまくのは良い生き様ではない気がします。