乳幼児の言語発達の遅延の拡大はついに国の基準を下げるレベルに
アメリカの ABC ニュースで、ちょっとショックなことを知りました。
パンデミック中に、世界中の子どもたちの、特に小さな子どもたちの「言語発達がきわめて遅れている」ことを以前、アメリカとブラジルの報道からご紹介したことがあります。
[記事] マスクによる乳幼児の「深刻な言葉の遅れ」の増加率が「364%」に達しているとアメリカのセラピストが声明
In Deep 2022年1月20日
[記事] ブラジルの6歳と7歳の読み書きのできない子どもの数がパンデミックの2年間で100万人増加し、「4割が識字できない」状態に。同様のことが、日本を含めた子どもがマスク着用をしていた全世界で起きている可能性
In Deep 2022年2月10日
これが多くは「マスク」による直接的な影響だということがわかり始めていますが、問題は「子ども本人のマスク着用」の問題ではなく(それも大変に成長に悪いことですが)、
「周囲の大人がマスクをしていることで、子どもの最初期の言語獲得能力が失われている」
ことが強く関係していると考えられます。
赤ちゃんは「大人の話す口を見て」最初の言語能力の獲得を始めます。他の方法はありません。
今回は、アメリカ ABC ニュースの 2月21日の報道をご紹介させていただくと共に、最近知った「重要な論文」もご紹介します。赤ちゃんと一緒にいる大人は「決してマスクをしていはいけない」ことが認識できるかと思います。
まずは ABC ニュースの報道です。
アメリカでは、CDC (アメリカ疾病予防管理センター)が、赤ちゃんの「言語発達の基準」を決定していますが、2004年以来、アメリカでは、
「生後 24ヵ月で 50語を話す」
というのが基準でした。
これ自体も、日本の基準と比べると少ないのですが(日本では、2歳0ヵ月で単語 200語が基準)、それはともかく、数日前、CDC は、この言語発達の基準を、
「生後 30ヵ月で 50語を話す」
と変更したのです。
こんなに遅い言語発達の基準が示されたのは、世界でも珍しいと思われ(主要国の言語発達基準はおおむね同じ)、歴史上に例を見ないような、
「考えられない言語発達の遅れがアメリカで顕著になっている」
ことが示されていると考えられます。
CDC のページは以下にあります。
重要なマイルストーン:30か月までの赤ちゃん
Important Milestones: Your Baby By Thirty Months
これを報じていたアメリカ ABC ニュースの報道をご紹介します。
CDCが幼児の言語発達のマイルストーンを下げたことについての言語病理学者の見当
Local speech pathologist weighs in after CDC lowers developmental milestones for toddlers
abc6.com 2022/02/21
現在、多くの親たちは、この新しい低下した言語発達のしきい値が、パンデミックが子どもの学習に及ぼす悪影響を浮き彫りにしているのではないかと考えている。
CDCは、20年近くぶりに、乳幼児の言語発達のマイルストーンを下げた。
2004年以来、CDCは、生後 24か月の子どもの語彙は約 50語であると述べていたが、約 50語に達するのは生後 30か月だと引き下げられたのだ。
現在、多くの親たちは、この新しく基準となった、低下した言語発達のしきい値が、パンデミックが子どもの学習に及ぼす悪影響を浮き彫りにしているのではないか、あるいはそ、それを証明しているということなのだろうかと考えている。
ニューイングランド南部で 27年以上にわたって言語病理学を実践しているリー・セメア (Lea Themea)氏は、以下のように言う。
「はい、多少の遅れは現在あると思いますが、これらのガイドラインが、パンデミック時の遅れについてのみ述べているとは思いません」
セメア氏は、一部は、これらのガイドラインは、親が子どもたちに何を探すべきかをよりよく概説するように調整されていると考えている。
セメア氏によると、パンデミックは幼児が他の人と遊んだり交流したりする能力を妨げてきたが、それが子どもたちが言語スキルを学び、向上させる唯一の方法ではないという。
理論的には、パンデミックの間、ほとんどの人が家でより多くの時間を過ごし、多くの人が家で仕事をしていた際、それは子どもたちが家族と 1対1の時間をもっと過ごすべきだったときでもある。
「これらのガイドラインは、言語がどのように使用されているかを示していると思います。2歳の子どもは、すべての色にラベルを付けて 10まで数えることができますが、実際にコミュニケーションをとろうとして(色の単語を意味をなして)言っているわけではありません」とセメア氏は言う。
専門家たちは、心配している親に、子どもたちのテレビ視聴を 1日約 20〜 30分に制限するように勧めている。セメア氏は、テレビは子どもたちに言葉を教えるが、コミュニケーションを伝えないと言う。
さらに、日常の活動や家の周りの仕事に幼児を含めて、前後のコミュニケーションを促進することは、言語スキルを向上させるための鍵だという。
ここまでです。
リー・セメア氏が登場してからの部分は、基本的に「要らない部分」ですが、そこを省くと、ものすごく短くなってしまいますので、入れています。
このセメア氏の「 2歳の子どもがコミュニケーションのために単語を話しているわけではない」という説をとっている限り、話を聞く必要のない人物だとわかります。(まあ、この方の言いたかったことは、子どもが「色」を完全に理解する基準は 4歳ですので、そのことだと思いますが)
人間はどれだけ小さな赤ちゃんでも、意味のある言葉を発するのは「コミュニケーションのため、あるいはコミュニケーションへの渇望」のためであり、相手に対して発している「音」はすべて意志が伴っていると私は思っています。
重要なのは単語の意味ではなく、発語が持つ「赤ちゃんの意志」のほうです。
それはともかく、最近読みました論文では、「言葉を最初に大人から獲得していく年齢」についてが書かれていました。
「赤ちゃんたちが、大人の口を見て言葉を獲得していく」
ということはわかっていることですが、「何歳にそれが起きるのか」ということは知りませんでした。
米国科学アカデミー紀要 (PNAS)に掲載されていた 2012年の論文にそれが示されていました。
以下は、その論文の「概要」です。
乳児たちは、会話を学ぶときに、話している人の顔の「口」に選択的な注意を向ける
Infants deploy selective attention to the mouth of a talking face when learning speech
人間の乳児期における音声生成能力の獲得の根底にあるメカニズムはよく理解されていない。
私たちは、4〜12か月の英語学習の乳児たちと成人たちの、母国語(英語)または非母国語(スペイン語)で独白を唱える女性を見たり聞いたりした際の視線を追跡した。
乳児たちは、言語に関係なく、4〜8カ月齢の間に、視線は「目から口」に注意を移し、その後、ネイティブの発話に応答して、12カ月で目に注意が戻り始めたことがわかった。
最初のシフトは、乳児たちがネイティブ(英語)のスピーチ形式を学ぶことを可能にする冗長な視聴覚スピーチの手がかりにアクセスできるようにし、2番目のシフトは、社会へのアクセスを得るために目に注意を移すことができる母国語の専門知識の成長を反映していると考えられる。
このため、12カ月の乳児は、母国語の専門知識の増加と知覚の狭小化により、母国語以外の音声の処理がより困難になり、母国語以外の音声にさらされても注意を向けなくなる。
現在の調査結果は、音声生成能力の開発が選択的な視聴覚注意の変化に依存していること、およびこれが初期の経験に決定的に依存していることを示している。
> 4〜8カ月齢の間に、視線は「目から口」に…
とありまして、
> 12カ月で目に注意が戻り始め…
とあり、つまり、赤ちゃんが大人の口から学ぶネイティブ語(日本なら日本語)の言語獲得能力の最初は、
「 0歳に始まり、1歳の始まりで終わる」
のです。
ですので、0歳の赤ちゃんの周囲の人間がみんなマスクをしていたような場合、「ジ・エンド」です。
論文にありますように、
> 音声生成能力の開発が選択的な視聴覚注意の変化に依存している
のなら、話している人の口を見られないまま 0歳時代を過ごした場合、それは、根本的な言語発声の初期能力の形成が欠如したことになり、おそらく言語能力が通常に戻る機会は少ないと思われます。
それと共に、この論文でわかることがあります。
私たちは、人間の発達というのは、「脳の成長に伴って認識や言語能力が発達していく」と考えてきました。それはあるとしても、「 4〜8カ月齢の間に、話している口から言語獲得の方法を学ぶ」という部分から考えますと、
「脳そのものが、外部からの刺激と影響で、言語の獲得と平行して成長していく」
ということなのだと思われます。
大人の口を見ることで、言語を獲得していくと同時に、脳もそれに刺激されて成長する。
脳に何も刺激が与えられなければ、脳活動が衰えるのは高齢者でも赤ちゃんでも同じということなのかもしれません。
すなわち、この人生の最初期に外部の刺激と影響を獲得できなかった赤ちゃんたちは、言語能力と共に、脳の発達も阻害されていると判断できます。
人の成長は「脳も認知能力も平行で成長していく」ものであり、それは「周囲の環境が作っていく」ということだと。
ですので、多くの大人の「口」を見ることが阻害されている今の赤ちゃんは苦境にいると思われます。
学べないのです。
もちろん現実的には、家の中では、赤ちゃんの家族はみなマスクなどせずに話しているわけですから、まったく大人の口を見られないという極端な状況に陥っている赤ちゃんはあまりないと思われますが、しかし、いろいろな環境で過ごす赤ちゃんがいるわけで、中には、この「言語獲得の初期能力の形成」を失った子どもたちも多いのだと思われます。
それが、以前の記事のブラジルの発語と読み書きの喪失や、アメリカの信じられないほどの言葉の遅れの増加、そして、今回の CDC の「発語基準の年齢の変更」に結びついているのだと思われます。
それにしても、この論文は 10年前のもので、資料化されていますので、「悪意を持つ存在が利用すれば」新しい人類の認知能力の発達を阻害することも簡単にできた、ということなのかもしれません。
周囲が全員マスクをしているだけで、赤ちゃんの認知能力は劇的に低下すると。
簡単な方法です。
低すぎる認知能力
それにしても、先ほどの CDC のページには、
「生後 30ヵ月の子どもができること」
ということが書かれていまして、以下のようにあります。
生後 30ヵ月の言語/コミュニケーションのマイルストーン
・発語 約 50語
・2つ以上の単語を組み合わせる
・「私 (I)」、「私 (me)」、「私たち」などの言葉を言う
などとありました。
生後 30ヵ月って 2歳半ですよね。
アメリカの、以前の基準は、生後24ヵ月で以下のようになっていました。メイヨークリニックのページからです。
生後24ヵ月までにできること(アメリカの基準)
・「もっとミルク」などの簡単な2語以上のフレーズを使用する
・「さようなら? (Go bye-bye?)」など、1〜2語の質問をする。
・簡単な言いつけに従い、簡単な質問を理解する
・約 50語以上話す
・親または介護者の少なくとも半分は理解している
CDC の発表した生後 30ヵ月の基準は「低すぎる」と思います。
もちろん発達には個人差がありますから、個人差はいいのですけれど、CDC が変更したということは「現在のアメリカの乳幼児全体の問題となっている」可能性が高いです。
国の基準を変更しなければならないほどのことになっている。
なお、日本の 2歳から 2歳半までの言語発達の基準は以下のようになっています。
日本の子どもの 90%程度までが、言語のこの状態を通過します。
日本の 2歳から 2歳半までの言語発達の基準 (通過率 80-90%)
2歳0ヶ月
・単語200語
・二語文が出始める
・絵本をかなり長い間一人で見て楽しんでいる
・いちいち「なあに?」と聞く
・「パパ 会社 行った」などの簡単な文章を言う
・童謡に節を付けて部分的に歌える
2歳3ヶ月
・絵本を見せながら「字を書く物はどれ?」「掃除をする物」「紙を切る物」「水を飲む物」と聞くと、それぞれ鉛筆、ほうき、はさみ、コップを指し示せる
2歳6ヶ月
・単語400語
・まんべんなく二語文を操れる
ここから考えると、CDC が新しく基準とした 2歳6ヵ月の発達基準は非常に低いと思います。
なお、それぞれの赤ちゃんの育っている環境によるでしょうけれど、現在の日本でも同じような言語発達の強力な遅延が必ず起きているはずです。
そして、先ほどの論文にありますように、0歳から 1歳の間に、初期の言語能力獲得の機会(話している大人の口を見ること)の多くを失った子どもたちは、その後も言語の獲得に苦労すると思われます。
そして、今度は 2歳、3歳になれば、本人もマスクをしなければならなくなる。
壮絶な発達の遅れが今後、日本というより世界中で明らかになると思います。何よりその子どもたちの不健康状態も明らかになっていくはずです。
[記事] 小さな子どもへのマスクがどのようにその子たちを殺していくか
In Deep 2021年9月27日
今の 2歳、3歳の子どもたちが小学生くらいになったとき、これまで見たことのないような状況がそこに展開される可能性があります。
最初期の脳の発達も、最初期の言語能力獲得も、それが失われると後から取り戻すことはできないはずです。
この部分に関しても地球は巨大な実験場になっています。
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