家庭にも多数ある除菌剤/漂白剤製品のすさまじい悪影響
慢性閉塞性肺疾患(COPD)という病気があります。これは、一般的に「タバコ病」などとも言われていまして、以下のように説明される病気ですが、日本に500万人以上、患者がいるという深刻な病気でもあります。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは、従来、慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称です。タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患であり、喫煙習慣を背景に中高年に発症する生活習慣病といえます。
(日本呼吸器学会ウェブサイトより)
つまり、COPD の主要因は、あくまでもタバコであるというのが、これまでの、あるいは今でも一般的な見解となっていると思われます。
ところが、先日、アメリカの健康系のウェブサイトを見ていましたら、
「 COPD の最大の発症要因は漂白剤(消毒剤)」
だというタイトルの記事がありました。
「どういう意味だ?」と見てみましたら、これがまた、米ハーバード大学とフランス国立衛生医学研究所によって「 30年間にわたって続けられた調査の精査の結果」だというのです。
漂白剤/除菌剤が、何よりも最大の COPD の発症要因だというのです。
正確にいえば、「第四級アンモニウム塩」という成分を含む除菌剤、殺菌剤、漂白剤などがすべて該当しますが、後述しますけれど、日本にも、これが含まれている製品は山ほどあります。
報道は 2017年のもので、英国ガーディアンが報じたものでした。
私はこのことを知らなかったですので、記事を読んだ時、結構ショックを受けたわけでして、つまり、たとえば、うちの奥さんにしても、私自身にしても、湯飲みの茶渋をとったりとかで、漂白剤はたまに使うのですね。
また、この研究によれば、漂白剤は、ぜんそくなど他の肺の病気と関係していることは、以前から知られていたそうです。
しかし、これが 2017年の研究にも関わらず、どんな慢性閉塞性肺疾患(COPD)に関するサイトを見ても、「漂白剤がひとつの原因」と書いてあるものがひとつもありません。どれも、タバコ、タバコ、タバコ。
私自身は、タバコを吸わないですので、COPD は無縁かと思っていましたけれど、漂白剤(消毒剤)が発症要因になるのなら、誰にでも可能性があるものだと思われます。
時期は遅くて、知ってよかったと思います。
まずは、その英国ガーディアンの記事をご紹介します。
Regularly using bleach linked to higher risk of fatal lung disease
Guardian 2017/09/11
定期的な漂白剤の使用が致命的な肺疾患のリスクにつながる
週に1回以上、消毒剤(漂白剤)を使用した場合、慢性閉塞性肺疾患を発症するリスクが最大32%増加する可能性があることがわかった
漂白剤やその他の一般的な消毒剤の定期的な使用は、致命的な肺疾患を発症するリスクが著しく高まることを研究者たちは発見した。
アメリカの 5万5000人以上の看護師たちの病気の発生率を調べた研究によれば、消毒剤の使用が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症リスクを高めることと関連していることが示されたのだ。
これは、米ハーバード大学とフランス国立衛生医学研究所(Inserm)により 30年間にわたって続けられた調査の解析で判明したことで、週に 1度、漂白剤や消毒剤製品を使用した人たちは、COPD を発症する可能性が 32%も高いことがわかった。
イギリスでは COPD 患者は、推定 120万人いると見られている。COPD は、気道が狭くなるために肺に空気を出し入れすることが困難になる肺気腫や慢性気管支炎などの肺疾患と関係する疾患だ。
イギリスでは、年間約 2万5000人が、この疾患で死亡しており、ヨーロッパで 3番目に高い死亡率となっている。
消毒薬の使用は、以前から、ぜんそくなどの呼吸器系の問題のリスクの増加と関連していることがわかっていたが、今回の新しい研究は、COPD と「第四級アンモニウム塩」(消毒剤に使われる成分)として知られる特定の洗浄化学物質との関連を特定した最初の研究と考えられている。
フランス国立衛生医学研究所のオリアーネ・デュマ(Orianne Dumas)博士は、今回の結果について以下のように述べる。
「消毒剤への暴露が COPD に及ぼす潜在的な悪影響はあまり注目されていませんが、ヨーロッパでの最近の 2つの研究では、消毒剤を多く使用する清掃の仕事に従事する人々に COPD のリスクが高いことが示されています」
「消毒剤と COPD の関連性を報告し、この関連の根底にある特定の化学物質を調査したのは今回の研究が初めてとなります」
漂白剤は一般家庭でもありふれたものだが、漂白剤の日常使用に特定の健康ガイドラインはない。しかし研究者たちは、漂白剤/消毒剤使用の健康ガイドラインが検討されることを望んでいる。
デュマ博士は以下のように言う。
「第四級アンモニウム塩が含まれる漂白剤や消毒剤の一部は、一般家庭でも頻繁に使用されていますが、 COPD の発生に対する消毒剤の過程での使用の潜在的な影響は、今のところ不明です」
「以前の研究では、ぜんそくと、家庭での漂白剤やスプレーなどの洗浄剤や消毒剤への曝露との関連が発見されたため、これをさらに調査することが重要です」
研究者たちは、1989年にハーバード大学で開始されたアメリカの女性看護師たちに関する大量調査のデータを分析した。2009年に COPD の病歴がない看護師としてまだ働いている人々を調査し、2017年年 5月まで追跡した。その期間中に 663 人が COPD と診断された。
看護師たちの消毒剤への暴露はアンケートによって評価され、被験者の年齢、体重、民族など、調査結果に影響を及ぼす可能性のある他の要因が考慮された。
デュマ博士は、ミラノで開催された欧州呼吸器学会国際会議の会議で、消毒剤に含まれる特定の化学物質だけでなく、表面の洗浄などの消毒剤への頻繁な曝露を伴う特定の作業が COPDの発症リスクと関係すると述べた。
デュマ博士は次のように述べた。
「消毒剤を使用して定期的に(少なくとも 1週間に 1回以上)殺菌作業をおこなう看護師たちは、 COPD を発症するリスクが 22%増加することがわかりました」
「調査対象の集団では、看護師の 37%が消毒剤を使用して毎週清掃し、19%が消毒剤を使用して医療機器を毎週清掃していました」
デュマ博士は、この調査結果は、病院などの医療施設における清掃と消毒のガイドラインが、職業上の健康リスクを考慮に入れるために更新される必要があることを強調していると述べている。
ここまでです。
なお、研究を主導したオリアーネ・デュマ博士は女性科学者です。
それにしましても、
「週に 1度、漂白剤を使用するだけで、COPD のリスクが 30%増加する」
というのはすごい。
ここまでの数値となりますと、生活の中での「漂白剤/除菌剤の使用」については意識的に注意するべきものであることを示していると思います。
漂白剤/除菌剤を使用するときには、マスクをするなり、あるいは手などに付着しないようにするべきかもしれません。
ちなみに、記事にも出てきます、この漂白剤の成分である「第四級アンモニウム塩」というものを調べてみますと、ストレートに「毒」ですね、これは。
たとえば、第四級アンモニウムカチオン - Wikipedia には以下のような記載があります。
健康への影響
第四級アンモニウム化合物は健康にさまざまな影響を与える。
例を挙げていくと、軽度の皮膚や呼吸器の炎症から皮膚の焼灼性熱傷、胃腸炎、吐き気、嘔吐、昏睡、痙攣、低血圧、死などがある。
この「さまざまな影響を与える」の具体的な例の最後の、
> 死などがある
には苦笑しましたが、「そんなすごい毒性のあるものが含まれているなら、漂白剤/除菌剤の使用についてのガイドラインをちゃんと決めないとダメだろ」とも思いますね。
たとえば、赤ちゃんのいる家庭では、オモチャなどの子どもが舐めるものとか衣服とか、いろいろなものを漂白/除菌される家庭はあるのではないでしょうか。
しかし、今回の研究を見る限り、「それは子どもの健康を害し続けている」ことと同等であることがわかります。もちろん、ご自分の健康もですが、いずれにしても、小さな子どもがいる環境では、除菌剤などは極力使わないほうがいいのかもしれません。
関係ない話かもしれないですが、最近の風潮として「肺の病気は全部、タバコのせいにしてしまえ」というのがありますけれど、やや疑問を感じる部分は常にあるのですよね。
どんな統計を見ても、それが示されていないのです。
たとえば、今回の慢性閉塞性肺疾患(COPD)の「患者数の推移」と「日本の喫煙率の推移」を比較しますと、「相関関係がなってない」ことがわかります。
つまり、COPD の原因がタバコだけなら、「ますます喫煙率が減っている中で、患者数も減っていなければならない」わけです。
ところが、下のグラフとかはもうもう……。
日本のタバコ消費量とCOPD死亡者数の推移
主要国では、タバコはどこの国でも消費は減少していますが、やはり、どの国でも、「タバコを吸う人が減っている中で、 COPD は増加している」のですね。普通は逆になるはずなのですが。
アメリカなどは、COPD の患者数は 1500万人以上で、死亡原因の第三位だと報じられてもいます。
少し古いデータですが、以下のグラフなどは、アメリカでいかに COPD が劇的に増加しているかを示していると思います。
1965年-1998年の米国での各疾患の患者数の推移
・COPD Fact Sheet
今回のことでふと思ったのですけれど、漂白剤あるいは、第四級アンモニウム塩という成分が含まれる除菌剤によって「肺がダメージ」を受けるということを知り、
「喫煙者がすさまじく減っているのに、肺ガンが増え続けている理由」
というのも、あるいは、それと関係があるという部分もあるのかなという気もしましたけれど、こちらはそういう研究はないですので、憶測です。
肺ガンにしても、統計は COPD と同じで、やはり「喫煙者が減るほど、肺ガン患者は増えている」という現実があります。
1950年から2010年までの肺ガン死亡者数と喫煙率の推移
・コンフォール
ところで、肺を攻撃する、この「第四級アンモニウム塩」が含まれている製品は、さすがに具体的に製品名をあげるのには抵抗がありますが、第四級アンモニウム塩 製品、で画像検索しますと、いくつかの商品パッケージが表示されます。
おおむねですが、
・除菌用の製品一般
・芳香タイプの除菌剤製品一般
・汗や匂い対策用の体につけるタイプの製品
などでは、かなりの率で使われている可能性があります。
消臭除菌で家庭で一般的に使われる「ファ」で始まる製品なども、一部には第四級アンモニウム塩が含まれているようです。
また、調べてみますと、手洗い用の消毒剤などに含まれている「塩化ベンザルコニウム」という成分も、第四級アンモニウム塩の混合物のようですので、同じかと思われます。これも、塩化ベンザルコニウム - 画像検索で、製品が数多く表示されます。
ここから考えますと、インフルエンザなどが流行するこのシーズンに、公共施設や病院などに「手洗い用の消毒剤」が設置されていたりしますが、あれも多くが、第四級アンモニウム塩の混合物と考えてもいいのかもしれません。
ああいうものでの消毒は避けたほうがいいかもしれませんね。
というより、どんなときでも、手の消毒は、基本的には避けるべきことだと私は思っています。
先ほどの「第四級アンモニウムカチオン - Wikipedia 」には、
真菌、アメーバ、エンベロープを持つウイルスに対しても、細胞膜を破壊することにより作用する。他にも様々な生物を破壊する
という記載があり、強力にいろいろな微生物を破壊するようなのですが、風邪やインフルエンザが流行するこの季節は、「手の常在菌が生きている」ほうがいいと思われるのです。
人間の皮膚には常在菌が複数いて、これが皮膚を弱酸性に保ってくれているため病原菌が手などにつきにくくしてくれているのです。詳しいことは、医学博士の藤田紘一郎さんの以下のページなどにメカニズムが書かれています。
・"手を洗いすぎる"と風邪を引きやすくなる。「流水で10秒間」だけでいい
プレジデント 2018/01/18
第四級アンモニウム塩(あるいは手洗い消毒液に含まれる塩化ベンザルコニウム)は、先ほどのように強い殺菌作用がありますので、それで手を洗えば、常在菌も殺すはずです。
そうなりますと、皮膚の弱酸性が消え、病原菌に対して無防備になりますので、風邪やインフルエンザを含めた病原体が手に付着しやすくなると思われます。
まあ、この「清潔すぎる生活の危険性」はこれまでにも書いていまして、最初に書きましたのは、以下の記事などです。
それにしても、殺菌・消毒が COPD の発症要因になっていることを今回知りまして、問題は予想以上に深刻なのかもしれないと思います。
何しろ、今の日本は 10年、20年前よりさらに「無菌室」傾向が強くなっており、今後数十年で COPD と肺の疾患がどれだけ増えていくかわからなくなってきている状態といえるかもしれません。
今や、過剰な衛生観念は、主要国の社会全般に行き渡っていて、何に対しても、すぐ殺菌、すぐ除菌、すぐ良い香りを吹きつける、というのが普通になっていますが、それが結果的に、私たちの健全な社会を破壊している可能性が高く、無菌室生活の代償はかなり大きなものとなっていくかもしれません。
>> In Deep メルマガのご案内
In Deepではメルマガも発行しています。ブログではあまりふれにくいことなどを含めて、毎週金曜日に配信させていたただいています。お試し月は無料で、その期間中におやめになることもできますので、お試し下されば幸いです。こちらをクリックされるか以下からご登録できます。
▶ 登録へ進む