生命を維持するための遺伝子がない生物の遺伝子
数日前、日本の国立研究開発法人「海洋研究開発機構」が、非常に興味深いプレスリリースを発表していました。どういうものかというと、たとえば、それを報じた日本経済新聞の記事の冒頭は以下のようなものとなります。
海洋研究開発機構は、生命を維持するための呼吸や代謝などをつかさどる遺伝子が無くても生きている微生物を見つけたと発表した。
なぜ生存できるのかこれまでの常識では説明がつかないという。
今回は、この報道とプレスリリースをご紹介したいと思います。
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羊は相変わらず集団死を続けているけれど
ところで、先日、
・「動物たちの集団自殺」が続いている : トルコで羊が集団で飛び降り死。前月にはスイスで牛たちが集団自決したばかり
2017/07/20
という記事で、「羊などの動物の集団自決のように見えるもの」ものが世界各地で起きていることをご紹介させていただいたのですが、その後、フランスで、
「 209頭の羊がクマに追われて崖から飛び降りた」
ということが報じられていました。
7月21日のフランスの報道より
羊がクマに追われることはあるでしょうし、それによって、羊が崖などから落ちてしまう場合もあるのでしょうけれど、「何も 209頭全部がいっせいに崖から飛び降りることはあるまい」ということで、飼い主なども困惑しているというようなことが書かれています。
最近の人間社会も含めて、何となく「生命維持にぞんざいな感じ」が広がっているのでしょうかね。
というわけで、このように「すぐ死にたがる」一派が増えている世界で、
「どうやって生きているのかわからない」
という生命が、日本人科学者たちによって発見されています。
新しい生命の発見の決定打かもしれない
今回見つかったものに関しては、
> なぜ生存できるのかこれまでの常識では説明がつかない
というもので、つまり現時点では誰にも説明できるものではないですので、報道とプレスリリースをご紹介しておきたいと思います。
なお、最近数年の中でご紹介した「これまでの生命理論では説明がつかない生き物」としては、2010年に NASA が、発表予告までして大々的に発表した「新しい生命」があります。
これは 2012年になって「実は普通の生き物でした」ということが判明してしまい、失笑科学となってしまったことは、
・NASA が 2010年に大々的に発表した「新しい生命」は「普通の地球の生物」であることが判明
2012/07/10
という記事などでご紹介したことがあります。
これ以降、NASA の予告つきの大発表は、「予告があった時点で誰も期待しない」というような形になっていますが、ただ、NASA はともかく、最近、「放射線を食べて生きている生物の発見」などもあり、確かにこれまでの常識では考えられないものたちが次々と見つかっていることも事実です。
これに関しては、
・放射線を食べて生きる生物の発見から始まった、科学者たちによる「宇宙線を食糧にして生きる地球外生命体」の存在についてのシミュレーション
2016/10/11
という記事でご紹介しまして、最近は、「宇宙線を食糧にして生きる生命体」という魅力的な概念が導かれているようです。
というわけで、今回、日本の海洋研究開発機構から発表された生命体についての報道とプレスリリースから抜粋させていただきます。
まずは、 7月22日の日本経済新聞の記事からです。
これは速報記事として発表されていました。
「常識外れ」の微生物発見 呼吸・代謝の遺伝子もたず
日本経済新聞 2017/07/22
海洋研究開発機構は、生命を維持するための呼吸や代謝などをつかさどる遺伝子が無くても生きている微生物を見つけたと発表した。子孫も残していた。
なぜ生存できるのかこれまでの常識では説明がつかないという。生命の進化をひもとく新たな発見として、解析を進める。
世界には、地球内部を動くマントルが地殻変動の影響で地上に露出し、かんらん岩となった場所が数カ所ある。米カリフォルニア州ではこうした場所に泉があり、ユニークな微生物が水中の岩石にはりついているのを見つけた。
27種類の微生物のゲノム(全遺伝情報)を解読したところ、16種類の微生物は呼吸をつかさどる遺伝子が無かった。
そのうち5種類は糖の分解やアミノ酸の生産を通じてエネルギーを取り込む遺伝子が見あたらなかった。27種類のすべてが、増殖して子孫を増やしていることがゲノムから読みとれたという。
というもので、つまり、
・呼吸をつかさどる遺伝子がない
・エネルギーを取り込む遺伝子がない
という、地球の生き物としては常識外れであり、そもそも「呼吸もしないエネルギーも取り込まないものは生命とは見なされにくい」のではないかと思われるのですが、しかし、生きていて繁殖もしている明らかな生き物であると。
参考までに、プレスリリースからも一部を抜粋して、締めさせていただきます。実際のものは大変長いものですので、ご興味のある方はリンクから実際の資料をお読みいただければ幸いです。
地下深部の超極限的な環境に「常識外れな微生物群」を発見
2017年 7月 21日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立研究開発法人海洋研究開発機構 高知コア研究所地球深部生命研究グループの鈴木志野特任主任研究員らは、J・クレイグベンター研究所、南カリフォルニア大学、ニューファンドランド・メモリアル大学、デルフト工科大学と共同で、マントル由来の岩石域から湧き出る強アルカリ性の水環境に、極めて特異なゲノム(※ それぞれの生物がもつすべての核酸上の遺伝情報のこと)構造を持つ常識外れな微生物が生息していることを発見しました。
地球上には、この蛇紋岩化反応を介して、pH11を超える強アルカリ性の非常に還元的(還元的とは、酸素が存在せず、水素が多く存在する水溶液の性質)な水が湧き出ている場所があります。
本研究では、米国・カリフォルニア州ソノマ郡にある「ザ・シダーズ (The Cedars)」と呼ばれる場所を調査し、地下の蛇紋岩化反応を介して湧き出る強アルカリ性の水に存在する微量の微生物細胞を採取し、それらに含まれるゲノムの網羅的な遺伝子解読を行いました。
その結果、蛇紋岩化反応が起きている地下深部に由来する超好アルカリ性微生物の多くは、一細胞あたりのゲノムサイズが非常に小さく、生命機能の維持・存続に必須の遺伝子群が欠落しているなど、既知の微生物のゲノム構造とは大きく異なる、極めて特異なゲノムを有する生命体が多く存在することが分かりました。
これらの微生物は、湧水中に含まれるカンラン岩の隙間や表面に密集している様子が観察されたことから、その生命活動を蛇紋岩化反応に依存して生きる生命である可能性が示されました。
本成果は、地球における上部マントルと生命圏との関わりや、地球の初期環境における生命進化の謎を解き明かす上で非常に重要な発見です。