フィンランドの経済学教授の壊滅的な分析
イスラエルの戦争は拡大する気配が強くなっていますが、戦地の悲惨とは違う話として、
「この戦争が私たちの生活そのものに強力に影響する」
ことについて、フィンランドのヘルシンキ大学の経済学准教授であり、経済コンサルタント会社 GnSエコノミクス社の CEO であるトゥオマス・マリネンさんという方がサブスタックに書かれていました。
トゥオマス・マリネン氏
GnS Economics
今回は、まずその文章をご紹介させていただきますが、かなり強烈な内容で、「西側の経済と市場の壊滅的な崩壊」にまで言及されています。
全部起きることはないにしても、そのような感じに近づく可能性はあるのかもしれません。
ここからです。太字はこちらで施しています。
ダモクレスの剣:イスラエル・パレスチナ戦争の経済的な最悪のシナリオ
The Sword of Damocles - An economic worst-case scenario for the Israeli-Palestine war
PhD Tuomas Malinen
10月10日に、私は イスラエル・パレスチナ戦争の経済的な最悪のシナリオを要約した投稿をX(ツイッター)に公開した。その中には以下の 10点が含まれていた。
1. 紛争は地域戦争にまでエスカレートし、米国も直接関与することになる。
2. OPECは石油禁輸で対抗。
3. イランがホルムズ海峡を封鎖。
4. 原油価格は 1バレルあたり 300ドルに達する。
5. ヨーロッパは LNG 不足により本格的なエネルギー危機に陥る。
6. エネルギー価格の大幅な高騰はインフレを再活性化し、中央銀行もそれに応じて対応する。
7. 金融市場と世界の銀行セクターは崩壊する。
8. 米国は債務危機に見舞われ、連邦準備制度はさらなる金融市場救済策の制定を余儀なくされる。
9. オイルダラー貿易は崩壊する。
10. ハイパーインフレが発生する。
今回のエントリーでは、各ステップについて説明する。
歴史の繰り返し?
1973年10月、イスラエルはエジプトとシリアが率いるアラブ諸国の連合軍とヨム・キプール戦争(第四次中東戦争)を戦った。この結果、アラブ石油輸出国機構はイスラエルを支援する西側諸国に対する石油禁輸を宣言した。半年の間に石油価格は世界的に 300%近く上昇し、当時中東の石油に依存していた米国ではさらに上昇した。
現時点では、最悪の場合、イスラエルがパレスチナに対して大規模な反撃を開始し、イランとシリアからのイスラエルへの宣戦布告につながる(他の国々も参加する可能性がある)。
この状況では、米国もほぼ確実にイスラエル防衛に応じざるを得なくなるだろう。フォード空母打撃群(世界最大の軍艦、USSジェラルド・R・フォードを含む)が、地中海東部に派遣されており、バイデン政権は、地中海東部に別の空母打撃群を派遣することを検討していると報じられている。米軍の貨物機が定期的にイスラエルを訪問しているという噂もある。
米国が戦争に直接関与すれば、ほぼ確実に石油輸出国機構(OPEC)、あるいは少なくとも加盟国の一部は対応を余儀なくされるだろう。おそらくこれは、米国、そしておそらくは欧州に対する石油禁輸の形をとるだろう。
ホルムズ海峡は世界の石油市場にとって極めて重要な狭い海峡だ。世界で消費される石油の 6分の 1と液化天然ガス (LNG) の 3分の 1がそこを通過する。この海峡には 8つの島があり、そのうち 7つをイランが支配しており、8つすべてに軍事駐留している。したがって、イランは海峡を閉鎖する軍事能力を持つ。
海峡を封鎖する手段はたくさんある。基本的に、それらは、イランが海峡を通過するタンカーを沈めると脅すという脅威に基づく閉鎖から、実際に超大型タンカーを海峡に沈め、未知の期間海峡を閉鎖し、ペルシャ湾を汚染するものまで多岐にわたる。しかし、イランからの輸入品の 85%近くが、この海峡を通過しているため、後者の選択肢はありそうにないと考えられる。
ロシアの石油・天然ガス禁輸措置が継続する中で、ホルムズ海峡の閉鎖、さらには交通の混乱が発生した場合、石油と LNG の世界価格がかつてないほど高騰する可能性が高い。これは急速なインフレを再び活性化させるだろうが、より深刻な影響もあるだろう。
ヨーロッパのアキレス腱
ロシアのガスをヨーロッパに輸送するパイプラインのほとんどが閉鎖された後、欧州大陸はそのギャップを埋めるために世界の LNG 市場に依存している。最も重要なことは、欧州はガスの供給を米国と中東の両方に依存していることだ。
例えば、ドイツは 、ホルムズ海峡を通過するガス輸送についてオマーン LNG と契約を結んだばかりだ。ドイツはまた、 米国に本拠を置くベンチャー・グローバル社と LNG 輸送に関する契約を締結しており、同社はドイツへの最大の LNG 供給者となっている。しかし、ベンチャー・グローバル社はドイツへのガスを供給する施設の建設さえまだ始めていない。
過去 1年間の欧州の LNG 需要の半分強を米国が占めており、ロシアと中東が約 30%を供給している。ロシアと中東の供給源が両方とも削減されるか、供給が大幅に減少した場合、世界の LNG 市場は供給不足であるため、米国や他の供給源がそのギャップを埋めることはできそうにない。
さらに、中東(そしておそらくロシア)のガス供給停止と、気温が通常の冬または寒い冬が重なると、すでに「微妙にバランスが取れている」ヨーロッパのガス市場にまったく壊滅的な状況が生じる可能性がある。
これは、ロシアのガスが供給を停止している(あるいはパイプラインが吹き飛ばされている)ため、イスラエルとパレスチナの紛争がヨーロッパのエネルギー安全保障に関するすべての計画を狂わせる可能性があることを意味する。
ドイツとヨーロッパの経済はすでに不況に陥っており、この脅威の深刻さを誇張することは困難だ。エネルギー危機の再来は、欧州経済に致命的な打撃を与え、 世界的な影響をもたらすことが知られている欧州の銀行部門を崩壊させる可能性が最も高い。
金融混乱からハイパーインフレまで
当然のことながら、インフレ圧力が再活性化すれば、中央銀行は再度の利上げを実施せざるを得なくなるだろう。これは消費者や企業だけでなく、資本市場にも大混乱をもたらすだろう。ソブリン債の利回りは爆発的に上昇する可能性が高い。これに続いて、資産市場と信用市場が完全に崩壊するだろう。
この時点で、中央銀行が「通貨倒錯」を別のレベルに引き上げる可能性が最も高いと見られる。これは、インフレを抑制するために金利を引き上げる一方、ソブリン債、クレジット、資産市場を支援するために資産購入プログラムも制定することを意味する。金融市場の救済には、2020年春と同様に、数兆米ドル(数百兆円)に達する必要があるだろう 。これにより、巨額の資金、特に米ドルが世界経済に押し込まれることになる。そうなると当然インフレ圧力が大幅に高まることになるが、さらに悪化するリスクもある。
「他の壊滅的なオプション」として、OPEC が、石油貿易における米ドルの使用を完全に停止する可能性がある。
これは、ドルの需要が突然崩壊し、これまで石油の購入に使われていた「余剰ドル」が最終的には国内に流出することを意味する。これは米国のマネーサプライに前例のない急増を引き起こし、急速なインフレ、高金利、銀行危機による深刻な不況による生産の崩壊によるハイパーインフレの完璧な条件を作り出すだろう。米国経済、ひいては世界に大混乱が生じれば、まさに終末的だ。
結論
私がこれを最終的にまとめている最中(10月11日)、ヒズボラからイスラエルへのミサイル攻撃に関する最初の報告がX(ツイッター)に浮上した。現時点では、これらの主張を裏付けたり誤りを暴いたりすることは不可能だが、これらが発生した場合、私たちは最悪のシナリオの最初のポイントに到達することになる。
いずれにせよ、上で概説したシナリオは、私たちが現在置かれている状況の深刻さを強調している。イスラエルとパレスチナの紛争は、以下をもたらす可能性がある。
1) ヨーロッパのエネルギーの状況に終末的状況をもたらす可能性がある。
2) 米国経済の壊滅的な崩壊が引き起こされる可能性がある。
ただし、現時点では 10項目すべてが実現する可能性は低いものの、最初の項目さえ達成できれば、脆弱な世界経済に壊滅的な打撃を与えることになることに注意する必要がある。だからこそ、状況を注意深く監視する必要がある。
ともかく、金(ゴールド)、ガソリン、ガス、木材(ストーブがある場合)を購入するのは悪い考えではないかもしれない。
ここまでです。
タイトルの「ダモクレスの剣」とは、栄華の中にも危険が迫っていることのような意味のようです。
挙げられている 10項目はすべて激しいですが、石油価格が第四次中東戦争の際のような「 300%の上昇」というようなこと、あるいはそれと似た状況になると、日本にしても「いろいろ崩壊する」ことは避けられないと見られます。
たとえば、「食料」。
農業でも畜産でも、多大なエネルギーを使います。昨年程度のエネルギー価格の上昇でも、農家の方々は大変な思いをしたはずです。
昨年は「日本の畜産農家が限界に来ている」と、以下のように報じられていました。
(記事)[「このままでは畜産農家激減」 飼料や原油高で生産者に限界感]という報道
BDW 2022年10月8日
何より、食料の多くを海外からの輸入に頼っている日本では、石油などエネルギー価格が桁外れに上昇した場合、船舶や他のさまざまな「輸送の問題」が出てくるわけで、単に食料価格がどんどん上昇していくだけならともかく、「輸送システムの破綻」というようなことが起きた場合、
「日本国内から食料が急速に消えていく」
という可能性もそれほど荒唐無稽ではないと思われます。
それに加えて、トゥオマス・マリネンさんが書かれているような、
「ハイパーインフレ」
だとか、「金融市場の崩壊」などということが重なった場合、日本社会もまた、ちょっとしたカオスに陥る可能性があるかもしれません。
もちろん今すぐの話ではなく、来年とか、その後とかの話になると思いますが、そういう状況があり得ると。
アメリカは、債務が途方もないことになっていて、先月、日本円で 4800兆円を超えました。
(記事)米国の債務が史上初めて「33」兆ドルを超える
BDW 2023年9月19日
9月までの米国の債務の推移
zerohedge.com
こういう状態では「小さな亀裂が入るだけで全体が崩壊する」という可能性はいつでもあると思われます。まあ、日本も同じ(か、もっと悪い)ですが。
こうなってくると、自然な流れとしての「サンドマン作戦」が進行していくということになるのかもしれません。
(記事)近いうちに「膨大なドルと米国債の破棄」が起きる? ケニアの大統領が、自国民に「即刻ドルを処分するよう」演説で通達。その理由とされているオペレーション・サンドマンとは…
In Deep 2023年3月29日
過去の歴史と現在が異なるのは、過去は非常に大きな経済的災害があった場合でも、「いつかは多少は立ち直った」わけですが、
「今後大きな崩壊が起きた場合、立ち直ることのできる国は少ない」
ということがあります。
現在、世界全体の債務は、日本円でいえば、4京5000兆円を超えているという異様な世界の状態となっています。以下ではロイターの報道をご紹介しています。
(記事)世界の債務残高が307兆ドル(4京5000兆円)を突破
BDW 2023年9月20日
今回のイスラエル - パレスチナの戦争が「最終戦争」だといえる理由の中には、このようなエネルギーや経済の崩壊という側面も含まれているからだと考えます。
以前、金融サイクルの専門家であるチャールズ・ネナーさんという方が、
「来年始まる戦争サイクルでは、世界人口の3分の1が死亡する」
と述べていたことをご紹介したことがあります。
2022年の記事ですので「来年始まる戦争サイクル」というのは、まさに今なんですが、以下の記事の後半にあります。
(記事)来年始まる戦争サイクルでは、「世界人口の3分の1が死亡する」というアメリカの著名な金融サイクル専門家の見通し…
In Deep 2022年5月19日
ネナーさんは以下のように述べていましたが、今回のフィンランドの教授の話と比較的似ています。
(チャールズ・ネナーさんの 2022年の主張)
・次の世界大戦では 25億人以上が亡くなる
・最終的には「ダウは 5,000ドル」前後になる
・食料不足と大幅な食料の価格上昇
・石油価格は最終的に 1バレルあたり 250ドルに達する可能性がある
・激しいインフレが発生する
今思いますに、この「世界の3分の1が死亡」は、戦争自体で亡くなる人のことだけではなく、
・飢餓
・貧困
・エネルギー(暖房の燃料等を含む)不足
(※ 次候補:ワクチン後天性免疫不全症候群)
などによる死が含まれると気付きます。
2023年は、ひとつの時代の終焉の契機だったのかもしれないですが、それは 2024年、2025年と進むにつれて激化しそうです。
今のところ、穏やかな将来予測はあまり存在しません。
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