腸内細菌群と肥満の関係についての科学記事より
・rdmag.com
肥満が伝染病のように現代社会に、たった数十年で広がった理由
先日、低カロリーやノンカロリーの甘味料が「腸内細菌のバランスを短期間で崩壊させる」ことを以下の記事で書かせていただきました。
人工甘味料の「身体破壊の威力」がまたも明らかに : 低カロリーあるいはノンカロリー甘味料は「腸内細菌の環境を徹底的に破壊」し、健全な人間を2週間で糖尿病へと導く可能性
この記事でご紹介したのは、欧州糖尿病学会で発表された研究ですが、この記事を書いている中で、以下の部分に、「おっ」と思うところがありました。
血糖値をコントロールするのに役立つホルモン GLP-1 の放出が低下したことに関連して、ブチリビブリオ細菌集団の減少を観察した。
この意味は、簡単に書き直せば、
「体内の GLP-1 という物質の放出を手助けしている腸内細菌が減少する」
ということです。では、この GLP-1 というのがどんなものかということについては、ご存じない方もいらっしゃるかと思いますが、上の記事では「血糖値を下げる働きがある」ことについて言及されていますけれど、これは、この発表が「糖尿病学会」によっておこなわれたものだからだと思われます。
実は、この GLP-1 というのは、一般的には、
「肥満を抑制する」
として知られているホルモンなのです。
どんなものかということについては、糖尿病専門医の重藤誠医師が書かれた以下の文章がわかりやすいです。
やせるホルモンGLP-1とは
体重は、かなりの部分がホルモンのバランスによって決まっています。食欲を落として体重を減らす作用のあるGLP-1は、やせるホルモンとも呼ばれています。
GLP-1は、胃に入った食べ物が、腸に流れるスピードを遅くするため、急激な血糖の上昇を抑えると同時に、満腹感を持続させます。腸のL細胞という細胞から分泌されるほか、脳内でも造られており、脳での作用は、食欲を落として食べ過ぎを防ぐほか、認知機能や記憶力などに関わっていると考えられています。
GLP-1の重要な作用として、食後のインスリンの分泌を増やす作用があり、食後の血糖を抑えてくれます。食後の血糖が上がると、動脈硬化が進行するほか、認知症やがんのリスクを高めることがわかっています。
インスリン自体が、脳の満腹中枢に作用して食欲を抑え、体重を減らす作用があります。GLP-1は、インスリン分泌の調節をすることでも、食欲を抑制しているわけです。
また、血糖が安定することで、精神的な安定や、動脈硬化の抑制が期待できます。
脳で造られるGLP-1は、神経伝達物質として作用し、直接的に食欲を抑えます。他の神経伝達物質にも影響を与え、複合的に食欲を抑えているようです。
このような作用がある GLP-1 は、アメリカでは、2014年に肥満治療薬として認可されていて、数百万人規模のデータから、
・糖尿病患者の血糖が改善する
・体重を減らす
という効果があることについては、ほぼ間違いないようです。
そして、昨日の記事にありますように、「人工甘味料は、この肥満抑制作用のある GLP-1 の放出を減少させる」ということになるようなのです。
これを非常に大ざっぱにいいますと、
「低カロリーあるいはノンカロリー甘味料を摂取すると《太りやすくなる》」
ということになってしまいそうなのです。
先日の記事では、低カロリー(ノンカロリー)甘味料は、「糖尿病の人たちが血糖値を上げないようにするために使っている」部分があるのにも関わらず、実際には、「人工甘味料を摂取するほど GLP-1 の減少により血糖値が下がりにくくなる」という皮肉な現実について書かせていただきましたが、今回は、
「カロリー制限をするために低カロリーやノンカロリーの人工甘味料を摂取すると GLP-1 の減少により、むしろ痩せにくくなる」
という肥満に関しての皮肉の話でもあります。
しかし、肥満に関してだけの話としても、人工甘味料と肥満の関係は、これだけではないと私は考えています。
たとえば、前回の記事でご紹介した論文には以下のような記述があります。
この研究で、低カロリー甘味料を摂取した被験者群が、糞便中に存在する微生物の型のより大きな変化を示し、その中でも良好な健康と関連する細菌であるユーバクテリウム‐シリンドロイデスが有意に減少することを見出した。
他に食物の発酵を助ける腸内の有益な細菌種の個体群も減少した。
しかし、11種の日和見菌(体が弱った時に腸内で悪い働きをする細菌)の存在は増加していた。
ユーバ何とかというような細菌の面倒くさい名称はともかくして、ここにあるだけでも、
「人工甘味料が複数の腸内細菌を殺している」
ことがおわかりかと思います。
この「単一の物質(ここでは人工甘味料)が複数の腸内細菌を殺す」という影響は、肥満という問題だけにとどまるものではないはずです。
カロリーの吸収を行っているのは腸内の細菌群
冒頭に「腸内細菌のバランスと肥満が関係している」ことが明らかとなったという科学記事を載せていますが、この内容はともかくとして、要するに、このタイトルのように、最近のさまざまな発見により、
「主要国での肥満の流行は、人々の腸内環境の崩壊が関係している可能性が高い」
という考え方が次第に主流になりつつあります。
ダイエットなどの問題に関しては、今でもカロリーだ糖質だ脂質だといろいろと言われていたり、テレビでもネットでも、おびただしいダイエットのための商品や健康食品が広告されているでしょうけれど、最新の医学でのカロリーに対しての基本的な考えは、そういうことではなく、下のようになっているはずです。
「カロリーの消費は人それぞれの《腸内細菌の構成》によって異なる」
と。
本人の問題ではなく、腸内細菌の問題だと。
これは、極論として書きますと、どれだけカロリー制限をしようと、あるいは糖質を控えようと、あるいは運動をしようと、もう何をしようと、
「腸内環境のバランスが崩壊している限りは痩せない」
というようなことになると考えられるのです。
もちろん、何か極端なダイエットをして、一時的に体重を落とすことはできたとしても、それを維持することも、リバウンドを防ぐことも難しいと思われます。
食べ物を食べるのは確かに私たち本人ですが、それを「吸収」しているのは、実は腸内細菌なのです。
以前、
・「腸は第二の脳」……ではない。腸内システムは脳をも支配している「第一の脳」である可能性が高まる。それが意味するところは「人間は細菌に理性までをも支配されている」ということで……
という記事で、アメリカで 2016年に出版された『あなたの体は9割が細菌:微生物の生態系が崩れはじめた』という著作についてご紹介したことがありました。
タワシも(タワシかよ)……私も、以前から「腸内環境」というような言葉だけは知ってはいましたけれど「そんなもん大したもんでもなかろう」程度に考えていたのですけれど、この「あなたの体は9割が細菌」を読んで、考えがすっかり変わりました。
それどころか、
「身体で最も重要な器官が腸である」
というようにも思うようになっています。
この「あなたの体は9割が細菌」の最初のほうのセクションで、長い部分が占められているのが「なぜ現代社会は肥満がこんなに増えたのか」ということで、これに関しても、膨大な研究データや資料から「肥満と、腸内環境のバランスの変化に関係がある可能性が高い」ということになっていきます。
たとえば、マウスの実験で、腸内細菌のバクテロイデーテスという細菌群の量が、肥満しているマウスと、通常のマウスで違うことが見出されたことから始まった研究で、簡単に書けば、バクテロイデーテスという細菌群が、
「カロリーを食べてくれている」
ことがわかったのです。
吸収量の差としては 2%程度の小さなものなのですが、この程度の差でも、人間にあてはめますと、
「 10年で 19キロの体重差となる」
のだそう。
食べ物を食べるたびに、カロリーの吸収量に差があり、それが蓄積されていくのです。
これだけではなく、肥満と腸内細菌については、いろいろとこの本にも多くの研究が記されています。
まあ、それらの詳細はともかく、今の医学では、
「肥満は腸内細菌のバランスにより決定づけられている」
という可能性が高いということが、ほぼ結論づけられています。
しかも、肥満に至るというのは、あまりいいバランスではない状態だといえるかもしれません。
なぜなら、過去十数万年の「人間の体系」は基本的に肥満ではないからです。
人口集団の多数が肥満という状況は、長い地球の歴史の中の「過去数十年で急速に現れた」もので、原因があるとすれば、この「数十年にある」のだと思われます。
前回と今回は人工甘味料のことを書いていますが、腸内細菌のバランスを破壊するものは、現代社会にはいくらでもあるはずです。
抗生物質のように「直接、腸内細菌を殺す作用」がある可能性があるものから、間接的に腸内環境に影響を及ぼすような物質も多々あるような気がします。
たとえば、人工甘味料にしても、
「もともとは、腸内環境を破壊するために発明されたものではない」
わけですけれど、しかし結果として、そのようになっている。
このような「結果として腸内細菌のバランスに影響を与えている」ものは、本当にいろいろとあるだろうなあとは思います。
詳細にすべてがわかることもないでしょうけれど、しかし「明らかに腸内細菌の環境に良くない」とわかっているものに関しては、日常でなるべく避けることは悪いことではないと思います。
抗生物質などの場合は、病気や怪我や手術によっては使わざるを得ない局面もあるかと思いますが、人工甘味料にはそんな局面はないですので、人工甘味料入りのドリンク(缶入りアルコール飲料も)などを含めて、なるべくなら摂取しないのが良いような気もします。
まあ、個体差、つまり「人による」というのはあるのでしょうけれど。
たとえば、今回の記事を書いていて、ふと、昨年 12月の以下の報道を思い出しました。
ダイエット・コークを1日12本、トランプ氏に専門家が懸念
CNN 2017/12/12
トランプ米大統領はカロリー、糖分ゼロの炭酸飲料「ダイエット・コーク」が大好物で、1日12本のペースで飲んでいることが、米紙ニューヨーク・タイムズの最近の記事で分かった。専門家らは、人工甘味料などによる健康への影響に懸念を示している。
最近の研究では、人工甘味料「アスパルテーム」を使ったダイエット飲料は甘い物への欲求をかえって強めることや、体内で砂糖入り飲料と同じような生理反応を引き起こすことが分かってきた。
ダイエット飲料を飲む人は飲まない人に比べ、生活習慣にかかわる2型糖尿病や高血圧、脳卒中、認知症のリスクが大きくなると、米パデュー大学のスーザン・スウィザース教授は指摘する。
テキサス大学の研究チームが65歳以上の年代でダイエット炭酸飲料と腹囲の変化の関係を長期的に調べたところ、ダイエット飲料を飲むと腹部の肥満が悪化し、さらに心臓病のリスクも増すとの結果が出たという。
栄養学の専門家は「トランプ氏にはダイエット・コークの少なくとも半分を水に換えるよう勧めたい」と話している。
この報道の、締めの
> ダイエット・コークの少なくとも半分を水に換えるよう勧めたい
にはちょっと笑いましたけれど、しかし、米大統領が、脳や腸が機械仕掛けのロボットでない限り、その腸内環境はものすごいことになっていそうです(機械仕掛けなのかもしれないですが)。
今回は「肥満」の話から入りましたので、ダイエットのための記事のようになってしまったかもしれないですが、そういうことでもなく、結局はこれもまた「腸」の話ではあります。
まあ……私自身が肥満ですので、気になる話ではあり、ご紹介しているのも事実ですが。
ちなみに、私、腸内環境改善の一環として、2ヶ月くらい前から、インドのアーユルヴェーダで腸内環境を改善するとされる「トリファラ」というものを毎朝飲んでいるのですけれど、これはとてもいいと実感はできます。しかし、「信頼できるような販売元がわからない」ということもあり、ご紹介することができないのですよ(私自身はインドから直接買っています)。
効能や体験は「トリファラ 腸」などで検索されるとおわかりになると思われます。
何というか、尾籠な表現ですけれど、「便の匂いがほぼなくなった」のですね。しかも、このせいかどうか知らないですが、確かに痩せますしね。
あと数カ月くらい自分で人体実験をして、良さそうならご紹介したいとも思うのですが、日本でもきちんと扱ってくれるといいのですけれど。
以前も書きましたけれど、崩壊した腸内細菌バランスが完全に元に戻ることはないと私は考えていますが、現代人の私たちは、「不完全な腸内バランスの中で最善の環境を保つ方法」を考えて生きていくしかないのかもしれません。
>> In Deep メルマガのご案内
In Deepではメルマガも発行しています。ブログではあまりふれにくいことなどを含めて、毎週金曜日に配信させていたただいています。お試し月は無料で、その期間中におやめになることもできますので、お試し下されば幸いです。こちらをクリックされるか以下からご登録できます。
▶ 登録へ進む