今日、ロシアのメディアで興味深い科学報道を見つけまして、そして実は、これはこの数カ月ずっと考えていたことと関係していまして、ご紹介したいと思いました。
その記事は、「腸は脳から独立した人間の神経を支配しているシステムを持つ可能性が高い」というものなんですけれど、現在の医学で判明している状況をご存じない方もいらっしゃるかもしれないですので、翻訳をご紹介する前にちょっとだけ注釈させていただきます。
現代の医学では「腸」は「第二の脳」と考えられている
「脳と腸」がきわめて密接な関係があることは知られていまして、脳腸相関というように言われていますが、平易に書かれてある記事から抜粋しますと、下のようなことです。
腸が「第2の脳」と呼ばれる理由は? 目には見えない「脳腸相関」のメカニズム
ヘルスプレス 2015/08/21
腸は「第2の脳」と呼ばれる。脳と腸は、自律神経、ホルモンやサイトカインなどの情報伝達物質を通して、互いに密接に影響を及ぼし合っている。
脳がストレスを感じると、自律神経から腸にストレスの刺激が伝わるので、お腹が痛くなったり、便意をもよおしたりする。
腸が病原菌に感染すると、脳は不安を感じる。腸からホルモンが放出されると、脳は食欲を感じる。まさに、腸は「第2の脳」だ。
このようなことは今ではよく言われていまして、もっといえば、腸が神経症状と関係することも最近は言われています。たとえば下は、京都府立医科大学附属病院の医学者の方が書かれているページにあるものの一部です。
腸内細菌のなかで神経伝達物資であるγアミノ酸(GABA)を産生する菌があることも確認されています。この菌が少ない子どもは、行動異常、自閉症などになりやすいとされています。自閉症の子どもに対して腸内環境の改善による治療が試みられています。
(ページ「脳腸相関が科学的に説明できるようになってきています」より)
このように、腸が脳に与える影響はとても大きいということはわかってきていまして、それだけに最近は「腸内環境」とか「腸内フローラ」とか、そういう言葉が一般的に言われたりすることもあります。
つまりは、「腸はとても大事なものである」ということについては、最近までにずいぶんとわかってきていたということになります。
しかし、ここまでは「注釈」ですが、今回の記事の要点はこの部分ではないのです。
これまでの観点は、腸は大事だといっても、感覚的にも実際の研究などでも、「人間の理性や思考をつかさどる中心は脳」だという考えが普通だったと思います。
要するに、いくら腸が大事だといっても、「人が正気を保つことや、人がいろいろと考えること」に対しての重要な順位としては、
・脳
・腸
の順番だったわけです。あるいは、さらに言われたとしても、「脳と腸の相互作用で」というようなことだったと思われます。
ところが、最近(5月29日)の神経医学専門誌『ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス』に発表された研究では、どうやらその順位は危ういかもしれないということになってきました。
つまり、現実は、「脳と腸が相互に関与し合っている」というより、
「腸が脳をコントロールしている」
という可能性が強くなってきたのでした。
コントロールという言葉を使うのが適切でなければ、「脳から独立した神経システム」を腸が持っているということになります。
なお、これが真実ならば、私が思ったことは、以下の過去記事の内容でした。
私たち人間の遺伝子情報(ゲノム)は「自らの腸内細菌によってコントロールされている」ことが判明
投稿日:2018年1月17日
この記事はタイトル通り、「私たちの遺伝子情報は、腸内の細菌に支配されている」ことがわかったということが書かれてあるものです。
さらに、今回の記事の冒頭に、
> この数カ月ずっと考えていたこと
と書きました。
それは、何かといいますと、「腸内の変調や腸内細菌の《消失》が、統合失調症や後発型の自閉症(の一部)を作り出している可能性が高い」ということなんです。
最近出版されたアメリカのある本の内容にあるものなのですが、それらは本文の後にふれられたらふれようと思います。
まずは、ロシアの記事です。
Ученые полагают, что у нас имеется нервная система, независимая от мозга
earth-chronicles.ru 2018/06/02
科学者たちは、私たち人間は、脳から独立した神経系を持っていると確信した
私やあなたがたが今この文章を読むことができているのは、私やあなたの頭の中に「脳」があるからだ。
しかし、私たちが「もうひとつの脳」を持っていることをご存じだろうか。それは頭にあるのではなく、脳とは関係のない場所の「腸」にある。
その部分は中枢神経系の関与なしに、何らかの形で腸の筋肉の動きを制御することができる何百万ものニューロンからなる自律的な基盤だ。これらのニューロンは実際に結腸にある。結腸は、小腸と直腸をつなぐ大腸の主要部分であり、消化管の最終的なリンクを通して食べ物の残骸を運搬する管状器官だ。
科学者たちは大腸のこの部分を腸管神経系(ENS)と呼び、脳や脊髄からの指示なしに機能することができるために、一部の科学者たちはこれを「第二の脳」と呼んでいる。
しかし、最新の神経科学に関する専門誌「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス(Journal of Neuroscience )」に発表された新しい研究によると、この「第二の脳」は、そのような呼称を超えた、あまりにも賢い存在かもしれない。
高精度の神経イメージング技術の組み合わせを用いて、この「第二の脳」を観察したオーストラリアの研究グループによれば、「腸管神経系は、腸内活動の組織化に必要な数百万のニューロンで構成されている」という。
科学者が微弱な放電を伴うマウスの単離結腸を刺激すると、結腸の隣接部分の筋肉の動きに直接対応する「ニューロンのリズミカルな協調興奮のプロセス」を観察することができた。「この研究では、腸管神経系の活動が、結腸に沿ってかなりの距離で筋肉活動を時間の経過とともに調整することができることを示した」と報告書は述べている。
研究者たちによると、ニューロンのこのような同期的な挙動は、脳の発達の初期段階においても一般的なのだという。
これは結腸内で明らかになった規則性が、腸管神経系の進化の初期段階から保存された「元の特性」であることを意味する可能性がある。
(※ 訳者注 / この部分は理解が難しいのですが、脳の発達そのものが初期段階より結腸のリズムによってなされているというような意味なのではないでしょうか)
しかし、今回の研究での結論は、さらに重要なことかもしれない。
それは何かというと、科学者たちは「中枢神経系が形成されるより前に腸管神経系が現れたと仮説しているため、おそらく結腸内の神経伝達のメカニズムは「第二ではない」可能性があるのだ。
これが真実ならば、哺乳類動物の脳は、まず消化管を通って食べ物を移動することを学び、その後に脳は複雑な体系を取りあげているだけなのかもしれない。
ニューロン興奮の機構が結腸で見出されたのは今回が初めてだ。
これはマウスでのみ検出されているが、研究者たちは、今回得られた結果が他の哺乳動物にも適用できると確信している。
しかし、腸管神経系の役割をより明確に理解するためにはさらなる研究が必要であることは明らかだ。脳ともうひとつの脳の働きについて研究しなければならないことは多い。
ここまでです。
そして、先ほど書きましたけれど、「腸内の異常は、理性や知性の喪失にも至る」という可能性について最近は思うことがあります。
先ほど、「アメリカの著書」のことを書いたのですが、それは、2016年に出版された『あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた』という著作です。
わりとタイトルの通りの内容のものではあるのですけれど、書かれてあることが多岐にわたっていて、うまくご紹介できないのですが……。
上の Amazon のページのに書評がたくさん書かれてあるのですけれど、その中に内容を説明して下さっているものがあり、そこから一部抜粋したいと思います。
以下、本書の中で新たに知った興味深い話題をいくつか取り上げる。
1. 自閉症の原因として色々なものが疑われている。破傷風菌類が腸内で繁殖することで、毒素を出してそれが脳に到達し、自閉症になるケースがあることが分かった。原因の一つは抗生物質の使用である。腸内の破傷風菌の繁殖を阻止する細菌類を抗生物質で殺してしまうことで、破傷風菌が繁殖する。
2. 細菌は体調だけでなく、精神にまでも影響を与えることがある。ラットがトキソプラズマに感染すると、恐怖心を失って振る舞いが変わり、猫の餌食になる。猫好きの人も猫にひっかかれることでトキソプラズマに感染し、性格が変わる。
3. 人の脳は乳幼児期に集中的に発達・形成される。その時の腸内微生物の様相によって性格は影響される。乳幼児期の抗生物質の使用は危険を伴うということを理解しておいた方が良いだろう。
5.自閉症に関して、特に生後18か月以内に抗生物質の治療を受けるのは最大のリスクとなるようだ。アレルギーに関しては、2歳になるまでに抗生物質の治療を受けた子供はのちに喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症を発症する率がそうでない子供と比べて2倍も高い。抗生物質を多く与えられるほどアレルギーになりやすく、4クール以上の治療を受けたこどもは3倍もアレルギーを発症しやすくなる。
ここまでです。
実際の著作の中には、自分の子どもが後発的に自閉症となった母親のことが長く書かれていますが、医学知識のほぼないその女性が、1から子どもの「発症の原因の手ががり」を調べ続けて、医師に懇願しての「実験」も行いながら、ついにその原因の仮説に辿りつくのです。
そして、ついには、その女性は医学者ではないのに、医学界で受理される医学論文を発表するに至る一種の愛情と執念のドラマが書かれています、
なお、その内容は一言でいうと、「抗生物質により腸内の細菌環境が破壊されたことによる自閉症の発症」(もっと具体的な機序が本には書かれています)ということになるのですが、もちろん、これは一例であり、自閉症の原因の大半は今でもわからないままですけれど、問題は自閉症そのものの話ではなく、
「腸が理性をコントロールしている」
ということが、この本の中のいくつかのくだりなどでよくわかるのです。
脳が健全で正常であっても、細菌を含む腸のシステムが破壊されることで、「理性は消えていく」のです。
そして、おそらくとしか言いようがないですが、他のさまざまなメンタルに関する病気や症状の中にも、「腸内のシステムが破壊されることによって起きているものがある」という気がします。
なお、私個人が思う「腸内の状況に異変をもたらすものの代表格」は……これは決して「全体に言えることではない」ということを強調しておきたいですが、
・抗生物質
・グルテン
だというように、今は思います。
唐突に「グルテン」というような言葉が出てきて恐縮な感じですが、これは実は個人的なことも含めて、最近しみじみと知ったことでもあります。ただ、個人的なことを基本にして何かを書くと独善的になりやすいですので、グルテンについては今回は特に書きません。
くどいようですが、抗生物質にしてもグルテンにしても、全体にあてはめられるものではなく、一生のうちに信じられない量の抗生物質を服用しても大丈夫な人は大丈夫ですし、グルテンなどは、普通の多くの人々は一般的には大丈夫なはずです。
そのあたりには、さらに人体を支配している「さまざまな複雑」が存在しているのだと思います。
いずれにしましても、ずいぶんと長い間、私たちは「脳が人間の知性をコントロールしている」と教えられ、そう思い込んでいたわけですけれど、
「脳も腸にコントロールされている一部に過ぎない」
ということが最近の医学的研究でさらに明確になってきている感があります。
正確にいえば、それは「腸」ではないのです。
それは、腸の「細菌」です。
人間の遺伝子が腸内の細菌にコントロールされているように、脳が支配していると思われてきた「理性」や「人格」さえも、私たちは腸内の細菌に支配されている可能性が高いようです。
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