2019年7月9日の米国の健康メディア「ヘルス.com」の記事より
・Taking Calcium and Vitamin D Supplements Together Could Increase Your Risk of Having a Stroke
骨の健康のために摂取するサプリメントが導くものは
もしかすると、「カルシウムとビタミンDを同時に服用されている」という方は、わりといらっしゃるかもしれないと思いまして、昨日 7月9日に、アメリカやヨーロッパなどで大々的に報じられていた冒頭の内容である、
「カルシウムとビタミンDを同時に服用すると、脳卒中にかかるリスクが高まる」
という記事をご紹介させていただこうと思います。
この「カルシウムとビタミンDの同時服用」というのは、どういうことのために行うのかといいますと、ビタミンDというのは、小腸や腎臓などからカルシウムの吸収を助けてくれる作用を持つために、「カルシウムとビタミンDを同時服用すると、骨が丈夫になる」と信じられているからです。
なお、太陽の紫外線には、人体内でビタミンDを合成する働きがあり、つまり
「ビタミンDは、太陽の光にあたるだけでも十分に体内で作られる」
のですけれど、近年では、いろいろ理由がつけられ、「日光だけでは不十分」として、サプリメントを飲むように奨励する商業的なアプローチが社会全体として強く、カルシウムにおいても、サプリメントでの摂取の推奨が進められています。
そんな中で、アメリカで 7月8日に発表された医学論文では、
「ほとんどの栄養補助サプリメントは、健康の役にも立たないことしか見出されなかった」
と発表され、健康上の利益がないだけではなく、先ほど書きましたように、カルシウムとビタミンDの同時服用は脳卒中のリスクを上昇させている、というようなことまでもがわかったのでした。
研究は、 100万人を対象におこなわれたもののため、比較的信頼性はあるものだと思われます。
その他にも、特にカルシウムのサプリメントにはいろいろな問題があるのですけれど、そのことについては後にしまして、まずは、その論文の内容に関しての記事をご紹介したいと思います。
最初は、冒頭にありますヘルス.com の記事を翻訳していたのですけれど、具体的な数字も出てこないし、「なんだか内容的にも変だな」と思っていましたら、このヘルス.comは、おそらくは「健康のためには、積極的に栄養補助サプリメントを摂取すべき」とする主張を持っているようなのですね。
ですので、栄養補助サプリメントは良くないというような主張は、そのまま紹介しづらいということなのかもしれません。
そんなわけで、少し他の報道を探しましたら、ロシアの報道メディアで、具体的に研究の内容を紹介しているものがありましたので、その記事をご紹介させていただきます。
ここからです。
Не все витамины полезны для здоровьяr
earth-chronicles.ru 2019/07/09
カルシウムとビタミンDの同時摂取は脳卒中のリスクを17%増加させる
アメリカ内科学会が発行する医学誌アナルズ・オブ・インターナル・メディシン (Ann Intern Med)に 7月8日に掲載された論文で、カルシウムとビタミンDのサプリメントを同時に服用すると、脳卒中にかかるリスクが 17%高まる可能性があることが発表された。
しかも、他の栄養補助サプリメントの大部分も、心血管系に利益をもたらすことがないことが見いだされた。
以前、発表された研究では、アメリカ人の 37%がビタミンDのサプリメントを摂取しており、43%がカルシウムサプリメントを摂取していることがわかっている。また、英国の調査でも、人口の約 45%が何らかの特定のビタミンサプリメントを摂取していることが判明している。
しかしながら、それらのサプリメントの多くは、単に役立たないだけではなく、心臓や血管に有害である可能性があると米ウェストバージニア大学のサフィ・カーン博士(Dr. Safi Khan)は警告している。
研究者たちは、ほぼ 100万人を対象とし 277のランダム化臨床試験を分析し、16種類の栄養補助食品サプリメントと、参加者の食事を変えた 8回の実験の効果を検証した。
心臓や血管に対して利益があるとわかっているものとしては、魚油に含まれるオメガ-3脂肪酸が、心臓発作や冠状動脈性心臓病のリスクを減らすことが研究によって示されており、葉酸は脳卒中の危険性を減らすことも研究でわかっている。
しかし、その他のサプリメント、つまり、ナイアシン、鉄、そしてあらゆる種類のマルチビタミン・サプリメントを含むほとんどすべてのものは、「死亡率や心血管疾患に大きな利益を及ぼさなかった」と論文には記されている。
それどころか、カルシウムとビタミンDの同時摂取は脳卒中の可能性を 17%高めることがわかった。
研究者たちは、カルシウムおよびビタミンDサプリメントを摂取することの、この予想外の危険性は、それらの同時使用が血管内のアテローム硬化性プラークの形成に寄与しているという事実によると示唆している。
また、カルシウムとビタミンDのサプリメントの同時接種は、通常、脳卒中や心臓病を発症するリスクが高い高齢者に奨励されるものだということが、状況のさらなる危険性として浮かび上がる。高齢者は、骨が脆くなることを防ぐためにカルシウムとビタミンDを服用する場合が多いが、しかし、高齢者ほど心臓疾患のリスクも高い。
英オックスフォード大学のスーザン・ウェッブ (Susan Webb)教授は、この研究の結果は驚くにあたらないとして以下のように述べた。
「妊娠中など、特定のビタミンや微量元素の不足を予防または排除する必要がある場合を除いて、栄養補助食品やサプリメントは、一般の人々に推奨されるべきではありません」とウェッブ教授は言う。
また、魚や植物性の食物が豊富な、いわゆる「地中海式食事」と呼ばれる食事も、同様に、心臓の健康に大きな利益を与えることは見いだされなかった。とはいえ、地中海式食事の持つ、全体的な健康上への利点を否定するものではない。
なお、栄養関連の研究では、因果関係の確立に常に問題があるため、研究者たちは、このようなデータは慎重に解釈されるべきであると指摘する。
しかし、研究者たちは、ごく普通に暮らす多くの人々は、あまり積極的に栄養補助食品を摂取するべきではないと考え始めているようだ。人体に必要なすべての物質はバランスの取れた食事から簡単に得られることができると彼らは言う。
研究者のひとりはこう述べる。
「健康を改善して早死のリスクを減らすことができるという魔法のような単一の栄養素はこの世には存在しないのです」
ここまでです。
記事にその数値がありますけれど、
> アメリカ人の 37%がビタミンDのサプリメントを摂取しており、43%がカルシウムサプリメントを摂取している
ということで、アメリカでは、「カルシウムとビタミンDサプリメントの組合せ」は、かなり人気のあるもののようです。
そして、このアメリカ人の異様なカルシウムサプリメント好きの様相を数値から見まして、以下のグラフのひとつの要因が少しわかった気もします。
アメリカは、他の国と比較しますと、異常なほどアルツハイマー病を発症する人の数が「急増」しているのです。
アルツハイマー病等の死亡者数の推移(男性)
・rou5.biz
人口比を勘案して標準化した死亡率で見れば、このように極端なグラフにはならないですが、それでもアメリカは一位です。
しかし、他の国との比較ではなく、アメリカ独自の問題として、その「増え方」がすごいです。1975年頃までは、アメリカも他の国と同等の推移をしていたのに、1980年代から、アメリカだけが突き抜けていくという状態となっています。
アメリカの増加ぶりがすごすぎて、他の国が穏やかな増加をしているように見えますけれど、たとえば、日本でも、アルツハイマー病は、以下のような非常に急激な増加を見せ続けています。
どうして、このことを「カルシウムサプリメント好き」と結びつけているのかといいますと、以前、以下のようなことを記事でご紹介したことがあるのです。
カルシウムサプリメントは「たとえ少量の摂取でも」脳の病変やアルツハイマー型の認知症を引き起こす可能性が極めて高くなることが判明
そこでご紹介した論文から抜粋しますと、以下のような作用で、カルシウムサプリメントは脳の病変を加速させるのです。
2018年10月2日の In Deep 記事より
研究者たちは、サプリメントによるカルシウム補給と虚血性脳卒中リスクの増加の関連性についてすでに結論している。
サプリメントによるカルシウム補充は、主に血管の内腔の閉塞に寄与する脂肪沈着物(アテローム)として、血管におけるカルシウム沈着(すなわち動脈の石灰化)に寄与し得ることを示す。
研究者たちは、このプロセスが血流の欠如、およびその後の虚血につながる可能性があると述べる。そして、これは最終的に脳病変の発症につながる。
余分なカルシウムが脳に直接的な神経毒性作用を及ぼし得る別のメカニズムは、過剰なカルシウムの脳細胞への流入であり、これは細胞死を引き起こす。
研究者たちは、サプリメントによるカルシウム補給が脳病変に有害な影響を及ぼす可能性があるという知見の重要性を強調している。
とありまして、ここに、
> 血管の内腔の閉塞に寄与する
とありますように、要するに、カルシウムサプリメントは「血管を塞いでしまう作用に繋がる」ということなんですね。
この記事を書いた時に「血管の内腔の閉塞」と関係しているというのなら、認知症やアルツハイマー病だけではなく、もっと直接的に「脳卒中も増えるのでは」というようなことも漠然と考えていました。
そして今回の研究では、「カルシウムサプリメントとビタミンDで脳卒中のリスクが増加する」ということが見出されたということになっています。
さらにいえば、血管の閉塞は「心臓と関係するのでは」とも思いますが、実はこれはずいぶん以前に、そういう可能性が医学研究で示されています。
以下は、アメリカ国立衛生研究所 (NCBI)のライブラリにある2010年の医学論文です。
2010年7月29日に発表された医学論文より
・Effect of calcium supplements on risk of myocardial infarction and cardiovascular events: meta-analysis.
基本的には、西洋医学的な方向としては、「健康のためにはサプリメントで栄養を補助するべきだ」ということで進んでいる方向性があります。
そういう意味では、今回ご紹介しました「サプリメントは、ほとんど役に立たないばかりか有害の場合がある」というような主張に対しては、さまざまな対立意見も出てくるというようには思います。
しかし、今回の記事に出てきた英オックスフォード大学のスーザン・ウェッブ教授のように、
「栄養補助食品やサプリメントは、一般の人々に推奨されるべきではない」
という考えを持つ医学者も増えてはいます。
つまり、「栄養は食べ物からとれば、それでいい」という主張です。
私も基本的にはそう思いますが、そのあたりは、個人個人の考え方ですので、サプリメントを否定する気はないです。
ただ、カルシウムだけは、サプリメント(あらゆるタイプのサプリメントを含む)からではなく、食物から摂取するようにしたほうがいいのかなとは思います。
結局、「栄養素」とか「栄養学」という概念ができた頃から、栄養と人間の関係はちょっとおかしくなったのかもしれないです。
人体を機械と見立てて、必要な栄養素をすべての性別、年齢の人たちに体重ベースで等しく算出したものが栄養学ですけれど、必要なものは個人個人でずいぶんと違いますでしょうしね。
人間は、足りない栄養素を一生懸命、体内で作り出そうとしたり、あるいは体内で作り出せないものは、その機能と作用を他で何とか働かせようとしているわけで、そこにこそ「高度な人間の体」という存在があると思います。
足りない栄養素を外から簡単に摂取し続けるような生活は、機械としての人体は、丈夫になるかもしれないですが、精神的な中味を伴わない空虚なボディを持つ生命というようなことになるのではないかと思ったりもいたします(ぶっちゃけて書きますと、長生きはしても、肉体的にも精神的にも乏しいというような)。
いずれにしましても、栄養素の過剰摂取を賞賛する傾向以外の健康と人体への考え方がもう少し増えてもいいとは思っています。