フランスの大学の研究発表を報じるメディア記事より
・efreenews.com
「地球全体が人口減」という現世史上初めての事態の渦中で
現在、日本をはじめとして、世界中が人口減少局面にありますが、この「人口が減少していく」ということを、今の時代の私たちの社会は、さほど重大なことだと考えていない感じもあるのですが、最近ふと、
「この人口減少ということが、今の人類が終焉に向かっていることの最も強い証左なのかな」
と思うことがありました。
それは、先月の以下の記事を書いている時に思ったことです。これは次の新しい太陽活動のサイクルについての海外の記事を翻訳したものでした。
その文章の中に、どう考えても太陽活動とは関係のないと思われる話が出てきまして、それは、
「ローマ帝国も、古代ギリシャも、文明の滅亡に先んじて人口減が起きていた」
ということが書かれていたのでした。
少し抜粋しますと、以下のように記されています。
ローマ帝国の衰退と崩壊
皇帝たちは、独立性と独創性において「逆優性」の立場を取り、子孫を作ることに熱心ではなかった。そのため、社会の中で子どもを作るのは、当時の奴隷の人たちが中心となっていった。
そして、ローマ帝国の総人口は、西暦 100年ころから急激に減少し始める。
最終的にローマ帝国が崩壊に向かう時には、出生率の低下を伴った。特に、上流階級の間で出生率が低下した。また、乱交や中絶、あるいは間引きが乱発した。
人口が減少する中で、ローマの兵士にローマ人以外が据えられ、皇帝にさえもローマ人ではない人物があらわれた。また、皇帝たちは性的な倒錯にとりつかれた。
古代ギリシャと古代ローマを研究する現代の歴史家たちは、これらの文明の衰退の始まりには、出生率の低下を伴っていたことを述べる。多くのギリシャ人やローマ人が、子どもを産み育てるということを望まなくなっていた。
この状況、特に、
> 多くのギリシャ人やローマ人が、子どもを産み育てるということを望まなくなっていた。
というのは、まさに今の地球の主要国の人たちの価値観と一致しています。
過去には、そういう集団は「必ず滅亡した」らしいのですが、確かに、現代の地球では、どの国の人ということもなく、子どもを産んで育てるということを望まなくなっている民族の集団になっているようで、地球人が比較的全体として子どもを望まなくなっている状況です。
ちなみに、この少子化とか人口減の問題について語られる時には、必ず「経済」とか「格差」とかの言葉が添えられますが、それが根本的な問題ではないことは、過去には「多くの人たちが、ものすごい貧困状態でも、こんなに激しい少子化など起きなかった」ことからわかります。日本もそうです。
それは、過去 50年くらいの「出生率の変化」のグラフを見てもわかります(たった 50年!)。全世界は、どこもくまなく出生率は下がっていますが、それが顕著なアジアの例です。
日本の少子高齢化は強く言われてきていることですが、こう見ると、他のアジア諸国の方が、減少の速度が速すぎて「危機的」な感じがします。
タイなどは、1970年に特殊合計出生率(一人の女性が一生のうちに出産する子どもの平均数)が「 5人」を超えていたのに、今は、日本より低い( 1.4人)のです。
香港や台湾などは、一時的に「 1人」を下回っています。
なお、人口置換水準という言葉で現されますが、「人口を維持できる合計出生率」は、
「 2.08人」
なのだそうです。
これを上回っている国がアジアにはひとつもないですので、これらすべての国において、移民政策等は除いて、純粋な人口は減っていくことになります。
これは西欧諸国も同じで、数字だけで示しますと、2016年の出生率は以下のようになっています。
主要国の特殊合計出生率
・日本 1.44
・アメリカ 1.82
・フランス 1.92
・ドイツ 1.59
・イタリア 1.34
・イギリス 1.79
・スウェーデン 1.85
・タイ 1.40
・シンガポール 1.20
・台湾 1.17
・韓国 1.17
主要国に、人口を維持できる水準の出生率の国が基本的にないのです。
先ほどあげましたローマ帝国とか古代ギリシャなどのように、社会が子どもを望まなくなったコミュニティが地域的に出現することはあったでしょうけれど、今の世界のものすごいところは、
「地球全体の単位で、子どもを望まなくなっている」
ということです。
出生率の低下が一部の民族と文明に発生しているのではなく、地球全体であり、こういうことは、現在の地球の文明史上初めてのことではないでしょうか。
そんなことを思っていた中、数日前、フランスのエクス=マルセイユ大学の研究者たちによる調査で、
「ネアンデルタール人の絶滅は、出生率の低下による人口減が原因である可能性」
についての仮説が科学誌に発表されたのでした。
「ネアンデルタール人も?」と驚きましたけれど、この研究は、一種の統計学的なアプローチによるもので、科学的にこの仮説が最も正しいというようなものではないです。
それでも、「人口減に突き進んだ民族は滅びる」という掟を考えている中で、古代人たちでも同じようなことが起きていたのかなと興味を覚えました。
その研究を報じていた記事をご紹介したいと思います。
なお、ネアンデルタール人の滅亡に関しては、現在の人類学では、仮説はたくさんありますが、以下の Wikipedia の記述の通りとなっています。
ネアンデルタール人 - Wikipedia の項目「絶滅」より
ネアンデルタール人が絶滅したのは2万数千年前だが、その原因はよくわかっていない。
ここからです。
Declining Fertility Rates May Explain Neanderthal Extinction
efreenews.com 2019/06/01
ネアンデルタール人の絶滅の原因が出生率の低下で説明できる可能性
ネアンデルタール人が地球から消滅した理由について、これまで活発な科学的議論がおこなわれ、彼らの絶滅を説明するために多くの仮説が提唱されてきた。
このたび、オープンアクセスの科学誌 PLOS ONE に、このネアンデルタール人の絶滅に関しての新たな仮説が発表された。
人口モデリングを基盤とした説を発表したのは、フランスのエクス=マルセイユ大学のアンナ・デジョアンニ (Anna Degioanni)助教授と、研究チームだ。
ネアンデルタール人の絶滅を研究する人たちにとっての最大の課題のひとつが、仮説の検証を可能とする実証的なデータが存在しないことだ。
これまでのネアンデルタール人の絶滅に関しての仮説では、疾患の流行や気候変動などのカタストロフ的事象が説明されることが多かったが、今回、研究チームは、これまで出された仮説とは異なる絶滅シナリオを調査するために、人口統計学的要因を調査することを可能にするネアンデルタール人の人口モデルを作成した。
その結果、既知のネアンデルタール人の歴史として認識されている時間枠の中で、ネアンデルタール人たちの間に人口減少が発生し、4,000年から 10,000年の時間軸の中で絶滅した可能性があるという。
デジョアンニ助教授らは、現代の狩猟採集者集団と現存する大型類人猿の観察データ、そして、以前の科学的研究から入手可能なネアンデルタール人の遺伝学的および経験的データを用いて、ネアンデルタール人の絶滅モデル(生存率、移住率、出生率、等)のための人口統計パラメータを作成した。
研究者たちは、人口が 5,000人を下回った時点で「絶滅」と定義した。
このモデルによれば、ネアンデルタール人の若年層の出生率の低下とともに、1万年以内に絶滅に至った可能性がある。
研究者たちは、この研究によって決定的な説明をする意図はなく、「ネアンデルタール人の絶滅に関して、そのような経過も起こり得ていた」という別の角度の探究を提示することが目的だ。
それでも、この研究は、出生率の低下や、乳児死亡率の上昇といった比較的小規模な人口統計学的変化がネアンデルタール人の絶滅につながったという可能性を示唆するために実証的なデータを使用した最初の研究であると研究者たちは述べる。
デジョアンニ助教授は次のように記している。
「本日 PLOS ONE で発表したネアンデルタール人の絶滅に関するこの研究は、『なぜ』ネアンデルタール人が消えたのかを説明するものではない。そうではなく、この研究は、ネアンデルタール人は『どのように』消えていったのかを識別するためのものといえる」
「この独自のアプローチは、人口統計モデリングに基づいている。そのモデリングによる結果は、出生率の非常にわずかな減少が、ネアンデルタール人の人口全体の消滅を説明するかもしれないということを示唆している」
「なお、この研究によれば、この人口の減少は、すべての女性のネアンデルタール人と関係していたのではなく、最も若い年代層の女性たち(20歳未満)と関係していた」
ここまでです。
この記事の最後の部分もいろいろと感じるところがあります。つまり、この統計学的モデルが語るところは、「ネアンデルタール人の最も若い年代の女性たちの出生率が下がった」ということを示しているようで、つまり、ネアンデルタール人のコミュニティで、
「若い女性たちが、子どもをつくらなくなった」
と。
これはもう、ローマ帝国、古代ギリシャ、そして「現代」とほとんど同じだなと思います。
ちなみに、この、やや変わった視点からの研究を行ったアンナ・デジョアンニさんは、女性人類学者で、エクス=マルセイユ大学の助教授だそうです。
今から 2年ほど前に、「今後の地球の人口の構成がものすごいことになる」ということについて、以下の記事で取りあげさせていただいたことがありました。
・地球老年期の終わりを越えて : 人類史上初めてとなる壊滅的な「世界の人口統計的時限爆弾」をグラフで見てみる
In Deep 2017年7月12日
そのページの図の中で、「2050年に、人口の 20%以上が 60歳以上になると予測される国」を示したものがありました。
2050年に人口の20%以上が60歳以上になると予測される国
・The Demographic Timebomb: A Rapidly Aging Population
このように、アフリカと南アジアの一部を除いて、「地球のほぼ全部が高齢化となる」ことが予測されていまして、場合によっては、この 2050年の状況に至る時期は、さらに早まる可能性もあります。
こうなってくると、どの国も「いろいろなことを維持するのが難しい」状態となってくるはずです。
そして、こういうような状況が来るのは、そんなに遠いわけではなく、しかも「確実に現実として訪れる」ことが決定していることを考えますと、どうしても、「将来的にいろいろと維持していくのは無理なのだろうな」とは思ってしまいます。
ただ、ローマ帝国にしてもネアンデルタール人にしても、人口減から「滅亡」にまでの時間軸は、数百年とか数千年という長い時間が示されていましたが、現在の状況はそれとは違います。
このような事態は「たった数十年で進行した」わけで、その分、滅亡までの時間軸もどうしても過去と比べて早いものとなりそうです。
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