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原油流出事故から10年目のメキシコ湾の深海の様子がアメリカでの調査で明らかに : そこはゾンビと化したカニとエビだけが蠢く正真正銘の悪夢の海底……

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2019年9月18日の米メディアの報道より


atlasobscura.com




 

海底に広がるリアルな地獄

数日前に、ちょっとショッキングに科学報道を見まして、少しずつ訳していたのですが、それは、2010年の原油流出現場が起きたメキシコ湾の、

「深海の今」

を伝えたものでした。

米ルイジアナ大学の海洋調査チームが、海面から遠隔操作できる潜水艇を用いて、海底の状況を調べたものなのですが、これがなかなか「地獄のような」様相を呈しているのです。

簡単に書きますと、ほとんどの生物が生息していないのですが、なぜか、カニやエビなどの甲殻類だけが異常にたくさんいるのです。その理由は、甲殻類というものは、炭化水素の分解物に誘因されるのだそうで、他の海域からどんどん、そりに誘因され甲殻類が集まっているようなのですね。

ところが、その現場は今でも「猛毒の海域」であり、しかも、他の海洋生物が生きていないために、「エサは共食いによるしかない」上に、その肉も毒されているので、

「共食いの末に死ぬか、飢え死にしていく」

ようなのです。

そして、状況を見ますと、神経系も完全にダメージ受けているようで、まともに動くことも周囲を認識することもできないようで、「ゾンビのように緩慢に動き間っているだけ」のようなのです。そのような「共食いするゾンビ」のような甲殻類だけが数多くいるという世界が現出されていることに、海洋生物学者たちもショックを受けているようです。

その記事をご紹介します。

わりと長いですが、状況がよくわかると思います。

原油流出から 10年経ち、状況はさらに悪化しているということのようです。

 

 


A Decade Later, the Deepwater Horizon Oil Spill Has Left an Abyssal Wasteland
atlasobscura.com 2019/09/18

事故から十年。メキシコ湾の原油流出現場の深海には、不毛な荒れた海底が広がっていた

海底1.8キロメートルに広がる悪夢

米ルイジアナ大学海洋コンソーシアム(LUMCON)の深海生物学者クリフトン・ナナリー氏は、メキシコ湾の深さ 6,000フィート (1.8キロメートル)の深海を遠隔操作艇(ROV)を用いて、その様子を記録し、ライブフィードで送信していた。

これは、ディープウォーター・ホライゾンが起こしたメキシコ湾の原油流出事故のあった 2010年以降に撮影された事故海域の深海の最初の映像だった。

メキシコ湾原油流出事故では、87日間で約 490万バレル (78万キロリットル)の石油が流出し、メキシコ湾の海面を何百平方キロメートルにもわたり黒く染めた。

そして、この調査の中で、深海生物学者としてナナリー氏は、メキシコ湾原油流出のような大きな災害から自然環境が回復するには非常に長い時間がかかることと、そして、海洋の深海部こそ原油流出により劇的に影響を受ける可能性が高いことを知った。

「原油流出から 10年が経った今、このような状態だとは考えていませんでした」と彼は言う。

この海底は普通は雪のように白い砂が広がるが、現在は塊と黒だけが写る

 

遠隔操作車両のカメラには、ナマコや巨大な等脚類(フナムシ等)など通常のこの海底に生息している生物は見当たらず、黒く荒れた海底の光景が広がっている。

その代わりに、このエリアの生物圏は、まるで海底を夢遊病で歩いているかのように動き、身体の表面が腫瘍に覆われた不気味な様相をした奇妙なカニとエビに乗っ取られていた。

表面を腫瘍と寄生虫で覆われたカニ

 

王立協会の科学誌オープンサイエンスで最近発表されたルイジアナ大学海洋コンソーシアムのチームの研究によると、このエリアは現在も有毒で、おそらく取り返しのつかないほど状態が損傷していることが明らかだった。

2010年のメキシコ湾原油流出事故の後には、清掃と原状復帰に 650億ドル( 7兆円)近くの費用をかけ、原油で黒く染まったペリカンや、原油に覆われたカメなどの、特定の動物の救出にスポットがあてられた。

しかし、ナナリー氏によれば、研究者たちも、また一般の市民の人たちも、サンゴや海底のフナムシのような手に届きにくい深海の生息者たちに注意を払う人たちはほとんどいなかった。

ナナリー氏は言う。

「深海は常に見えません。たとえば、海洋の表面に漂う原油を除去するための技術はありますが、海底の原油を除去する技術は存在しないのです」

そのために、メキシコ湾の海底には、約 1000万ガロンの原油が定着した。

事故から 4か月後の 2010年8月、米ルイジアナ州立大学の 2人の研究者が、メキシコ湾の深海の調査をおこなった。彼らは、遠隔操作潜水艇を使用して、映像を撮影した。

そこには「予想されていた光景」がほとんどそのままあった。海底は完全に破壊され、サルパ (ホヤに分類される尾索動物)やヒカリボヤ属、ガラス海綿類などの海底の生物の死骸は、生きたものより多かった。

そして、生物種の驚くべき数の減少が記録された。米ジョージア大学の海洋学者マンディ・ジョイ (Mandy Joye)氏は、2010年と 2014年に、事故現場の海底に潜水艇で赴いた。

ジョイ氏によれば、「 2010年の訪問の際は、墓地を訪れたようなものでした」という。

海底には、クモの巣のように見えるぬめりのある「網」のようなものさえあったという。ジョイ氏は、「海底の潜水艦の中にいて、次に海底に来ることが悲しくて恐ろしいと感じたのはその時が初めてでした」と語る。

2014年にジョイ氏が再び潜水した時に、このエリアの海底に戻っていた生物種は甲殻類だけだった。そして、それは今日になるまで明らかに続いている。

2014年以降、メキシコ湾原油流出の深海への影響に関するほとんどの研究は終了した。

そして、2015年に、原油流出事故を起こした BP 社は、メキシコ湾の環境は自然に回復し、「原油流出前の状態に戻っている」と主張する声明を発表した。これに対して、アメリカ海洋大気庁(NOAA)は「この声明は不適切で時期が早すぎる」とコメントを出している。

2014年、科学誌に発表された研究では、ジョイ氏による海底の土壌サンプルの調査から、BP 社の原油が、1,200平方マイル ( 1900平方km)以上の海底に広がっていることが見出された。しかし、2015年の報道によると、 BP 社はジョイ氏の調査結果に同意せず、海底に残った原油はもはや有害ではないと付け加えている。

しかし、深海生物学者たちはそれは幻想だと見抜いている。

ルイジアナ大学海洋コンソーシアムの研究者たちは、7年間で海底の様子がどのように変化したかを記録しているが、生物種の中で甲殻類だけは、特にカニはどこにでもいた。

研究者たちは、原油流出の海底に定着した甲殻類や、その他の節足動物の膨大な数にショックを受けた。大まかな推定によると、大西洋の深海の赤カニ、赤エビ、および白海老のエビは、湾のその他の場所よりもディープウォーターサイトに、ほぼ 8倍多く生息していた。

しかし、甲殻類が豊富に住んでいることは、この海底エリアが健康的に回復しているということを意味してはいない。

特に研究者たちにとって不気味だったのは、カニの非常に遅い動きだった。

ナナリー氏は言う。

「通常、ROV (遠隔操作潜水艇)のライトを見ると、カニは即座に散らばって逃げていきます。ところが、これらのカニは、ライトに気づかないか、あるいは、関心を持たないのです。

カニとエビ(左上と右下)。どちらも腫瘍に覆われている

 

なぜ、原油流出現場の海底にカニやエビなどの甲殻類が数多く集まっているのかということについては、研究者たちは、炭化水素の分解物が、周囲の海底からカニを引き寄せていると説明する。

カニは、炭化水素の分解物に誘因されるのだという。しかしこの場は、間違いなく有毒廃棄物が溜まっている深海なのだ。

研究者たちは、過去の事例と同様のことが起きていると仮定している。たとえば、2003年にニューイングランドのバザーズ湾で原油流出が発生した際にも、同様の化学的混乱が発生した。その際には、ロブスターの大群が現場に誘因された。

研究者たちは、この誘因を「死のトラップ」に例える。なぜかというと、一度誘因されると、カニなどの甲殻類は、そこから去る能力を失うのだ。

しかし、この有毒な海底は、甲殻類以外の生物種が生きることはできないために、カニが食べる食糧源は「お互い」しかない。つまり、カニは他のカニの肉を食べて生きるしかない。

しかし、当然ながら、原油の毒素に覆われたカニの肉を食べることは、そのカニの死を誘発することになり、死の悪循環がいつまでも続く。

また、この海底のエリアに生息しているカニたちは、その形態も正常ではなかった。

爪が縮んでいるもの、表面の一部が腫れているもの、しわが寄った足を持つもの、寄生虫に覆われたものなどが数多くいる。

ナナリー氏はこのように述べている。

「カニたちには変形がありましたが、ほとんどのカニは脚や爪などが欠落していました。4本や 5本の脚で動き回っているカニがたくさんいるのです」

なぜ、カニたちがこのような状態になってしまったかについて、その疾患を招いた毒素をまだ特定していない。エビはカニより状態がひどかったという。

「もはやエビのようには見えないエビがたくさんいました。小さな甲殻類の多くは背中にコブを持っていました」

このコブは、おそらく腫瘍だと見られる。

研究者たちは、今回の深海への訪問では標本を捕獲することはできなかった。通常は、標本の捕獲は、餌付きのトラップで行われるが、これらの病気の甲殻類たちは、もはや、エサのために移動することに興味がないようなのだ。

なので、エサを使ったトラップで、甲殻類を捕獲することができなかった。今後、特殊な ROV を使用する必要があるが、技術的には難しい。

研究者たちは、この研究により、多くの人たちが、現在の海底の荒廃について興味を持ってくれればと望んでいる。


 

ここまでです。

なかなか壮絶な様相となっているようです。

少なくとも、この記事を読む限り、そう簡単にメキシコ湾の海底の状況は改善しないと思われます。

これは、原油の影響も当然あるでしょうけれど、当時の原油流出の対応の際に、原油を分解するために撒かれた石油分解剤のコレキシット( Corexit )という薬剤は、かなり毒性の強いものとされていまして、それが与えたダメージも今でも響いているような気はします。

メキシコ湾については、原油流出事故が起きた 2010年から、たびたび状況について記事にしていますが、最近は、2017年の以下の記事で取りあげました。

海はさらに死に続けている : 拡大が止まらない米国メキシコ湾の死の海域「デッドゾーン」が過去最大の面積に。そして原油流出の年に発せられていた専門家たちの警告を思い出す

メキシコ湾では、デッドゾーンという、生物が生息できない海域がどんどん増えていまして、そして、今回は数値だけではなく、その具体的な状況もわかったことになりそうです。

そして、これを見て思いますのは、2018年1月に、日本の近海で起きた「史上最悪と言われた原油流出」です。

これは以下の記事などで取りあげています。

もうじき日本の海が死ぬ : 「史上最悪の原油流出」が日本の海域を直撃する予測が英国海洋センターより発令。3ヶ月以内に九州から東北までの全海域が汚染される可能性

 

メキシコ湾の状況が、7年経っても、まったく改善されていないばかりか、深海に至っては「悪化している可能性がある」ということなどを知りますと、日本近海の広範囲に大量の原油を拡大させたと思われるこの原油流出事故の影響もまた、5年後、10年後になってから明らかになっていく可能性もあるのかもしれません。

以下は、2018年4月頃までの原油の拡大予測状況です。

2018年1月の原油流出事故の3ヵ月後の拡大状況


Reuters

今回の米ルイジアナ大学の調査は、深さ 1.8キロメートルという通常では調査できないような深海を調べたわけで、同じような原油流出に見舞われた日本の海域の「深海」が今後どのようになっていくのかが気になります。

世界の海の死に方が本当に加速しています。





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