思い出す「生きた植物」での発電法
オーストラリアの研究者たちが、
「空気から電気を作り出すバクテリアと、その発電メカニズムを発見した」
ことが、科学誌ネイチャーに発表されました。
以下が論文です。
大気水素からの細菌エネルギー抽出の構造基盤
Structural basis for bacterial energy extraction from atmospheric hydrogen
スメグマ菌というバクテリアで、病原性のバクテリアではなく、わりとありふれた環境中の細菌のようですが、構造が病原体の細菌と似ているために、医学の研究などでよく使われるものらしいです。
このスメグマ菌というのが、「空気から電気を作り出している」ということ自体は、以前から知られていたのですが、今回、そのメカニズムが判明し、
「実用化できる可能性」
が示されたものです。
私が、こういう「生物発電法」について、過去に最も感動したものがあり、記事を見ますと、2015年とありますので、もう 8年前ですが、
「植物を用いた発電法」
というものがあり、それは非常に実用的である上に、その概念がとても素晴らしいものでした。
以下の記事にあります。
[記事] オランダの女性たちが発見した奇跡のエネルギー生成 : 生きた植物と生きた微生物と水のコラボレーションが生み出した驚異の発電法 - Plant-MFC
In Deep 2015年07月04日
「植物を使う」といっても、植物を燃料に使うとか、そういうものではなく、
「生きた植物の活動を利用しての発電」
でした。
詳しいところは、上の記事をお読みいただければ幸いですが、その記事に書きました当時の報道から抜粋します。
プラント-e 社:植物を育てながら、電力を収穫する
植物が酸素を作り出すことができることは広く知られている。
では、植物が「電気」を作り出すことができるだろうか?
そんなことは不可能に思えるかもしれないが、オランダに本社を置くプラント- e 社によって、それができることが証明されている。
プラント- e 社は、植物を傷つけることも枯らすこともなく、「生きている植物から電気を収穫する」ことに成功した。
この、電気を作り出すために、自然の微生物を利用した画期的な方法は、「植物利用型微生物燃料電池( Plant-MFC )」と呼ばれる。
植物が光合成を行うと根から様々な有機化合物を生産するが、その有機化合物が微生物により無機物に分解される。そのときに発生する余剰電子により発電が行われることを応用したものだ。
プラント- e 社は、植物が光合成をする際に、その 70パーセントが使われていないことを発見した。
根を通って排出されるその廃棄物は C6H12O6 (グルコース)の化学構造を持っており、それが微生物によって分解され、二酸化炭素(CO2)、プロトン(H+)と電子(e - )になる。
この自然のプロセスを利用して、プラント- e 社はこれを電気エネルギーに変換できたのだ。この電力は実際の電子機器に使うことができる。
現在、この Plant-MFC では、1平方メートル 0.4ワットの電気を発電させることができる。この発電量は、同じサイズのバイオガス発酵プロセスから発生した電気を超えている。
ノートパソコンを駆動させるには、わずか 15平方メートルの植物の栽培面積があればいいということになる。
100平方メートルの土地の面積を持っている場合なら、発電量は年間 2,800キロワットに達する。この量は、オランダの家庭や他のヨーロッパ諸国の基本的な電力需要を満たすことができる量だ。
以下の写真は、このプラント- e 社の社内で、鉢植え3つほどだけでも、小さな電力が発生していることがわかります。
上の記事にある説明をさらに簡単に書きますと、以下のようなメカニズムです。
・植物が光合成をする際には、様々な有機化合物を生産するが、そのエネルギーの70%以上が植物は自ら使わない。
・それらの有機化合物は、植物の根の周囲に集まる「微生物」により無機物に分解される。
・そのときに発生する余剰電子により発電が行われることが見出された。
感動したのは、
「植物が光合成をする際には、その 70%が無駄になっている」
ということがわかったことでした。
せっかく光合成で作ったエネルギーが「捨てられている」のです。
なぜか?
植物たちは、
「そのエネルギーで、根の周辺に集まる微生物たちに栄養を与えていた」
のです。
結果として、そこからは「電気」が生成されるのですが、この何が感動的かといいますと、
「植物も微生物も電気なんか必要としていない」
からです。
そんなものはなくても生きていけます。
電気を必要としているのは、この地球で、「人間だけ」です。
そのような人間だけが利用できる電気というエネルギーが、植物と微生物の共同作業で作り出され続けている。
そして、もうひとつ感動的だったのは、この発電方式ですと、
「この世に植物が多くなればなるほど、電気の発電量も増える」
ということです。
植物と水と土があれば何もいらないエネルギー生成です。電気に変換するための機器は必要ですが、継続的に購入しなければならないようなものはありません。
これを知った時には「自然界ってのはエネルギーに満ちているものなのだなあ」と思いまして、ふと、19世紀のセルビアの予言者であるミタール・タラビッチの予言の以下の部分を思い出しました。
ミタール・タラビッチの19世紀の予言より抜粋
人間は地中深くに井戸を堀り、彼らに光とスピードと動力を与える黄金を掘り出す。そして、地球は悲しみの涙を流すのだ。
なぜなら、地中ではなく地球の表面にこそ光と黄金が存在するからだ。
地球は、自らに開けられたこの傷口のために苦しむだろう。
だが、本物のエネルギー源は地中ではなく自らの周囲にある。
そのエネルギー源は人間に話しかけてくれるわけではないので、人間がこのエネルギー源の存在を思い出し、地中に多くの穴を開けたことがいかに馬鹿げていたのか後悔するようになるまでには大変な時間がかかる。
そして実はこのエネルギー源は人間の中にも存在している。
しかし、人間がそれを発見し取り出す術を獲得するには長い歳月がかかる。なので人間は自分自身の本来の姿を知ることなく長い年月を生きることになる。
人間からも結構なエネルギーが放射され続けています。
例えば、「バイオフォトン」という生体光が人間からも出ていることは広く知られています(肉眼では見えません)。
ヒト体表のバイオフォトン(15分露光)
東北工業大学
また、人間は「磁場」を常に発しています。
これは、京都大学名誉教授の前田坦さんの 1985年の名著『生物は磁気を感じるか』で説明されていました。
現実には、微生物をエネルギー源として使用する研究は、かなり広く行われているのですけれど、「今ひとつ盛り上がらない」という傾向があります。
理由は……推定ですが、
誰もあまり儲からないから。
ではないかと思っているんですが、どうでしょう。
プラント-e社の植物発電なども含めて、対ロシア制裁後のヨーロッパは、結局は暖冬で回避できたとはいえ、この冬にもし厳冬であれば、「完全な停電に陥る可能性」さえありました。
この植物の方法なら、暖房は無理でも「 LEDライトのひとつくらい」なら、大きめの植木鉢の観葉植物がいくつかあれば、点きます。
寒さはともかく、真っ暗は回避できる。
でも、そういう発想が表面に出てくることは本当にないですね。
最近いくつかの金融の問題についての記事を書かせていただきました。
[記事] 「崩壊は一瞬で起こり得る」:迫るメルトダウンのメカニズムがようやく理解できました。そこには驚くべき事実が存在します
In Deep 2023年3月14日
そういうことが本当に起きた場合、どうしようもないほどの景気後退のときには、「家が真っ暗にならざるを得ないような家庭は増える」と思われます。
植物や微生物での発電は、電力量は少なくとも、真っ暗は回避できる。
でも、そういう話は出てこない。
電気の無料の概念はいつも出てくる話ですが、いろいろな面で、根が深いのでしょうね。
しかし、それはそれとしても、どなたか賢明な方が、先ほどの植物発電のメカニズムから「簡単に製作できる植物発電キットの解説」というようなものを出してくれないかなあというように思います。
今回ご紹介するバクテリアを使用した発電は、かなり高度なメカニズムで、一般の人たちがどうこうできるものではなさそうです。
それでも、「単なる空気から電気を作る」というのはすごいことです。
ネイチャーの論文を取りあげていたライブサイエンスからご紹介します。
科学者たちは、空気をエネルギーに変えることができる酵素を発見し、潜在的な新しいエネルギー源を解き放つ
Scientists discover enzyme that can turn air into energy, unlocking potential new energy source
livescience 2023/03/08
結核菌の近縁種は、空気中の水素を電気に変換することが長い間知られていたが、今、科学者たちはその方法を発見した。
結核とハンセン病の原因となるバクテリアの従兄弟にあたる近縁種を研究している科学者たちは、水素を電気に変換する酵素を発見した。
彼らは、それを使用して、文字通り薄い空気から新しいクリーンなエネルギー源を作り出すことができると考えている。
Huc と名付けられたこの酵素は、バクテリアのスメグマ菌が大気中の水素からエネルギーを引き出すためにこれを使用し、極端な栄養不足の環境で生き残ることを可能にしていた。
現在、酵素を抽出して研究することにより、研究者たちは、さまざまな小型携帯電気機器に電力を供給するために使用できる新しいエネルギー源を発見したと述べている。彼らは 3月8日、 ネイチャーに調査結果を発表した。
論文の筆頭著者であり、オーストラリアのモナッシュ大学の微生物学者ライズ・グリンター ( Rhys Grinter) 氏は、以下のようにライブサイエンスに述べた。
「酵素 Huc を含む電源は、バイオメトリックセンサー、環境モニター、デジタル時計、計算機、または単純なコンピュータなど、空気を使用してさまざまな小型ポータブルデバイスに電力を供給することができると想像しています」
「より濃縮された水素を Huc に供給すると、より多くの電流が生成されます」
「これは、燃料電池で使用して、スマートウォッチやスマートフォン、よりポータブルで複雑なコンピュータ、さらには自動車などのより複雑なデバイスに電力を供給することができることを意味します」
スメグマ菌は非病原性で急速に増殖する細菌で、実験室でその近縁の病気の原因となる結核菌の細胞壁構造を研究するためによく使用される。
世界中の土壌で一般的に見られるスメグマ菌は、空気中の微量水素をエネルギーに変換することが長い間知られている。このようにして、スメグマ菌は、南極の土壌、火山のクレーター、深海など、最も厳しい環境で生き残ることができると研究者は述べている。
しかし、これまで、スメグマ菌がどのようにして、空気をエネルギーに変換しているのかは謎に包まれていた。
スメグマ菌のこの衝撃的な能力の背後にある化学を調査するために、科学者たちは、最初にクロマトグラフィー (混合物の成分を分離することを可能にするラボ技術)を使用してプロセスに関与する Huc 酵素を分離した。
次に、彼らはクライオ電子顕微鏡法 (低温電子顕微鏡法)で、酵素の原子構造を調査した。この電子顕微鏡法は、その作成者たちが 2017年のノーベル化学賞を受賞した技術だ。
研究チームは、 スメグマ菌から採取した酵素 Huc の凍結サンプルに電子を照射することにより、酵素の原子構造と、電子が電流を形成するように電子を運ぶために使用する電気経路をマッピングした。
チームは、Huc の中心に、ニッケルと鉄の荷電イオンを含む活性部位と呼ばれる構造があることを発見した。
水素分子 ( 2つの陽子と 2つの電子で構成される)が活性部位に入ると、ニッケルと鉄イオンの間に閉じ込められ、電子を剥ぎ取られる。次に、酵素はこれらの電子を流れるストリームに沿って送り、電流を生成する。
「電子は Huc (具体的にはニッケル イオン)に吸収され、鉄イオンと硫黄イオンのクラスターによって形成される分子ワイヤによって Huc の表面に移動します」と グリンター氏は述べる。
「酵素 Huc を電極に固定化すると、電子が酵素表面から電気回路に入り、電流を発生させることができます」
さらなる実験により、単離された Huc 酵素は長期間保存できることが明らかになった。また、凍結あるいは、摂氏 80℃まで加熱されても生き残ることもわかった。
また、Huc 酵素は、私たちが呼吸する空気中の濃度の 0.00005%という極微量の水素を消費することができる。これらの属性は、微生物の遍在性と容易に成長する能力とともに、この Huc 酵素を有機電池の電源の理想的な候補にする可能性があると研究者は述べている。
「Huc は空気中の水素からエネルギーを抽出できますが、これは事実上無限です」とグリンター氏は述べた。
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