6月2日のアメリカの気象メディアより
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今回は、日本を含むアジアや、北米などを含めて、台風やハリケーンのシーズンが近づいてくる中で、冒頭のような、
「ハリケーンの強さの基準を現行の5段階から6段階に引き上げるべきだ」
という意見が世界中の著名な気象学者たちから共同で提出されたことが報じられていまして、そのことをご紹介しようと思います。
その記事そのものも興味深いですが、その記事の中にありました下のグラフに驚いたこともあります。これは台風、ハリケーン、サイクロンなどを含めた、「世界中の暴風雨」が含まれたものです。
1980年から2016年までのカテゴリー別の暴風雨の発生数
これを見まして一目瞭然なのは、
「最大の勢力であるカテゴリー 5の暴風雨の発生数が突出して増加している」
ということです。その増加幅は、実に 700パーセント近くとなっていて、かなり驚異的な数値です。
単純な話として、世界全体で「規模の大きな暴風雨に限って劇的に増加している」ことがわかります。規模の小さなものの数はさほど変わっていません。
今回、「カテゴリー 6を採用すべきだ」と意見を出しているのは、気象関係では国際的に権威筋ともいえる方面の人々でもありますので、今年の世界での嵐や暴風雨の状況次第では、暴風雨の基準が近いうちに変更されるかもしれません。
現行の基準は、アメリカのハリケーンに使われることが多いですが、風速では時速ですと以下のようになっています。
暴風雨の強さの世界的な基準(台風、ハリケーン、サイクロンその他を含む)
カテゴリー1 時速 118 – 152 キロメートル
カテゴリー2 時速 153 – 176 キロメートル
カテゴリー3 時速 176 – 208 キロメートル
カテゴリー4 時速 209 – 248 キロメートル
カテゴリー5 時速 249キロメートル以上
日本の台風の最大瞬間風速は、秒速で表されることが多いですので、秒速に直しますと下のようになります。
カテゴリー1 秒速 33 – 42 メートル
カテゴリー2 秒速 43 – 49 メートル
カテゴリー3 秒速 50 – 58 メートル
カテゴリー4 秒速 59 – 69 メートル
カテゴリー5 秒速 70 メートル以上
去年 10月に、日本に上陸した「平成29年 台風第21号」は、日本での表現では「非常に強い勢力」に発達し、「超大型」のまま上陸しましたが、この最大風速が 秒速 50 メートルでしたので、国際基準では、カテゴリー 3ということになります(上陸前にカテゴリー 4になっていましたが)。
ここから考えますと、カテゴリー 5のハリケーンというものの暴風雨がどれだけ強大なものかがわかりますが、今回の提言は、
「それでもすでに勢力を正確に示すには足りない」
という時代になってきていることを現します。
何しろ、去年の時点でそれは顕著でした。
たとえば、2017年9月に、カリブ海を壊滅状態に陥れた「ハリケーン・マリア」の上陸前の最大風力は「時速 298キロメートル」に達していまして、カテゴリー 5の基準である「時速 249キロメートル以上」というものをはるかに超越していたのでした。
USAトゥディの記事より
・Why hurricanes, storms may be stronger in 2018
カテゴリー 5の基準をあまりにも大きく上回るこのようなハリケーンでも、現行の基準ではカテゴリー 5とされるわけで、気象学者たちは「もっと大きな危険が迫っていることを示すため」に、カテゴリー 6の採用を提案したようです。
記事によれば、今年は大西洋地域の海水温度が低いために、アメリカを襲うようなハリケーンの発生は多くないとされていますが、世界全体として見れば、今の時点でもすでにかなり荒れている地域もありますので、どうなるかわかりません。
とりあえず、記事をご紹介します。
Hurricane Season 2018: Experts Warn of Super Storms, Call For New Category 6
insideclimatenews.org 2018/06/02
ハリケーン・シーズン2018 : 専門家たちはスーパーストームを警告し、新たな基準カテゴリー6の新設を呼びかける
2018年の大西洋のハリケーンシーズンが近づく中で、アメリカでは今年も多数のハリケーンの到来の可能性があるが、何人かの科学者たちは、現行のハリケーンのレベルのカテゴリー(最高が「カテゴリー 5」の 5段階)だけでは、すでにハリケーンのもたらす脅威を的確に告知できなくなっていると主張している。
今年 2018年のハリケーンの予測自体は発生数において平均的と推測されており、昨夏(2017年夏)の激しい活動時期よりは落ち着くと見られている。熱帯大西洋の一部の海水温度がより低いためで、これはエルニーニョによるものであることが判明している。そのために、今年のアメリカでは。例外的な強さのスーパーハリケーンが数多く到来するという可能性は少ないと予測されている。
しかし、ハリケーンに関する世界的なデータの新しい見直しでは、世界で、1980年以来、毎時 200キロメートル以上の強風(カテゴリー3に相当)を伴う暴風雨が倍増し、時速 250キロメートル以上(カテゴリー 5に相当)の強風をもたらす暴風雨の数は 3倍となっていることが判明している。
著名な気候科学者たちによって今週発表されたこの分析は、これまで暴風雨で危険にさらされていた地域(アジア、アメリカなど)だけではなく、暴風雨がピークに達し、その危険にさらされる地域がニューイングランドからヨーロッパにまで拡大しているという新しい傾向をも導き出している。
世界で発生する暴風雨は、その激しさを急速に増し続けており、昨年、米国のヒューストンを襲ったハリケーン・ハーベイのような想像を絶する雨量を伴う暴風雨が発生する可能性が増しているのだ。
ドイツのポツダム気候影響研究所(Potsdam Institute)のステファン・ラームストルフ(Stefan Rahmstorf )博士は、「約 30年前に、より強烈でな熱帯低気圧が発生しやすくなるという予測が立てられましたが、今はもはや、この主張を無視する余裕はないのです」と述べる。
そして、ラームストルフ氏の他、マサチューセッツ工科大学のケリー・エマニュエル(Kerry Emanuel)博士、アメリカ海洋大気庁(NOAA)のジム・コッシン(Jim Kossin)博士らは、ハリケーンの強さをあらわす指標である現行で 5段階のシンプソン・スケール(Saffir-Simpson Hurricane Scale)に「カテゴリー 6」を追加して、近年見られる極端に強力なスーパーストームの強さを正確に示すべきことを提唱した。
持続風速が毎時 16キロメートル増加すると、被害の可能性が 20%上昇するというが、現在の強度スケールはこの事実を捉えていないという。
現行のカテゴリー 1から 5の基準に基づけば、最大風速が時速 300キロメートルに近づくような暴風雨があるはずで、それはカテゴリー 6とするべきだと、科学者たちは語る。
2018大西洋の暴風雨の予測
今年の大西洋での暴風雨とハリケーンの発生に関して、アメリカ海洋大気庁は、平均的な数になると予測している。熱帯暴風雨の発生数は 10〜 16、ハリケーンとなる嵐の数は 5から 9の間だとしている。
また、主要なハリケーンの見通しを出している米コロラド州立大学も、暴風の数は 14で、ハリケーンの数は 6前後という予測を出した。そのうち 2つは大きなハリケーンとなる可能性があり、それがアメリカに上陸する可能性は 51%だという。これもまた平均的な数だ。
今年は、ハリケーンが形成される海域の大部分の海面温度が、平均より華氏で 1度低い。そのため、暴風雨は平年程度に収まる見通しだ。
しかし、このハリケーンが発生する海域の長期的な海面温度は、過去 100年間に約 0.5〜 1℃も上昇している。
科学誌ネイチャーに掲載された 2008年の調査によると、1996年から 2005年の間のハリケーン活動の増加のおよそ 40%は、海水温度の上昇によるものだという。
ここまでです。
なお、台風もハリケーンも、その第一の発生条件は「高い海水温度」で、これが高ければ高いほど勢力が大きくなりやすいとはいえます。
今年はどうかといいますと、上の記事にもありましたように、アメリカに関しては、ハリケーン発生海域の海水温度が昨年より低く、ハリケーンの発生は平年並み程度に抑えられるのではないかということになっています。
ただ、世界全体の海水温度を見てみますと、「異様に高い海域」は多々あります。
下は 2018年 6月5日の海水表面温度の「平年との差」です。赤くなればなるほど「平年より高い」ことを示します。赤い丸で囲んだ部分は「特に高い海域」です。
2018年6月5月の世界の海水温度の平年との偏差
拡大しますと、ヨーロッパは 5℃近く高くなっている異常海域があり、日本の太平洋沖も 3℃くらい高いように見えます。
ヨーロッパの海の状態は、気象以前の問題として、「なんだかいろいろと起きそう」な異様な海水温度となっていますが、日本もこの大平洋の高い海水温度の状態はどうなんですかね。
なお、もともとハリケーン的なものとは無縁だったヨーロッパも今は状況が変化してきています。ヨーロッパでの暴風雨の変化については、昨年 10月に英国を襲ったハリケーン「オフィーリア」の異様さについて下の記事で記しています。
史上初めての場所に誕生し、史上初めてのコースを取る記録づくめのハリケーン「オフィーリア」。それは地球の海と大気の大規模な変化の象徴そのものであり、自分が死にゆくことを知らない者の象徴でもあり
また、今回のカテゴリー 6 などの概念を何倍も上回る「超絶スーパー台風」の発生可能性については、3年前の記事となりますが、以下の記事に、マサチューセッツ工科大学の大気科学教授ケリー・エマニュエル氏の意見を載せています。
瞬間最大風速200メートルの台風やハリケーンが現実化する?:モンスター・ストームと、海底火山、小惑星の衝突の関係が MIT の研究により明らかに
このケリー・エマニュエル氏は、今回の本文にも出てきている人物で、カテゴリー 6の提唱者のうちのひとりです。ちなみに、このエマニュエル氏が想定している「発生する可能性のある最大のハリケーン」は、現在のカテゴリー 5の最大風速の「3倍以上」の時速 800キロメートルです。
そういうモンスター級の自然現象が、科学的な検知からの可能性としては「あり得る」のだそう。
確かに、そういうような想像もしなかったような現象が起きていく時代は意外とすぐなのかもしれないとも最近は思います。