ハイヤンから2年…瞬間的に生まれて消えていった史上最大のハリケーン、パトリシア
・ 2015年10月24日のデイリー・ギャラクシーより。
次々と記録を塗り替える暴風雨の勢力
つい2日ほど前、「史上最強級のハリケーン、メキシコ太平洋岸に上陸」というような報道があり、その報道では、当初、
・中心気圧は 879 ヘクトパスカル
・最大風速 90 メートル
などという、もはやとんでもない勢力のハリケーンだと報じられていて、「これはまたしても…」と緊張しましたが、急速に発達したこのハリケーン・パトリシアは、「勢力の衰え」も非常に急速だったことで、大きな被害は免れたようです。
AFPの記事によりますと、
一時は最大風速90メートルまで発達するとみられていたパトリシアだが、米国立ハリケーン・センターによると、北東部のサカテカス州を通過する24日朝までに熱帯暴風雨となり、さらに最大風速は13メートルまで弱まり熱帯低気圧となった。
ということで、まさに、あっという間に史上最強にまで強大化して、あっという間に萎んだという、何だか珍しい台風だったようですが、そもそも、たとえば、今回のハリケーンで言われていた「最大風速 90メートル」とはどの程度のものなのか。
たとえば、日本の過去の最大瞬間風速で最も大きなものはどの程度だったのでしょうか。
いさぼうネットの「最大瞬間風速105メートルの世界」というページに上位 20がまとめらてれいますが、上位 3位は以下の通りです。
1位 沖縄県宮古島 最大瞬間風速 85.3 メートル(1966年09月05日)
2位 高知県室戸岬 最大瞬間風速 84.5 メートル(1961年09月16日)
3位 鹿児島県名瀬 最大瞬間風速 78.9 メートル(1970年08月13日)
ということで、日本の記録では、「最大風速 90メートル以上」というのは、記録としては存在しないということで、台風の多いこの日本で記録がないというのは、やはり、とんでもない風速のようです。
ちなみに、風速と被害の関係は、風速と感覚と被害というページによりますと、そんな 80メートルだの 90メートルなどではなく、
30メートル 屋根が飛ばされることがある。電柱が倒れることがある。
35メートル 自動車や列車の客車が倒れることがある
50メートル たいていの木造家屋が倒れる。樹木は根こそぎになる
と、もうこのあたりで、通常の被害としては「壊滅的」ということになりそうで、90メートルとかはちょっと想像つかないですね。
なお、近年で、この「最大風速 90メートル」の直撃を受けた例が、2013年11月4日にフィリピンに上陸した「台風ハイヤン( Haiyan )」でした。日本名は、平成25年台風第30号です。
この台風の「台風 30号」という名前からおわかりのように、この 2013年という年は、11月に入ってから 30個目の台風が発生していたという、すごい年でした。
このハイヤンは、中心気圧は勢力最大時で 895パストヘクトル、最大瞬間風速は90メートル(気象庁)という、その時点で、「観測史上最強」の台風でした。
その後、アメリカ軍合同台風警報センターは、ハイヤンの上陸時の最大瞬間風速を 105メートルと発表しています。
ハイヤンの通過後の報道より
▲ 2014年11月09日の In Deep 記事「観測史上最強のスーパー台風ハイヤンから1年。「忘れ去られた被災者」は増え続け、地球はさらに厳しい自然の二極化への扉を開ける」より。元記事は英国ミラーです。
上のミラーの記事のタイトルは、「まるで、この世の終わりのようだった」とありますが、風速 90メートルの世界というのは、そういう世界になってしまう状況のようです。
ハイヤンは、結果的に、
・死者 6201人
・行方不明 1785人
という、台風の被害としては最悪級のものとなってしまいました。
それにしても思うのは、「2013年に史上最強の台風が発生して、2015年にも最強のハリケーンが発生している」ということで、つまり、どんどんとスーパー台風やスーパーハリケーンが「発生しやすくなっている」気配を感じます。
風速200メートルという常識的ではない台風やハリケーンが発生する条件とは
そして、ここで冒頭に貼りました「最大風速が 200メートル以上ある」というハリケーンが発生する可能性について、アメリカのマサチューセッツ工科大学( MIT )の教授らのチームが、
「その可能性はある」
としている記事を目にしたのです。
上に書きましたように、風速 90メートルだとか 100メートルとかの直撃は「その場所の文明が崩壊する」レベルだということがよくわかるのですが、その倍となる 200メートルとかになると、ちょっと想像が難しいです。
その記事をご紹介したいと思います。
ちなみに、そのようなモンスター級といえるハリケーン、あるいは台風が発生するには、
・37.8度以上の海水温度が必要
なのだそうで、さすがにそんなに海水温が上がる可能性はないだろうなと思っていましたら、マサチューセッツ工科大学のチームは、「非常事態下」としてのスーパー・ハリケーンを想定していることがわかったのでした。
すなわち、そのような海水温度の状態となるには、
・巨大な小惑星の熱帯の海への衝突
・大規模な海底火山の噴火
のどちらかが必要だと。
とりあえずは、まずはその記事をご紹介します。
"The Patricia Effect" --Is a 500 MPH Hurricane Possible? MIT Expert Says "Yes"
Daily Galaxy 2015.10.24
「パトリシア・エフェクト」- 最大風速500マイル毎時(風速223m)のハリケーンの発生は理論上可能なのか? MIT の専門家は「可能だ」と言う
アメリカ国立ハリケーン・センターは、ハリケーン「パトリシア」が、ハリケーンセンターが管轄する大西洋および北東太平洋地域で記録したハリケーンとしては過去最強であることを報じた。
航空機のデータから推定される中心気圧は、実に 880ヘクトパスカルとなり、これは、ハリケーンセンターで記録された中の最低気圧となる。
ハリケーンセンターは、「信じられないことだが、本日(10月23日)のメキシコ上陸前に、この中心気圧はさらに下がる可能性がある」と述べた。
しかし、パトリシアは、10月24日に上陸後、急速に勢力を弱め、メキシコ中央部上空で熱帯低気圧となった。
マサチューセッツ工科大学( MIT )大気科学専攻のケリー・エマニュエル( Kerry Emanuel )教授は、起こり得る可能性のある、過去最悪を超える勢力のモンスターハリケーンについて説明する。
それは、風速 500マイル毎時(風速 223メートル)に達する、ハリケーンならぬ「ハイパーケーン( hypercane )」とでも呼べるようなものなのだ。
このようなハリケーンの発生は起こり得るのだろうか?
それはおそらくあり得ると教授は言う。
このハイパーケーンは、MIT の海洋と気候プログラムを教えるエマニュエル教授によるコンピュータモデルのひとつだ。
教授は、ハリケーン物理学を研究している。ハリケーンの行動を詳細に調べ、地質学的な過去を探ることによって、これらのモンスター・ハリケーンがどのように動いているかを理解しようとしている。
実際のところ、ハリケーンが発生するメカニズムを正確に知っている者はいない。その大部分は謎のままなのだ。
ハリケーンの発生に必要な基本的な条件は、26.7℃以上の海水面温度、非常に湿った空気、そして、積乱雲を伴う嵐だ。
しかし、ハリケーンに成長するには、それだけでは足りない。他の要素が必要なのだ。
エマニュエル教授は以下のように述べる。
「ハリケーンは自然の出来事です。そして、ハリケーンは、自分自身で発生するわけではないのです」
「発生させるトリガーが必要なのです」
そのようなモンスター・ストームを作り出すには、海水温度が、少なくとも 37.8℃にまで上昇する必要があるが、このような条件を作り出すには、巨大な小惑星が熱帯の海に衝突するか、あるいは、巨大な海底火山が噴火する他はない。
このようなことは、海に強烈な加熱を生成する。
エマニュエル教授と同僚たちは、小惑星の海への衝突が引き金となって発生したハイパー・ハリケーンが数百万年前の地球規模での大量絶滅を引き起こした可能性について理論化している。
ここまでです。
小惑星はともかく、海底火山の噴火は・・・まあ、海底で起きていることの多くはまったく把握されていないとはいえ、海面上に見えるものだけでも、巨大な海底火山の噴火のことを近年は見聞きします。
それにしても、海底火山の噴火が、モンスター・ハリケーンの発生と関与する可能性があるというのは、初めて知った概念です。要するに、海底火山の噴火が海水温度を上げる、という理由だと思うのですが、確かに台風もハリケーンも、海水温度が高いという条件のもとで発生するものですので、理屈としてはわかります。
ちなみに、今年 2015年は、元旦の記事からして海底火山の噴火の記事でした。
・全宇宙を崩壊させたテュポンの封印が解かれる日:トンガの海底火山フンガ・ハーパイと、イタリアのエトナ島の大噴火で終えた2014年
2015/01/01
という記事です。
下の写真は、そのトンガの海底火山の 2009年の噴火の様子です。
海底火山フンガ・トンガ=フンガ・ハーパイの2009年の噴火
・Tonga NEMO
確かに、こんな噴火が起きている場所の海水温度は高くなるでしょうしね。
こういう海底火山の活動が、太平洋の海底でどんどんと広がっていくと、結果として、ただでさえ高い海水温度が「さらに高くなり」という状態となっていき、ハイヤンやパトリシアのような「異常な台風やハリケーン」、あるいは、もっとすごい勢力のものの発生につながっていく可能性もあるのかもしれません。
そしてですね、これもやはり過去記事でご紹介したことがあるのですが、
「地球の海底には1万以上の火山が存在している」
ことがわかってきているのです。
これは、
・カルデラ破局噴火の報道で「地球には同じ系統の文明を継続させないメカニズムがある」ことに気づき、同じ日に「新たに数千以上の海底火山の存在が確認された」ことも知り
2014/10/25
という記事で、そのことを紹介していたロサンゼルス・タイムスの記事をご紹介したものです。
・LA Times
カリフォルニア大学サンディエゴ校の教授が、欧州宇宙機関( ESA )の地球観測衛星 CryoSat-2 と、 NASA などが運営する海洋観測ミッションでの宇宙艇「ジェイソン-1 ( Jason-1 )」などを使用することによって、地球の海底には1万以上の海底火山があることがわかったというものでした。
何というか、こう・・・そんなに海底火山があるのなら、地殻変動なり何なりで、連鎖的に噴火が広がっていった場合は、確かに厄介は厄介です。
海水面温度が不規則に上がると(今でもすでに異常に高いのに)、おそらく、気候も今までないような異常なパターンを作り出す可能性がありますし、そもそも、水温が 30℃台後半なんてことになると、「海の生き物たち」があまり生き残ることができない気がします。
小惑星のほうは、予測できるものではないですが、これまで、「巨大な小惑星が海に衝突した場合には、想像できないほどの津波が発生する」というのは仕方ないとは思っていましたが、まさか、小惑星の衝突がモンスター・ハリケーンの発生原因となり得る可能性があるとは・・・。
何でもそうですが、「複合」でやってくるものなのかもしれないですね。
小惑星といえば、2015 TB145 という直径 500メートル前後あると考えられている小惑星が 11月1日に地球に最接近することが報じられていました。
・CNN
このサイズの小惑星が、地球に比較的近いところを通るのは珍しく、同じようなサイズの小惑星がこのような位置を通過していくのは 2027年までないそうですが、近いとはいっても、地球から 50万キロメートルと、月(地球から約 38万キロ)よりも遠いところを通過していく予定ですので、何か計算に問題がない限り、地球に近づく可能性はぼないはずです。
それにしても、いろいろな説が出るたびに、地球の自然現象の連携というのは、つくづく精密だなあと感心いたします。