「人間の脳に比べれば、銀河系など単なる不活性な塊に過ぎません」 — 物理学者ロジャー・ペンローズ
▲ 2015年12月21日の Daily Galaxy より。
今回はデイリーギャラクシーで目に留まった冒頭の記事をご紹介しようと思います。
最初は、この「タイトル」に興味を持ったのです。それで、少し訳していましたら、その記事の最初のほうは、
大脳の新皮質における組織のそれぞれの1立方ミリメートルの中にあるシナプスの数は、8億6000万から 13億あると報告している。
そして、大脳の新皮質におけるシナプスの総数の推定値は、1,640,000,000,000 ( 1兆6400億)個から 2,000,000,000,000 ( 2兆)個に及ぶ。
新皮質は、銀河ひとつと同等ほどの神経細胞を持っている。その数は、1,000億だ。
というもので、タイトル通りの感じで始まるのですが、記事は、「唐突に少し違う方向」に進んでいきます。
実は、この記事のメインテーマは、ネイチャーの下の論文を紹介したものなのでした。
これはイギリスの名門大学インペリアル・カレッジ・ロンドンの科学者たちが、その複雑な人間の脳の中に
「認知機能を支配する遺伝子ネットワークを見つけた」
というものです。
そして、その遺伝子を操作できるかどうかという研究のようで、認知に関しての多くの疾病や障がいの改善のための研究ということになっています。
初めて知ったような気がしますが、「人間の認知」というのは、脳の遺伝子が関与しているものだったのですね。
かなり長い翻訳ですので、とりあえず、その記事を先にご紹介しておきます。この研究者たちの考えている「遺伝子の操作」という試みが正しいかどうかはともかく、認知に関する多くの問題が、遺伝子に関係しているのだとすると、たとえば、最近、ADHD が増えていることを記事にしましたが、そういう関連の、子どもたちのさまざまな問題や認知に関わる障がいや、それこそ「認知症」などの問題もそこにあるということなのかもれません。
記事に出てくる単語のうちでいくつかの説明を Wikipedia から抜粋しておきます。
大脳新皮質
大脳新皮質とは、大脳の部位のうち、表面を占める皮質構造のうち進化的に新しい部分である。
合理的で分析的な思考や、言語機能をつかさどる。いわゆる下等生物では小さく、高等生物は大きい傾向がある。人類では、中脳、間脳などを覆うほどの大きさを占めている。
神経細胞(ニューロン)
神経細胞(ニューロン)は、神経系を構成する細胞で、その機能は情報処理と情報伝達に特化しており、動物に特有である。
シナプス
シナプスは、神経細胞間あるいは筋線維、神経細胞と他種細胞間に形成される、シグナル伝達などの神経活動に関わる接合部位とその構造である。
"More Complex Than a Galaxy?" --Human-Brain Intelligence Networks Identified for First Time
Daily Galaxy 2015/12/21
「銀河よりも複雑?」 - 人の脳の情報ネットワークが初めて同定される
物理学者のロジャー・ペンローズ( Roger Penrose )氏によれば、私たちの頭の中は、宇宙に見出されるどんなものよりも、さらに段違いの複雑な秩序と状態を持っている。
ペンローズ氏は、以下のように言う。
「もし、あなたがたが宇宙の物理的な全体像を見た場合、私たちひとりひとりの脳は物理的にはとても小さなものだと思えるかもしれません。しかし、この私たちの脳は、すべての宇宙の中で最も完ぺきな組織体なのです。私たちの脳に比べれば、銀河系などは単なる不活性な塊に過ぎません」
作家のマイケル・チョーロースト( Michael Chorost )氏は、著作『ワールドワイド・マインド』の中で、大脳の新皮質における組織のそれぞれの1立方ミリメートルの中にあるシナプス(脳のシグナル伝達などの神経活動に関わる接合部位とその構造)の数は、8億6000万から 13億あると報告している。
そして、大脳の新皮質におけるシナプスの総数の推定値は、1,640,000,000,000 ( 1兆6400億)個から 2,000,000,000,000 ( 2兆)個に及ぶ。
さらに脳全体のシナプスの数は、それよりもはるかに多い。
新皮質は、銀河ひとつと同等ほどの神経細胞(ニューロン)を持っており、その数は 1,000億だ。
ある科学者は、人間の脳内のすべての神経細胞間のコネクションをマッピングする(データとして描き出す)ためには、「 10,000台の自動顕微鏡を使って、30年間かかり、データの収容には、1億テラバイトのディスクが必要となるだろう」と見積もった。
宇宙の銀河の数々は古代から存在するが、自己認識し言語を用い道具を使う能力を持つ人間の脳は、この宇宙の進化の歴史の中で非常に新しい存在であり、誕生からの歴史は 20万年程度だ。
その大脳の新皮質の神経細胞の大部分は、他の神経細胞と 1,000から 10,000のシナプス結合を持っている。
脳の他の場所、たとえば、小脳の神経細胞の一つのタイプは、他のニューロンとの 150,000 から 200,000 に上るシナプス結合を持っている。
ひとつの小さな神経細胞が、20万もの他の神経細胞とつながっているというのは、信じるのが難しいような事実だ。
さて、そして今、インペリアル・カレッジ・ロンドンの科学者たちは、初めて人間の知能に関連する遺伝子の2つのクラスタを同定した。
M1 と M3 と呼ばれる、これらのいわゆる遺伝子ネットワークは、記憶や注意、処理速度や推論を含む認知機能に影響するように見える。
科学者が発見したこれら2つのネットワークは、各遺伝子にそれぞれ数百含まれており、また、これはマスターレギュレーター(主要制御因子)のスイッチの制御下にある可能性が高い。
研究者たちは今、これらのスイッチを識別し、それらを操作することが可能であるかどうかを探ることに熱心になっている。
この研究は、まだ非常に初期の段階だが、最終的には、その調査をなしとげたいと科学者たちは考えている。そして、認知機能を高めるために遺伝子ネットワークのこの知識を使用できるかどうかの可能性を探っている。
インペリアル・カレッジ・ロンドン医学部のマイケル・ジョンソン博士( Dr Michael Johnson )は、以下のように述べる。
「私たちは、遺伝子の働きが知性に大きな役割を果たしているということは知っていたのですが、どの遺伝子がそれと関連するのかが今まで知られていませんでした」
「この研究では、人間の知性に関与する遺伝子の一部をハイライトし、どのようにそれらが相互に作用しているかを調べるのです」
「この研究の刺激的な部分は、私たちが発見した遺伝子が共通の規則を共有する可能性があるということです。これは、人間の知性と関連する遺伝子全体の活動を操作できるということを意味します」
「私たちの研究は、知性を修正するために、これらの遺伝子と連携することが可能であるかもしれないことを示唆しているのです」
「このことに関しては、現時点では、理論的な部分においては可能性があります。そして、私たちはその道に沿った最初の一歩を踏み出したのです」
研究者たちの国際チームは、てんかんのための脳神経外科を受けた患者の脳のサンプルを調べ、また、ヒトの脳で発現する数千の遺伝子を分析し、IQテストを受けた健康な人の遺伝子情報を持つ人たちの結果と、自閉症スペクトラム障害や知的障害などの神経疾患を持つ人々からの結果を組み合わせた。
彼らは、健康な人の認知能力に影響を与える遺伝子ネットワークを同定するために、様々なコンピュータ分析や比較を行った。
そして驚くべきことに、健康な人の人間の知能に影響する遺伝子のいくつかは、変異した際にてんかんとなったり認知能力に障害がおきる遺伝子と同じものであることを見出したのだ。
「知能のようなものの特性は、それと共に働く遺伝子の大規模なグループによって支配されています。これは、サッカーチームが、それぞれの別のポジションで構成されているようなものです」と、ジョンソン博士は言う。
「人間の脳の遺伝子は、たくさんの複雑な情報に直面した際に、新しい記憶を持ったり意思決定を行うために私たちの認知能力に影響を与えているということについて、私たちは、その遺伝子を同定するためにコンピュータ解析を使用しました」
ジョンソン博士は続ける。
「そして、私たちは、これらの遺伝子のいくつかが、重度の小児てんかんや知的障害の原因となっているかもしれないという可能性を見出したのです」
「この研究は、健康な場合と病気の場合の両方においての人の脳機能においての大規模なゲノムデータの働きを示しました。そして、私たちは、この種の解析が、てんかんなどの神経発達疾患のためのより良い治療法に対して新たな洞察を提供すること、そして、これらを含めた認知機能障害に改善をもたらす手がかりとなることを願っています」
ここまでです。
この科学者たちのおこなおうとしていること(認知に関係する遺伝子ネットワークを操作すること)自体の方向の是非はわからないですが、
> 知能の特性は、遺伝子のグループによって支配されている
というのであるなら、認知に関しての多くの部分が、遺伝子の働きを「何らかの方法で変更する」ということで、何か良いほうにも変えられるものなのかもしれません。
しかし、それは、遺伝子操作や外部的な行いの中に見出されるという気はあまりしません。
あくまで私個人の考えでは、今回の研究のような「遺伝子の同定と操作」という方法から、人間の膨大な脳のネットワークの中の何かを突き止めることは不可能なのではないかという気もするのです。
そして、その方法(認知に関係する遺伝子ネットワークを変化・修正させる方法)は、おそらくもっと根本的で人間的で精神的な「何か」・・・それは、見当違いに思えるかもしれなくても、たとえばですが、過去記事の、
・世界を変えるかもしれない「瞑想という革命的存在」 : 英国の大学が「たった7分間の慈悲の瞑想が人種的偏見を人々から著しく減少させる」ことを発見
2015/11/20
に記しました瞑想「のようなもの」にあるのかもしれないですし。
そもそも「認知」というのは、大脳の、新皮質ではない古いほうの「大脳辺縁系」というところと関係しているものでもあります。
大脳辺縁系 - Wikipedia
大脳辺縁系は人間の脳で情動の表出、意欲、そして記憶や自律神経活動に関与している複数の構造物の総称である。
進化論的には、大脳辺縁系は脳の最も古い部位の一つであり、嗅葉と関連している。
大脳辺縁系機能が刺激されている人は、記憶の保持と想起が助けられる。例えば、辺縁系は嗅覚機能と強い関係があるので、記憶の形成される際にコーヒーやピーナッツバターなどの容易に認識されるような芳香が存在すると、そうした記憶と芳香は結合される。そのため、同じ匂いは記憶の蘇りを促進することになる。
このように「匂いと認知」は非常に明らかな関係がありまして、認知は古い大脳である辺縁系が支配している。
ちなみに、エッセンシャルオイルでの認知機能改善に関しては、
・人体を神と同等と見る西洋医学の理想的な未来。そして、抗コリン剤の氾濫でおそらく認知症が増え続ける今後のための「認知症と物忘れの治し方」
という記事の後半に書いたことがあります。私の家では、もう1年か2年以上続けていると思いますが、効果の大小はともかく、数ヶ月以上続ければ、少なくとも「効果はある」ことは断言できます。
そして、今回わかったように、大脳の新皮質の方では、遺伝子が認知をコントロールしている・・・。
これらを組み合わせて考えると、多くの認知の障がいに対しての何らかの知恵が生まれても不思議ではないような気がするのですが。
それは、記事のジョンソン博士の言葉、
> 私たちが発見した遺伝子が共通の規則を共有する可能性
からも感じます。
おそらく、人間の生体も認知も、それらをコントロールしているのは何もかも「共通」の何かで、それは絶対に「自然と関係あるもの」であるはずです。
このあたりから「現代の賢人たち」がきっと何かを考え出せれば・・・。
そして、昨日の記事に書きましたように、相変わらず時間の経過がままならなく、ここまでで時間となってしまいました。
今回の問題は、現在の社会において、とても重要な意味のあることにも思えまして、また考えてみたいと思っています。
>> In Deep メルマガのご案内
In Deepではメルマガも発行しています。ブログではあまりふれにくいことなどを含めて、毎週金曜日に配信させていたただいています。お試し月は無料で、その期間中におやめになることもできますので、お試し下されば幸いです。こちらをクリックされるか以下からご登録できます。
▶ 登録へ進む