・2020年1月20日頃、中国で患者にHIV薬を投与する試験を行う医師たち medicalxpress.com
HIV薬+抗ウイルス薬の混合投与は救世主となり得るか
新型コロナウイルスの患者数は、中国国内でも中国以外でも増加を続けていますが、この加速度的な感染者数の増加の原因のひとつに、以下の記事で取りあげましたように、
「このウイルスの感染経路は飛沫や直接接触だけではない可能性が極めて高い」
というところにありそうです。
「どこからでも感染する」:中国の科学者が新型コロナウイルスを「ドアノブ」から検出し、スマートフォンを含むあらゆる日常品が感染経路となる可能性を警告。また、エアロゾル化した糞便による大気感染も懸念される
地球の記録 2020/02/04
これは中国の科学者たちが、新型コロナウイルスが、日常品からの感染の可能性や、あるいは飛沫や糞便等がエアロゾル化して大気中に循環する、いわば事実上の「空気感染化」の可能性を警告したことを取り上げたものです。そのような可能性があるのだとしたなら、今後も感染は患者数の増加と共に(生活環境の中のウイルスの絶対量が増加していくために)指数関数的に感染者は増えていくと思われます。
このような感染経路を持つウイルスに対しての効果的な予防は難しいものかもしれません。
そして、世界中に感染が拡大していく中で、非常に早い速度で「治療方法と治療薬剤」に関しての医学的報道も出てきていまして、その中で現実として、限定的である可能性があるとはいえ、実際に効果が出たものに、以下の日本経済新聞の報道にある治療薬があります。
タイ政府「新型肺炎、エイズ・インフル薬で症状改善」
日本経済新聞 2020/02/02
タイ保健省は、新型コロナウイルスによる肺炎の治療で、症状が劇的に改善した事例を見つけたと発表した。バンコクにある国立病院の医師が、中国人旅行客の重症患者に、抗エイズウイルス(HIV)薬とインフルエンザ薬を併用して投与したところ、病状が回復しウイルス検査で陰性になったのを確認した。
使ったのは抗HIV薬の「ロピナビル」と「リトナビル」、インフル薬の「オセルタミビル」(商品名タミフル)。中国湖北省武漢市から訪れた70代の中国人女性に投薬した。女性はウイルス検査で10日間にわたって陽性反応を示していたが、投与後48時間以内に陰性になったという。
抗HIV薬は新型肺炎への有効性が指摘されており、中国当局も採用を検討している。
この部分だけを読むと、「その治療法の根拠がわからない」と思われるかもしれないですが、実は、抗 HIV 薬(抗レトロウイルス薬)は、SARS に関する 2004年の研究で「実質的な臨床的利益を示した」と中国の専門家が述べていまして、おそらく今後、中国でも臨床で試されていくと思われます。
今年 1月24日に、医学誌ランセットにも、コロナウイルス患者 41人を対象とした抗 HIV 薬のランダム試験の結果が掲載されていました。ただ、その発表では「効果は限定的」だとされています。
いろいろな面で、これが絶対的な治療薬とはなるというわけではないかもしれないですが、タイの女性患者のように、場合によっては効果が出る可能性があります。今後の中国やタイなどでの臨床で効果的だった場合、そして他の手段が見つからない場合、他の国でも試されるかもしれません。
ただし、抗 HIV 薬は副作用も強い場合があり、際どい選択となる可能性もあります。
この治療法についての医学記事をご紹介します。
HIV drugs touted as weapon in war on coronavirus
medicalxpress.com 2020/02/04
新型コロナウイルスとの戦争の武器としての抗HIV薬
世界中の医師たちが、急速に拡大を続ける新型コロナウイルスを封じ込めようとしている中、抗レトロウイルス薬とインフルエンザ薬の組み合わせが、これまで数百人の命を奪っているこの感染症に対する可能な防御として浮上している。
しかし現段階では、医学的に、それらが実際に効果的であるのかどうかに関して決定的ではなく、専門家たちは実際的な特定の治療法が開発されるまでには、まだ何年もかかるかもしれないと述べている。
新型コロナウイルスに対してのこれらの薬の組合せについて、これまでにわかっていることを記す。
なぜ抗レトロウイルス薬なのか?
一般的な季節性インフルエンザと診断された患者たちには、タミフルとして広く知られている抗ウイルス薬が処方されることがある。
これまでのところ、新型コロナウイルスは世界中で数万人に感染し、主に中国本土で 400人以上を死に至らしめている。
その中で、2週間前、中国の医師たちは、北京で新型コロナウイルス患者に抗 HIV 薬を投与していることが確認された。(※冒頭の写真)
抗レトロウイルス薬である「ロピナビル」と「リトナビル」を併用すると、患者の血液中の HIV 細胞の量が減少し、免疫系を複製して攻撃するウイルスの能力が低下することがわかっている。
医師たちはまた、一般的にタミフルと呼ばれている抗インフルエンザ薬「オセルタミビル」を、それらの抗レトロウイルス薬と組み合わせて治療することで、新型コロナウイルスへの強力な武器となることの希望を持っている。
しかし、パリに拠点を置くパスツール研究所のシルビー・ファン・デル・ワーフ氏は、「季節性インフルエンザは、中国のコロナウイルスとは非常に異なる」と述べてもいる。
現在 25人の確定症例があるタイでは、71歳の中国人女性患者が この 3種類の薬を投与されてから 48時間以内にウイルスに対して陰性を示した。
しかし、タイの医師たちは、この 3種類の薬の投与には副作用が出る可能性があるため、薬は厳重な監督下で投与する必要があると警告している。
この組合せは実際に機能するのか
それについては、簡単にいえば、今のところ誰にも確かなことは言えない。
2004年の研究では、SARS 患者に抗レトロウイルス薬を投与した場合に「実質的な臨床的利益」を示したと中国の専門家は述べた。
しかし、今年 1月24日にランセットで発表された研究によると、コロナウイルス患者 41人を対象としたランダム試験では「限界」があったことが示された。
24件の新型ウイルスの症例が確認されているシンガポールの医療専門家のタン・チョル・チュアン氏は、抗レトロウイルス治療で対応しているが、その結果については詳しく説明していない。
他のいくつかの研究は、この治療法は「有望」に見え、中国武漢で臨床試験が開始されている。
チュアン氏は、「これらの薬剤を使った方法は、効果があるようには感じるが、現時点では確実ではありません」と 2月4日に語っている。
製薬企業の動向
複数のバイオテクノロジー企業が新型コロナウイルスに対しての治療法開発に取り組んでいる。
カリフォルニアに本拠を置くギリアド・サイエンシズ社は、SARS の治療に使用される薬物である抗ウイルス薬「レムデシビル」が有効かどうかを判断するために、中国当局と臨床試験に取り組んでいると述べた。
まったく新しい治療法の開発も進行中だ。アメリカ保健福祉部は、製薬企業リジェネロン社と提携し、エボラ患者の生存率を高めるために同社が成功裏に使用した感染症と戦うモノクローナル抗体(単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体)を開発している。
一方、世界の 3つのチーム(中国、オーストラリア、フランスのパスツール研究所)は、実験室でコロナウイルスを培養することに成功した。これは、新型コロナウイルスが、ヒトの細胞内でどのように複製されるかを理解する研究のために重要だ。
市販薬や民間療法に効果はあるか
新型コロナウイルスの感染拡大が伝えられて以来、民間療法や伝統的な治療法についての誤った情報がオンラインで広まっている。
中国では、スイカズラなどの植物が成分の、中医学の伝統薬「双黄連」が新型ウイルスに効果があるという話が広まり、全土で人々が双黄連を購入しに薬局に並んだ。
しかし、研究者たちは「双黄連」の潜在的な副作用について警告しており、中国の国営メディアも注意を呼びかけた。
インドでは、中央政府の厚生省管轄下にあるアヤシュ(AYUSH)省が、新型コロナウイルスに対して、古代ホメオパシーとアーユルヴェーダ療法を推奨した。
しかし、これに対し、インドの医師会を初めとする医師や科学者たちは、有効性に疑問を示しており、感染者は速やかに病院で治療を行うべきだと反論している。
オーストラリアでは、インターネット上で、生理食塩水がコロナウイルスを死滅させるという誤った情報が広まり、タイのソーシャルメディアには消毒剤(ベタジン)を口にスプレーするという方法が示されているが、消毒剤ベタジンを製造する企業は、それに効果はないと反論している。
ここまでです。
この記事にあります、現在試されている方法は、
・抗 HIV 薬であるロピナビル
・抗 HIV 薬であるリトナビル
・抗ウイルス薬であるタミフル
を3種合わせて投与するという方法で、場合によっては効果があるようですが、シンガポールの医師の言うように、不安定な効果でもあるようです。
特に、抗 HIV 薬は副作用も強いようで、また、抗 HIV 薬「リトナビル」の説明書の「次の薬剤を服用中の患者には禁忌」という項目の薬の種類の量に驚きます。
・リトナビル説明書 より。 pins.japic.or.jp
他にも、Wikipedia には「ジアゼパムとの併用も禁忌」とあるのが注目されるところです。
ジアゼパムというのは、代表的なベンゾジアゼピン系の薬剤で、パニック障害や不安障害の人たちに抗不安薬として処方されたり睡眠薬として処方されたりしますので、服用している方は多い思います。
ジアゼパムの商品名はむちゃくちゃ多いですが、有名なところでは、ソラナックスとかワイパックスとかメイラックスとかリーゼとかグランダキシンとか、いろいろとあります。
私が 20代からずっと服用していたのもレキソタンというジアゼパムでした。
いずれにしても、抗 HIV 薬は、副作用が強い上に、先ほどのように、併用できない薬がものすごく多いですので、基礎疾患のある人には、難しい部分があるのかもしれません。
なお、この抗 HIV 薬は、「抗レトロウイルス薬」とも呼ばれますが、「レトロウイルス」とは、先日のこちらの記事「周博士の異常な愛情…」で書きました RNA ウイルスのことです。
その RNA ウイルスの中で「逆転写酵素」と呼ばれる酵素により「 RNA から DNA の複製を作る」ウイルスがレトロウイルスと呼ばれます。
HIV が感染した細胞では、細胞分裂が起きるたびに、細胞自身の DNA に加えて、組み込まれた HIV の DNA も新たに複製されると説明されています。
抗 HIV 薬というのは、つまり、このような働きを阻害するものです。
こちらの医学マニュアルでは、以下のように説明されます。
HIVが人の細胞に侵入するのを阻止する働きや、HIVが人間の細胞内で増殖したり自身の遺伝物質を人間のDNAに組み込んだりするために必要な酵素を阻害する働きがあります。
これだけの激しい働きが細胞内でおこなわれるために副作用も強くなる傾向があるということなのかもしれません。
ですので、先ほどの抗 HIV 薬と抗ウイルス薬を混合して投与する方法は、それなりのリスクを伴う可能性がある治療法ではありそうですが、効果のほうがリスクを上回ると確認されれば、臨床で使用される例も増えるかもしれません。
なお、新型コロナウイルスの感染状況に関してのリアルタイムの表示を見ますと、死者も増加していますが、「完治して退院した人たち」の数も加速度的に増えてはいるのです。
2020年2月5日午後3時の時点で、
・死亡者 492人
に対して、
・退院した人の数 911人
となっていまして、数日前までは、死亡者の増加率のほうが高かったのですが、ここに来て、回復者の増加率のほうが大きくなっていますので、中国で何か治療法に進展があるのかもしれません。まあ、単に、それなりの日数が経過したからというだけの理由かもしれないですが。
民間療法
先ほどの記事に出てきました中で、中医学伝統薬である「双黄連」についての話がネットで出回った後は、中国の多くの薬局で売り切れが続出したそうですが、これは日本では、ほぼ購入するのが難しいものです。ただ、その原料に含まれるスイカズラという植物は、「忍冬」とか「金銀花」と言う名の生薬してして知られていて、お茶などになっています。
双黄連の原料のひとつスイカズラの花
・kotobank.jp
なお、2003年の SARS の流行の時には、中国では「板藍根」という漢方やお茶が効くという話が民間で広がり、爆発的に売れたようです。
これは、中国では風邪の予防などにかなり広く使われているもので、こちらなどに効用などがありますが、新ウイルスとは関係ない話としてですが、実は私自身はこの板藍根を、ずいぶん以前から常備していて、たまに飲みます。
板藍根のクチコミや評判も悪いものではなく、アマゾンのレビューなどでご覧いただければおわかりになるかとも思います、お茶はこちらで、顆粒はこちらです。
それと、先ほどの記事に、インド中央政府厚生省の AYUSH 省という当局の推奨について書かれていた部分があります。
これは日本語でも報じられていました。以下は AFP の報道から抜粋します。
インド政府、アーユルベーダなど古来の治療法を推奨
AFP 2020/02/01
科学者たちが新型コロナウイルスのワクチン開発を急ぐ中、インド当局は先月29日、ホメオパシー(同種療法)や「アーユルベーダ」による古来の治療法が解決策となり得るとの見解を示した。
同国で人気が高まっているヨガや自然療法、ホメオパシーを推進する伝統医学省は、頭皮にすり込むことで症状を緩和するとしたハーブオイルのリストを公表。またホメオパシーの治療薬である「アーセニカム・アルバム30(Arsenicum album-30)」の服用も推奨した。
伝統医学省は、「新型コロナウイルスの感染がまん延した場合に備え、服用の1か月後には同じスケジュールで服用を繰り返す必要がある」と説明。またウイルスの拡散を防ぐため、個々人で清潔さを保つようアドバイスした。
このインド政府の「 AYUSH 省」という名称は、アーユルヴェーダ(頭文字 A)、ヨーガ(Y)、ユナニ医学(古代ギリシャの医学を起源とする伝統医学。頭文字 U)、シッダ(南インドの伝統医学、頭文字 S)、ホメオパシー(H)のそれぞれの頭文字で、まあ、そういう省庁です。
インドでは、近年これらの伝統医学の復興が著しいようで、国を挙げて伝統医学の再興に取り組んでいるようです。もっとも、アーユルベーダの療法が新型ウイルスに効果があるのかどうかは何ともいえず、このインド当局の発表には世界中の医学者から批判が上がっているようです。
ちなみに、 AYUSH 省の以下のウェブサイトにはその詳細が書かれていますが、特別奇妙なことが書かれているわけでけはありません。
・Advisory for Corona virus / Homoeopathy for Prevention of Corona virus Infections
(コロナウイルス感染症予防のためのホメオパシーに関する勧告)
そこに書かれているのは、
・石鹸と水で20秒以上頻繁に手を洗ってください。
・洗っていない手で目、鼻、口に触れないでください。
・病気の人との密接な接触を避けてください。
・咳やくしゃみの際に顔を覆い、咳やくしゃみの後に手を洗ってください。
・頻繁に触れる物や表面をきれいにして消毒して下さい。
・健康的な食事とライフスタイルを実践して下さい。
などのような、こちらでもよく言われるようなことに加えて、アーユルベーダの慣行とホメオパシーを推奨している内容です。
私は、ホメオパシーのことはまったくわからないですが、アーユルベーダについては、トリファラというものと、アシュワガンダというものを飲んでいますけれど、これらは、基本的に国内で販売されていないものですので、個人輸入ということになってしまい、それについて書くことはできません。
そんなわけで、今回は、医学界で進められている抗 HIV 薬などを使った治療方法の現状と、中国やインドなどでの伝統療法などについて記しました。
現段階では、西洋医学、伝統医学共に、新型コロナウイルスに対しての確実な治療法は存在しませんが、現時点で世界中の非常に多くの研究者たちが治療法の開発に取り組んでいますので、何らかの突破口が見出される可能性はあると思います。
それに期待したいところです。
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