自然のサイクルの合理性を間近に
ベランダなどでそこそこの量の花や植物を育てて十数年になります。
まあ、食糧危機だなんだと普段書かせていただくわりには、食べられる植物は一切ないんですけれど、それはともかく、今年はいつもと違うのは、「アブラムシが多い」ということでした。
アブラムシについては、10年くらい前に「その最大の防御法」を知って以来、あまり出なくなっていたんですよ。その防御法は、自分のブログ記事を書いている時に知ったのですが、以下の 2012年の記事のタイトルにありますように、「毎日さわる」というだけなのです。
[記事] 驚異の植物の防衛力アップ法が米国の生物学者の研究により判明:その方法は「さわること」
In Deep 2012年04月23日
アメリカのライス大学の研究者たちの論文を紹介していた記事を取りあげたものでした。
これは、
「植物の成長が、ジャスモン酸エステルと呼ばれる植物ホルモンにコントロールされている」
ということを突きとめた研究で、ジャスモン酸エステルの分泌レベルが上がると、
> 植物は草を食べる動物の胃のむかつきを与える代謝物質の生産を増加させる。
と同時に、「強くなる」のです。
真菌などの感染症からも保護されやすくなります。
そして、このライス大学の研究者たちの偉大なところは、ジャスモン酸エステルという植物ホルモンの分泌を上げる「方法」が、
「人間がさわること」
だと突きとめたことでした。
研究の方法は簡単で、シロイヌナズナという……まあいわゆるペンペン草系の植物をふたつのグループにわけて、
・ひとつの群の植物には、ライス大学の学生たちに毎日さわってもらう
・もうひとつの群は「さわらない」
という研究なのですが、毎日さわったほうは、ジャスモン酸エステルのレベルが高くなり、病気にも病害虫にも強くなったのです。
見た目だけで違いますからね。
毎日さわったシロイヌナズナ(右)と、さわらなかったシロイヌナズナ
ineffableisland.com
さわっていないほうが身長は高くなっていますが、姿形が明らかに悪いです。
さわったほうは、太くまっすぐに上に伸びています。
どちらが健康的かは見た目からも明らかですが、さわったほうは、見た目だけではなく、植物そのものが病気や病害虫に対して強くなっている。
まあ関係ない話ですが、これを見た時、
「人間もそうなんだろうな」
と思いました。
人間という全体的な括りではなく、「赤ちゃん」は明らかにそうで、「親などからの接触が多いほど、赤ちゃんの DNA が良い方向に変化していく」ことが研究で示されたことを以下の記事でご紹介しています。 DNA とありますように、一生続く健康状態との関係についてです。
[記事] 赤ちゃんは「抱っこ」など肉体的接触を数多くされるほど「DNAが良い方向に変貌する」ことをカナダの研究者たちが突き止める。その影響は「その人の健康を一生左右する」可能性も
In Deep 2017年12月3日
これは、論文自体は、 DNA メチル化というものを調査した難しいものですが、
「赤ちゃんの一生の健康は、人生の最初の頃の親との肉体的接触で決まる」
と言える研究であり、重要なものです。
研究は難しくとも、実行は別に難しいことではなく、とにかくたくさん抱っこをして、たくさん話しかけてあげる、という普通のことをすればいいだけなんですが、何だかこの2年はそれも阻害されてしまいました。
えーと……何の話でここまで来たんでしたっけ……。
ああ、アブラムシが多い話からここまで逸脱してしまったのでした。
ともかく、その 10年前のブログ記事を書いて以来、「全部の植物を毎日さわる」という習慣を欠かさないようにしたのです。
そうしましたら、環境にもよるでしょうけれど、私の場合は劇的にアブラムシが減少いたしまして、春先でもほとんど見ないことが多かったです。
ぽつぽつと単身で植物に挑むアブラムシはいるのですが、なかなか増えられないようなのですね。植物のジャスモン酸エステル攻撃の前になす術がないと。
そういう数年だったのですが、今年は春の早い段階から、アブラムシが結構出てきてですね。
私は殺虫剤とかは使わないですので、そのたびに手作業で「エイッ」とアブラムシの虐殺を繰り返していたのですが、ある時、ふと、
「変な虫が、複数いる」
ことに気づきました。
1センチくらいの長さで、黒くて背中にオレンジの模様がありまして、どちらかというとかわいい虫ではないのですね。
「お前はなんだ?」
と問いかけても返事もありません。
ふと気づくと、その虫が結構いろいろなところにいる。
「なんか変な虫まで増えてきたのかよ……」と思っていましたけれど、実害があるわけでもないですし、放っておいたのですが、何だか次々とその虫が出てくる。
ある日、その同じような紋様の「サナギ」があったんです。
「あの虫は何かの幼虫だったのか」と思っていましたら、いろいろなところに、そのサナギのようなものがあり、そして、数日後くらいでしたか、そのサナギが破れていました。
そうしましたら、同時に、テントウムシがベランダにたくさんいることに気づき、
「ああ、あれはテントウムシの幼虫!」
と初めて知った次第です。
テントウムシなんてのは北海道にいた子どものころは無数にいたものでしたが、最近は、たまにしか見かけなくなりまして、テントウムシの幼虫の姿を忘れていたのでした。
そうかそうかと納得したのは、テントウムシの主な食べ物は「アブラムシ」なんです。
玉川大学昆虫学研究室のページによりますと、
> 1日に、テントウムシの幼虫はアブラムシを20匹ぐらい、成虫では100匹ぐらい食べます。
とあり、テントウムシは、幼虫も成虫もアブラムシを食べて生きているようです。
「今年はアブラムシが多かった → だからこそテントウムシが来た」
という流れは非常に合理的であることを知りました。
テントウムシならたくさんいても楽しいですので、今後はベランダのアブラムシを増やしていくという方向で…(変な方向かよ)。
アブラムシのつきやすい植物をまったくふれることなく放置しておけば、出てくると思います。
そして、アブラムシがついているのを確認した場合は、「ひゃっひゃっひゃっ、お前たちはじきにテントウムシの餌食だ」と叫ぶ娯楽も生じます(おいおい)。
いやしかし、今は虫そのものが少ないですので、テントウムシを見ているだけでも貴重といえば貴重で、以前……見てみますと、2017年の記事ですが、北海道に帰省した時、
「緑は広大に広がっているのに、虫が全然いない」
ことに気づき慄然としたことがあります。
[記事] ふと気づくと「虫がいない世界」に生きている(その原因はネオニコチノイドではなく私たちの生き方そのものだとしみじみ思うこの夏)
In Deep 2017年7月30日
これは世界中で「ふと気づく」人が多いようで、この記事では、2016年の英ガーディアンのコラム記事をご紹介していますが、以下のように記していました。
(英ガーディアンの記事より)
> 今年(2016年)の夏、私は、ふとある種の胸騒ぎを得た。
>
> それは、気づくと、自分の環境の周囲にまるで昆虫がいないことに気づいたことによるものだったかもしれない。
>
> ミツバチはまったく見ない。蝶は、たまに奇妙なモンシロチョウを見る以外はまるで見ない。虫といえば、せいぜいスズメバチをたまに見かける程度だ。
>
> 何だかとても奇妙だ。(The Guardian)
私の住んでいるところは、ここまで壊滅的ではなく、アゲハチョウは大体毎日見ますし、ミツバチも、1、2匹ですが、晴れている日は毎日ベランダに来ます。
それでも、全体として「昆虫が極端に少ない」ことは同じです。
子ども時代、少なくとも夏と秋は昆虫だらけの中で過ごしていたので、この現在の状況に気づいてしまうと、非常に不思議な感覚であり、「同じ地球ではないようにさえ思う」ことはあります。
その中で、いわゆる害虫は増加傾向だというのがまたアレですが、昆虫の状況だけでも、やや終末的だなあとも思います。
最近、ヨーロッパのユーロニュースで、「現在の昆虫の減少は、食糧生産の大幅な減少に結びつく」という報道がありました。
現在の大規模農業はかなり力づくで行われていますが、「力づく」ができなくなった時に食糧生産を助けてくれるのが、昆虫であり鳥であります。
でも、それがいなくなってしまった。
昆虫の極端な減少については、以下のような記事でも取りあげたことがあります。
[記事] 地球上の昆虫の減少が「カタストロフ的なレベル」であることが包括的な科学的調査により判明。科学者たちは「100年以内にすべての昆虫が絶滅しても不思議ではない」と発表
In Deep 2019年2月12日
昆虫のここまで激しい減少の根本的な理由はわかっていません。
もちろん複合的ではあるでしょうけれど、人為的な問題、都市化の問題もあるとは思いますが、「田舎でも昆虫が少なくなっている」現状から、問題は複雑そうです。
私自身は、地球の磁場の減少も関係していると思っていますが、それについては上にリンクした記事の後半でふれています。
人為的な環境問題だけではない根源的な部分を感じざるを得ません。
ユーロニュースの記事をご紹介して締めさせていただきます。なお、この記事では、人為的に介入して昆虫の数を増加させるという意見が出されていますが、無理だと思います。
昆虫の減少は食費を大幅に増加させる可能性があると科学者は警告する
Insect decline could massively increase food bills, warn scientists
euronews.com 2022/05/15
羽を持つ昆虫の数は、この 20年以内に 60%近く減少したという驚くべき新しい調査が発表された。
この大きな減少は私たちの地球の生態系全体を脅かしていると研究した科学者たちは警告している。しかしまだ物事を好転させることができる可能性はあるという。
調査結果が示していること
Bugs Matter アプリを通じて一般の人々がアップロードしたデータを使用し、自然保護トラスト Buglife の科学者たちは、英国全土の車のナンバープレートに「ぶつかった虫の数」を計算した。
研究者たちは、2021年の夏の約 5,000回の旅による結果を、2004年の同様の研究と比較した。
調査結果は非常に厄介なものだった。
イギリスでは、この方法で計測された虫の数は 65%減少した。ウェールズのデータは 55%の減少を示し、スコットランドでは 28%の減少だった。
この調査結果は「莫大な昆虫の消失」を明らかにし、それに対して科学者は警告している。「私たちが介入し、多くの作業を行う可能性がなければ、事態は悪化する可能性があります」と彼らは言う。
昆虫の急速な減少の原因は、生息地の破壊、農薬の使用、気候変動はなどが一因となっていると考えられる。
なぜ昆虫の衰退が重要なのか
羽を持つ虫たちは生物多様性にとって重要だ。
昆虫は、鳥、コウモリ、爬虫類、魚などの動物の餌となる。また、作物や野花の受粉や養分循環などの重要な役割も果たしている。甲虫、ハチ、トンボ類は、害虫駆除に役立つ捕食者として機能する。
それらの昆虫が消滅した場合、生態系全体、そして食料生産システムが苦しむことになる。
英国だけでも、花粉の交配者である昆虫を失った場合、私たちは私たちの食費に23.7億ユーロ (約 3300億円)を費やすことになるという。
環境への影響も壊滅的だ。
昆虫の衰退が止まらなければ、英国の野花の 10種のうち 8種が姿を消す可能性がある。
鳥類の大多数は基本的に絶滅する。健康な昆虫の個体数がなくても生き残ることができるのはわずか 4〜 5種だ。
これらの衰退を逆転させるために何ができるだろうか。
研究者のヘザリントン氏は、「昆虫の寿命は比較的短いので、かなり短い時間で物事を好転させることができる可能性があります」と述べる。
「適切な場所で適切なことをすれば、違いを生むことができます」
政府は、果たすべき大きな役割を持っており、昆虫の生息地の喪失を制限し、大量の農薬の使用を減少させることも必要かもしれない。
しかし、一人一人も自分の役割を果たすことができると述べる。自宅で草を育て、庭に野花を蒔くことは、昆虫の個体数を増やすのを助けるために重要だ。
ハーブ類を開花させることは特に昆虫の生息サイクルにはいいという。
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