2018年3月15日の英国ガーディアンの報道より
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食物連鎖からペットボトルまで、あらゆるものから人体に入ってくるプラスチック
最近、ふたつの調査機関がそれぞれ、各国で一般的に消費されているブランドのミネラルウォーター中に「どのくらいのプラスチック片」が含まれているかを検証する調査をおこない、その結果を発表しました。
その結果が、先日、欧米のメディアで大々的に報じられていまして、冒頭のガーディアンの記事もそのひとつです。
今日はこの記事をまず、ご紹介したいと思います。
以前から「現在の海のプラスチックの状況」について、たまに記事にすることはありましたけれど、現在の海の状況というのは、微細なものから大きなものので、大変な数のプラスチックに満たされています。
そして、小さなプラスチックは小さな海洋生物に影響し、大きなものは大きな海洋生物に影響するということが現実があります。
それについては、以下の記事などに記したことがあります。
「マイクロファイバーがプランクトンを殺しながら食物循環に入る様子」が初めて撮影される。そして、魚、微生物、クジラ、海鳥などあらゆる海の生物たちがプラスチック大好きな状況から想像する「海の終焉の日」
この記事では、魚もですが、「プランクトンまでがマイクロファイバーを食べて死んでいる」という現実などにもふれています。
マイクロファイバーが体内で詰まった状態のプランクトン
・BBC
今は「海はプラスチックでいっぱい」の状況ですから、それが私たち人間に回ってくるのは、食物の連鎖的な部分で当然なのですが、今回は、「ミネラルウォーターのペットボトルからも」ということで、海以外からも、私たちの体内には日々プラスチックが入ってきているといえるのかもしれません。
今回のタイトルの「私たちは毎日プラスチックを飲んでいる」というフレーズは、同じ報道を扱っていたアメリカのタイムの動画ニュースに、以下のような文字での説明があったことによるものです。
3月15日の米国タイムの動画ニュースより
・Microplastic Contamination Is Found In Most Bottled Water, A New Study Says | TIME
今は、どこの国でも飲料水をペットボトルのミネラルウォーターで摂取するのは、かなり普通のことだと思われます。ミネラルウォーターは確かに衛生的で、細菌や寄生虫は混入していはいません。しかし、プラスチックの含有量もまた豊富なようです。
それでは、英国ガーディアンの記事です。
WHO launches health review after microplastics found in 90% of bottled water
theguardian.com 2018/03/15
90パーセント以上のボトル入りミネラルウォーターからプラスチックが検出されたことを受けて、WHOは声明を発表した
研究者たちは、一般的なボトル入り飲料水ブランドから発売されている製品から検出されるプラスチック・ファイバーの含有レベルは、水道水で見られるものの 2倍になる可能性があることを見出した
世界保健機関(WHO)は、世界で最も人気のあるボトル入りミネラルウォーター・ブランドのいくつかのペットボトル製品を新たに分析した結果、それらの 90%以上に微細なプラスチックが含まれていることが判明した。以前の同様の研究では、水道水の中に高レベルのマイクロ・プラスチックが発見されている。
この新しい調査では、11カ国の異なるブランドから出されている 259本のミネラルウォーターのペットボトルを分析した。
その結果、ミネラルウオーター 1リットルあたり 325個のブラスチック粒子が検出された。
分析されたそれぞれのボトルは、アメリカ、中国、ブラジル、インド、インドネシア、メキシコ、レバノン、ケニア、タイで購入されたものだ。
試験した 259本のボトルのうち、プラスチック粒子が含まれていなかったのは、17本だけだった。
その中で最も高かったのは、Nestle Pure Life (海外のミネラルウォーター)で、1本のボトルから、水 1リットルあたり 10,000個という高濃度のプラスチック粒子が検出された。
調査をした科学者たちは、以前報告された水道水の研究と比較し、「ペットボトル入りのミネラルウォーターの中には、水道水の約 2倍のプラスチック粒子が発見された」と記している。
この新しい調査によると、見つかった最も一般的な種類のプラスチック断片は「ポリプロピレン」で、これはボトルのキャップを作るのに使われるのと同じ種類のプラスチックだ。
世界保健機関(WHO)のスポークスマンは、この調査に関して、ガーディアンに、この問題が人体の健康に影響にする可能性についての証拠はまだ出ていないが、新たな懸念事項ではあると認識しているとした。
また、この調査と関連がないもうひとつの分析もなされていた。これは、消費に関するキャンペーン団体「ストーリー・オブ・スタッフ( Story of Stuff )」に委託されたもので、アメリカの 19種類のペットボトル入りミネラルウォーター・ブランドを調査した。その結果、アメリカのミネラルウォーターにも、プラスチック・マイクロファイバーの含有が広範囲に広がっていることが判明した。
この研究を行ったうちのひとり、アビガイル・バロウズ(Abigail Barrows)氏は、プラスチックがボトルに入る可能性のあるルートはいくつかあると語った。
「プラスチックのマイクロファイバーは容易に浮遊します。それは外部だけでなく、明らかに工場内でも起きています」と言う。
そして、科学者たちは、海洋のマイクロプラスチックによる汚染は恐らく懸念されているよりも悪いと述べる。
キャンペーン団体のジャクリーン・サヴィツ(Jacqueline Savitz)氏は次のように述べている。
「プラスチックが海洋動物の体内に蓄積し続けていることは広く知られています。水中のマイクロプラスチックは、それ自体、そして、そのプラスチックの中の有毒化学物質、および食物連鎖の最終的な位置にいる海洋動物へのそれらの暴露の影響という三重の被害を及ぼしていると考えられます」
しかし、一方で(調査でプラスチックが検出された)ネスレ社は、この研究の方法を批判し、今回使用されていた「ナイルレッド色素」というものを使用する技術は、「誤った検出結果を生成する可能性がある」と主張している。
また、コカ・コーラ社は BBC の取材に対し、製造過程には厳格な濾過方法があると語った。つまり、現在の環境中に普遍的に偏在するプラスチックは、その微細なファイバーが 「より高度に処理された製品の中でさえも細かいレベルで見られる」ことを意味している。
ここまでです。
今回調査された製品には、日本のもの、あるいは日本で一般的によく売られているものに関しては、リストにありませんでしたので、日本で販売されているミネラルウォーターの詳細についてはわかりません。しかし、世界的なブランド商品の研究の結果として「 90% 含まれていた」ということなら、日本のものも、ある程度は含まれているのがむしろ自然な感じがします。
ところで、このプラスチックが「人間の体にどういう影響を与えるかの」ということについては、大きな結論が出ているものではないですが、いくつか出ているものとして、研究から以下のようなものが強く示されています。
プラスチックの人体に対して影響の可能性の強いもの
・腎臓、および脳の損傷との関係(プラスチック成分のビスフェノールA)
・子供の問題行動と関係している(プラスチック成分のフタル酸エステル類)
・男子の生殖機能を低下させる(ビスフェノールA、フタル酸エステルどちらも)
これに関しては、以下の過去記事で少しふれています。
・男性の精子レベルの著しい低下がイスラエルの大学の大規模調査で確認される…
In Deep 2017/07/31
なお、この記事で示しました「男性の精子の減少」は著しいもので、以下のグラフでわかるように、40年で半分以下となっています。
イスラエル・ヘブライ大学の研究による男性の精子の減少の推移
これはイスラエルでの研究ですが、「西洋ではどこでも減少している」というのが特徴で、西洋以外でも日本などでも近年大きく減少しています。
もはや一種の「異常事態」でもあるのですが、こういうことにはいろいろな原因があるであろうにしても、プラスチックの成分のいくつかには男子の生殖機能を低下させる作用があることもわかってきています。
もちろん、プラスチックのこれらの影響は、人間の男性に対してだけではなく、かなり広い範囲での生物の繁殖の阻害に関わっている可能性があります。
2016年のアメリカの報道で、海のプラスチック汚染と人体への影響の可能性を記した記事があるのですが、その中から抜粋して、今回は締めたいと思います。
思っている以上に、海のプラスチックは「極めて厄介な存在となりつつ」あることがわかります。
魚を経由して私たち自身も相当なプラスチックをすでに摂取していると思いますが、今それに加えて、場合によっては私たちの日常にありふれているペットボトル飲料からも、「プラスチックを飲んでいる日々」となっているようです。
では、ここから 2016年のエポックタイムズの記事です。
How Tiny Pieces of Plastic in Our Oceans Are ‘Terrifying’
theepochtimes.com 2016/08/02
海におけるプラスチックの小さな粒子は「いかに恐ろしいものか」
もうずいぶんと長い間、魚は海洋中の小さなプラスチックの粒子を食べ物と誤って食べ続けている。
英国プリマス大学の海洋生物学教授リチャード・トンプソン(Richard Thompson)氏は、人の髪の毛よりも細いこともある「マイクロ・プラスチック」が現在、魚の集団 の 85 - 90% の体内にあると述べる。
そして、私たち人間はその魚たちを食べている。
2014年、研究者たちは、米国のカリフォルニアとインドネシアの市場から数十種類の魚を購入した。その魚たちを調査した結果もカリフォルニアの市場の魚では 10匹に 1匹の割合で体内にプラスチックがあった。インドネシアでは、その割合は 4匹に 1匹だった。
海洋のプラスチック廃棄物の人間への直接的な影響はまだ詳細には分かっていないが、それを示唆するいくつかの研究はある。
最近、科学者たちは、プラスチックの人体への悪影響について、プラスチック成分のビスフェノールAが、人間の腎臓、肺、および脳の損傷と関係していることを見出した。
また、フタル酸エステル類が、脳の損傷と子供の問題行動と関係していることなどがわかってきている他、男性の生殖機能を低下させることにも関係している可能性が見出されている。
しかし、研究は難航している。たとえば科学的な調査では、通常、何らかの健康への影響を測定するためには「対照群(その影響に曝露していない人たち)」が必要だ。しかし、プラスチックの場合、現在すでにプラスチック汚染に曝されていない人たちを見つけることがますます困難になってきているからだ。
ブラスチックを含む化学汚染に関する研究の最前線の 1つは、米アリゾナ州の環境保全センターがおこなっているものだ。ここでは、プラスチック汚染に付随する化学物質が、最終的にどこにまで至るかを正確に調べようとしている。
研究はまだ途上だが、動物や生態系へのすでに知られているプラスチックによる影響は、私たち人間への影響をも示唆しているかもしれないという。
「この問題の未知数であり、本当に恐ろしいものだと感じます」と、環境保全センターの研究者は述べる。
2013年には、海洋環境から採取したマイクロ・プラスチックを含む食物をメダカに与える実験をしたが、それらのメダカで病変や肝障害の症状を呈するものがあった。
しかし、それより 1つの影響が最も顕著だった。 — それは「飢餓」だ。プラスチックを食べた魚たちは、胃の中のそのプラスチックにより満腹感を得てしまっており、完全な栄養失調を引き起こしていたのだ。
この問題は、魚の繁殖を妨げる可能性がある。少なくとも、ウミガメへの影響は知られている。25年間海ウミガメを研究してきた海洋生物学者のウォーレン・J・ニコルス氏によれば、ウミガメは、プラスチックを食べると、栄養失調を引き起こし、まったく繁殖できなくなるという。