・腺ペストの予防接種を受けるアルタイ地方の女の子。dailymail.co.uk
軽度の副作用30% 重篤な副作用20%
今日、英国デイリーメールの報道を見ていましたら、
「ロシアで 3万2000人に腺ペストのワクチンを接種」
というタイトルの報道を見ました。
ロシアと国境を接する中国の内モンゴルで、先日、腺ペストによって死者が出たのは事実です。以下のように報じられています。
中国、ペストで死者 内モンゴル、感染警報を発令
国内モンゴル自治区包頭(パオトウ)市当局は7日までに、同市内の村で死者1人がペストに感染していたと発表、上から3番目の警戒レベルとなるペスト感染3級警報を現地に発令した。警報は今年末まで継続する。 (産経新聞 2020/08/07)
これに対して、「ワクチンで対抗する」という手段をロシア当局はとったようなのですが・・・まずは、その英デイリーメールの記事をご紹介します。
腺ペストがモンゴルからシベリアの観光地域に広まった後、ロシア当局は、ペストの発生を阻止するために3万2000人にワクチンを接種
Russia fights to stop an outbreak of bubonic plague by vaccinating 32,000 people after virus spreads from Mongolia to Siberian tourist region
Daily Mail 2020/08/14
ロシア政府は、黒死病の「警報」が西部へ拡大する兆候の中で、腺ペストに対するワクチン接種を強化している。
この致命的な感染症は、シベリアの人気の観光地であるアルタイ山脈で検出されており、62年前にこの地区でペストの監視が開始されて以来見られたことのなかった地域もそこには含まれていた。
モンゴルで 2人の死者、中国で 2人の死者が発生して以来、現在までに予防接種をおこなった数は 3万2000人以上と急増している。死者が発生した地域はどちらもロシアと国境を接している。
マーモットや他のげっ歯類の動物が多く生息する風光明媚なアルタイ共和国では、約1万8000人が予防接種を受けたと保健当局は発表した。
トゥバ共和国の南部地区でノミによって広がった腺ペストが検出されたのは、今週(8月第2週)の始めで、その後、地域の首長は、感染源の近くに住む 1万4000人に予防接種を命じた。
首長は、「この病気は危険なものだ」として、2歳以上の全員が予防接種を打たなければならないと述べた。
アルタイの西側では、これまでに 5つの地域でペスト菌が検出されている。
これまでに、3万2000人以上の人たちに対して予防接種が行われたと同時に、飼育されている 320匹の地元のラクダ集団全体にもワクチンが接種された。
腺ペストは、マーモットのような野生のげっ歯類に生息するノミによって広がる細菌性疾患で、発症後は迅速に対応しなければ 24時間以内に死亡する。
14世紀には、最大 2億人が腺ペストで死亡した。
こまでです。
デイリーメールの報道によれば、合計で 4人が死亡しているようなのですけれど、ペストの発生そのものはともかく、デイリーメールの記事を読んで、最初は、
「ペストにワクチンってあったっけ?」
と思ったのでした。
試しに、厚生労働省の感染症情報のページ FORTH を見て見ますと、以下のようにあります。
・現在使用可能なワクチンはありません。
「やっぱり、ないよなあ」と思いましたが、いくら今のような常軌を逸した世の中でも、「存在しない予防接種を打つ」ということはあり得ないと思い、もう少し調べてみましたら、「ペストという大ざっぱな括りでは存在しない」のでした。
ペストには、
・腺ペスト (げっ歯類の動物の血を吸ったノミから感染)
・肺ペスト (それが人から人に飛沫感染していく状態となったもの)
があり、このうちヒトからヒトに飛沫感染する肺ペストのほうには、ワクチンはないのですが、「腺ペストにはある」ようなのです。
ところが、この腺ペストのワクチンは、「強力な副作用」があり、一般的にはあまり使われないようなのですね。
デイリーメールの記事では、 3万人以上に予防接種をしたとしていますが、このワクチンの副作用の数値を見て、ややショックを受けまして、それでご紹介しているのですが、副作用の数字に関しては、日本の厚生労働省「バイオテロ対応ホームページ」に掲載されています。
以下、抜粋します。
厚生労働省研究班 バイオテロ対応ホームページ「ペスト」より
予防(ワクチン)
ホルマリン不活化全菌体ワクチンが使われる。主な接種方法は初回接種(0.5 ml)3日後、2回目接種(1.0 ml)さらに3日後3回目接種(1.5 ml)する。追加免疫は、初回免疫終了後12ヶ月以内に0.5mlを皮下注射。(中略)
副作用は接種部位の浮腫や硬結などの軽度な局所反応のみの場合から、高熱、全身倦怠感、頭痛などの重篤な全身性反応まで生じる。
米国では接種部位の浮腫や硬結などの軽度な局所反応が29%、高熱、全身倦怠感、頭痛などの重篤な全身性反応が20%であった。ホルマリン不活化全菌体ワクチンは腺ペストには有効であるが、肺ペストにはほとんど効果が認められない。免疫の持続期間は6ヶ月以内。 (厚生労働省)
ここまでです。
> 接種部位の浮腫や硬結などの軽度な局所反応が29%
> 高熱、全身倦怠感、頭痛などの重篤な全身性反応が20%
とありまして、ざっくりと言えば、以下のようなことになりますでしょうか。
「接種を受けた 3人に 1人が軽度な副作用を発症し、5人に 1人が重篤な副作用を発症する」
今回の場合ですと、今までに 3万 2000人が予防接種を受けているので、おおむね 9000人以上が軽度の副作用を起こし、6000人以上が「重篤な副作用」を起こすという可能性があるということになってしまうのですかね。
現在のロシアで使われているのは、以下のワクチンのようです。
デイリーメールの記事では、地区の首長が、
「 2歳以上の全員が予防接種を打たなければならない」
と述べたことが伝えられていて、デイリーメールには、冒頭のようにかなり小さな女の子が予防接種を受けている写真が掲載されています。
しかし、「このような強い副作用があるワクチンを、2歳とかの子どもに普通、打つ?」と素直に思うのですが、このあたりは善悪の基準がよくわからないです。
腺ペストの発生というのは、それほど日常的に聞くものではないですので、その予防方法の「定番」というのが私にはわからないですが、本当にこんなんでいいのかなとは正直思います。
なお、そういうことはないでしょうけれど、仮に、この腺ペストが「飛沫感染、つまりヒトからヒトに感染する肺ペスト」になった場合は、ワクチンは存在しないばかりか、感染速度が早い上に、発症から重症化までが非常に急速なので、仮にそういうようなことがあれば、その惨状は、新型コロナウイルスなどとまったく比較にならないものとなります。
たとえば、先ほどの厚生労働省のバイオテロ対応ホームページの記述でそのあたりがわかります。
バイオテロの際に菌がエアロゾルの状態で散布されると、原発性肺ペストの病型をとる。肺ペストでは感染が重篤な状態に陥ると肺に菌が到達し、肺炎の状態で喀痰から菌を排出するようになる。
潜伏期間は通常2〜3日とされるがより早期に発症する例もある。頭痛、嘔吐、高熱を訴え、呼吸困難、血痰を伴って肺炎が急激に重篤な状態に至る。発病後の病状の進展は急激で、数日以内に死亡する例が多い。(厚生労働省)
発症後24時間以内に適切な抗菌薬投与が開始されないと死に至る場合が多いと記載されています。
まあ、こういう恐ろしさが肺ペストにあるということから、今回の「腺ペストのワクチン」という対応となったのだと思いますけれど……。
腺ペストの菌は主にげっ歯類(ネズミやマーモットなど)が保持していますので、広大な中国とロシアの国境の多くの地域で、今後も感染あるいは、動物からの検出ということが考えられなくもないかもしれません。
そうした場合、「人へのワクチン接種の規模をさらに拡大していく」ということになるのですかね。接種したおおむね半分に何らかの副作用が出るワクチンを何万人何十万人と。
最近の世界では、「弱り目に祟り目」的な出来事が多いですので、「病気への対処が、新たな病気の拡大を生む」というようなことは、これ以上は進展してほしくない気はします。
ワクチン接種の義務化も拡大
ワクチンつながりということで、今回は、数日前に、マイクロソフト社の msn ニュースで見ました、「アメリカのカリフォルニア大学ですべての関係者にインフルエンザワクチンの接種を義務化した」というニュースをご紹介して締めさせていただきます。
大学の関係者というのは、学生、教授などを含めた教職員、スタッフの文字通り「全員」です。
ここからです。
カリフォルニア大学は、学生、教職員、スタッフの全員にインフルエンザ予防接種を要求する
University of California requires flu shots for students, faculty and staff
San Francisco Chronicle 2020/08/10
カリフォルニア大学の関係者は 8月7日、カリフォルニア大学の学生、教職員、そしてスタッフは、新しい大学システム全体の行政命令の一環として、今年 11月1日までに全員がインフルエンザの予防接種を受ける必要があると発表した。
カリフォルニア州は新型コロナウイルス事例の急増と戦い続けているが、その中でこの命令は出された。
大学の関係者は、これを「大学コミュニティのメンバーおよびカリフォルニア州の一般市民を保護し、インフルエンザや新型コロナウイルスによる医療システムへの深刻な負担を軽減するための予防策だ」と説明した。
これまでも、カリフォルニア大学は、結核のスクリーニング、麻疹、おたふく風邪、風疹、水痘、髄膜炎菌、破傷風、百日咳の予防接種を学生に義務付けている。
アメリカの他のいくつかの大学もカリフォルニア大学と同様のポリシーの制定を始めている。たとえば、インディアナ州のパーデュー大学は、新型コロナウイルスで閉鎖されていた大学のキャンパスを再開した後、ワクチン接種をしていることが、キャンパスに戻ることに必要だと 6月に決定している。
マイアミ大学とノックスビルのテネシー大学もまた、学生にインフルエンザワクチンの接種を義務化することを決定した。
カリフォルニア大学の関係者によると、カリフォルニア大学の医療計画に登録している学生と教職員は、大学システムの医療計画により、ワクチン接種を無料でおこなうことができるという。
宗教的理由や疾患等によりワクチン接種の免除を要求することは可能だと大学の当局は述べた。
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