私たちが知らない「北朝鮮が東京を攻撃する理由」とは
2018年2月26日のロシア・リアノーボスチ通信の報道より
2018年2月27日の中国の報道より
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この2日ほどの間、ロシアと中国の報道が相次いで、「東京が北朝鮮からの核攻撃を受ける可能性の高さと、その被害規模について」の報道がなされました。冒頭に掲載しましたものがそれらの記事です。
いずれも、アメリカの外交専門誌「ナショナル・インタレスト」に掲載された記事を紹介する形でのものでした。そのオリジナルは下の記事です。今回はこの記事をご紹介しようと思います。
この「ナショナル・インタレスト」というのは、Wikipedia から引用しますと、以下のような媒体です。
ナショナル・インタレスト - Wikipedia
アメリカ合衆国のワシントンD.C.に拠点を置く センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト(旧ニクソンセンター)から発行されている隔月刊の外交専門誌。本誌は名誉会長にヘンリー・キッシンジャーを据える。現実主義的な立場に立った論調で知られ、国際的な社会・文化・経済・歴史の差異に注意を払った編集方針を採る。
という物々しいものですが、ここにありますように、
> 現実主義的な立場
という媒体でもあります。
その最近の記事のひとつが、ロシアと中国のメディアで大々的に報じられたということになりますが、ロシアのメディアは、元国営通信でもあるリアノーボスチで、中国のほうも、中国メディアで最大規模を誇る新浪公司のポータルでの報道で、どちらもマイナーな報道媒体ではありません。
その内容は「東京が北朝鮮からの核攻撃を受ける可能性の高さ」について言及したものというものではあるのですけれど、まずは、その元となったナショナル・インタレストのオリジナルの記事をご紹介したいと思います。
特に目新しいことが書かれているわけではないのですが、強いていえば「東京への攻撃の可能性はずいぶんと高い」という部分が目新しいと言えるかもしれません。
なお、記事には横田基地がずいぶんと取りあげられますが、横田基地の場所は地図では下の位置となります。私の住んでいる場所とも近いのですよね。
補足などもありますが、本記事の後に書かせていただきます。
ここには、その時々の政治情勢とは別の「北朝鮮がキム・イルソンの時代から一貫して持つ東京への攻撃の願望」(あくまで、ナショナル・インタレストがそのように考えているだけですが)について書かれてあります。
そういえば、昨日の記事で、「左の肩がとても痛い」という個人的なことを書いたのですが、この記事を翻訳している間に痛みが引いたのでした(ウソではなく本当です)。何かこう鎮静剤的な作用のある記事なのかもしれません。痛みはほぼ消えてしまいました。
ここからです。わりと長い記事でもあります。
North Korea Could Easily Nuke Tokyo (the Largest Urban Area on the Planet
nationalinterest.org 2018/02/24
北朝鮮が東京を核攻撃する可能性はおそらくはある(東京は地球で最も巨大な都市圏である)
日本最大の都市である東京は、その人口が 1334万1000万人で、日本全体の人口の 10%以上を占めている。
東京を含む「首都圏(The greater Tokyo area)」と呼ばれるエリアは、この地球上で最大の都市圏だ。そしてまた、この地は北朝鮮の核兵器のターゲットでもある。
もし東京が核攻撃を受けた場合、東京は第二次世界大戦以来経験していないような巨大な破壊を経験する可能性がある。
東京が、近代日本の首都となったのは明治維新と呼ばれる時代からで、日本の近代化と日本政府、科学技術、そして軍事技術を西洋レベルに引き上げるための広範な努力の一環であった。
その中での残念な出来事でもある日本の帝国主義は、西洋からの輸入価値の一つでもあった。その帝国主義下の日本は 1910年から 1945年にかけて朝鮮半島を支配した。韓国の党派によって行われた占領とゲリラ戦争は、今日まで続く日本に対する深い敵対関係を確立した。
現在でも北朝鮮の上層部は、国家の創設メンバーたちによって行われた党派活動から、日本に対する敵対関係の部分的正当性を主張している。日本が後になり結んだ米国との同盟、そして韓国との同盟関係は、北朝鮮の日本に対しての感情を悪化させたに過ぎないものといっていい。
このような歴史にもかかわらず、現実的には、日本は北朝鮮にとっての副次的な敵対国であり、北朝鮮にとっての真の敵はアメリカとなってきた。現在の北朝鮮の指導者である金正恩(キム・ジョンウン)書記の祖父である金日成(キム・イルソン)は、日本を攻撃するための長距離ミサイルの建設目標を掲げたが、日本そのものを攻撃対象とはせず、アメリカの軍事基地を攻撃するものだった。それは北朝鮮に関しての新たな紛争の鍵ともなった。
金日成主席は、戦時中に平壌を空爆したアメリカ空軍の基地を攻撃する方法を獲得することを長く望んでいた。
日本では、有用な土地が不足していることもあり、現在、日本の大部分のアメリカ軍の拠点は都市部の近くにある。
特に北朝鮮の核兵器の攻撃を受ける可能性が高い 1つの基地がある。それは横田基地といわれる基地だ。横田基地には 1400人のアメリカ軍の軍人とその家族がいる。
ここには米軍基地の本部と空軍力があり、横田基地は東アジアの米軍にとって重要な運輸と医療基地となっている。
また、横田基地には、日本の航空自衛隊の防空司令部があり、そして、朝鮮戦争中に米空軍 B-29 爆撃機が北朝鮮の目標として攻撃した際の出発拠点でもある。
もし戦争となった場合、何人かの専門家たちは、北朝鮮は、敵に衝撃を与えるための広範な攻撃に核兵器を使用すると確信している。核兵器を使う目的は、これにより、敵にさらなる北朝鮮への攻撃を引き起こさないように警告する意志を見せるためだとしている。
その際、横田基地は、ほぼ確実に目標となるだろう。横田基地は、北朝鮮に対する過去の攻撃の拠点となった歴史を持ち、そして日米共同基地でもある。
北朝鮮が横田基地を核兵器で攻撃した場合、どのような事態となりうるだろうか?
それはたとえば、核兵器学者フレックス・ウェラーステイン(Alex Wellerstein)氏によって開発されたオンライン・ツール「ヌークマップ(NUKEMAP)」を使用して、何らかの考えを得ることもできる。
たとえば、このシミュレーションで、北朝鮮が準中距離弾道ミサイル「北極星2号」のような中距離弾道ミサイルに 20キロトンの核弾頭を収め、正確に横田基地を目標として発射することができると仮定した想定地図を作成すると以下のように表示される。
ヌークマップは、爆発の中心地からの様々な距離にわたり、熱、過圧、放射性降下物の影響を含む様々な核爆発の影響に関する推測を地図上で提供している。
横田基地の場合、広島の爆発より 25%強力な場合でも、犠牲広島よりは軽度であることがわかる。この場合、12,800人の命が即時に奪われ、45,460人が負傷する。
放射性降下物は、埼玉県と茨城県では、ともに北東の地域に降下するが、東京都は基本的に放射性降下物から避けられる。
他の目標はどうだろうか?
大部分が東京の霞が関地区にある日本政府に対する攻撃の場合、即時に 24,290人が犠牲となり、90,780人が負傷する。この場合、放射性降下物の雲は、再び北東に流れ、浅草地域までが致命的となり、この地区の住民は茨城などの沿岸まで避難する必要が出てくる。
そして、おそらく、日本で最も危険な攻撃場所は、日本の国防総省がある新宿区に対してのものだろう。ここが攻撃された場合、56,400人が即時に犠牲となり、12万8,310人が負傷する。その後、放射線の雲が東京で最も人口の密集した地域に広がることにより、被害はさらに壊滅的なものとなるだろう。
ヌークマップで計算される数字は正確な科学ではなく、見積もりは「決定的なものではない」ことには注意すべきだ。また、このモデルが、高層ビルが吹き抜け効果を吸収し、建物や建物の後ろの人々を遮蔽する「遮蔽効果」を組み込んでいるかどうかは不明だ。東京のような都市にとっては特に重要な要素となる。
しかし、このマップは、少なくとも私たちに客観的な数値が示されるひとつではある。
東京特有の他の要因が人的被害の率に影響を与える可能性もある。世界的に有名な東京の交通システムには数百マイルもの地下トンネルが組み込まれている。
偶発的な核兵器等の落下の際の避難所として機能するこれらの場所は、十分な警告が与えられ、対応が正しければ、犠牲者の率を劇的に下げるために機能する可能性がある。
一方、東京の比較的平坦な地形は、数キロメートル離れた場所から爆発を直接目撃してしまう可能性があり、爆発を目撃してしまった人たちに、目の損傷やその他の負傷をおわせてしまう可能性がある。
東京は複数の核兵器に襲われる可能性があるが、北朝鮮は現在のところは、武器の数よりも目標地点のほうが多く、現実には複数の攻撃は起こりそうにはない。
それでも、北朝鮮の展開可能な兵器の数が徐々に増えるにつれて、北朝鮮の歴史的敵国の首都である東京が複数のミサイルの攻撃を受ける可能性は高まるかもしれない。
なお、より大きな核兵器はそれに準ずる高い死傷率を生み出すと考えられる。先ほどは 20キロトンの推計だったが、たとえば、霞ヶ関に 60キロトン級の兵器による攻撃があった場合は、20キロトンの兵器の約 2.5倍である 5万6,710人の命を瞬時に奪い、約 25万人を負傷させる。
東京に対しての核攻撃は数万人の命を奪い、多くの人々に重傷を負わせる。そして、何百万人もの人々に長期的な健康問題を引き起こすことになるだろう。
これらの見積もりは、核兵器の巨大な力を思い起こさせるものでもあり、核兵器が使用されることは決してあってはいけないという主眼を改めて突きつけられる。
ここまでです。
内容的にはこのようなものなのですが、この中に「ヌークマップ(NUKEMAP)」というものが出てきます。
下の場所にあるオンライン・シミュレーション・ツールです。
これは、
・爆発の中心地
・爆発の規模(過去の世界中の核実験の爆発の規模から選択できます)
などを設定しますと、想定される被害の範囲が示されるものです。
自分でもシミュレーションしてみましたら、たとえば、記事に出て来る横田基地を中心として考えますと、たとえば、下のように表示されます。
ヌークマップの表示例
これは、
・横田基地が爆発の中心
・兵器は2013年に北朝鮮が核実験で使用した20キロトン級
となっています。
広島に落とされたのが 15キロトンですので、それを少し上回るほどの規模の爆弾ということになります。
色分けの内訳は下のようになります。実際の地図ですので、いろいろと地名などが出ていて心苦しいのですけれど、説明のために載せさせていただきます。
このような感じで、地図上で世界のどこでもシミュレーションできるものです。
ところで、先ほどの記事に、
> より大きな核兵器は相応に高い死傷率を生み出すと考えられる。
とありますが、北朝鮮が昨年 2017年 9月におこなった核実験での推測される規模(150キロトン)の爆発の場合はどうなるかといいますと、横田基地を中心にしますと、東京の八王子から立川、国分寺、そして私の住む所沢あたりまでが、すべて「直接的被害の現場」となることがわかります。
2017年の北朝鮮の核実験の規模の爆発が横田基地で起きた場合の被害想定
今まで、横田基地はわりと縁遠い感じでしたが、この地図を見て「近いものなんだなあ」と実感しました。
この想定は放射性降下物(いわゆる死の灰)については描かれないですが、放射性降下物は、風向きによって左右されるものですので何ともいえないにしても、私のところなどは普通にダイレクトに降ってくる場所だと知ります。
「あー災い災いだ」とつぶやきながらも、しかし、肩の痛みがすっかり引いたこともあり、微妙な心境で今回の翻訳を書き終えました。
いずれにしましても、とても物騒な話ではあります。とはいえ、特に感情的になるようなことでもないとは思います。
ただ、「長い歴史の中で、どうしてこんなことを想定しなければならないようなことになっていったのかな」ということを、たとえば「自分だけの視点」で考えてみるというのも、たまにはいいかもしれません。今は「与えられる情報が過多」の時代ですので、自分だけの考えで考えることが意外と少なかったりします。
さまざまな情報や価値観、一般的に言われるさまざまな建前論はほとんど何の役にも立たないという以上に「真実でない場合が多い」ということは、この何十年もの歴史が証明しているように思います。
だから、自分で考えてみる。
もしかすると、本当に正しい考えを持っているのは「世界であなたひとりだけ」なのかもしれないのですから。
そのあなたの考えが何かを変えられるのかもしれないのですから。