数日前に、下の記事を見かけました。
2016年5月27日の英国デイリーメールより
これは今、問題となっている「薬剤耐性菌」に打ち勝つ可能性を持つという新しい抗生物質のことですが、これは「テイクソバクチン」というもので、発見されたのは昨年で、大々的に報道されました。
2015年1月8日の英国ガーディアンより
・New class of antibiotic could turn the tables in battle against superbugs
この時は「発見」に関しての報道だったのですが、最近、イギリスの研究者たちが、この新物質を研究室で作ることに成功したのです。
ちなみに、新しいタイプの抗生物質というのは、1987年以来 30年近く出ていないのだそう。
今回はまずは、その記事をご紹介したいと思いますが、その前に、そのデイリーメールに囲み記事として「抗生物質の歴史と現状の問題」が記されていましたので、その部分を記しておきたいと思います。
ANTIBIOTICS - FROM DISCOVERY TO POTENTIAL DISASTER
抗生物質 - その発見から、それが災害と化す可能性を持つまで
抗生物質は 1920年代に発見されて以来、その姿を変えてきた。しかし、専門家たちは、耐性菌の増加と、新しい抗生物質の欠如による「抗生物質の黙示録」を警告している。
・最初の抗生物質は、1928年に、ロンドンのセント・メアリー病院で、アレクサンダー・フレミングによって発見された。
・それ以来、100以上の抗生物質の化合物が発見されているが、1987年以降は、新しいタイプの抗生物質は出ていない。
・米国では、第二次世界大戦で戦う兵士たちに供給するためにペニシリンが大量に生産された。全体として、ペニシリンは1億人以上の命を救ったと考えられている。
・しかし今日では、抗生物質での治療は7例に1例が失敗するようになった。抗生物質が効かない割合は過去 20年で 12%上昇している。
・薬剤耐性菌感染症は、現在、ヨーロッパ全域で毎年数万人が死亡している他、全世界で毎年、推定 70万人以上が亡くなっている。
・農場の動物たちには抗生物質が多用されており、英国では 45%の農場で、米国では 80%の農場の動物で抗生物質が使用されており、これが薬剤耐性菌の拡大を加速させている。
・医療従事者たちの濫用も深刻だ。英国では、医療従事者は患者に対して最大 90%に抗生物質を処方しており、その中には、風邪や花粉症などで処方されるケースも多い。このことに対して専門家たちは警告している。
・2013年から2014年にかけて、イギリスだけで 4200万錠の抗生物質が処方された。イギリスでの抗生物質の処方量は、過去 10年で 14%増加した。
ここから「新しい抗生物質の製造に成功」に関しての記事です。
ちなみに、これは先に書いておこうかと思いますが、このデイリーメールの記事の中には、
> このテイクソバクチンに対しては、細菌が耐性を持つことがない
という部分があり、これだけを読みますと、このテイクソバクチンに対して耐性を持つ菌は「永遠に現れない」というような錯覚を感じられるかもしれないですが、そういうことではないようです。
というのも、こちらの記事によりますと、
ボン大学とノースイースタン大学の共同研究チームは、新型抗生物質テイクソバクチンの有効性を実証する研究結果を発表しました。
研究リーダーのキム・ルイス教授は、「テイクソバクチンは並外れた殺菌能力を持っており、速やかに感染を抑えることができます」と話しています。
薬物抵抗性に関しても、細菌がテイクソバクチンに対して耐性を持つまでには30年以上はかかるとのこと。
ここの、
> テイクソバクチンに対して薬剤耐性を持つまでには30年以上はかかる
という部分は、「いつかは耐性菌が出現する」ということを意味しているということでよろしいのかと思います。研究者の人たちも「それ(耐性菌が出ないこと)が永遠に続くわけではない」ことはわかっているようです。
ともあれ、その「スーパー構成物質の製造に成功」に関しての記事をご紹介させていただきます。
Could MRSA and TB finally be defeated? Super-antibiotic can wipe out deadly infections - and bugs may never become resistant to it
Daily Mail 2016/04/27
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)と薬剤耐性結核は、最終的に敗北する? 致命的な感染症を一掃することができるかもしれない新しいスーパー抗生物質。細菌はこの抗生物質の耐性を持つことはできない
薬剤耐性菌との戦いに勝つ可能性を持つ新型の「スーパー抗生物質」を作り出す試みが、英国の研究室で行われている。
リンカーン大学の科学者たちは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下、MRSA)や薬剤耐性結核(以下、TB)を一掃させる可能性のある化学物質テイクソバクチン(teixobactin)の2つのバージョンを作成した。
重要なことは、このテイクソバクチンに対しては、細菌が耐性を持つことがないと考えられることだ。
医薬品市場では、ほぼ 30年間も新しいタイプの抗生物質は出ていないために、医療の現場では、日々、治療が困難になるケースが増えている。
医療の専門家たちは、医療サービスが、じきに 19世紀と同じような状態となってしまうかもしれないと警告している。
英国のチーフ・メディカル・オフィサーのデーム・サリー・デイヴィス(Dame Sally Davies)氏は、ほんの 20年後に訪れる可能性があるという「黙示録的なシナリオ」を述べる。
それは、たとえば、比較的弱い菌感染でさえ防ぐことができなくなるという意味において、股関節の置換のようなありふれた治療が死につながるものとなりかねない医療の現場となり得るというのだ。
テイクソバクチンは、土壌にすむ細菌によって自然に作られるもので、科学者たちの国際チームが昨年発見した。
このテイクソバクチンは、抗生物質の未来が暗転しつつある現在、「ゲームチェンジャー」として脚光を浴びている。実験では、本来なら死亡するはずの感染したマウスの複数の細菌を死滅させ病気を治した。
しかし、この自然にすむテイクソバクチンを広く使用するようにするには、研究室でこの物質を製造する方法を見つける必要がある。
そして今、研究者たちは1つだけではなく、2つのバージョンのテイクソバクチンを作成することに成功したのだ。
多くの異なるバージョンを作ることができるということは、ヒトに使用する際に、最良の配合を見つけることができる可能性の鍵となる。
研究者たちは今、イングランド公衆衛生サービス(Public Health England)と共同して、一般の英国人から採取した細菌のサンプルに新薬をテストしている。
この新しい抗生物質は、2022年までには人々に供給できる可能性がある。
研究者のひとり、イシュウォー・シン博士(Dr Ishwar Singh)は以下のように述べる。
「テイクソバクチンは、もともと自然の土壌の中で周囲の細菌を殺すように進化したものです。しかし、私たちの挑戦は、この抗生作用のある物質を自分たちで作り出すことでした」
「私たちは、今回、2つのバージョンが作成できた結果を喜んでいます。しかし、このような有機化学を介しての発見は、薬剤耐性の問題のチェックをおこない続けなければなりません」
イギリス王立化学会(Royal Society of Chemistry)のディアドレ・ブラック博士(Dr Deirdre Black)は、「これは私たちすべてに大きな脅威となっている薬剤耐性菌との戦いにとって、とてもエキサイティングな開発です」と述べた。
ここまでです。
これによれば、この新しい抗生物質は、
> 2022年までに人々に供給できる可能性がある。
ということですが、そこから 30年くらいで耐性菌が出現するとなると、2050年頃には、またしても堂々巡りとなる可能性がありますし、最近の「菌の進化の早さ」を見ていますと、予想以上に早く耐性菌が出現するような感じはあります。
今回、この記事をご紹介しようと思ったのは、先日、「いかなる抗生物質も効かないスーパー耐性菌」が、アメリカ本土ではじめて感染例が出たことによるものでした。
感染したアメリカ人女性は、過去数ヶ月、海外には行っていないということで、「アメリカ国内で感染した」ことが確実視されています。
こういう菌が、アメリカのような様々な国の人々が集う国で見つかったということは、なかなかの脅威だとも思います。
このことを報道したニューズウィークの記事抜粋しておきたいと思います。
あらゆる抗生物質が効かない「スーパー耐性菌」、アメリカで初の感染が見つかる
ニューズウィーク 2016/05/28
ペンシルバニア州に住む49歳の女性から発見
米疾病管理予防センター(CDCP)は26日、知られている抗生物質すべてに耐性を示す細菌への国内初の感染症例を報告し、この「スーパー耐性菌」が広がれば、深刻な危険をもたらしかねないと重大な懸念を示した。
トーマス・フリーデンCDCP所長はワシントンのナショナル・プレス・クラブでの講演で「ポスト抗生物質の世界に突入するリスクがある」と語った。
所長によると、ペンシルバニア州に住む49歳の女性がかかった尿路感染症は、「悪夢のような細菌」に最終的に投与される抗生物質コリスチンでも制御できなかったという。女性には発症前5カ月の旅行歴もなかった。
このスーパー耐性菌は、米国微生物学会の医学誌に掲載されたウォルター・リード陸軍病院の研究結果の中で報告された。それによると、プラスミドと呼ばれるDNAの小片を媒介して、コリスチンへの耐性を示す「MCR─1」遺伝子が取り込まれたという。
研究チームは「我々の知る限り、MCR─1が米国で見つかった最初の例だ」とし、「真に幅広い薬剤耐性菌の登場を告げるものだ」と指摘した。
ハーバード大医学大学院の上級講師である微生物学者のゲール・キャッセル博士は「適切に抑制されなければ、病院のような環境でもすぐに広がる可能性がある」と指摘する。
あと数年で西洋医療は崩壊するかもしれない
この「新しい耐性菌が出現してから、拡散していくスピード」というのは、たとえば、下のようなグラフでもおわかりいただけるかと思います。
これは、日本における薬剤耐性マイコプラズマの場合です。マイコプラズマは、子どもに多く見られる肺炎を伴う感染症です。
マイコプラズマ肺炎における薬剤耐性菌の比率の推移
このグラフでは、2002年に 0%だったものが、2011年には、約 90%になっています。
どうやら「今では、マイコプラズマ肺炎の患者のほとんどが耐性菌に感染している」ということで、つまり「抗生物質で治療ができない」ということになっているようです。
ほぼすべてが耐性菌になるのに、たった 10年です。
先ほどのアメリカでの「いかなる抗生物質も効かない耐性菌」が、このような勢いで増えていけば、それは「現代医療の終焉」を意味するほどのことになるのかもしれません。それほど、現代の医療は抗生物質に依存しています。
これらのことを考えると、確かにこの先の医療の現場は、仮に 2022年に新しい抗生物質が提供されたとしても、それまでの間は「黙示録的」というような医療の現場が出現する可能性はあります。
抗生物質をなるべく使わない医療に転換していくことが急務なのでしょうけれど、現実は厳しく、たとえば、先ほどのデイリーメールによれば、イギリスでは、内科医などが自分の患者に対して、最大で 90%に抗生物質を処方しているそう。
イギリスでの1年間の抗生物質の処方も、4000万錠(イギリスの人口は 6400万人)を越えているということで、世界中で過剰な抗生物質の使用が続いている現状では、どれだけ新しい抗生物質が出たところで、さらに「強い耐性菌」を出現させるだけではないかとも思います。
日本の医療現場でも、イギリスほど過剰だとは思いたくないですが、しかし、ある程度は似たような処方状況になっているような気はします。
私は今はもうずっと病院に行っていないのですが、かつて風邪で病院に行きますと、対症療法薬と共に抗生物質が処方されていたことを思い出します。お医者様も「ウイルス感染の風邪に抗生物質は無効」であることを知っていて、「それでも出す」という現状は西洋医療の黙示録的状況をさらに加速させていきそうです。
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