11月20日の米国FOXニュースより
「イギリスの気象当局が、太陽からの磁気嵐による壊滅的な被害に対しての警告を発した」というニュースが欧州やアメリカで報道されていました。
その発表は、
「イギリスは、国家として 100年から 200年に 1度という規模の太陽嵐の危機への備えをしなくてはならない」
という内容のもので、そりゃまあ、そういう超巨大な太陽フレアなどによる磁気嵐に地球が見舞われたとすれば、大変なことになるわけですけれど、こんな発表をした「時期」が「奇妙だなあ」と思った次第で、むしろ気になったニュースとなってしまいました。
これまでの In Deep の記事でもよく取りあげていますけれど、「もはや太陽活動は、過去数百年で最低クラスにまで弱まっている」のです。
しかも、現在は、そのような状態の中の、さらに「太陽活動極小期」であって、すでに太陽活動による脅威を語るような時期ではないと思うのですが、そういう時期に発表されていたというのが興味深かったです。
まずは、その内容をご紹介します。
英国サンの報道を引用した、アメリカの FOX ニュースの報道です。
Space storms could cause mass blackouts and destroy computers, gov't agency warns
FOX News 2018/11/20
宇宙からの磁気嵐が大規模なブラックアウトを引き起こし、コンピュータ群を破壊する可能性があると政府機関が警告
英国の機関が宇宙嵐が壊滅的な被害を引き起こす可能性があると警告した
イギリス気象庁による新しい調査によると、巨大な太陽嵐が大規模停電(ブラックアウト)を引き起こし、コンピュータ群を破壊した上に、インターネット網とあらゆる通信を停止させる可能性があることが分かった。
これらの宇宙嵐は英国だけで160億ポンド(23億円)の壊滅的な被害をもたらす可能性がある。
イギリス気象庁長官は、このような太陽嵐の発生頻度は 200年に 2〜 3回くらいだが、現代社会を直撃した場合、その被害は途方もないものとなると語った。
このような巨大な磁気嵐を発生させる太陽フレアは、地球上に強烈な磁場を発生させ、その磁気の炸裂状態の中で、精密な電子機器の回路等は燃え尽きる可能性があり、火災にさらされる可能性もある。
イギリス気象庁は次のように述べている。
「宇宙天気の予報機能を持たない中で 100年に 1度のこのような磁気嵐事象が発生した場合、イギリスへの国内総生産(GDP)損失は非常に大きなものとなる」
「人工衛星の寿命が近づくにつれて、宇宙天気の予測能力は今後低下するだろう。投資がなければ、重要なインフラは宇宙天気の影響を受けやすくなる」
この調査報告書は、英国南極観測局(British Antarctic Survey)と、ラザフォードアップルトン研究所(Rutherford Appleton Laboratory)、ケンブリッジ大学の科学者たちが共同で作成したものだ。
報告書で科学者たちは、英国は早期に太陽嵐に対しての警戒システムを構築すべきだと述べている。
人工衛星のネットワークによる太陽の監視は、少なくとも、1週間先程度の期間の太陽フレアの発生を予測することができると考えられる。
したがって、その予測に従って、英国内の電力グリッドは、そのネットワーク網に対しての準備をし、政府は国内のコンピュータの使用者たちに、機器の電源を切るように警告を発することができる。
現在、太陽を観測する人工衛星はいくつか存在する。1995年に打ち上げられた SOHOや、2006年から運用されている STEREO などがそうだ。
しかし、これらの太陽観測衛星は、長い期間、宇宙放射線にさらされており、その観測機能が停止する日が近づいている。
1859年、巨大な太陽フレアが発生して、数分間、太陽の明るさを 2倍にした。その後、地球の地磁気が急増し、ヨーロッパ全域の電信線に強力な電流が流れ、火災が広がった。
1989年にはカナダのケベックを襲い、電力ケーブルを焼き尽くして大規模な停電を起こした。
研究者は、このような事態がイギリス全土の高電圧ケーブルや変電所を破壊させる恐れがあることを懸念している。
イギリス内閣府は、最近、太陽嵐を国の最も深刻な自然災害のひとつと位置付けるための国家緊急災害計画を更新した。
こういうものなのですが、これが、太陽活動の最大期に発表されたのなら逼迫感もありますが、もう現時点で、「ほとんど活動していない太陽」を天に持つ状態の今は、少なくとも「巨大な太陽フレア」というものが起きる可能性は、ほぽないと思われます。
なので、この国家計画は「 10年くらいかけてのんびりと」でいいようにも思うのですが、内容はそういうことを語っていません。
普通に考えれば、このイギリスの発表は、一般論としての研究と発表ということで、それを各メディアが大げさに取りあげただけというものなのかもしれませんので、緊急的な時事ではなく、単純な海外の国内政治的な話として理解するのがいいように思いました。
・・・というように、他愛のない話としてやり過ごせばいい、と思っていたのですけれど。
普通に考えれば、「そんなことを専門家たちが知らないはずがない」のです。
太陽活動の現在の状況も、そこから(一般的な知識として)予測し得る今後の動向もわからないわけがないのです。
それなのに、何だか緊急メッセージ的な響きを持つものとして発表されているということになっているわけで、その実際の意図はよく分からないですけれど、ひとつ思うのは、過去記事で何度も取りあげていますけれど、
「今の太陽は明らかに異常」
だということがあるわけです。
たとえば、昨年 2017年9月6日には、太陽活動はとても弱い状態だったのにも関わらず、27年ぶりの強大なレベルとなる太陽フレアが発生しました。
それは、以下の記事で、緊急記事として書かせていただきました。
[緊急]1990年以来27年ぶりに強力な「 X 9.3 」の太陽フレアが突然噴出される。コロナ質量放出が地球方向へ進行している可能性。影響は現時点では不明
結局それほど大きな影響はなかったのですけれど、何より驚いたのが、この頃は、すでに太陽活動は「過去数百年で最低のレベル」に達していて、そんな太陽フレアが発生するなど想像もつかないことだったということでした。
この記事の中で、私は以下のように書いています。
もっとも驚くべきは、もう太陽はずっと静かなままだったわけで、そして現在は「活動の縮小期」に突入している中で、このような過去数十年で最大規模の太陽フレアが発生したということです。
(In Deep)
あるいは、今年 5月の以下の記事では、太陽に「コロナホール」と呼ばれる「磁気の噴出エリア」の面積が年々増えていることや、「宇宙線と太陽活動の関係が崩壊しつつある」ことなどを記しました。
さまざまな方向から見て、太陽はこの数年、異常のようなのです。
思えば、2016年 10月、「すでに太陽活動は極小期に向かっていた時期」なのにも関わらず、アメリカでは、当時のオバマの大統領が、
「太陽嵐に対して国家的な準備をせよ、という大統領令」
を発布したことを記事で取りあげたことがあります。
2016年10月13日の米国ホワイトハウスの大統領令の発表サイトより
アメリカ合衆国の大統領行政府という部署に、2015年、「国家宇宙天気行動計画 (National Space Weather Action Plan)」という機関が設立され、これは要するに、巨大な太陽嵐に対しての準備に関しての国家機関なのですが、2015年11月に、以下のように報じられていました。
Science Alert 2015/11/07
ホワイトハウスは、私たちの生活を暗黒時代に戻してしまう可能性を持つ巨大な太陽嵐のための準備を始めた
ホワイトハウスの国家科学技術委員会は、極端な宇宙天気事象への準備のための戦略的計画を発表した。
太陽活動による極端な宇宙天気事象が発生した場合には、人工衛星、宇宙艇、および地上の重要な通信システム等が破壊される可能性がある。これらの電気系統の多くはお互いに依存しているために災害時には連鎖した壊滅的な被害を受けやすい。
国家科学技術委員会の報告書では、ホワイトハウスは 24の省庁と機関、および、支局に呼びかけ、次の 2年以内に各機関が太陽からの影響に対しての政策の基準に達するための呼びかけをおこなうとしている。
この時期も、すでに太陽活動は最大期を過ぎていて、大きなフレアを含む爆発的な太陽活動が起きることは考えにくい頃なのに、このように国家的な計画として、このようなものが「急ピッチ」で進められていました。
そして、今回のイギリスの緊急警告的な発表。
「何かが太陽に起きていることを知っていての発言なのかな」
とも、ふと思ったりもしますけれど・・・まあ、そのあたりはわからないです。
この数年、太陽がやや異常であることは事実で、そのような状態の中で、予想もしないような活動が勃発するという可能性がないとは言えないのかもしれません。
なお、太陽自体の活動によって発生した磁気嵐なら、発生から地球に到達するまで、48時間から 72時間くらいまでの猶予がありますので、準備はできます。
しかし、社会システムそのものが崩壊するような影響のある超巨大な太陽フレアの場合は、個人個人での準備があっても、その後どうにもならない可能性はあります。
とはいっても、個人的にはそんな太陽活動は発生しないとは思うのですが…。