1971年の米ニクソン大統領。 National Archive
金本位制の復活法案が50年ぶりに提出される
最近、「ドルの崩壊」について、いくつかの記事を書かせていただいたことがありました。書かせていただいたというか、専門家の方の文章を翻訳しているだけですが、以下のような記事があります。
・ドルの崩壊が、曖昧ではなく始まった
In Deep 2023年4月6日
最近の驚きとしては、ものごとの進み方が早い、ということです。
この数週間くらいの間だけで、貿易や取引において、「ドルを放棄する」あるいはそれを検討している国は、以下のようになっています。
2023年3月に「ドルからの離脱を実施、あるいは検討」した国
・ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ (報道)
・ASEAN (インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス) (報道)
・サウジアラビア (報道)
・ケニア (報道)
これらの国を合わせれば、人口規模だけでも世界を圧倒するものとなりますし、経済規模でも、今や弱体化した欧米と比較すれば、圧倒的であると見られます。
なお、インドネシアは、VISA カードやマスターカードなどの外国の決済システムの「段階的廃止」も実施する予定で、自国のクレジットカードに、順次切り替えていくと報じられてもいます。
これらの国のうちの、特にインドや中国、ロシア、ブラジル、インドネシアなどの大国は、「現時点で、ドルから離脱できる体制」がすでに整っているということになり、
「いつでも完全な脱ドルを実施できる」
という状態です。
そういう状態に世界がある中で、アメリカ国内からも、「現行の米ドルからの離脱の希望」を伺わせる法案が提出されました。
それは、
「金本位制を復活させる」
という法案です。
共和党の 3人の議員により提出されました。
提出された法案 HR2435
To define the dollar as a fixed weight of gold, and for other purposes
金本位制とは、それ自体の意味は以下のようなものです。
> 金を通貨の価値基準とする制度。各国の中央銀行が発行した紙幣と同額の金を保有し、いつでも相互に交換することを保証する。
>
> 19世紀から20世紀の初めにかけて世界で取り入れられていたが、1929年の世界恐慌以降、相次いで廃止。金の保有量とは関係なく中央銀行の管理の下、自国の経済に見合った貨幣を発行する管理通貨制度に移行した。 (野村證券)
その後、第二次世界大戦の後から、1971年まで、以下のようなことになっていました。
ブレトン・ウッズ体制
ブレトン・ウッズ体制は、1944年7月に連合国通貨金融会議(45か国参加)において締結され、1945年に発効した「ブレトン・ウッズ協定」に基づいた第2次世界大戦後の国際通貨制度を意味する。
そこでは、米ドルを資本主義国の基軸通貨とし、金1オンス=35ドルと定め、ドルと金との兌換を保証した上で、米国以外の各国は自国通貨を米ドルに対し固定する「金為替本位制度(金ドル本位制度)」が採用された。
なお、円については、1949年以降、1ドル=360円(変動幅±1%)という公定相場が設定された。ブレトン・ウッズ体制は、1971年8月のニクソン・ショックにおける「金・ドル交換停止」によって事実上崩壊した。 (みずほ証券)
ドルだけではなく、現在のお金というものは、実質的に裏付けされる価値がないものであり、「信用」という幻想に基づいているものです。
そして、現在のように、主要国はどの国も債務ばかりが積み上がっているわけですが、こんな状況に至るまで、延々と「お金の印刷の暴走が続いた」ことが、結局、ドルの死、あるいは以下の記事にありますように、「お金すべての死」というものに至る可能性さえ出てきています。
・過去数百年続いたマネーの「死」までの秒読み
In Deep 2023年3月21日
そういう中で、アメリカで、金本位制復活法案が提出されました。
「金本位制に関する法案が出されたのは、半世紀以上ぶり」ということでもあるようです 。
その法案について報じたアメリカの記事をご紹介します。
3人の議員がドルの価値を安定させるためにゴールドスタンダード法案を提出
Three Congressmen Introduce Gold Standard Bill to Stabilize the Dollar's Value
moneymetals.com 2023/04/04
アメリカがインフレと銀行破綻という 2つの脅威に直面する中、3人のアメリカ議会議員が、半世紀以上ぶりに連邦準備制度の紙幣である「ドル」が安定した足場を取り戻すことを可能にする、極めて重要で健全なマネー法案を提出した。
アレックス・ムーニー下院議員 (共和党-ウェストバージニア州)、アンディ・ビッグス下院議員 (共和党-アリゾナ州)、ポール・ゴサール議員 (共和党-アリゾナ州)が、不安定な連邦政府の再調整を促進するために、「法案 HR 2435 / ゴールドスタンダード復元法」を提出した。
この法案 HR 2435 が可決されると、米国財務省と連邦準備制度理事会は、すべての金 (ゴールド)の保有と金の取引を公開するために 24か月の時間が与えられる。その後、連邦準備制度の紙幣「ドル」は、その時点で金の固定重量に正式に再ペッグされる。
連邦準備銀行債は、新しい価格で完全に償還可能になり、それは金と交換可能となり、米国財務省の金準備が連邦準備銀行を保証することになる。
金融の専門家たちは、金本位制への復帰は、インフレ、暴走する連邦債務、および金融システムの不安定性によって引き起こされる経済的損害を大幅に削減すると指摘している。
ムーニー議員は声明で、「金本位制は、アメリカ政府の無責任な消費習慣や無からのお金の創造を防ぐだろう」と述べた。
「物価は、官僚たちの本能によって作られるのではなく、経済自身によって形作られるようになるだろう。アメリカの家庭、企業、経済全体が、連邦準備制度理事会や政府の無謀な消費に翻弄されることはなくなるだろう」
このゴールドスタンダード復元法は、連邦準備制度が日常のアメリカ人たちに与えた損害についてもいくつかの結果を示している。特に、リチャード・ニクソン大統領が 1971年にアメリカの通貨システムへの金の支援を「一時的に停止」して以来の損害だ。
法案 HR 2435 は次のように指摘している。
「歴史家たちは、通貨システムから金の償還可能性を排除したことで、中央銀行や連邦政府の高官たちがマネーサプライを拡大したり、数兆ドルの債券購入を通じて政府の赤字に資金を提供したり、経済を操作したりする際の説明責任から解放されたことを観察している」
「 2021年と 2022年を含む時として、連邦準備制度理事会の行動は 8%以上のインフレ率を生み出し、金融資産の所有者を豊かにする一方で、多くのアメリカ人たちが生活費を維持できないレベルまで物価を上昇させた…特に、ブルーカラー労働者たちの雇用、賃金、貯蓄において、それが顕著だった」
このムーニー議員たちによる法案は、過去 60年間のすべての中央銀行と米国政府の金の保有と金関連の金融取引の完全な開示も要求している。
「市場と市場参加者たちが、連邦準備制度の固定ドルと金の平価に、整然と到達できるようにするために、長官と連邦準備制度理事会は、1944年のブレトンウッズ協定の下で、1971年 8月15日の一時的な償還義務の停止以降の時期に行われた、金の購入、販売、交換、賃借、および、金に関連するその他の金融取引の報告とともに、アメリカの金のすべての保有量をそれぞれ公開するものとする」
ニクソンがパニックに陥った金の償還の「一時停止」に至るまでの数年間、米国の赤字支出の乱用と通貨の下落により、多くの外国中央銀行が連邦準備制度の紙幣を金に換えるよう促された。
しかし、このアメリカの金保有量の解体は、大部分が秘密裏に行われた。
そのため、法案 HR 2435 は連邦準備制度理事会と財務省に対して、「 1971年 8月15日に金の償還が一時的に停止される前の 10年間の米国の金の償還と譲渡に関するすべての記録」を開示することも要求している。
これについて、経済教育財団の名誉会長であるローレンス・W・リード氏は、次のように述べている。
「政府は、通貨と私たちの経済に実存的な脅威をもたらさずに、大規模な支出と紙幣の印刷を続けることはできない」
「金本位制がアメリカを裏切ることは決してなかった。悪い考えや悪い政治家たちが裏切った。今、私たちが何もしなければ、破滅への道を膨張させた初期の文明の死と同じように、災害が私たちを待っているだろう」
超党派の公共政策グループであるサウンド・マネー・ディフェンス・リーグの代表であるステファン・グリーソン氏は、以下のように述べる。
「今日の債務ベースの法定通貨システムは、主に大きな政府と裕福な金融関係者を支援するのには役立つが、連邦準備制度理事会の一連の通貨の価値低下政策は、貯蓄者と賃金労働者に損害を与える」
「金の償還可能性に戻ることは、インフレの問題を阻止し、無駄で非効率な政府の成長を抑制し、アメリカの繁栄のエキサイティングな新時代の幕開けとなるはずだ」
ムーニー議員の金本位制法案の全文は、こちらにある。これは 2023年 3月 30日に提出され、下院金融サービス委員会に付託された。
ここまでです。
最近、国の法案にしても州法案にしても、共和党方面から出されるものには注目すべきようなものも多いです。最近では、アイダホ州で、mRNAワクチンの接種を犯罪とする法案が提出されています。
・米アイダホ州で「mRNAワクチンの接種を犯罪とする法律」が提出される。共和党ベースの同州では、法案が成立する可能性が高い
In Deep 2023年2月20日
数日前に、民主党の議員が、民主党を離脱して、共和党に移行することを発表していました。
・ノースカロライナ州の民主党議員が共和党に転向。これにより共和党は過半数を完全に確立 (2023/04/08)
これにより、アメリカ議会において、共和党に拒否権を発動できる過半数を獲得したということですので、今後も何らかの法案や要求は提出される可能性がありそうです。
現在、世界中で噴出しているアメリカ、あるいは政府への反発の噴出は、結局、パンデミック中の異常な世界的政府管理体制の副作用でもあるわけで、そういう意味では、2020年から 2022年というのは、無意味でもなかったのかもしれません。
>> In Deep メルマガのご案内
In Deepではメルマガも発行しています。ブログではあまりふれにくいことなどを含めて、毎週金曜日に配信させていたただいています。お試し月は無料で、その期間中におやめになることもできますので、お試し下されば幸いです。こちらをクリックされるか以下からご登録できます。
▶ ご登録へ進む