放射能をめぐる生物の多様性が示す真実はいったいどのようなものなのか
・2011年12月に米国サウスカロライナ州で「微生物が見つかった」原子力発電所の核貯蔵プール。io9.gizmodo.com
「放射能と生物」ということに関して興味深い報道を目にしまして、そこから過去の複数の記事でご紹介した海外の記事のいくつかを思い出しました。それらを順番にご紹介していきたいと思います。
いろいろと思うところもありますが、ここでは客観的に報道と事例を羅列するだけにしたいと思います。その様々の事例が物語ることは一体何なのかを先入観なしに皆様と共に考えられれば、と思っています。
放射能について私たちが「何かの先入観」ですべて一瞬で判断するようになって久しいですが、冷静に考えるべき何かがそこにあるのではないかと私は 2011年以来思うようになっています。
先ほども書きましたけれど、今回の記事は主観を基本的に書かないことにします。なんだかんだと私も思い入れの強い人ですので、主観を書き始めると、変な方向に進む可能性もありますし、そうなるとご紹介している記事を「客観的に読まれてほしい」という意志とは違うことになってしまいます。
というわけで、まずは目にした記事をご紹介いたします。それは、週プレNEWSの下の記事です。
抜粋にしていますので、全文お読みになりたい方は、下の記事のタイトルのリンクからオリジナルを読まれて下さい。
「原子炉のたまっている水の中に生物の姿が!」
週プレNEWS 2018/03/05
「なんだ、あのマリモみたいなものは?」「大至急、あの水を調べさせてほしい!」
東京工業大学地球生命研究所特命教授の丸山茂徳氏は、東京電力福島第一原子力発電所の原子炉格納容器内の映像を見てそう叫んだという。
「昨年から公開されている原子炉内の映像を見て、実に多種多様な生命体がいることに驚きました。しかも、活動しているのは目に見えないミクロン単位のバクテリアや細菌だけでなく、藻類や動物・植物性プランクトンなどミリ単位の多細胞生物が繁殖している可能性が高い。」
「水中のあちこちに沈殿した泥土や水あかのような物質、2号炉の水没した部分に広がる黒や深緑色のシミなども、事故由来ではなく、生命活動によって発生したものでしょう。2、3号炉の金属部分の緑色や、平面に付着した黄土色とオレンジ色の物質は藻類などの群集体でバイオフィルムとも呼ばれています。これは自然界では河原の石などに付着し、好物のミネラルや金属イオンなどを栄養にしながら成長し続けるのです」
「1、2、3号炉すべての水中に漂う半透明の物質も、おそらくバイオフィルムの剥離片や生きたプランクトンでしょう。これは水の対流に乗って浮遊しているように見えますが、もっと念入りに観察をすれば、自立して泳ぐ生物が見つかるかもしれません」
今年1月に調査した2号機格納容器底部の放射線量は毎時8Sv(シーベルト)。人間なら1時間で死亡してしまうほどの高線量だ。これだけの高線量の中で、生物が生き延びることはできるのか。
ここまでが抜粋です。
東京電力福島第一原子力発電所の原子炉内の水は、8Sv(シーベルト)というようなレベルの、大変に高い放射線に満ちている場所なのですが、つまりは、
「そこで多種多様な生物が繁茂していた」
ということなのですね。
私たちの多くが「何となく持つ観念」としては「高濃度の放射線に満たされた場所は《死のエリア》である」というようなことだと思います。
しかし、2011年の東北の震災と、そしてそれに伴う原発の事故以来、私は「高濃度の放射能とそこに生きる生物」について、海外で報道があった場合に、なるべく紹介するようにしていました。
古いものでは、震災前の 2010年のものあり、なかなか目にふれる機会もないと思いますので、今回それらから抜粋し、振り返って記事をご紹介したいと思います。
すべて海外の記事、あるいは科学的調査の論文の翻訳などです。
先にそれらの記事を掲載した過去記事のリンクを示しておきます。
高濃度の中の生物たちの記事のリンク(公開の新しい順)
・放射線の長期被爆によっての遺伝子への損傷は「ない」ことがマサチューセッツ工科大学の実験で判明
In Deep 2012/06/27・チェルノブイリの野生動物は事故後の放射能の影響を「受けていなかった」調査結果が英国の王立協会の学会誌で発表される
In Deep 2012/04/16・未知の生物?: 使用済み核燃料の中で「成長するもの」が米国の核保留地で発見される
In Deep 2011/12/20・驚異の生命:広島型原爆の3000倍の放射能濃度の中で生きられる微生物
In Deep 2010/04/20
それぞれの記事の翻訳から主要な部分を抜粋します。これらの科学記事には長いものが多いですので、全体に関しては過去記事そのものを読まれていただければ幸いです。文末にリンクを示しておきます。
まずは、2012年の米マサチューセッツ工科大学のニュースリリースで発表されたものです。
2012年5月 マサチューセッツ工科大学「長期間にわたる放射線の被曝に関しての新しい見解」より抜粋
・A new look at prolonged radiation exposure
米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の科学者たちが、学術専門誌「エンビロンメンタル・ヘルス・パースペクティブ」に発表した研究発表によると、複数のネズミに5週間にわたっておこなわれた「自然放射線の 400倍の放射線」の照射実験で、そのネズミたちの DNA に損傷が観察されなかったことがわかった。
マサチューセッツ工科大学の工学部で原子力科学を専門とするジャクリーン・ヤンチ博士は、「今回の論文が示しているのは、平均的な自然放射線との比較で 400倍もの放射線であっても、遺伝子の損傷を検出できなかったということです」
長期にわたる低線量の被曝の影響を測定した研究は現在に至るまで非常に少ない。今回の研究は、自然放射線の 400倍の水準という放射線量での遺伝子の損傷を測定した最初の研究になる。
今回の研究は5週間で終わったが、エンゲルワード博士たちは、それより長い実験期間でも同じ結果になると考えている。
「この実験で学んだのは、自然放射線の 400倍のレベルの放射線でもそれほど細胞は損傷しないということです。生物はすぐれた DNA の修復システムを持っているということが合わせてわかりました。私の推測では、5週間以上の長期間 400倍の放射線を浴び続けても、 DNA はさほど重大な損傷を受けないと思われます」。
(この記事をご紹介した In Deep の過去記事のリンク)
ここまでです。
次は、ロンドン王立協会の主催で長期間にわたっておこなった、チェルノブイリ事故現場周辺地域の大規模な「生物の状態の調査」の結果です。これは 20年間にわたる調査で、信頼度には非常に大きなものがあると思われます。
先に結論を書きますと、
「チェルノブイリでは野生生物への重大な損傷を見いだすことはできなかった」
というものです。これは 2012年の論文ですが、論文を書いた英国ポーツマス大学のジム・スミス教授は、「これは福島にも当てはまるだろう」と述べています。つまり「福島の自然とその野生生物も被害なく健全に成長するだろう」という意味です。
その記事です。
2012年4月の記事「原子力災害後に野生動物たちが繁栄している? チェルノブイリの原子力事故での放射線は懸念されるように野生生物に被害を与えてはいなかった」より
もしかすると、チェルノブイリや福島での原発事故による放射能は、これまで考えられているほど野生動物に対して有害ではないのかもしれない。
英国ポーツマス大学のジム・スミス教授と調査チームによる最新の研究は、1986年4月に発生したチェルノブイリの壊滅的な原発事故に対しての初期の調査報告に対しての嫌疑と再確認を含めてのものだった。
この内容は、日本の福島で 2011年に発生した原発事故での野生生物への影響についても当てはめて考えることができると思われており、放射能の生物学的影響についての議論について進める中で重要な論文となる可能性がある。
今回の研究を率いたポーツマス大学地球環境科のジム・スミス教授は以下のように述べる。
「これまで、チェルノブイリ事故の野生生物に対しての放射能の被害についての報告や調査を私たちは数多く見てきましたが、しかし、実際には重大な損傷を見いだすことはできていませんでした。そのため、私たちは以前から、事故後の自然環境と野生生物への悪影響については確信を持てなかったのです」。
「そして、私たちの今回の調査と研究では、放射能による若干の野生生物への影響はあり得ても、長期的に見れば、チェルノブイリの立ち入り禁止区域(閉鎖地域)での野生生物の生体数は回復し、増大しており、むしろ以前より良くなっていることを見いだしたのです」。
「チェルノブイリの事故直後には、とても高い放射線のレベルが生物たちに深刻な影響と損害を与えたことは明白です。しかし、その後の、野生動物に対しての長期間の悪影響はまったく見いだせてはいません」。
「事故の後も、チェルノブイリの閉鎖区域にとどまり調査を続けてるベラルーシとウクライナの科学者たちによれば、事故以降、地域では事故前より野生生物の個体数が大きく増加したことが報告されていることも事実です」。
(この記事をご紹介した In Deep の過去記事のリンク)
ここまでです。
それと、今回の「福島の原子炉で生物が見つかった」というのと似たようなことがかつて何度か見出されていることについてもご紹介して記事を締めたいと思います。
ひとつはアメリカの原子力発電所の核貯蔵プールで生物と思われるものが見つかったというもの、もうひとつは中国で「耐放射能の細菌が見つかった」というものです。
並べてご紹介します。
まずは、2011年12月のアメリカでの報道です。
2011年12月のアメリカの科学報道「核廃棄物の中で、『謎のクモの巣状に成長する白い物質』が発見される」より
・Mysterious "white web" found growing on nuclear waste
米国サウスカロライナ州の核特別保留地にある米国エネルギー省の科学者たちは、使用済み核燃料の燃料集合体のラックの中で、クモの巣状に「成長」している奇妙なものを発見した。
防衛核施設安全委員会(DNFSB)による報告によると、成長するそれらは、まだその特徴が確定されたわけではないが、事実上、この「クモの巣状に成長し続ける」ものが生物的な特徴を持っている可能性があるとしている。
サンプルから、その特徴を決定づけるのには、その「物」はあまりにも小さく、さらなる評価への検討が必要だと安全委員会のレポートは主張している。
この「成長」がクモの巣と似ているという事実と、生物学的特徴を持つかもしれないということ以上のことは現在はわからない。しかし、極限環境微生物の未知の種かもしれないという可能性はあり得る。
この貯留地では、深さ6メートルから9メートル程度の貯蔵プールに核廃棄物を保管している。伝えられるところでは、その深さでも水中の燃料集合体での「成長」を見ることができるという。
続いて、中国での報道です。
2010年の4月の報道「耐放射能の細菌、世界初の発見 ― 新疆ウイグル自治区」より
2010年4月20日、中国新疆ウイグル自治区の新疆農業科学院微生物応用研究所の石玉瑚研究員らのグループが、耐放射能性の真菌と放射菌を発見した。
研究員によると、一般の細菌は 2000-5000グレイですべて死滅するが、今回発見された微生物は 1万-3万グレイでも生きられる。広島、長崎型原爆の放射線量は 10グレイ。ヒトは 5グレイで 1時間しか生存できない。
研究グループは、2003年から、新疆ウイグル自治区内の高レベルの放射線に汚染された土壌を対象に耐放射能性の生物資源の研究を続けていた。今回発見された微生物は、将来は原子力発電所や核廃棄物の処理、宇宙・航空、農業、医療などの分野で応用できる可能性がある。
ここまでです。
先ほど書きましたように、特に感想や主観は書かないですが、これらの事実を皆様はどのようにお考えになられるでしょうか。
「放射能の真実」というものはどういうものなのかが、もう少し確実にわかり、「誠実に」説明されるようなことがあれば、福島をはじめとして、いろいろな場所の方々も安心や安寧が得られるのではないかと思うのですが。