アメリカ軍が2012年に開発したメカの「蚊」
南米から始まり、次第に世界的な規模の拡大を見せているジカウイルスですが、これが懸念されるのは、妊娠した女性が感染した場合、胎内の赤ちゃんが「小頭症」となってしまう可能性が取りざたされているからです。
ジカウイルスと小頭症の因果関係については、これまで、妊娠中にジカ熱にかかったことが確認されている女性たちから小頭症の赤ちゃんが多く生まれているということ以外には、この関係性は確かめられていませんでした。
しかし、最近のブラジルの研究により、ジカウイルスに感染した妊婦の方々の「羊水」、さらには生まれた赤ちゃんの「脳内」から、それぞれジカウイルスが検出されたことが発表されました。
これにより、ジカウイルスが「胎内にいる赤ちゃんに感染する可能性」が非常に大きいことがわかったといえるようにも思います。
しかし、過去の流行地域などを見ていると、どうも違和感を感じる部分があったりするのですが、それを含めて、最近のジカウイルスについて、いくつかのことを書いておたきいと思います。
バチカンはジカウイルスの流行に対してどのような態度で挑むか
2016年2月17日のワシントンポストより
・Washington Post
このフランシスコ法王のニュースは、特に何だということではないのですけれど、天下のワシントンポストが、「フランシスコ法王が出国すると共に、メキシコで妊娠中の女性のジカウイルスの症例が確認される」というタイトルの、まるで、
「法王とジカウイルスが一緒に行動している」
というようなニュアンスにもとれないでもないような見出しをつけていたのが印象的だったんですが、この記事の眼目は、下の部分にあります。
ワシントンタイムズの記事より抜粋
2013年のアメリカの雑誌でのインタビューにおいて、フランシスコ法王は、妊娠中絶や避妊、あるいは同性愛者同士の結婚について、いつもいつも話す必要はないと語っている。
しかし、教会の教えは、女性が中絶や避妊への道を許可する支持者たちに反対する立場にある。
ジカウイルスが流行して以来、いくつかのラテンアメリカ諸国の保健当局者は、女性たちに「妊娠しないように」と助言してきた(基本的に、カトリックの教えに反した言葉)。
その助言の理由は、妊婦がジカウイルスに感染した場合、生まれてくる赤ちゃんが異常に小さな頭を持って生まれてくる小頭症と呼ばれる先天性障害を持つ可能性と関係があると懸念されているからだ。
敬虔なカトリックの教えに則っているラテンアメリカは、女性が妊娠した場合、性的暴力が原因の妊娠や、胎児や母体の生命に関わる場合など一部の例外を除いて、ほとんどの地域で中絶を禁止している。
2月のはじめ、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、ラテンアメリカ諸国に対して、女性たちの避妊や中絶の権利を制限する国の政策を廃止するように呼びかけた。
というもので、つまり、ジカウイルスの感染が小頭症と関係あるとされている現在、一種の非常事態的な部分があると国連は考えているようで、そのために、
「避妊と中絶を禁止している国の、その政策をやめてほしい」
と南米各国にアピールしているようです。そして、「バチカンとローマ法王は、実際にジカウイルスの渦中にある南米で、それに対して、どのような態度やコメントを示すのか」ということが焦点のひとつであったようです。
結局は、フランシスコ法王は、メキシコなどでもジカウイルスや避妊などのことについては一切ふれなかったようです。
そして、そんな中、フランシスコ法王が6日間の南米の歴訪を終え、法王がメキシコから出国したその日に、「メキシコで初めて妊婦のジカウイルス感染者が確認された」というタイミングが生じたのでした。
ちなみに、今回のフランシスコ法王の南米歴訪は、いろいろなことが起きていました。
まず「激オコ」の件。
ローマ法王、怒りあらわ 若者に引っ張られ、あわや転倒
朝日新聞デジタル 2016/02/18
メキシコを訪問していたローマ・カトリック教会のフランシスコ法王が16日、中西部モレリアのスタジアムで地元の若者たちとの集会に出席した際、参加者の一人に引っ張られて転びかけ、珍しく色をなす一幕があった。
欧州メディアも、「法王が珍しく平静を失った」と驚きをもって映像を伝えた。
かなりお怒りになっていたようで、ちょっと見には、プロレスのリングの外と内で言い合いをしているようにも見えて、「 Pope, Rope ! (法王さま、ロープへ逃げて)」なんてフレーズが浮かんだりしますが、そもそも、この歴訪では、
「法王が乗った飛行機が狙われていたかもしれない」
というようなこともありました。
ローマ法王搭乗機にレーザー照射あった、メキシコ着陸時
CNN 2016/02/18
イタリアのアリタリア航空は17日、ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王の搭乗機がメキシコの首都メキシコ市の空港への着陸態勢に入った際、乗員の1人が地上からレーザー光線が照射されるのを目撃したとする声明を発表した。
近くにいた別の航空機の関係者もレーザー照射を見付けたとしている。エアバス社製のA330型機のアリタリア航空機は無事に着陸していた。レーザー光線が原因の負傷者はいなかったとしている。
ローマ法王庁は、レーザー照射の事件は後になって初めて知ったと発表した。
飛行機の操縦士を狙ったレーザー照射は、年間 4000件以上起きていて、場合によっては大きな事故になり得るものですので、今回の件も法王機を狙ったものかどうかはわからないですが、わりと危ういことが起きていたようです。
現法王については、いろいろと感じることもある方ではありますが、しかし、この「南米」は、現在のキリスト教にとって非常に重要な場所ではあります。
今年の初めの、
・クリミア半島や火星に見られるイエス・キリストの姿から思う「神の創造を否定したバチカン」の今後
2016/01/03
という記事に書いたことがありましたが、昨年はバチカンを訪問する人の数が大幅に減少し、また世界全体として、キリスト教徒自体の数も減っていますが、その中でこれからも減ることはないと考えられるのが、中国と南米諸国だと思われるのです。アメリカやヨーロッパでは減り続けています。
2011年の全世界のクリスチャンの数は、ピューリサーチセンターのデータによれば、下のようになります。
キリスト教信者の数が多い10カ国
1位 アメリカ 2億4800万人
2位 ブラジル 1億7600万人
3位 メキシコ 1億800万人
4位 ロシア 1億500万人
5位 フィリピン 8700万人
6位 ナイジェリア 8100万人
7位 中国 6700万人
8位 コンゴ民主共和国 6300万人
9位 ドイツ 5800万人
10位 エチオピア 5300万人
となっています。
ちなみに、日本のキリスト教徒の数は、東京基督教大学の調べでは、2014年時点で約 104万人だそうで、これは人口の 1%以下となり、多くの主要国の中でダントツで低いです。
うーん、何だか話が違う方向に行ってしまいましたが、ジカウイルスに戻します。
ジカは変異した?
2016年02月18日の英国BBC報道
・Zika virus: Study supports link to microcephaly
冒頭にも書きましたが、ジカウイルスのパンデミックが恐れられているのは、妊娠した女性が感染すると、赤ちゃんに大きな影響が出る可能性が懸念されているからです。
もちろん、お母さんから胎内の赤ちゃんに感染する細菌やウイルスは、他にも数多くあります。
胎児に大きな影響を与えるものとして、梅毒や、肝炎ウイルスや HIV などが知られていますが、妊婦さんが感染した場合、赤ちゃんに重篤な先天性の影響を与える可能性が示されているものについては、それらの頭文字を取って「 TORCH (トーチ)症候群」と呼んでいます。
TORCH症候群
TORCH症候群とは、母体の症状は軽微であるが、妊娠中の感染によって胎児に奇形または重篤な母子感染症を引き起こす恐れのある疾患の総称。
以下の英語の頭文字をとって名づけられている。・トキソプラズマ症(Toxoplasmosis)
・風疹(Rubella)
・サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus)
・単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus)
・その他(Other):B型肝炎ウイルス、コクサッキーウイルス、EBウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス,梅毒など
となっていまして、これらも重症の場合は、赤ちゃんが小頭症や水頭症、あるいは視聴覚の障害を持ってしまうと説明されています。ジカウイルスも、今まで知られていなかっただけで、今後おそらくこの TORCH 症候群の中に入れられていくことになりそうな感じがあります。
ちなみに、ジカウイルスの「現在の流行地」と「過去の流行地」は以下のようになっていて、過去にもずいぶんといろいろな地域で流行していたことがわかります。
色の濃いところが現在の流行地。薄いところが過去の流行地です。
それにしても、過去にこれだけの地域で流行しながら、「小頭症」との関係性が言われたのは今の南米の流行が初めてのような気がします。
うーん、あるいは・・・もしかすると、ジカウイルス自体が感染拡大の途中で変異か何かを起こしたのですかね。
ウイルスというのは構造が単純なだけに、結構激しく突然変異と「進化」を続けているもののようで、たとえば、エボラウイルスの流行の時も、
・エボラウイルスのゲノムが判明。その遺伝子数は「たった7個」。そして現在、エボラウイルスは急速に「突然変異」を続けている
地球の記録 2014/08/30
という記事などに書きましたように、ウイルスというのはどんどん変化していくもののようです。
そして、そのたびに、ウイルスは「新しい特性」を身につけていく。
まあ、変異してこうなってきているのかどうかはわからないにしても、ジカウイルスは、実際にかつて結構な地域で流行していたわけで、しかも、このウイルスが知られている歴史も、
・あらかじめ予定されていたかもしれない十の災い : 69年前から「オンライン販売されていたジカウイルス」
2016/02/06
で書きましたように、70年ほど前から研究用として存在していたという歴史があるのにも関わらず、今となって、その副作用というのか、新しい影響がこれだけ議論されているというのは、何となく違和感があります。長い間、売られてますしね。
生物資源バンクATCCで販売されているジカウイルス
・ATCC
ウイルスが変異したのかどうはわからなくとも、事実として、現在のジカウイルスは、お母さんに感染した場合、胎内の赤ちゃんに直接感染することが示されています。
胎内の赤ちゃんの体へ直接侵入しているジカウイルス
「羊水」と「赤ちゃんの脳の中」で、それぞれジカウイルスが発見されたことに関しての報道をご紹介しておきます。羊水で発見されたということは、ジカウイルスは胎盤を通り抜けて子宮の中に入り込む性質を持っているということになりそうです。
ジカ熱「羊水に侵入したウイルス確認」小頭症との関連強まる
Hazard lab 2016/02/19
蚊がウイルスを媒介する「ジカ熱」をめぐり、胎児や新生児の小頭症との関連性が疑われるなか、ブラジルの研究機関は17日、ウイルスが胎盤を通過して子宮内の羊水に侵入する症例を初めて確認したと、国際医学誌「ランセット」に発表した。
ジカ熱の流行をめぐっては、世界保健機関(WHO)の最新のまとめによると、ブラジルやコロンビア、ベネズエラなど中南米を中心に39カ国に感染が拡大している。
こうしたなか、オズワルド・クルス財団の研究チームは17日、2人の妊婦から採取した羊水からジカウイルスを検出したと発表した。この2人は妊娠初期にジカ熱を発症し、妊娠22週目の超音波検診で胎児が小頭症にかかっていることがわかった。
そして、もうひとつは赤ちゃんの「脳内」で発見されたという報道です。ジカウイルスは「脳に感染する」ということになるのでしょうか。
ジカウイルス、小頭症児の脳内で発見 ブラジル
AFP 2016/02/16
ブラジルの研究チームは15日、小頭症の新生児の脳内でジカウイルスを発見したと発表した。蚊が媒介するジカウイルスと先天異常の小頭症との関連を示す証拠がまた一つ増えることになるという。
ブラジル病理学会の病理学者、ルシア・ノローニャ(Lucia Noronha)氏は、AFPの取材に「ジカウイルスの存在を脳組織内で検出した」と語った。
「ジカウイルスは、脳の損傷を引き起こしていた。このことは、ジカウイルスと小頭症の関連を示す強力な証拠となる」とノローニャ氏は指摘した。
まだこれらの症例自体は少ないですので、どの程度の割合で、ジカウイルスが子宮内に入りこむのかといったことや、どの程度の赤ちゃんが影響を受けるのかもわからないですが、「率はわからなくても、ジカウイルスが小頭症の原因である」可能性が飛躍的に大きくなったようです。
そんな中、ロシアのスプートニクは、「アメリカが軍事的な目的で、蚊にジカウイルスを混入する」という懸念を記事にしています。
上の記事には、
ロシア消費者保護・福祉監督庁の前長官オニシェンコ氏は、2012年から黒海沿岸で、ジカウイルスの媒介となる可能性のある蚊の亜種が確認されていると発表した
オニシェンコ氏はBBCのインタビューで、このような蚊が確認されていることを懸念しているとし、その理由として「この蚊が生息している場所からおよそ100キロの我々の国境に最も近いところに米軍の軍事微生物学研究室があるからだ」と述べた。
オニシェンコ氏は、次のように語ったー
「米国の研究室があり、この蚊が存在するというこの組み合わせは、私を懸念させる。私が述べるこの蚊にウイルスが意図的に混入される可能性が極めて高くなっている」
とあり、陰謀論的な雰囲気も漂う話ではありますが、ともかく、アメリカが軍事戦略な行動として「ジカウイルスを仕込んだ蚊」を使用するのではないかということをロシアの元高官が述べていたというものでしたが・・・しかし、これはイヤな話ですが、このことは「どこの誰にでもできる」ことでもあります。
何も難しいことではないでしょうし・・・オンラインでも売っていますし・・・。
ここでふと、「むかし、アメリカ軍がいくつもの種類の人工の蚊のドローンを作ってたよなあ」ということなども思い出しまして、そのうちのひとつが冒頭に貼ったものです(アメリカ軍は、蚊だけではなく、いろいろな虫を開発しています)。
ドローン蚊の目的は「偵察」ということになっていましたが、こうも蚊の媒介する病気が世界を混乱させているという状況では、「これって、そういう感染拡大方面の用途もアリだったりするのでは?」という懸念もないではないというか・・・。
この世の歴史には、大量虐殺とか民族浄化とか、おぞましい概念と言葉が存在しますが、これらが多く行われていたということは、「敵対する国で若い人が増えない状態にする」というのも、同じ思考法の先にあるものなのなのかもしれません。
北半球が本格的な春になるまであと2〜3か月というところになってきましたが、蚊が本格的に活動し始める時期までに、今の感染拡大の状況は収まっていますでしょうかね。
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