宇宙線の到達量が劇的に増えていく予測の中で
現在、太陽活動は、すでにほぼ完全に黒点活動がない状態の時期である「極小期」に到達したと考えていい状況となっています。
一般的には、太陽活動が弱くなると、太陽からの磁気の力が弱まります。太陽からの磁場や磁気は、地球に到達する様々な宇宙からの放射線や宇宙線から防御していくれている働きがあります。
つまり、太陽活動が弱くなるということは、その防御も弱くなるということで、宇宙線や放射線の到達量が増加するのです。そして、今後もさらに太陽活動は弱くなっていきますので、地球に到達する宇宙線量はさらに増加していくと見られます。
地球に到達する宇宙線量は、観測史上最高値に近づいており、このままの推移ですと、近いうちに、観測史上最大量に達する可能性が高いと思われます。
以下は、1964年から宇宙線の観測を続けているフィンランド・オウル大学にある宇宙線観測モニターで、その推移は以下のようになっています。
宇宙線到達量の推移
・Cosmic Ray Station
宇宙線レベルは、2019年に入って足踏みしていましたが、後半になって、また上昇しています。
地球に到達する宇宙線レベルが上昇するとどうなるかということについては、いろいろと影響はありそうで、以下のような記事でもふれています。
予測をはるかに上回り激増している宇宙線と放射線 : その人類への影響は何か。気象、天候、人間の健康、地震や噴火……そして生命の進化にも関係する?
In Deep 2018/03/07
最も影響を受けるのが「気象」であることは間違いないと思われますが(宇宙線が増加すると、雨が増え、気温が低下傾向に)、他にもいろいろとあると思われる中、最近の記事ではないのですが、「宇宙線と地震や火山噴火の関係についての学術論文の歴史」について報じている記事を見つけました。
これをご紹介したいと思います。
なぜ、気になったかといいますと、昨日の以下の記事は、「太陽系の端の変化」についてのものでしたが、どうやら現在、太陽系の端のほうでは、
「宇宙線の流入量も変化している」
ようなのですよね。
それが何か地球に影響を与えるのかどうかはともかく、仮に今後、「これまでなかったように極端な宇宙線の増加」などがあった場合、どうなるのかなと。
というわけで、ご紹介します。
なお、宇宙線と火山や地震についての研究の中で、世界的に最も有名なもののひとつが、日本の天文学者であり、高エネルギー天文学が専門の戎崎俊一 (えびすざき としかず)氏の論文のようです。
Do Cosmic Rays Trigger Earthquakes, Volcanic Eruptions?
principia-scientific.org 2018/07/02
宇宙線は地震や火山の噴火を引き起こす要因となり得るのか
科学者たちは近年、太陽活動の極小期と火山活動との関係、あるいは、太陽黒点の増減と気候変動の相関関係を検出し続けている。
しかし、この概念をさらに進めると、つまりは、「宇宙の影響が地震活動や火山の噴火を引き起こしている」というような議論につながっていく可能性が出てくる。そのようなことがあるのだろうか。
アメリカの気象学者ジョン・L・ケイシー (John L Casey)は、彼の研究チームと共に記した著作『大変動:壊滅的な巨大地震がまもなくアメリカを襲う』(2017年1月)に、地球の過去の歴史から、太陽活動極小期と、大地震の発生の関係の歴史を調べた上で、以下のように記している。
「過去の巨大地震を引き起こす際の要因として、太陽活動の極小値があることが、強く示されている」
これらの主張によれば、火山活動は、シリカ(二酸化ケイ素)に富んだ火山の奥深くまで浸透することができる銀河宇宙線の増加に起因する可能性がある。いくつかの研究で、この相関関係と歴史的証拠が示されている。
また、地震の増加については、太陽活動極小期に増加する傾向のある「コロナホール」の増加に関連している可能性がある研究が存在する。
地震学者のベン・デイビッドソン (Ben Davidson)氏はこのテーマについて、いくつかの優れた研究を行っており、現在まで、この要因およびその他のいくつかの要因に基づいて地震を正確に予測している。
また、2010年に、論文『宇宙線によって引き起こされた爆発的な火山噴火:泡箱としての火山』を発表した日本の天文学者で、高エネルギー天文学が専門の戎崎俊一氏らは、1991年のピナツボ火山の噴火は、宇宙線の増加によって引き起こされた可能性があるとしている。
戎崎氏たちの研究チームは、日本の 4つの火山から二酸化ケイ素に富むマグマを生成した 11回の火山の噴火のタイミングを調べ、それにより以下を発見した。
11回の噴火事象のうち 9つは、太陽磁気活動が活発ではない太陽活動極小期で発生していた。噴火のタイミングと太陽極小期のこの強い関連性は、統計的に、96.7%の信頼水準を持つほどに有意だ。
この関係は、伊豆大島のような比較的シリカの少ないマグマを含む火山からの噴火では見られない。太陽風の強い磁場は、太陽系外から発生する銀河宇宙線などの荷電粒子を遮るため、宇宙線放射量は太陽磁気活動と負の相関があることがよく知られている。
(論文)Explosive volcanic eruptions triggered by cosmic rays: Volcano as a bubble chamber
米サウスメリーランド大学の地理学の教授であるアーサー・ヴィテリート (Arthur Viterito)氏は、地熱の影響が気候変動に影響を与えていることを示す研究を行っている主要な人物だ。ヴィテリート氏はまた、宇宙からの影響も、私たちの地球の気候を変えているという考えを受け入れている。
このように、現在では、以前では考えられていなかった「地球への宇宙からの要因の影響」が、より広範な科学界で真剣に受け止められている。
太陽サイクルと地震の関係を探るオッペンハイマー・ランチ・プロジェクト (Oppenheimer Ranch Project)は、以下のように語っている。
過去数十年の間、科学誌には、宇宙からの太陽放射と地震や火山噴火のような破壊的な地質学的事象との相関関係を明確に示す研究論文が掲載され始めた。これらの研究論文は、数百年前に遡る統計的証拠によって裏付けられている。
これらの研究論文のいくつかを精査したところ、その中に、正しい物理学な見識を備えているものの中に非常に優れた観測データが見出された。
オッペンハイマー・ランチ・プロジェクトは、さらに以下のように述べる。
1967年に科学誌「アース・アンド・プラネット・サイエンス・レターズ(Earth and Planetary Science Letters / 地球惑星科学)」で発表された研究では、太陽活動が地震の誘発に重要な役割を果たしていることが判明した。
1998年には、中国科学院と北京天文台の科学者たちが、太陽活動の減少と地震の発生の間に相関関係があることを発見した。
また、米フロリダ州にある宇宙科学研究センター(Space and Science Research Center)が実施した別の最近の研究では、太陽活動と、アメリカ本土および世界の他の地域で発生した最大規模の地震と火山噴火との強い相関関係を示した。
このアメリカの研究では、「西暦 1650年 – 2009年」の間の火山活動と「 1700年 – 2009年」の間の地震活動のデータを調べ、記録されたそれらのデータを黒点記録(太陽活動)と比較した。
その結果は、太陽活動と、アメリカ本土および世界中で発生した最大規模の地震、および火山事象とのあいだに、非常に強い相関関係を示した。 火山活動の相関は 80%より大きく、最大規模の地震の場合は、上位 7つの最も強力な地震に対しては、太陽活動が低いこととの相関関係は「 100%」だった。
さらに、このアメリカの研究では、太陽活動の低い状態の時期での地球規模での最大級の火山噴火の間に強い相関関係があると結論付けている。太陽活動が低いときに、地球全体規模で、火山爆発指数 VEI 5を超える大規模火山噴火のうちの 80.6% が発生していた。そして、火山爆発指数 VEI 6を超える巨大噴火の 87.5%が発生していた。
しかし、多くの研究者たちが、これらのデータの正しい解釈、あるいはそのメカニズムを提示することはできていない。
オッペンハイマー・ランチ・プロジェクトは、以下のように述べている。
このテーマについて読んだ最後の論文は、戎崎俊一氏率いる日本の科学者たちによって行われた『宇宙線によって引き起こされた爆発的な火山噴火:泡箱としての火山』だ。
研究チームは、太陽磁気活動と過去 306年にわたる日本の珪酸塩に富んだ火山からの 11の爆発的噴火との関係を研究した。そして彼らは、そのうちの 9つの噴火が太陽極小期に発生したことを見出した。
ただ、これらの火山の噴火が宇宙線によって引き起こされたということに関して、戎崎氏たちが非常に正確な仮説を打ち立てたことは信頼できる。しかし、宇宙線が火山の噴火をどのように起こすかのモデル、つまり、宇宙線が火山噴火を起こすメカニズムについて、彼らは、ミューオン (素粒子)によって引き起こされるバブル核形成と呼ばれるものとしているが、これは正しくない可能性がある。
なぜなら、噴火を引き起こすプロセスはマグマ溜まりの奥深くにあり、それは、火山の表面からすぐの場所ではなく、表面から数キロメートル下の深い場所にあるからだ。
彼らは、その研究モデルに信頼性を与えるために、研究者たちは山としての火山 (海底火山を含まないという意味)のみを選んでいる。 言い換えれば、彼らは海抜より高い場所で起こった噴火だけを考慮している。
さらに、この論文は、太陽活動の極小期に、日本で過去 3世紀に発生した最も破壊的な地震との相関を示す明確なデータを提供しているが、これらの地震(ほとんどすべてが深層地震)と太陽磁気活動との相関を説明する物理的メカニズムは提示されていない。
ここまでです。
ここに出てくる論文によれば、結局、「歴史的な巨大地震のほぼすべて」と、巨大噴火の8割くらいは、太陽活動の極小期に起きていたということのようです。太陽活動極小期はこれから何年も続くわけですので、つまり、これからの時期にそういうことが起きるということかもしれません。
なお、この記事では、「火山のマグマ溜まりは、地中の深い場所にあるため」に、ミューオン素粒子では影響が届かないのではないか、というようなニュアンスを示している部分がありますが、ミューオンもニュートリノも、そのくらいの深さは、訳なく通過していくと思います。
ただ、私自身ずっと勘違いしていたのですけれど、ミューオンとかニュートリノというのは、いわゆる「宇宙から直接やってきた宇宙線」ではないのですね。
これは、東京大学の宇宙線研究所の説明から抜粋しますと以下のようになります。
東京大学 宇宙線研究所「宇宙線とは」より
地球大気に衝突する一次宇宙線は、空気中の酸素分子や窒素分子と反応を起こすと、その高エネルギーに依り原子核を破壊し、中間子と呼ばれる新たな粒子を多数生成します。
生成された中間子もまた高速で周りの原子核に衝突しさらに多数の中間子を生成し、粒子の数をねずみ算的に増幅しながらエネルギーを落としていきます。
このうち寿命が短いものはすぐに「崩壊」し、最終的には、1,000億個もの比較的エネルギーが低いミューオン、ニュートリノ、中性子、ガンマ線や電子・陽電子となって数百平方メートルの地上に降り注ぐのです。
このように、宇宙からやってきた「一次宇宙線」というのは、地球の上空で、いろいろなものと衝突して崩壊していくのですね。おおむね上空 15キロメートルくらいにおいて、多くは崩壊するようです。
そして、その後に、
> 比較的エネルギーが低いミューオン、ニュートリノ、中性子
などになり、これは「二次宇宙線」と言われるもので、宇宙から直接やってきているものではないのです。
「比較的エネルギーが低い」とある通り、確かに、ニュートリノなど、どんなものでも通過していくような粒子でありながら、もともとの宇宙から来た「一次宇宙線」のような強大なパワーを持つものとは少し違うようなんです。
ちなみに、その「宇宙から直接やってきている一次宇宙線のパワー」がどのくらいのものか、ご存じでしょうか。
これも、東大宇宙線研究所のページから抜粋させていただきます。
最も高いエネルギーで到来する一次宇宙線の粒子1個のエネルギーは、放射性原子核起源の放射線の100兆倍、加速器実験で人工的に作り出せる最高エネルギー粒子の1000万倍のエネルギーにもなります。
このようなエネルギーにまで粒子を加速するメカニズムが宇宙のどこに存在するのかは、未だ解明されていません。
と、このように、
> 放射性原子核起源の放射線の100兆倍
という・・・正直どのくらいの規模なのだか想像もつかないレベルですが、そういうものなんです。
ニュートリノなどの二次宇宙線は、たとえば、今この瞬間にも、私たちの身体の中を無数に通り抜けているはずですが、特に人体に悪さはしないと思われます(少しは何か影響を与えるにしても)。
しかし、「放射性原子核起源の放射線の 100兆倍」とかいう粒子が、たとえば、複数、人体を通過したらどうなっちゃうのかとか、そういうところはどうなんですかね? 先生 (誰に聞いてる)。
そして、このあたりを知りますと、地球の気象や地質学事象に影響を与え得るものとしては、この強大なエネルギーを持つ「一次宇宙線」のほうだけなのかなと思います。
ただ、このような強大なパワーを持つ一次宇宙線は、東大宇宙線研究所によりますと、
> 大変稀少であり100平方キロメートルに年1回ほどしか降らない
ものなのだそう。
それほど稀なものであったとしても、これだけ大きなエネルギーを持つものであるなら、場合によっては、それは十分に地震や噴火のトリガーとなり得ると思われます。そして、この「一次宇宙線」が、たとえば、唐突に多数、地球上に到達し始めるというような状況が、何らかのメカニズムで起き得るとすれば、それは地球、そして人類の大きな変化と関係してきそうです。たとえば、「本当に太陽の磁場が徹底的に弱体化したり」という状況では、その可能性もないでもないのかなとか。
何だか、最近の太陽系の大幅な変化の中で、そういうことも起こり得るのではないかと思い始めている私ではあります。