アメリカの科学系メディアの7月25日の記事より
318年前にマグニチュード9クラスの地震を発生させた場所での「異常」
1ヶ月半くらい前に、アメリカの「カスケード沈み込み帯」という、かつてマグニチュード 9クラスの地震が起きた歴史のある場所に関して、以下の記事を書かせていただきました。
318年前にマグニチュード9クラスの超巨大地震が発生した北米のカスケード沈み込み帯で2日間で数百回に及ぶ振動が発生中。「スロー地震」が起きている可能性が浮上
この記事は、カスケード沈み込み帯の北端にあたるカナダのバンクーバー島で「 500回を超える振動が起きていた」ことをご紹介したものです。
おそらくはスロー地震などに近いものなのではないかと推定されますが、その後の発表が見当たらず、結果的にどうだったのかはよくわかりません。
このカスケード沈み込み帯についての詳しいところは、上にリンクしました記事などをご参照いただければと思いますが、 WIRED の記事から簡単に抜粋しますと、以下のような場所です。
「カスケード沈み込み帯」は、ワシントン州オレゴンおよびカナダのブリティッシュコロンビア州南部の沿岸およそ80キロメートルに位置しており、全長がおよそ1100キロメートルに及ぶ。このカスケード沈み込み帯はサンアンドレアス断層が持つ最大威力よりも30倍以上強力な、マグニチュード9の地震を引き起こす力を秘めている。(略)
カスケード沈み込み帯での巨大地震の発生間隔の平均は 270年だとわかっている。
というもので、つまり、
「平均 270年の周期でマグニチュード 9クラスのような超巨大地震が起きている地質的な場所」
だということがわかっています。
前回の巨大地震は、西暦 1700年に発生していまして、つまり現時点で、「すでに 318年経過している」ということになり、サイクルの話だけでしたら、いつ起きてもおかしくはないと言えなくもないのかもしれません。
カスケード沈み込み帯の場所は、大ざっぱに示しますと、以下のようになります。
カスケード沈み込み帯の場所
先ほどリンクしました記事では、このカスケード沈み込み帯の北端にあたるバンクーバー島で、連続した振動(地震ではないと地質学者たちは述べています)が観測されたことをご紹介したのですが、今回ご紹介する冒頭の記事は、
「このバンクーバー島で、地下のマントルが上昇していることがわかった」
ということが書かれているものです。
具体的には、カスケード沈み込み帯の「北端」と「南端」のそれぞれの場所で、マントルが浮上していることが発見されたという論文についての記事です。
記事の内容から、マントルが浮上している場所を特定してみますと、厳密ではないかもしれないですが、下の位置で間違いないと思われます。
マントルが上昇していることがわかった場所
まあ、私自身は「マントルが浮上している」ということが、地質的な動きにどのような影響をもたらすのかよくわからないのですが、それでも、「マントルが上昇しているというのは、地質活動の活発化を示すもののような感じはする」という曖昧な思いはあります。
いずれにしても、現在、火山の噴火などを含めて、世界中で地質活動が活溌であることは確かで、そのような中での出来事としてご紹介したいと思いました。
最近、地球の記録でご紹介した以下のペルーでの出来事などもそうですが、前例のない地質活動が世界のいろいろなところで見られています。
今年の春にペルーで発生した巨大亀裂は今も拡大を続けている…。非常事態宣言が5ヶ月間発令され続けている現地では村が消滅していた
近いうちにカスケード沈み込み帯で大きな地震が起きるということもないでしょうが、しかし、「ないと言える根拠はない」というのも事実で、日本もそうですが、かつてないほど地質的事象のリスクに直面しているのかもしれないことを感じます。
では、冒頭の記事をご紹介させていただきたいと思います。
Geologists Find Anomalies, Pieces of Mantle Found Rising Under Cascadia Fault
scitechdaily.com 2018/07/25
地質学者たちは、カスケード沈み込み帯の下にあるマントルが上昇しているという異常を発見した
研究者たちは、海底に設置された 268個の地震計と、陸地に設置されている数百に上る地震計から得られた 4年間のデータを分析する中で、北アメリ大陸の西海岸に位置するカスケード沈み込み帯の南北両方の端に異常を見出した。
彼らが発見した異常は、アメリカ太平洋北西部で発生する可能性のある地震事象の起きる位置、頻度、強さに影響を与える可能性がある。
これは、断層の下の他の場所より地震波の速度が遅い地帯があることを見出したことによるものであり、そこは岩石が溶けて温度が上昇している可能性があるため、地球の上部マントルが浮上していることを示しているというものだ。
この研究は、米国オレゴン大学の博士課程の学生であるマイルズ・ボマー(Miles Bodmer)氏により、地質学の専門誌「ジオフィジカル・リサーチ・レターズ (Geophysical Research Letters)」に発表された。
このカスケード沈み込み帯では、西暦 1700年に超巨大地震が発生したことが判明しているが、それ以来、大規模な地震を経験していない。
この場所は、北米大陸プレートの下にファンデフカ・プレート(Juan de Fuca)が沈み込む場所だ。この断層帯は、カナダのバンクーバー北部からカリフォルニア北部のメンドシノ岬までの沖合に広がっており、その南北の長さは、620マイル(約 1,000キロメートル)におよぶ巨大な地層帯だ。
今回の研究で判明した「マントルの浮上」の位置は、サンアンドレアス断層の南端にあるゴルダ変形帯の下と、そして、オリンピック半島から南バンクーバー島の下で、それぞれで浮上が起きている。
ボマー氏は、以下のように言う。
「カスケード沈み込み帯の北と南の沈み込み断層の二カ所で異常が見出せます。これらの地域は、他のカスケード沈み込み帯全体と同じ状態となっていません。独自の地質的特性を持ちます。そして、この北と南の部分では、断層の緊張(locking)が高まり、震動の密度も増加しているのです」
断層の緊張とは、2つのプレートがどれだけ強く張っているかを指す。
「この北と南の部分でこのように見られるようなことが緊密につながっていれば、この地帯はストレスを溜めており、大きな地震の発生により、そのストレスやエネルギーを解放する可能性があります」とボマー氏は語る。
ただ、そのような状態で起きる地震は、それなりの規模とはなる可能性はあるにしても、カスケード沈み込み帯のすべてが一度に崩壊して起きると想定されているマグニチュード 9以上のクラスの超巨大地震のようなものにはならないとボマー氏は言う。
プレート同士の緊張状態は、カスケード沈み込み帯の中央部ではかなり弱い。
今回の調査結果は、地震発生の予測に役立つものではないが、地震についての探査や測地解析のリアルタイム性の必要性を指摘するものともいえる。
カスケード沈み込み帯とサンアンドレアス断層の交差する場所は複雑性が高く、北米で最も地震活動の活発な連続した場所だ。これらの地域では、最終的には、大きな地震として、そのエネルギー放出されるような蓄積がある。
この研究では、遠方の地震から来る様々な形態の地震波を使用した深いイメージングが行われている。
今回の研究は、カスケード沈み込み帯の過去の地震記録を理解するのに役立つだけでなく、プレートの結合力を調査することにも役立つことを示唆しているとボマー氏は言う。