8月5日の同じ日に日本とニュージーランドで起きたクジラの座礁
一見すると死に続けている海で
8月5日に、鎌倉の海岸にクジラが打ち上げられ、その後、このクジラがシロナガスクジラであることがわかり、日本で初めての座礁例となったことが報じられていました。
シロナガスクジラ死骸漂着 鎌倉 「全国初」と博物館
日本経済新聞 2018/08/06
5日午後2時半ごろ、神奈川県鎌倉市坂ノ下の由比ガ浜海水浴場近くの海岸にクジラの死骸が打ち上がっているのが見つかり、国立科学博物館が調査した結果、シロナガスクジラだったことが分かった。
国立科学博物館の田島木綿子研究主幹(海生哺乳類学)は「100年以上前の文献にはあったが、実際に国内でシロナガスクジラの漂着が確認されたのは初めて。あらゆる調査をして生態を探りたい」と話している。
この同じ日には、ニュージーランドのベイリーズ・ビーチという場所で、ザトウクジラが「まだ生きている状態」で海岸に打ち上げられました。下がその時の動画ですが、打ち上げられた後、海岸で死亡しています。
https://youtu.be/wUQQsOgwOE0
ちなみに、日本のほうの漂着は、日本でというより、シロナガスクジラの座礁自体がとても珍しいことだと思われます。
そして、報道されていることとはあまり関係のない感慨ですが、「これが日本に漂着したことについての印象深さ」という部分はありまして、どういうことかといいますと、シロナガスクジラというのは、英語では「ブルー・ホエール(Blue Whale)」といいます。
つまりシロナガスクジラは英語で「青いクジラ」と書くのですね。
これは、昨年の以下の記事などでご紹介したことのある「インターネットでの自死誘導プログラム」と同じ名前なのです。
誰かが「ネットを使った若者の大量殺りくの実験」をしているかもしれない : ロシアのSNS「青いクジラ」で、これまでに少なくとも130人の少年少女が合理的な理由がないままに自殺
これらの記事では、私はあえて「青いクジラ」としていますが、これはシロナガスクジラのことであり、そして、海岸に漂着するなどということは極めて珍しいこの生き物が「日本に」漂着したという報道を見て、
「自死誘導プログラム(青いクジラ)が、自身の死と共に日本にやって来たのか…」
と感慨深くニュースを読んだ次第です。
まあ、そんなことはともかく、実はこの 1ヶ月くらいの間の世界の海は「死んでいる」といっていい状態でした。もっともひどいのはアメリカのフロリダ州で、赤潮と青藻の大量発生などの要因で、とんでもない海洋生物の大量死が続いています。
今やフロリダの海岸は多くの場所が魚やウミガメなど海洋生物の死骸だらけになっているようで、文字通り「死の海」となっています。
8月2日の米国NBCニュースより
・Red Tide Invades Florida Beaches, Killing And Injuring Marine Life
このフロリダの海の状態については、いずれ取りあげさせていただくことがあるかもしれないですが、「海の極端な状態のひとつ」を示しているものだとは思います。
さらには、最近1ヶ月で、下のような大量死事象や海での異変が各地で発生していました。日付は報道のあった日です。
2018年の夏の「海の異変」
source:strangesounds.org
07月09日 ベトナムのハノイで数百万匹の魚の大量死。原因は不明
・news.zing.vn
07月09日 インド・ゴアのビーチで夥しい数の「死んだヒトデ」が打ち上げられる
・indiatimes.com
07月24日 メキシコのマアウアルでイワシの大量死
・Noticias Canal10tv
08月08日 アイルランドの海岸に三頭のクジラが打ち上げられる
・thejournal.ie
08月07日 ヴァージン諸島のトルトラ島で魚の大量死。原因は調査中
・bvinews.co
08月06日 ライン川のドイツとスイスの国境周辺で大量の魚が死亡しているのが発見される
・dw.com
ここに先ほどの日本とニュージーランドのクジラの座礁、そして、フロリダの毎日のように起きている海洋生物の大量死が加わります。
猛暑の場所も多いため、他にも数多くの大量死が発生しているとは思いますし、特にここ数年は、海での大量死が大変な件数となり続けていることは事実です。
理由は事例によって、いろいろだとは思いますが、しかし全体として、
「海が死に続けている」
という状態が進行し続けていることは確かだと思います。
たとえば、ちょうど1年ほど前の下の記事では、アメリカ・メキシコ湾で、「デッドゾーン」といわれる海洋生物が生息できない海域が過去最大の面積になったことをご紹介したことがあります。
海はさらに死に続けている : 拡大が止まらない米国メキシコ湾の死の海域「デッドゾーン」が過去最大の面積に。そして原油流出の年に発せられていた専門家たちの警告を思い出す
2017年の時点で、メキシコ湾のデッドゾーンは以下のような状態にまで拡大していまして、観測史上最大の面積となっていました。
2017年8月(ちょうど1年前)のメキシコ湾のデッドゾーンの範囲
私もそうでしたが、これを見れば誰でも、「これはもうダメかもしれんね」と思うのも仕方ないところで、メキシコ湾が死に絶えるのも時間の問題だと思っていたのです。
ところが……。
つい最近、アメリカで、
「メキシコ湾のデッドゾーンの面積が大幅に《縮小》している」
ことが判明したと報じられたのです。
8月2日の米ワシントンタイムズの記事より
報道によれば、
・2017年のデッドゾーン面積 が 8,497平方キロメートル
だったのが、
・2018年のデッドゾーン面積 は 2,720平方キロメートル
と、3分の1近くへと急激に縮小したのです。
昨年、過去最大を記録してからのあまりにも急激な減少で、NOAA (アメリカ海洋大気庁)も、その原因については具体的には述べることをしていません。
そういう意味では、どちらかというと、「謎の急減」というように言えるものなのかもしれません。
デッドゾーンが拡大する背景には、いろいろとあるにしても、主要な要因として、
・陸地からの排水等の汚染
・高い海水温度
などにより、藻を含む微生物が大量発生し、海中の酸素が奪われてしまうことにあると思われます。
それがどういうわけか「唐突に改善しつつある」ということになっているのです。
理由は明確ではないですが、しかし、「人為的にはほとんど何もしていない」ですので(陸地からの排水の状況はむしろ悪化していると NOAA は述べています)、つまり、「自然自身の何らかの力で急激にメキシコ湾の状況が改善している」ということになると思われるのです。
この「自然自身の何らかの力」というものには、微生物などの海の生態系を含んでいます。
私はこの、
「海が死につつある状況」と「海が自力で復活していく状況」が同時に起きている
という現実に、何というか、やや感動にも近い思いを持ったのですが、なぜ感動したかといいますと、最近、以下の記事で、海の微生物の力を見直していたからです。
地球の二酸化炭素の循環が「深海の微生物によりコントロールされている可能性」が濃厚に。これが意味するところは、地球の気候の支配者はその海の微生物たちかもしれないということだったり
しかし、同時に、
「どちらの《力》が勝つのだろうな」
とも思います。
海が死んでいく力のほうが強いのか。
あるいは、海が自力で回復していく力がそれを上回ることもあるのか。
このどちらかによって、海によって生かされていると言ってもいい私たち人類の未来もずいぶんと違うものになっていくのかもしれません。
いずれにしても、今、
・海は死に向かっている
・でも、海は自力での凄まじい回復を現実化している
という混沌とした現状を同時に私たちは経験しているわけで、どちらが勝つのかは、もう少し経てばわかるのだと思われます。