2016年4月29日のアトランティックより
平日とはいえ、連休中に「人類が絶滅しないかどうかは疑わしい」というようなタイトルの記事をご紹介するのもどうかと思いましたが、この記事の元となっている推計は、イギリス政府とイギリスの著名な調査組織によってなされたもので、そういう公的な雰囲気のある部署が、
「今後、カタストロフ的事象で、数多くの人々が亡くなる」
ということを「数値を添えて」発表しているということを初めて知りましたので、ご紹介させていただこうかと思います。
まあ、それだけ、自然災害にしても何にしても、差し迫っていると感じている人たちは、政府や専門家の人たちにも多いということかもしれません。
今回ご紹介する記事に出てくるのは、
・グローバル・チャレンジズ・ファウンデーション(科学者を中心とした財団)
・スターン・レビュー(イギリス政府による報告書)
で、前者の「グローバル・チャレンジズ・ファウンデーション」は、昨年の Wired の記事によれば、
> 人類を脅かす危険について問題意識を喚起することを目指した組織
ということで、この組織は、昨年、「起こる可能性の高い12の大惨事」のリストを発表しています。
Sponsored Link
人類文明の展望の英国政府のレポート
報告書の内容は、「いまそこにあるリスク」や「出現しつつうるリスク」などの項目にわけられていて、たとえば、「いまそこにあるリスク」として、
・極端な気候変動
・核戦争
・環境大災害
・世界的なパンデミック
・グローバル経済システムの崩壊
などがあり、「出現しつつあるリスク」として、
・人造生物とナノテクノロジー
・人工知能
などがあります。
他に、人間の文明の壊滅を引き起こす可能性のあること(貧困、飢餓、戦争など)に対しての「解決する能力の欠如」というものもあります(これは比較的大きなものだと思います)。
この中の「いまそこにあるリスク」は、もうその渦中の真っ只中にいる実感があるので、改めて知らさせる脅威ということもないのですが、イギリス政府による『スターン・レビュー』には、そこに数値として、
・人類の 9.5パーセントの命が失われる
とあり、まあ、期間とかの問題もあるのですが、現在地球の人口は 73億人ですので、9.5パーセントというのは膨大な数値ではあります。
以前書きました、
・2015年の世界全体の死者数は「5760万人」。私たちは日月神示の「1日10万人の死…」の警告をはるかに越えた時代に生きている
2015/12/23
という記事にある「 1日 10万人の死」の内訳は、病気が多いのですが、ここにさらに様々な要素が積み重なっていき、「世界全体の死者数」がさらに加速的に増えていってしまうということなのかもしれません。
ちなみに、この英国政府の『スターン・レビュー』に関しては、日本の環境庁の資料にそれがどんなものか記載されています。
環境庁「スターン・レビュー概要」より
英国財務省が実施した気候変動問題の経済的側面に関するレビュー。ブレア 首相ならびにゴードン・ブラウン財相が委託。ニコラス・スターン卿(元世界銀行チーフエコノミスト)を責任者としているため、スターンレビューと呼ばれる。約600ぺージに上る。
というもので、いわゆる「地球温暖化」と呼ばれるものに対して各国に CO2 の削減を求めるための「根拠」としたもののようです。この「地球温暖化」という言葉に深入りすると長くなりますので、ここではふれないですが、そのイギリス政府の公式なリリースで、「今後、気候変動により数多くの命が消滅する」という試算をおこなっているということを初めて知った次第です。
核兵器という存在と自動車という存在
核兵器の脅威に関しては、「人為的ミス」と、最近なら「ウイルスやハッキング」という2点がある限り、いつでも脅威はすぐそこにあると思われます。
ちなみに、やはりイギリスのシンクタンクですが、英国王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)の最近の報告書(チャタム・ハウス報告書)では、第二次大戦以降、つまり、日本に原爆が投下されて以降、
「核兵器が実行されそうになったのは 13回」
だったことが示されています。
下は、1961年1月に、アメリカ空軍のB-52爆撃機が、米国ノースカロライナ州上空を飛行中に故障し、搭載していた核爆弾2発を州内の村に「落としてしまう」ということがあった時の写真です。
1961年に自国で炸裂寸前だった核兵器
幸いなことに、安全スイッチ一つが故障せずに残ったため、爆発は免れました。もし安全装置が機能して「いなければ」、アメリカ東部が、自国の核兵器で被爆するという事態の一歩寸前でした。
その他に、以下のようなものがあります。当然ですが、どれもギリギリで核兵器の実行は回避されています。
赤い字はこちらで入れています。
- 1961年1月 米軍のB-52爆撃機が米国上空で故障し、核兵器が落下。爆発の手前
- 1962年10月 連絡ミスで、ソ連の潜水艦が雨リスに核攻撃する一歩手前に
- 1980年6月 コンピュータチップの誤作動で、アメリカで核攻撃警告が発令
- 1983年9月 人工衛星の誤作動で、ソ連で核攻撃警報
- 1995年1月 ノルウェーの気象衛星を、ソ連側が「核の攻撃」と誤認して、当時のエリツィン大統領が発射ボタンを押す寸前に。
というように、それが爆発した場合の被害は甚大なものであるにも関わらず、
> 連絡ミスで
とか
> 誤作動で
というようなことばかりなんですね。
そして、これらは、今後も起こり得ることばかりです。
どうでもいいですが、ロシアのエリツィン元大統領は大変な酒飲みで、酒癖も大変なものだったそうですが、仮にどんなに泥酔していてベロベロな時でも「核攻撃の最終決定権はその人にある」というのも懸念だったということが報告書に書かれています。
泥酔したまま、「なんだこのボタン? 押しちゃえ」とかいうことが、絶対にないとは誰にも言えないあたりが、不安な部分でもあります。
(他の国はわからないですが、アメリカとロシアに関しては、司令部以外でも、核兵器の発射は、大統領が持つブリーフケースにあるボタンでもおこなうことができます → アメリカ:核のフットボール、ロシア: チェゲト)
ところで、先ほどリンクしました記事「…私たちは日月神示の「1日10万人の死…」の警告をはるかに越えた時代に生きている」で、 WHO の死亡者数の内訳の一部を載せました。
2012年の死亡者数の内訳(WHO)
・心臓血管病(脳梗塞や心筋梗塞など) 1700万
・慢性閉塞肺疾患( COPD ) 310万人
・気道感染症(かぜを含む上部感染症) 310万人
・HIV / エイズ 150万人
・ガン 700万人
・交通事故 130万人
この中の、
> 交通事故 130万人
を見た時には、内心驚いたのです。交通事故だけで、1年間 100万人以上が亡くなっている。
1年間という単位で見れば、どんな自然災害より自動車事故で亡くなる人のほうが多いのです。
これは、自動車のなかった時には「存在しなかった死」だったと思うと、「新しい死の出現」というのを数字で見ているわけで、いろいろと思うところがありますが、しかし、「自動車があるからこそ救われた命」の方も確かにあるわけで(物資の輸送や建築など、そういうものも含めて)、利害だけからは何とも一概には言えないところがあるのは事実ですが。
でも、それにしても、どこの国も過剰な車社会になりすぎているとは思います。
ちなみに、アメリカの場合ですと、「生涯で交通事故で死ぬ確率は1パーセント弱(アメリカでは 120人に 1人が交通事故で亡くなる)」です。
それはともかく、最近の記事、
・自然災害は予想以上の驚異的な勢いで地球の文明を崩壊させ続けている
2016/04/20
・世界は想像を絶するすさまじい干ばつと水不足の世紀に入ったかもしれない
2016/04/28
などに書きましたこともそうですが、病気も含めて「死亡する原因がどんどん増えていっている」というのが現在の世界の状況のようです。
また、ここではふれられていない巨大な彗星や小惑星の衝突や超巨大火山の噴火といったことも含めて、どれも「なくはない」ものではあります。
それでは、ここからイギリスの報告書などに関して報じた米国メディアの記事です。
Human Extinction Isn't That Unlikely
Atlantic 2016/04/29
人類が絶滅しないかどうかは疑わしい
新しい報告書は、「一般的な人間が絶滅系事象で死亡する確率は自動車事故の5倍に達するだろう」と述べている。
核戦争、気候変動、そして何百万人もの人間を死に至らしめるパンデミック。これらは、世界的な文明社会において、最もあり得る現実的な脅威だ。
それらは悪夢であり、何もかも吹き飛ばしてしまうものではあるが、しかし厄介なことに、これらはゴジラやゾンビとは違い、現実に存在しているものであり、いつ巨大な規模で世界を覆っても不思議ではないのである。
そして最近、英国に拠点を置き、人類を脅かす脅威についての問題意識を喚起することを目指した組織財団「グローバル・チャレンジズ・ファウンデーション(Global Challenges Foundation)」がリリースした新しいレポートによれば、そのような脅威が世界文明を脅かす可能性は、私たちが思っている以上にはるかに高いものだ。
この『世界的な壊滅リスク(global catastrophic risk)』と題された年次報告書には、たとえば、平均的なアメリカ人は、一生のうち、自動車事故で死亡するよりも絶滅的な事象で亡くなる確率が5倍となるだろうことが示されている。
自動車事故で亡くなることは一般的なことではなく、アメリカで自動車事故によって亡くなる人は 9395人に 1人だ。確率にすれば、1年間で、全体の 0.01%の人が事故で亡くなっていることになる。この数字だけを見れば、大きなものではない。
しかし、この確率を年間ではなく、「生涯を通じたスケール」で考えてみると、アメリカ人の 120人に 1人が自動車事故で亡くなっている計算になる。
そして、気候変動や偶発的な核戦争などによる絶滅系事象では、それより、はるかに高い確率が計算されているのだ。
英国政府による、気候変動における経済学上の主要報告書『スターン・レビュー(The Stern Review)』は、毎年 0.1%の人が気候変動の影響によって亡くなるという数値を算出した。
この「 0.1%」という数字は低く見えるかもしれないが、全世界の人口規模(約73億人)と照らし合わせると、その響きの重大さがおわかりになると思われる。
財団グローバル・チャレンジズ・ファウンデーションは、次の数百年以内に、人類全体の 9.5%が絶滅系事象で死亡すると推測している。
そしてまた、この数値でさえ、他の世界的大変動による死亡率としては過小評価されているといえるかもしれない。
英国政府の『スターン・レビュー』は、全人類の 9.5%が絶滅するという具体的な数値を出している唯一の報告書だ。また、財団グローバル・チャレンジズ・ファウンデーションは、すべての種類の事象によって、地球の人口の 10%以上が消滅させられることになることを懸念している。
グローバル・プライオリティ・プロジェクト(Global Priorities Project)の責任者であるセバスチャン・ファーカー(Sebastian Farquhar)氏は、「私たちは、それらのどの出来事も起きる時期について予測していません。しかし、全体として考えてみれば、まだ、私たちが準備をしていない起こり得る事象というものが数多くあるのです」と述べる。
その大量絶滅事象とはどんなものがあるのだろうか。
報告書の中には、正当な理由の説明と共に、壊滅的な気候変動と核戦争が含まれている。
核の脅威については、これまで世界は何度か核戦争の脅威に直面した。それらのほとんどは冷戦中に発生し、1990年代にも起きている。
1995年には、ロシアの防衛システムが、ノルウェーの気象ロケットを核攻撃の可能性があるとして間違えたことがある。
当時のロシアのエリツィン大統領は核兵器の起動コードをセットし、大統領の前には核のスイッチが収められている「核のブリーフケース / チェゲト」がセットされた。あとはボタンを押すだけで核兵器は発射される。
しかし、ありがたいことに、ロシアの指導者は核のスイッチを押す前に、これが誤警報と判断した。
気候変動もまた、独自のリスクをもたらす。気候科学の重鎮の科学者たちは、今世紀末までに「大陸サイズのスーパーストーム」が発生することを示唆している。
ファーカー氏もまた、保守的な数値の見積もりは危険だと言う。
そして、いくつかの気候変動のシナリオは、すでにこの地球に影響を与え始めている。