2019年8月13日の米ゼロヘッジより
アジアの史上最悪の害虫による農作物被害が近づいている
今年は、世界の食糧事情にいろいろな「危険信号」がともっていることについて取り上げてきました。
それは、場合によっては、黙示録的な状況さえ、この世に出現させかねないものだったりする可能性のあるものでもあります。
最も懸念されていたのは、この春から夏に続いた異常な気象や気温によるもので、たとえば、以下のような記事以来、そのことには何度かふれてきました。
世界的な食糧危機がやってくる : フランス、アメリカ、オーストラリアなど農業輸出大国で記録にないような甚大な被害が進行していることが明らかに
また、上の記事でもふれていますが、中国などで「アフリカ豚コレラ」という感染症が猛威を奮い続けていまして、今年 5月には、2019年に中国で殺処分される豚の数が「 2億頭にのぼる可能性がある」とも報じられていました。
そして、実は、それに加えて、「中国とアメリカの貿易戦争」が、中国とアメリカの双方の農家にダメージを与えていまして、特に中国政府が、アメリカの農産品の購買を停止したため、アメリカの農家にとっては、「今年はアメリカの農業史で最悪の年」だと報じられています。
米国農家の危機を伝える8月6日の報道記事より
世界の食糧を巡る状況は、このような政治的な問題も含めて、非常に厳しいことになってきているようなのです。
そこに加えて、今、中国をはじめとするアジア各地に、
「ツマジロクサヨトウ」
という農作物に壊滅的な被害を与える昆虫(蛾の幼虫)が侵入し、拡大を続けていることを知りました。このツマジロクサヨトウというものは「いったん繁殖すると打つ手がない」というもので、実は日本でも、先月 7月上旬に九州で発見されています。
このツマジロクサヨトウというものがどんなものかというのは、以下の日本語の説明でおわかりになられるかと思います。
ツマジロクサヨトウの特徴とは?
spoppi.com 2019/07/08
ツマジロクサヨトウの特徴を見て行きましょう。
・ガの仲間で、成虫の体長は約4センチ。
・1カ月で世代交代するほどの高い繁殖能力を持ちます。
・成虫の場合1晩で100キロメートルを飛翔して移動することができます(追い風があれば200キロも)。
・イネ、トウモロコシ、サトウキビ等のイネ科の植物を好みますが、カブやキュウリ、トマト、ナス、サツマイモ、大豆など広範な植物を食い荒らします。
そして、いったん繁殖したツマジロクサヨトウに対しては打つ手がないのが現実で、駆除を試みたこれまでの対策は、ほとんどが失敗に終わっているとも言われています。
これはアフリカでの大流行時に、使った殺虫剤によって、ガに耐性ができたため、現時点では防除に使える殺虫剤がないようです。
即ち、繁殖力が高く、その飛翔力で、広い範囲に素早く拡散し、駆除する殺虫剤も有効なものがないという厄介な外虫です。
このようなものです。これが、現在、中国を始めとしたアジアの広範囲に広がっているのです。
日本のことは後にふれるとして、ロイターなどの報道をまとめた冒頭のゼロヘッジの記事をご紹介します。
気になるのは、「唯一の対策は、農薬を使うこと」と、この記事の文中にあるのですが、上の説明に、
> 使った殺虫剤によって、ガに耐性ができたため、現時点では防除に使える殺虫剤がない
とあり、本当に拡大を止められるのかどうか懸念されます。
’Fall Armyworm' Invades China; Wreaks Havoc On Agriculture Lands
Zero Hedge 2019/08/13
ツマジロクサヨトウが中国を侵略。農作地が荒廃による大混乱に陥る
中国農業農務省は、今年 6月、中国 21省の 33万3,000ヘクタールの農作地において、ツマジロクサヨトウが発見されたと警告していた。
ツマジロクサヨトウ(英語:Fall armyworm 、中国語:秋行軍蟲)は、さまざまな作物や植物に対して壊滅的な被害を与える可能性のある蛾の幼虫だ。
中国当局は、この虫の予防対策が失敗し得ることを懸念しており、その場合、今年の中国での作物の大規模な損失につながる可能性がある。
中国政府は、ツマジロクサヨトウが、広大な農作地に影響を与え、国家に食糧安全保障問題を引き起こす可能性があると警告した。
この害虫に対抗し、拡大を阻止するために、中国政府は、ツマジロクサヨトウが発見された 21省の農家に対して、政府が承認した農薬を使用するように求めている。
中国の地元で、人々が現在、「私たちの心臓を止める害虫」と呼ぶツマジロクサヨトウは、2019年のはじめに、近隣のミャンマーから中国に侵入した。それから、わずかの間に、ツマジロクサヨトウの生息地域は、そこから約 3000キロメートル北に拡大し、今では、中国 21省を脅かしている。
今後、このツマジロクサヨトウが、中国の穀物生産に影響を与える可能性がある。
中国南西部の雲南省では、この害虫により、すでに 8万6,000ヘクタールのトウモロコシ、サトウキビ、ショウガなどの作物が破壊された。
2016年にアフリカとアジアから広がり始めたツマジロクサヨトウは夜行性で、しかも、一晩で 100キロメートルもの距離を移動できる。そのため、このツマジロクサヨトウを根絶するのは非常に困難だ。
中国では、農家の 90%が小規模農家であるため、対策が難しく、また被害も個別に大きくなっている。
雲南省では、地方政府がツマジロクサヨトウの状況を監視するために 3,500カ所の監視所を農地に設置した。
雲南省で農業を営むヤン氏は、ツマジロクサヨトウによる厄災を防ぐ唯一の答えは、農薬を散布することだと以下のように述べる。
「化学物質を噴霧し続ける必要があるのです。この害虫を殺さなければ、私たちは、誰もが無一文になってしまうのです」
しかし、一部の農家では、対策が遅れており、収穫量に懸念が出ている。
南京農業大学の昆虫生態学教授フ・ガオ氏によれば、ツマジロクサヨトウは、中国南部の農作物を台無しにしているが、今のところ、中国北部のトウモロコシ生産はそれほど影響を受けていないという。
しかし、すでに、中国では広範囲で、この破壊的な害虫が農業地帯に拡大しているために、中国政府は、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイのような南米諸国の穀物生産国から、さらに多くの穀物を輸入せざるを得ないことになる可能性がある。
先週の時点で、中国はアメリカからのすべての農産品の購入を停止しており、そのかわりに、南米など他の地域からの農産品の輸入を増やし続けている。
この中国政府のアメリカからの農産品の購入停止は、トランプ政権が今月初めに、 3000億ドル(32兆円)の中国の輸入品に対して 10%の関税をかけることを発表したことを受けて生じたものだ。
中国ではまた、アフリカ豚コレラと呼ばれる豚の感染症の前例のない発生が続いており、2019年全体を通して、中国の豚肉生産が荒廃している。
現在までに、中国に生息する豚の約 4分の 1が病気のために殺処分された。
そして、やはり貿易戦争により、中国は、アメリカ産の豚肉に 62%の関税を課すことを発表している。
中国の農業は現在、このように、ツマジロクサヨトウの拡大による作物の荒廃や、アフリカ豚コレラの拡大、そして中国とアメリカの貿易戦争など、いくつかの災害に見舞われている。
しかし、中国政府が絶望的になりかねない理由として、香港の状態が制御不能になったときに、中国に最後に必要なことは食糧価格の統制だからだ。
ここまでです。
なお、以下の台湾の英字報道によれば、ツマジロクサヨトウは、アジア10カ国に、急速な勢いで広がっているのだそう。
2019年7月16日の台湾の報道
上の記事によりますと、7月中旬の時点で、ツマジロクサヨトウが発見されたのは、スリランカ、バングラデシュ、カンボジア、ミャンマー、フィリピン、タイ、中国、台湾、そして、日本となっています。
また、この報道には、
なぜ、ツマジロクサヨトウが、こんなに急速に広範囲に拡大したのか、専門家にも、その理由がわからない。
とあり、一種、「謎の急拡大」となっているようです。
対策できなかった場合、中国での農業被害は相当なものになるようです。
人口が多く食糧需要が多い中国で、そのような事態になった場合は、いろいろと厄介なことになる可能性があります。
中国の農業も懸念されますけれど、何より、
「日本にもこの虫が侵入している」
のです。
おそらくは、偏西風に乗って、中国から飛来したと思われますが、8月9日の時点で、九州などで発見されています。
害虫ガ「ツマジロクサヨトウ」幼虫、佐賀でも 九州・沖縄7県に拡大
毎日新聞 2019/08/09
トウモロコシなどに寄生して成長を阻害するガ「ツマジロクサヨトウ」の幼虫が佐賀県内で初めて見つかったことを受け県は8日、佐賀市で対策会議を開いた。各市町やJAの農業関係者ら約50人が出席し、対策を確認した。
ツマジロクサヨトウは南米や北米が原産でアジアなどに急速に広がり、国内では7月に鹿児島県で初めて確認された。偏西風に乗って飛来したとみられる。その後、九州・沖縄の7県に拡大した。
幼虫がトウモロコシの葉などを食い荒らし、作物の成長が阻害される。国内ではまだ被害は確認されていないが、稲や大豆など他の作物にも寄生し、果実を食べることもあるという。この日は効果が期待される農薬のリストが農林水産省から提示され、被害の把握や防除を促した。
この記事に、
> 効果が期待される農薬のリストが農林水産省から提示され
とありますが、農林水産省のそのページは、以下にあります。
しかし、先ほどありましたように、ツマジロクサヨトウの中には、「殺虫剤への耐性」を持っている固体がいるわけで、また、かつて、そういう耐性を獲得したというのなら、再び、さまざまな薬剤に対しての耐性を獲得する可能性は十分にあるかもしれません。
そして、一晩に 100キロメートル近く移動するということからも、九州からさらに北上する可能性もあるかもしれません。
ツマジロクサヨトウは熱帯性の昆虫のようですので、寒い土地には生息できないでしょうけれど、今年はまだしばらく気温も高いですし、関東くらいまでなら生息できるのかもしれません。
それにしても、このマジロクサヨトウはも2016年にアフリカで被害が確認されてから、まだ、たったの 3年目です。どうして、それまでなかったようなこの虫の被害が世界中に広がっているのか不思議でもあります。
なお・・・。
このツマジロクサヨトウに対しての対策は、一般的な農薬が無効だった場合は、「アメリカがおこなっている方法しかなくなっていく」という悲劇性もあります。
そのアメリカが、ツマジロクサヨトウに対しておこなっている対策とは、
「遺伝子組換え」
です。
遺伝子組換えというテクノロジーがどういうものかということは、以下の記事に記していますが、簡単に書きますと、伝子組み換えというのは、「作物が自らの細胞内に毒薬を仕込む」もので、おそらくツマジロクサヨトウに対しても有効ということのようです。
[衝撃]遺伝子組み換え食品の壊滅的な影響を知った日。すべての細胞内に殺虫剤を含むその作物たちは、腸内細菌を破壊し、不妊と低体重の赤ちゃんを増加させ、そして「自然界そのもの」を破壊する
仮に、遺伝子組換えだけが有効な対策だった場合は、なんだかこう・・・このツマジロクサヨトウというものは、「遺伝子組換えを世界中に広める目的のために出てきたもの」のような気さえしてきます。
それにしましても、「食糧をめぐる状況」は、さらに大変なことになりつつある気配が増加しています。今年乗り切ったとしても、来年はどうなるのか、そしてその次の年はどうなるのかと考えます。
結構な黙示録的な状況なのではないでしょうかね。