2018年4月7日の米ニューヨークタイムズより
ビッグブラザーとは
英国のジョージ・オーウェルの小説「1984年」に登場する架空の独裁者。転じて、国民を過度に監視しようとする政府や政治家を指す。監視社会の例えとして用いられる。 (デジタル大辞泉より)
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国民総管理システム「アーダハール」
先週、中国での「国民総監視」のシステム導入について以下の記事を書きました。
未来世紀チャイナが作り出す中国式デストピア : 人々はシミュレーションゲームのような「変動するポイント制度」による信用システムの中で生きていく
そうしましたら、2日ほど前、アメリカのニューヨークタイムズで、インドで始められている「超管理社会化」についての記事を読みました。インドでも、やはりデジタルシステムによる超中央管理体制が進んでいたのでした。
中国の場合は「監視国家化」というイメージが強いものでしたが、インドが作り上げたシステムは、監視というより、
「人間の管理」
を完全化したようなもので、正直、13億人もの人々がいる国でそんなことが現実として進められて、ほぼ実現化(すでにデータベースに 11億人が登録済)しているということに、やや驚きました。
とりあえず、ニューヨークタイムズのその記事を先にご紹介しておきます。
いずれにしましても、世界最大の人口のふたつの国、
・中国 人口 13億8000万人
・インド 人口 13億2000万人
が相次いで、「ほぼ完全な監視あるいは管理国家となっていた」ということに気づいたのが、つい最近だったという私自身の時勢の知らなさ加減にも驚きますが、これだけの人口の管理がこんなに簡単にできるのなら(インドでは計画実施から現在まで約8年)、日本くらいの人口なら、さらに簡単なのかもしれないです。
では、ここから記事です。
‘Big Brother’ in India Requires Fingerprint Scans for Food, Phones and Finances
New York Times 2018/04/07
インドの「ビックブラザー」は、人々の食品購入、携帯電話、そして銀行取引の際の指紋スキャンを要求する
これまでにない範囲での識別システムを構築しようとしているインドで、国民 13億人の人々の指紋と目、そして顔をスキャンする作業が行われている。スキャンされたこれらの認証データは、社会保障データから携帯電話までのすべてのデータに接続されることになる。
このプログラムは、「アーダハール(Aadhaar)」と呼ばれている。
自由主義者たちはこの状況を、ジョージ・オーウェルの小説に出てくるビックブラザーのようだと述べ、懸念を表明している。
また、このインドの技術は、他の多くの国に対して国民の追跡方法のモデルを提供する可能性がある。インドの最高裁判決では、この ID システムはデジタル時代におけるプライバシーの憲法上の権利を規定する独自の法的問題を提起している。
デリーに住む 30歳の環境コンサルタントであるアディータ・ジャー(Adita Jha)さんは最近、プログラムに登録したが、それはとても面倒なものだったという。
このプログラムの登録では、まず顔の写真を撮影する。そして指紋を採取し、目の虹彩の図像を撮影する。ジャーさんは、データのアップロードに3回失敗して、4回目にやっとうまくいった。こうして、ジャーさんのデータは、すでにプログラムに登録されている 11億人のインド人の「国民データベース」に加わることになった。
ジャーさんによると、このブログラムに登録する選択しかないのだという。インド政府は、数百におよぶ公共サービスにこの認証データを利用し、多くの私立学校の入学試験にもこのデータが必要になる。
また、銀行口座の開設にもこのデータが必要だ。このプログラムに登録していないと、いろいろなことができない。
ジャーさんは、「プログラムに登録していないと(インドでは)生活が止まるようなものなのです」と言う。
このインドの技術は世界中の政府に市民を監視する新しいツールのアイディアを与えた。中国政府は、人々の顔の認証とビッグデータを使って人々を追跡する方法を展開している他、中国では、さらに国民の日常生活の監視も目指している。
英国を含む多くの国では、国民を監視するための固定カメラを導入している。
しかし、インドのこのプログラムは、バイオ・メトリックデータ(生体認証)の大量の収集とあらゆるものをリンクしようとする独自の取り組みとなっている。それは、乗車券の購入、銀行口座の開設、年金、児童への食糧配給など、あらゆる分野でこのデータが必要とされるものとなっている。
この試みについて、インド政府が国民すべてに対して前例のない規模で情報を取得するのではないかと懸念を抱く人たちも多い。
このような批判に対して、インドのモディ首相とトッププログラマーたちは、このプログラム「アーダハール」こそが、インドの未来へのチケットであり、このプログラムにより国の腐敗を減らし、そして文字の読めない国民たちをもデジタル時代に導くものだと述べている。
国民の監視から政府の福利厚生プログラムの管理に至るまで幅広い用途に利用されているこのプログラムは、他の国や地域でも関心を集めている。インド政府によると、スリランカも同様の制度を計画しており、英国、ロシア、フィリピンが現在このシステムを学んでいるという。
この「アーダハール (Aadhaar)」という言葉は、英語で「基本となるもの(foundation)」という意味だ。当初、政府は、このブログラムは、詐欺を減らし、政府の福祉プログラムの提供を改善することを試みていただけだった。
しかし、2014年にインド人民党が政権をとって以来、「デジタル・インド(digital India)」構想を推進してきたモディ首相は、その野望の範囲を大幅に拡大していった。
今、インドの貧しい人々が政府のコメの配給を得るためには店頭で指紋をスキャンしなければならない。年金生活者たちは、年金をもらうたびに指紋をスキャンしなければならない。中学生たちは、身分証明書を提出するまで、毎年の絵画コンテストに参加することができない。
インドの一部の都市では、生まれた新生児は両親が署名するまで病院を離れることができない。病気で指や目を負傷している人でも、指紋や虹彩スキャンを登録しなければならないと言われている。
さらに、モディ首相は、インドの全国民に、プログラムの自分の ID を携帯電話(スマートフォン)と銀行口座にリンクするように命じた。インドのいくつかの州では、人々がどこに住んでいるかを地図に明記するためにこのデータを使用している。また、企業では、採用希望者の過去を調べるためにこの ID を使用している。
モディ首相は、今年 1月の演説で、「アーダハールは、インドの発展に大きな力をもたらしている」と述べた。政府当局者は、納税等での不適切な利益を除外したことなどにより、すでにアーダハールによって 94億ドル(約 1兆円)が節約されたと推定している。
しかし、これに反対の立場を取る人々は、インドの最高裁判所に、このプログラムがインドの憲法に違反していると申し立てている。これまで、少なくとも 30件が最高裁判所に申し立てられた。
裁判所は広範な聴聞会を開いており、この春に判決を下す予定だ。
インド政府は、何百万人もの人々が身分証明書を受け入れていない国では、普遍的な身分証明書が不可欠であると主張する。
同システムを監督する政府機関会社を率いる米ミネソタ州のエイジェイ・B・パンデー(Ajay B. Pandey)氏は、「インドの人々こそが、このブログラムで最大の利益を得ているのです」と語る。
企業はまた、この技術を使用して事務処理を合理化している。
インドの銀行は、かつて口座開設の申請者の住所について銀行員がその家まで行って確認していた。しかし、アーダハールによって、オンラインから銀行の支店で指紋をスキャンするだけで完了することができるようになった。
通信プロバイダーのリライアンス・イオ(Reliance Jio)は、アーダハールの指紋スキャンを利用して、携帯電話の SIM カードを購入するために政府が要求する ID チェックを実施している。これまではサービス開始に数日かかっていたが、これにより、即座にサービスを有効にすることができるようになった。
とはいえ、アーダハール・システムは実用的かつ法的な問題も提起している。
システムの中核である指紋、虹彩、顔のデータベースは、セキュリティ上で安全であるように見えるが、しかし、少なくとも 210 の政府のウェブサイトから、名前、生年月日、住所、親の名前、銀行口座番号、アーダハール番号などの数百万人のインド人の個人データが流出した。
流出したデータの中には、グーグルで簡単に検索できるようになっていたものもあった。
アーダハールは政府から義務づけられているが、しかし、インドの農村部では、アーダハールの手続きをするために必要なインターネット接続と登録手続きで問題が起きている。
生涯でそのようなものと縁が無く、また、文字が読め書きできない人たちにとって、アーダハールの手続きは非常に困難だ。実際、最近の調査によると、ジャカルカ州の世帯の 20%が、アーダハールに基づく検証の下で食糧配給を得られなかった。(※ 訳者注 / インドの識字率は 70%程度で、農村部はさらに低いとされています)
これらの問題から、一部の地方自治体は公共の利益のためにアーダハールの使用を縮小した。そした 2月には、デリー地域政府は、アーダハールによる食料配給を停止すると発表した。
プログラムの責任者は、いくつかの問題は避けられていないが、当局が現在問題を解決しようとしていると語っている。指紋や虹彩スキャンの代わりに、顔認識が追加されたのもその中でのことだという。
アーダハールを監督する政府組織のパンデー氏は以下のように語った。
「すべての国民の情報を持っている国家は(他に)存在しません。インドは、アーダハールが登場するまでは、何億人ものインド人のひとりひとりを特定することは容易にできることではありませんでした。しかし、今は違います。」
「もし、その人が自分の ID を証明できない場合、公民権は剥奪されます。つまり、その人は存在しないのと同じことになるのです」
ここまでです。
この記事にありますように、他のいろいろな国がこのインドを「手本にしている」そうですので、同じようなシステムが他の国で少しずつ稼働していくことになるのだと思われます。別に陰謀論的な意味ではなくとも、「国民の情報の一括した管理」は、世界の政府の共通の願いのはずです。
また、このインドのシステムの場合は、
・登録していないと食料配給が受けられない
・登録していないと銀行口座を開くことができない
・登録していないと年金を受け取ることができない
というような様々なことがあるようですが、この
「登録していないと〇〇ができない」
という項目が増えれば増えるほど、「登録しないとその国で生きていくことができない」ということになっていくことになりそうです。
聖書のヨハネの黙示録では、「 666という数字が刻印されていない者は、何も買うことも売ることもできなくなる」という社会のことを述べていますが、インドのこのシステムは「私どもは、そのような数字の手間も省いております」というような感じの徹底ぶりの中で、ヨハネの黙示録の「それがなければ、買うことも売ることもできない」を、数字 666 さえ不要で実行しているのだから大したものです。
ヨハネの黙示録 13章 16-18節
小さな者にも大きな者にも、富める者にも貧しい者にも、自由な身分の者にも奴隷にも、すべての者にその右手か額に刻印を押させた。
そこで、この刻印のある者でなければ、物を買うことも、売ることもできないようになった。この刻印とはあの獣の名、あるいはその名の数字である。
ここに知恵が必要である。賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。数字は人間を指している。そして、数字は666である。
インドでは、生体認証を1から行ったようですが、オンライン装置が普及している他の国ですと、情報取得や管理はもっと簡単そうです。
もちろん、日本を含めた主要国では、現在のような「平時」にはこんなシステムの概念は出てこないでしょうが、「非常時」にはどうなるかわかりません。
たとえば、多くの人にとって食糧配給が日常的なような社会状況になり、「登録しなければ食料は供給できません」と言われれば、登録せざるを得ないですし、あっという間にシステムは整備できるかと思います。
主要国の場合、さらに「仮想通貨の国家による管理」という項目が加われば、ほぼ完全なものとなるのではないでしょうか。
特に主要国では、過去記事「生まれる前の赤ちゃんに個体識別バーコードがつけられ、何十億人もの情報がインターネットで一括入手できる時代に…」などにありますように、個別の情報そのものはすでにたくさん存在しているわけで、それらの情報の「統括した管理」が「許されるかどうか」というだけなのだと思います。
なお、こういう一種の「独裁化」が急速に進むのが太陽活動から見た今の時代の特徴だということを以前何度か記させていただいたことがあります。
以下の記事などにあります。
ここに、20世紀初頭のロシアの科学者アレクサンドル・チジェフスキー博士が 1920年に発表した論文にある「太陽活動最小期の社会の特徴」は以下のようになります。
チジェフスキー博士の研究による「太陽黒点最小期」の社会の特徴 (1920年)
太陽活動最小期の特徴:
・大衆の統合性の欠如
・大衆は政治的、軍事的な問題に関心を示さない
・穏やかで平和的な大衆
・寛容で忍耐強い大衆これらの特徴のもたらす結果:
・正しい思想を守るために戦うことの情熱の欠如
・闘争を放棄し簡単に断念してしまう。この時期に現れる社会的な現象:
・平和条約の締結、降伏、占領
・問題解決の場としての議会の活発化
・独裁や専制の強化
・少数エリートによる統治の強化
とあります。
現在の社会や政治情勢と当てはまることがたくさんありますが、今回の件は、
・独裁や専制の強化
・少数エリートによる統治の強化
と関係するのだと思います。太陽活動(だけ)から見れば、独裁化やエリートによる統治の強化は今後さらに進む可能性があると思われます。
そして、中国やインド以外の国で、同じような「 1984 的国家」が誕生するのだとしたら、そのキッカケは先ほど書きました「大勢に食料配給が必要となるような非常時」なのかもしれません。
それが、自然災害によるものなのか、戦争的なものなのか、あるいは経済的なものなのかはわからないですが、そういう時には、世界的に急速にその方向に進むのではないかとも思っています。