2019年7月3日 史上最大規模の噴火を起こしたイタリアのストロンボリ火山
破局噴火
火山の噴火には、通常の噴火と共に、「カルデラ噴火」とか「破局噴火」と呼ばれる大規模な噴火の形式があります。
通常の火山の噴火が、火口などからの噴出によるものであるのに対して、カルデラ噴火は火山の面積そのものが爆発的に噴火するもので、その破壊規模は通常の噴火とは比べものにならないものです。
イメージとしては、以下のような感じですかね。科学誌ニュートンの表紙に使われていた CG イラストです。
阿蘇山の9万年前のカルデラ噴火の様子の想定図
もちろん、カルデラ噴火は頻繁に起きるものではなく、日本の領域では、7300年前に九州沖の鬼界カルデラが噴火して以来、起きていないのですけれど、地球の歴史の単位で見ますと、「わりと頻繁に起きている」ものでもあります。
たとえば、日本も世界にも、カルデラからできた地形やカルデラに水が溜まってできた湖などが数多くありますが、そういう場所では、かつてカルデラ噴火が起きていたのです。
日本だけでも、有名なカルデラとしては以下のようなものがあります。
もちろん、これは超巨大カルデラだけで、日本には非常に多くのカルデラが存在します。
などを見ますと、日本全国に 100以上のカルデラがあることがわかります。
現在の地質学では、日本においてのカルデラ噴火は、平均して 6000年に 1度の割合で起きているのだそうで、決してよく起きるものではないですが、しかし、回数は少なくとも、巨大なカルデラ噴火は、その破壊力があまりにも巨大であるために、
「 1度起きると、その周辺の文明は長く途絶える」
ということになるものです。
7300年前の鬼界カルデラの噴火の際にも、縄文時代の九州の遺跡に「 1000年近い空白期間がある」ことが知られていまして、そのような期間、文明は消失するものだということがわかります。
これは現代でも基本的には同じだと思われます。
そういう観点から「世界で最も危険な火山」というものを、2015年に、英国の天体物理学者たちが発表しましたが、それは以下のようになります。
2015年版 世界で最も危険な火山 10
1位:硫黄島(東京都)
2位:アポヤケ山(ニカラグア)
3位:カンピ・フレグレイ(イタリア)
4位:阿蘇山(熊本県)
5位:トランスメキシコ火山帯(メキシコ)
6位:アグン山(インドネシア)
7位:カメルーン山(カメルーン)
8位:タール山(フィリピン)
9位:マヨン山(フィリピン)
10位:ケルート山(インドネシア)
日本を含めて、そのほとんどが環太平洋火山帯にある超巨大火山ですが、この中で唯一、環太平洋火山帯ではない火山が、太字にしていますイタリアのカンピ・フレグレイです。
このイタリアの超巨大火山は、最近「活動の徴候を見せている」のですが、ここ数日、イタリアの地質状況が不安定になっています。
今回は、そのことをご紹介したいと思います。
イタリアの火山が連日突如の噴火を起こす中
少し前に、イタリアのエトナ山が噴火したことを以下の記事でご紹介させていただきました。
エトナ山そのものは、頻繁に噴火を起こす火山ですが、今回の噴火は「噴火の予兆がなかった」という点が特徴でした。
上の記事を書いている時点では知らなかったのですが、このエトナ山が噴火した 7月2日の翌日の 7月3日に、やはりイタリアにある「ストロンボリ火山」が大噴火を起こしていたことを知りました。
噴火したストロンボリ火山
ストロンボリは火山島で、島そのものが火山といえます。
冒頭の写真は、米フォーブスに掲載されていたものですが、そのフォーブスによれば、この噴火により少なくとも 1人の観光客が死亡したことが確認されています。
この噴火の規模なのですが、AFPの報道には以下のようにあり、この噴火は、ストロンボリ島での噴火としては、最大級のものだったようです。
AFPの報道より
イタリア国立地球物理学火山学研究所(INGV)によると、グリニッジ標準時(GMT)午後2時46分ごろ、噴火口中央南側で大規模な噴火が2回発生。
ストロンボリ島で史上最大規模の噴火だったという。
INGVによれば、噴火に先立ち火口部分にある「火山活動のあるすべての噴火口」から溶岩が流出し、上空約2キロの高さまで大量の煙が立ち上った。
ここにありますように、
> 火山活動のあるすべての噴火口から溶岩が流出し
というような活発な火山活動を示すものだったようです。
また、以下のようなコメントも掲載されていました。
地元の神父ジョバンニ・ロンゴさんはメディアに「空から火の雨が降ってきて、まるで地獄にいるようだった」と語った。
いずれにしましても、イタリアで、このように「連日で異なる火山が噴火する」というのは聞いたことがないことでして、現在のイタリアの地質活動が活溌なのか、活発ではないのか、ということになれば、少なくとも「活発でないということはない」ということになるとは思います。
そして、位置で見ますと、このエトナ山とストロンボリ火山、そして先ほどの「世界で最も危険な火山」の 3位にあるカンピ・フレグレイの位置関係は、やや気になる位置関係ともいえるのです。
それぞれの場所は以下のようになっていて、エトナ山、ストロンボリ島、カンピ・フグレイは、ほとんど直線上に並んでいるような位置関係です。
エトナ山、ストロンボリ島、カンピ・フグレイの場所
・Google Map
カンピ・フレグレイの隣には、西暦 62年にポンペイを火砕流で消失させたベスビオ火山があります。
このカンピ・フレグレイは、500年以上活動していないのですが、2016年に「活動が始まった」とする論文が発表されました。
以下は、2016年12月のナショナルジオグラフィックの記事からの抜粋です。
超巨大火山に噴火の兆候、イタリア
ナショナルジオグラフィック 2016/12/28
50万人が住むイタリアの大規模な火山性カルデラ盆地、カンピ・フレグレイの地下にある超巨大火山が、500年の休止期間を終え、“臨界状態”に近づく可能性があるという論文が、科学誌『Nature Communications』に掲載された。
観測データの解析とコンピューターによるモデリングの結果、「マグマが、ガスを放出する臨界圧力(CDP)に達している可能性がある。世界屈指の人口過密地帯である大都市ナポリ近郊にあるこの火山では現在、加速的な変動と温度上昇が観測されている」と、ローマのイタリア国立地球物理学研究所が発表した。
近い将来、マグマの高熱のガスが突然噴出し、大規模な噴火を引き起こす可能性がある、と科学者たちは警告している。だが噴火する時期は今のところ予測不可能だ。イタリア政府はこの発表を受け、噴火の警戒レベルを緑の「正常」から黄の「要警戒」に変更した。
このように、このカンピ・フレグレイの地下は、2016年の時点で、「すでに臨界に達している可能性がある」というのです。
そして、そのような状態の中、7月2日にエトナ山が噴火し、その翌日、エトナ山とカンピ・フレグレイの中間地点にあるストロンボリ火山が「史上最大規模の噴火を起こした」という状況なのですね。
このカンピ・フレグレイについては、2017年に以下の記事で取りあげたことがあります。
「ネアンデルタール人を滅ぼしたかもしれない超巨大火山」は、現世人類に同じような打撃を与えることができるか否か : イタリア・フレグレイ平野
しかし、上の記事を書いた時には、イタリアの火山活動は今のように活発ではありませんでした。
今は、少なくとも、カンピ・フレグレイの周囲の地質活動はとても活発になっている感じが伺えます。
現在の状況としては、
・カンピ・フレグレイの地下のマグマはすでに臨界状態にある可能性が高い
・イタリアで史上最大規模の噴火活動が起きている
・世界的にも、巨大な噴火が急激に増加している
というようなことになっていまして、先ほどの記事を書きました 2017年より、さらに懸念の度合いは高くなっているように思います。
これで思い出しますのは、以下の記事で取りあげました「多くの火山が地下でつながっているかもしれない」ということがわかってきたことでした。
「異なる火山が地下で接続している」ことが、初めて科学的調査で見出される。その最初の発見の現場となったのは、桜島と新燃岳の範囲を含む九州の姶良カルデラと霧島連峰…
ですので、周辺の火山活動が活発になるということは、その周辺にある他の火山にも影響をダイレクトに与えている可能性が強いのです。
仮にカンピ・フレグレイが噴火活動を起こしたとしても、小規模なものであれば、さほど影響はないと思われますが、カルデラ噴火のような状態のものが起きれば、このカンピ・フレグレイのあたりは大きな人口圏ですので、影響も甚大だと思われます。
まあしかし、カルデラ噴火が起きれば、その影響が壊滅的なのは、どの火山も同じで、たとえば、富士山にしても、単なる普通の噴火ならば、火山灰による農業と経済の被害は大変なものになるとはいえ、前回の宝永噴火で噴火による直接の死者は一人もいなかったように、「文明が消失するような自然災害にはならない」はずです。
しかし、富士山、あるいは他のどんな火山でも、カルデラ噴火を起こした場合、その広大な周辺域のほとんどが、火砕流やガスや火山灰などで「消え去る」はずで、そうすると、本当に長い間、その地の文明は消失したままとなると思われます。
すべての動物や植物が消え去り、地形そのものも変わってしまうので、そう簡単に元に戻ることはないはずです。
これはどの火山でもおそらく同じで、火山の規模の大小はあるにしても、カルデラ噴火が起きれば、その地域はいったん歴史から姿を消します。そのような危険のある超巨大火山の中で、現在、最もそういう状況に近いのが、イタリアのカンピ・フレグレイなのかもしれないという気もしないでもないです。
そういう時代が近づいているのかどうかはわかりようがないですが、日本にしても、「過去の日本では 6000年に 1度、カルデラ噴火が起きていた」という周期的な部分から見れば、前回のカルデラ噴火から 7300年経過しているところから、いつ起きても不思議ではないでわけでもあります。
気象がこれだけ混沌としてきていますと、地質の事象のほうも混沌としてきても不思議ではないという思いは日々強くなっています。