火星の「謎の磁場の揺れ」を伝える米ナショナルジオグラフィックの報道より
火星で検出された「夜だけに発生する」磁場の脈動
とても興味深い報道を目にしました。アメリカのナショナルジオグラフィックの 9月20日の報道です。
それは、火星に着陸した NASA の無人探査機が、
・真夜中だけに起きる謎の磁気の揺れ
と
・火星の地下に厚さ4キkmもある火星の地下全体を貫くかもしれない「水」の層
を発見したかもしれないというニュースです。
謎の磁気の揺れのほうに関しては、その理由は、もうまったくわからないようです。
火星の地下に水が存在する可能性については、最近、よく報道されますが、今回示されたのは、微量の単位の話ではなく、膨大な水です。しかも、地下数十キロなどの非常に深い場所にある。
このナショナルジオグラフィックの記事は、探査機インサイトの調査の性質などにもふれていますので、まずはご紹介したいと思います。
ここからです。
Mysterious magnetic pulses discovered on Mars
National Geographic 2019/09/20
火星でミステリアスな磁気の脈動が発見された
2018年11月から火星の探査を行っている NASA の火星探査機インサイト (InSight)の最初の探査報告は、火星の「夜間の不可解な出来事」を送信してきた。そして、また、インサイトの探査データは、火星は地下の深い場所に広大な貯水エリアを有している可能性が高いことを示した。
探査機インサイトの新しい探査結果は、これまで火星で観測されたことのない奇妙な磁場の脈動を観測したことを示している。なぜ、このような磁場の波動が観測されたのか、原因は今のところ不明だ。
そして、この謎の磁場の脈動は、NASA のインサイトから送られてきた火星の予備調査の結果のひとつに過ぎない。2018年11月に火星に着陸して以来、インサイトは、火星の上部地殻の温度を測定し、また、未知の地震の音を記録している。さらに、インサイトは、火星の磁場の強さと方向を検知した。
現在、科学者たちは、これらのデータから、火星の内部と進化を、よりよく理解できるように情報を収集している。
今週の欧州惑星科学会議 (European Planetary Science Congress)とアメリカ天文学会 (American Astronomical Society)の合同会議でのいくつかのプレゼンテーションで明らかにされたように、このインサイトの予備調査の最初のデータは、火星の磁気的な状態が狂気的であることを示している。
NASAの次の火星ミッションがどのように火星の脈動を捉えるか
火星の初期の地質学的進化を研究するためのミッションとして火星に着陸したインサイトは、 火星の表面だけではなく、地下を含む内部の状態を詳細に研究するための機器を搭載している。
インサイトのデータによれば、火星のこの奇妙な磁気の脈動の存在があることに驚かされた同時に、火星の地殻は、これまで科学者たちが予想していたよりもはるかに強力であることを示している。
さらに、インサイトは、火星の表面から深い地下に、厚さが約 2.5マイル ( 4キロメートル)もある非常に厚い特異な導電性の地質の「層」を検出した。
これが何であるかについて言うのは時期尚早だろうが、この層は、水などの液体の貯留層である可能性がある。
地球の場合、地下水は、砂や土、岩などに閉じ込められた隠された海のような状態となっているが、火星で地球の地下水と似たようなものが見つかったとしても、「それは驚くことではありません」と、米ブリガムヤング大学の惑星科学者であるジャニ・ラデボー(Jani Radebaugh)氏は言う。
しかし、これらのインサイトのデータの結果が裏付けられた場合、今の火星の地下に存在するこの巨大な規模の液体の領域は、過去あるいは現在の「火星の生命の存在」の可能性について大きな影響を及ぼすことになるはずだ。
このインサイトのデータは、今のところ、まだ詳細な検討がなされたものではなく、今後、最初の発見と解釈に関する詳細は、時間とともに微調整されることになるだろう。しかし、それでも、今回のインサイトのデータの啓示は、火星についての新しい状況を私たちに提供するものだ。
岩と砂だけの惑星と考えられていた火星に、磁気の脈動があり、地下に広大な水があるかもしれないという示唆は、この宇宙にある他の多くの「岩と砂だけのように見える惑星」への理解の革命につながるものかもしれない。
米ノースカロライナ州立大学の惑星地質学者ポール・バーン (Paul Byrne)氏は、次のように語る。
「私たちは、かつてない方法により、火星の磁気の歴史の洞察を得ているのです」
地球と火星
地球は、その回転と、鉄に富む液体の外殻コアのおかげで、惑星全体規模の巨大な磁場を持っている。地球の磁場は、地殻内の特定の鉱物に閉じ込められた強さと方向の自然記録に基づいての調査では、地質学的な時代の中で劇的に変化してきたことが示されている。火星の磁場の歴史も、同様に地殻に記録されている。
インサイトは、その火星の磁場の歴史を明らかにしようとしている。
カリフォルニア大学バークレー校の惑星宇宙物理学者であるロバート・リリス (Robert Lillis)氏は以下のように述べる。
「地球上に存在するのと同じように、磁性鉱物のエリアが火星に存在するのです」
これが知られたのは、NASA の火星探査機マーズ・リコネッサンス・オービターの 1997年のデータからだった。オービターは、火星の表面から 60〜250マイル ( 100〜 400キロメートル)上空の磁気を検出し、これを火星表面と同じ高さから測定した場合、火星の地殻の磁場が地球の 10倍強いことを発見した。これは、昔、火星にも主要な磁場があったことを示している。
しかし、地球とは異なり、火星は約 40億年前に、惑星全体の磁場の崩壊を引き起こした。
そのために、惑星を守るための磁気シールドが徐々に消えていき、火星表面は、太陽風として知られる太陽からの放射線に直接曝露するようになり、次第に、火星の表面は、冷たい砂漠となっていったと考えられている。
地球と火星が、なぜそれぞれ、このように異なる運命になっていったのかを把握するには、火星に残る磁気の可能な限りの最良の測定が必要だが、宇宙空間の軌道からの観測では、残留磁場の強度の解析は不十分だった。
そのためには、大地に近づいて磁気を観測する必要があった。
真夜中の謎
その後、探査機インサイトは、火星の表面に初めて磁力計を設置した。
この磁力計が示した地殻磁場は、科学者たちに少し衝撃を与えた。インサイトが計測した磁場は、過去の観測から予測されたものの約 20倍の強さがあったのだ。
インサイトのデータに精通している科学者たちは、この強力で安定した磁気信号はインサイトの近くにある岩から来ていると考えているが、この強い磁気信号の源泉が、深い地下にあるのか、あるいは地表近くにあるのかは現在不明だ。
このどちらかを識別することは重要だと科学者たちは言う。なぜなら、もしこの磁気信号が地表近くの、より若い岩から来ているとするならば、火星には、私たちが考えているよりも長い間、強い磁場が火星の周囲に持続して存在していたことを意味するからだ。
探査機インサイトの示すデータには、さらに不可解なことがある。
それは、インサイトが捉えた強い磁気信号が出ていると考えられる現場近くの地殻の磁場が「ときどき揺れ動く(脈動する)」ことを見出したのだ。
このような揺れは「磁気脈動」として知られているという。
これらの脈動は、磁場の強度または方向が変動していることを示しているが、完全に異常ということではない。それらの多くは地球で起こるような現象、たとえば、高層大気の混沌とした状態や、太陽風の作用、磁気の泡のねじれなどによって引き起こされる可能性がある。
ただ、奇妙なのは、これらの火星の磁場の脈動が、まるでタイマーに反応するかのように、「火星が深夜の時にだけ発生する」ことだ。
このことについては、現在、その理由がわかる情報データは存在しない。
科学者たちは、火星に存在する「磁気の泡」と関連して、少しの可能性を考えているが、現時点では、なぜ真夜中だけに磁場の揺れが発生するのかは、答えのないパズルに挑むようなものとしか言いようがない。
火星の新しい概念が作り出される可能性
火星の磁気に関する発表のひとつで、科学者たちは、磁気信号の特徴が火星の表面の下のどこかに導電層の存在を示しているように見えると述べた。まだその正確な深さを特定することはできていないが、その層は、深さ62マイル (約 100キロメートル)を超えることはないと考えている。
磁力計を使って、大地の深部に水が存在するかどうかを調査するテストは、地球上の砂漠でおこなわれた。火星にあるインサイトも、同じ調査をおこなっている。
今回発見された水の層と思われる層は、溶解した固体を含む水の帯水層、あるいは、火星の惑星全体に広がる可能性のある氷と水の層である可能性がある。
火星の過去の湖、川、さらには海に、どのくらいの地表水が残っていたのかは不明だが、現在、火星の地下には水が含まれているという証拠がある。火星の表面に、広範囲で氷が存在するという強力な証拠を考えると、液体の地下帯水層も存在すると考えるのが合理的だ。
しかし、この先には大きな問題が待っている。インサイトの掘削ドリルは、16フィート (約 4.8メートル)の深さまでしか掘ることができない。なので、少なくとも、数十キロ深くに存在すると考えられる水の層を調査するためには、将来的な火星ミッションの中で、他の方法を考え出す必要がある。
今回のデータが示した火星の帯水層の存在が、検証されるか、あるいは、最終的に否定されるかどうかと関係なく、ミッションに関わる科学者たちは、インサイトの測定の重要性が明らかに示されていると述べる。
探査機インサイトは、今日も、火星の地下に埋もれたあらゆる種類の驚異を掘り続けている。
ここまでです。
まあ、この「真夜中だけに起きる謎の磁場の脈動」に関しては、科学者の方々が「わからない」と述べているのですから、私にわかるわけもないですが、少なくとも、火星は「ずいぶんと生きている惑星」の可能性は高そうです。
また、仮にこのインサイトが見出した「地下の電動層」が、本当に水の層であるならば、少なくとも、その地下には生命が豊富に存在する可能性が高いです。
なぜなら、酸素があるかないかは関係なく、また、「どんなに地下の深いところにでも」生物が大量に存在し得ることが、地球の例で最近示されているからです。
以下は、2018年12月の AFP の報道からの抜粋です。
地下深部に広大な「生命体の森」 国際研究で発見
AFP 2018/12/12
海底をおよそ2500メートル掘り下げた地下に、数十万年から数百万年にもわたって存在してきた可能性のある微生物を含む、広大な「生命体の森」が存在するという発見が米ワシントンで開かれた米国地球物理学連合の会議で発表された。
地底の極端な温度や気圧にもかかわらず豊富に存在するこの生命体は、これまで存在が知られてこなかった。
何も摂取せずに岩から放出されるエネルギーのみを取り入れて生きており、動きは遅く、まるでゾンビのような状態で存在しているという。
2009年に地球内部の秘密を探るために専門家数百人が集まって結成された国際共同研究機関「深部炭素観測(ディープ・カーボン・オブザーバトリー / DCO)」が、過去10年に及ぶ研究の最新結果を発表した。
それによると、地球上の生物のうち、細胞核を持たない単細胞の有機体である細菌や古細菌のおよそ70%が地下に存在する。そうした「深部地下生物」は炭素重量換算で150億~230億トンに相当するという。
米オレゴン州立大学で宇宙生物学と海洋学を教えるリック・コルウェル氏は「地球の深部地下生物圏は巨大だ」と述べ、これまでに発見された生命体は「非常に素晴らしい、極限の生態系」だと表現した。
コルウェル氏は「地底の奥深くには少なくとも地表と同等か、ともすればそれを超えるかもしれない遺伝的に多様な生命体が存在しており、われわれはその多くについてまだ解明できていない」と語った。
科学者らは深度5000メートルを超える地下でも生命体を発見しており、生命体の限界となる境界の在りかはまだ突き止められていないという。
このような結果を見る限り、その温度が「極限を超える温度」でなければ、何キロ、あるいは何十キロ地下であろうと、地球においては、地下に生物が存在している可能性が高くなっています。
極限を超える温度というのは、おおむね 121度ほどで、この温度までなら、生存できる細菌が地球にはいます。
パンスペルミア説を確信している私としては、これは「宇宙のどの惑星にでも適用できる話」だと思っています。つまり、環境の条件さえ合うのなら、宇宙のどんなところにでも、地下に生命は存在し得るということです。「存在し得る」というか、パンスペルミア説から言えば、「水のある地下に生命は必ず存在する。そうでないとおかしい」とも言えます。
ほぼあらゆる生命は、生きた状態で存続するには、水は必要だと思いますので、とにかく水が絶対的存在ですが、火星の地下には「それが膨大にある」可能性が高くなったのですね。
さらに、今年 5月の記事でご紹介しましたが、火星からは、「生命の存在の徴候を示すメタン」が検出されています。以下の記事では、アメリカのニューヨークタイムズの報道記事をご紹介しています。
火星で生命存在の証拠となるメタンガスが奇妙なかたちで発見される。…しかし、火星の生命存在は40年前のバイキング計画で、すでに決着がついていたことも思い出し
この記事の中で、私は、
「微生物たちの生物圏が火星の地下に広大にひろがっている」という可能性はありそうです。
というように書かせていただきましたが、その可能性はさらに強くなっているということになるかもしれません。
そして、このように「地下に広大な水体系を持っている惑星」が、他にも確認できるのならば、意外と、太陽系のどこの惑星にも生命体系というものは広がっているのかもしれないですね。
微生物の生命が存続するためには、種類によっては日光も酸素も必要ないですし、高温なども、極端でない限りは、生命の存続の邪魔をしません。
しかし、重力や磁場の関係により、宇宙線や放射線からの地表の守護シールドが存在しない惑星(太陽系では多くがそうです)の場合、「生命は地下に潜る必要がある」ということなのかもしれないです。
あるいは、月でさえ、地下に生命体系が広がっていても不思議ではないです。何しろ、最近、「月の地下に膨大な水があることがわかった」のですし。
以下は、2019年4月のナショナルジオグラフィックの日本語版の記事からの抜粋です。
月全体の表面直下に水がある、驚きの研究、NASA
ナショナルジオグラフィック 2019/04/17
荒涼とした景色が広がる月はどうやら、科学者たちが想像したよりもはるかにたくさんの水をたたえているようだ。
月の塵と大気を調査するために送り込まれたNASAの探査機LADEE(ラディ―)が、隕石が衝突する際に月面から放出される水を検出した。
4月15日付けの学術誌「Nature Geoscience」に掲載された論文によると、微小な隕石が衝突する際の衝撃によって、年間最大220トンもの水が放出されているという。月面付近には、これまで考えられてきたよりもはるかに大量の水が存在することになる。
このように、月の地下にも大量の水があることが確定的となっています。
月は、表面では生きた状態で生命が存在するのは、いかなる種類のものでも難しいと思いますが、水がある地下なら特に問題はなさそうです。
こう考えますと、空に見えるほとんどの星は、その地下に大量の生命が生きているというように考えたほうが合理的なのかもしれません。
無人探査機の調査が面白くなってきていますね。
月では、中国の玉兎2号が、「月の裏」で、以下のように不思議なものを見つけたりしています。
そして、火星探査機インサイトは、さらに火星の真実を見つけていくのかどうか、期待がかかるところです。