2019年2月11日の米国ビジネス・インサイダーより
終末兵器の決定版「ポセイドン」
今日、海外の報道を見ていましたら、
「ロシアが構築した海中で作動する終末兵器」
についてのニュースが、いろいろなメディアで取りあげられていました。
どんなものかといいますと、魚雷のような形をした海中で作動する核兵器ですが、そこに搭載されている核兵器の量というか破壊力というか、それがすごくて、今回ご紹介するアメリカの報道メディアの表現をお借りしますと、
ロシアのポセイドンは、これまでに爆発した最大の核爆弾と同じぐらい強力な弾頭を数多く搭載していると言われている
というものだそうです。
下は、ロシア国防省のクレジットのある CG イラストですが、このような魚雷のような形をしていて、「目的の海域」まで進み、爆発する装置のようです。
発射準備中のポセイドン
そして、例えば、下の図はニューヨークの沿岸に進行したポセイドンが爆発した場合の爆発の規模と被害想定です。
ニューヨーク沿岸でポセイドンが作動した時の被害想定
・Status-6 Oceanic Multipurpose System
この画に「 100メガトン」という規模の単位がありますが、これ単体で見ると、この破壊力がよくわからないですが、たとえば過去の核爆発と「比較」すると、これはかなり壮絶です。
たとえば……。
「広島に落とされた原爆は 15キロトン」
でした。
「キロ」と「メガ」という基本的な単位が違うことがおわかりだと思います。
ここから考えますと、上の「 100メガトン」とある核兵器は、
広島に落とされた原爆の 5000倍の威力
だということになります。
しかも、それが「海中で作動する」わけで、このような非情なほど強力な核兵器が、海の中で作動すると、どうなるかといいますと、
・海の生態系が放射線により壊滅
・海岸沿いの生命体系が放射線により壊滅
というようなことになり、しかも、その破壊力から、影響を受ける範囲は夥しく広大だと思われ、まさに終末をもたらす兵器といえそうです。
これまでの核兵器は、たとえば目標とした都市や地域を壊滅させる目的で作られたものですが、このポセイドンという装置は、
「海の生態系を含めた、極めて広範囲に本当の壊滅をもたらす」
という目的で作られたもののようです。
今回ご紹介する記事には、「そんなものを、なぜロシアは作ったのか」ということが書かれています。
そして、そこから見ますと、この話は、1960年代のスタンリー・キューブリック監督の映画『博士の異常な愛情』とまるで同じような発想のようなのですね。
これについては、本文の後で少しふれます。
まずは、ここから冒頭のビジネス・インサイダーの記事です。
The real purpose of Russia's 100-megaton underwater nuclear doomsday device
Business Insider 2019/02/11
ロシアが100メガトンの水中の「核の終末装置」を構築した本当の目的
ロシアが、 100メガトン級の海中に構築する新しい核兵器による終末装置を製造したと言われている。この装置は従来の核戦争の考えを超え、地球の人類や生命の将来に直接の脅威をもたらすものだ。
・2015年、ロシアの国営テレビに映ったポセイドンの設計図。BBCより
ロシアの新しい核魚雷の映像がロシアの国営放送で最初にリークされた 2015年以来、世界は、なぜ、ロシア政府が、このような地球上のすべての生命を終末に導く可能性のある兵器を構築するのかを自問してきた。
核兵器は、そのものが凄まじい大量破壊兵器だが、このロシアの「ポセイドン」と呼ばれる新しい終末装置(Doomsday Device)は、核による殺戮と、放射能で世界中を荒廃させる核兵器の効果を最大にするための措置を講じる装置だといわれる。
もし、核弾頭を搭載したアメリカ空軍の大陸間弾道ミサイル「ミニットマン」が、目標に向けて発射された場合、それは目標の場所の高い上中で爆発し、その爆風は信じられないほどの下方圧力となる。
その場合、核兵器自体の火の玉は地面に触れることもないかもしれない。そして、その下では、どんな小さな粒子さえも一掃されるだろう。
しかし、ロシアのポセイドンは、そのようなものものよりさらに大きな破壊力を持つのだ。ポセイドンは、これまでに爆発した最大の核爆弾と同じぐらい強力な弾頭を数多く搭載していると言われる。
さらに、ポセイドンは、海中と直接に接触するように設計されており、それは、あらゆる海洋生物や海底とダイレクトに繋がることになる。そして、爆発の際に発生する「放射性津波」により、致命的な放射線を何十万キロメートルもの陸地と海に広げ、海や土地を何十年もの間、人や生物が住むことができなくする。
簡単にいえば、現行の核兵器は、さまざまな都市ひとつを荒廃させる兵器だが、ロシアのポセイドンは、「大陸と海洋単位で終末をもたらす」装置といえるのだ。
このような世界的な終末を導く装置を構築するという考えは、冷戦時代の真っ只中であっても、真剣に考えた人たちは誰もいなかったと、オーストラリア戦略政策研究所の上級アナリストであるマルコム・デイヴィス( Malcolm Davis )氏は、ビジネスインサイダーに述べた。
なぜロシアは今これを構築したのか
デイヴィス氏は、ロシアのポセイドンを「第三攻撃報復兵器 (third-strike vengeance weapon)」と呼んだ。
つまり、ロシアが NATO の一員を攻撃し、それにアメリカが対応して、ロシアが破壊された場合、ロシアはこの海に隠れた核兵器を、アメリカの海辺全体に向けて放つことを意味する。
デイビス氏によれば、ポセイドンは、ロシアの先制攻撃に対する NATO の対応を防ぐための「抑圧」を与えるだろうという。
ロシアはここで、東欧を占領するだけでなく、NATO が第5条の宣言(NATO加入の一国でも攻撃を受けた場合は、加入国全体が反撃する集団的自衛権の行使)に基づいて行動しないことにより、NATO の信頼性を失うことを強要しようとしていると述べた。
デイビス氏は、「ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、NATO の崩壊を求めていることを明らかにしています」と言う。「 NATO が加盟国の助けにならない場合、それは防衛同盟としては、ほとんど終わったものとなるのです」
本質的には、ロシアは防衛の保険としてポセイドンを使用することができるが、それは NATO を切り離すことにもなる。
つまり、何十年も防衛策を講じていないアメリカの海岸線が、海中魚雷装置によって放射能に徹底的に暴露される可能性があるという懸念を考えると、そのようなリスクを負って、ヨーロッパを守る必要がアメリカにあるのかという話でもある。
デイビス氏は、 「ポセイドンは、ロシアの脅威への対応における NATO のリスクを強調し、ロシアの抑圧力を劇的に増加させました」と述べる。
ロシアは最近、中距離核兵器禁止条約に違反した核兵器を用いて、西側諸国に抑圧をかける意向を示しているとデイビス氏は語る。これらの中距離核兵器は、ロシア本土からヨーロッパの首都をターゲットにして構築されている。
しかし、ロシアは、NATO に取り囲まれていると感じたときには頻繁に核の存在を使っての威嚇を繰り返してきた。
「ロシア側の意図に、実際の核兵器の使用が含まれるのか、それとも脅威だけなのかは不確実です」とデイビス氏は述べる。
ポセイドンによる破壊を起こすための正当な理由を想像することは難しいが、デイビス氏は、核戦争について、ロシアがアメリカと同じように考えていると私たちは考えるべきではないと警告した。
ここまでです。
実は、以前もこのことにふれたことがったのですが、その時は、「ポセイドン」という名前はつけられていませんでした。
In Deep の過去記事を調べてみましたら、ちょうど、ほぼ 1年前の 2018年2月に以下の記事で取りあげています。
人生で最も好きな娯楽映画が、この世で最も厳しい現実的な未来を描き出している瞬間を生きている — 核の終末に心酔するストレンジラブ博士の54年目の幻影
この時には「開発中」とありましたが、この世界終末装置が現在完成しているのかどうかは、はっきりとはわかることもないでしょうけれど、世界中のメディアがそのような感じで書いていますので、完成しているのかもしれません。
まあ、ロシアは以前から、桁外れに強力な装置を次々と作っていますので、それほど驚きはしないのですが、しかし「 100メガトンの爆弾」というのは、被害面積としては、「日本列島 5個分くらいが吹っ飛ぶ」ものだと思われます。
ロシアは 2016年にも、テキサス州ひとつを消し去ることのできる核兵器を作っていて、その時には下の記事で取りあげたことがあります。
ロシアが発表した2つの新型武器に見る未来 :「日本の国土面積の2倍を一発で吹き飛ばせる」スーパー核兵器「悪魔2号」、そして、新しい物理的原理に基づいて設計された正体不明の新型電子兵器
確か、この「悪魔2号」と名づけられた兵器には「 40メガトンの核」が搭載されていたと記憶しています。
これも、広島に落とされた原爆と比較すると 2000倍の破壊力です。
なお……。
やや物騒な話ではあるのですけれど、たとえば、ポセイドンのような 100メガトンというような強大な兵器が実際に作動した場合の、「人的被害」はどういうようなことになるのかということについては、例えば、広島市にある「核兵器攻撃被害想定専門部会」というところが、「 1メガトンで 83万人が死傷」という予想を2007年に出しています。
以下はその時の報道です。
広島に1メガトン核爆発 「83万人死傷」予想 市算定
j.people.com.cn 2007/10/31
広島市中心部で1メガトンの核兵器が爆発した場合、放射線や熱線などで83万人が死傷する――。広島市の「核兵器攻撃被害想定専門部会」(部会長=葉佐井博巳・広島大学名誉教授)が(2007年10月)31日、核攻撃を想定した被害算定の報告をまとめた。
ここから見ましても、ポセイドンの「 100メガトン」という破壊力の途方もなさがおわかりになるかと思います。
なお、普通は誰もそんなものを作ろうとは思わないはずです。
これは倫理上の問題からではなく、そこまで強大な威力を持つ兵器だと、地球上のどこで作動しても、自分たちにも何らかの影響が巡ってくるからです。
兵器としては、環境を破壊する規模が大きすぎのです。
そういう意味では、基本的には「威嚇のためだけのもの」でありつつも、自分たちが攻撃された時の「最終報復手段」ということではあるのかもしれません。
この構図は、映画『博士の異常な愛情』そのもなのですが、この『博士の異常な愛情』という映画は、私個人としては、この世の娯楽映画の中で最も面白い映画のひとつと今でも思い続けているものですが、そのストーリーは、Wikipedia から部分的に抜粋しますと、以下のようになります。
博士の異常な愛情のあらすじ
アメリカのバープルソン空軍基地の司令官リッパー准将が精神に異常をきたし、指揮下のB-52戦略爆撃機34機にソ連への核攻撃(R作戦)を命令したまま基地に立て篭もった。
空軍基地の状況とB52の出撃を知ったアメリカ政府首脳部は、機密情報の塊であるペンタゴンの戦略会議室にあえてソ連大使を呼び対策を協議する。
そして、ソ連首相とのホットラインで、ソ連は攻撃を受けた場合、自動的に爆発して地球上の全生物を放射性降下物で絶滅させる爆弾(皆殺し装置)が実戦配備されていることが判明する。
というように映画は始まり、アメリカ政府はいろいろと努力するのですが、ソ連への核攻撃を阻止することに「失敗」し、「皆殺し装置」が作動してしまいます。そして、「人類を含む全生物が 10ヶ月以内に絶滅する」ということになり、映画は終わります。
こう書くと深刻な映画に聞こえるかもしれないですが、コメディ映画です。
この映画の原作は、ピーター・ブライアントという作家の「破滅への二時間」という小説ですが、その小説の中で、科学者とアメリカ大統領の会話として以下のような記述があります。
「ここに2ダースほどの水爆があるとする。べつに爆弾の形でなくてもいいのだ。それを運ぶ飛行機も必要ない。この水爆のまわりをコバルトで包んで、適当な山脈地帯に埋めておくのだ。これをボタンで爆破できる。全部一度にだ。これが爆発したとして、全人類がどれくらい生き延びられると思うかね!」
「爆発後8週間から14週間で、北半球の全生物は死滅する。南半球は、その時期によって違うが、やや長期間生きのびられる。」
ここでは、「山脈地帯に埋めておくのだ」というようになっていますが、名称通りの「皆殺し装置」として機能させるためには、山で作動させるよりも、ロシアのポセイドンのように海で作動させたほうが効果的なのは明らかで、映画より現実のほうが上を行く例なのかもしれません。
まあしかし、こんなようなものが現実として作動する時は、「最後の報復」という大義が機能した時でしょうし、そんなような時には、すでに世界は、戦争でムチャクチャな状態になっているはずで、結局、ポセイドンのようなものが作動するような局面というのは、「どのみち、それ以前から終末的な状況」となっている中でのものとなる可能性が高いと思われます。
ただ、誤解や判断ミスを含めた「偶発的」に何か起きてしまうというのは、過去の例からもあり得ないことでもないのかもしれません。