人間には人間が必要だという根本的な原則
今回のパンデミックへの各国の対策ロックダウンの凄惨な影響などを見ている中で、改めて知ったことが、
「人と人とのつながりが、心身の健康には最も重要」
だということだったかもしれません。
もちろん、ロックダウンや緊急事態宣言などでの経済的被害そのものもひどいもので、それにより精神的な強い影響を受けている方々は日本も世界にもたくさんいらっしゃるとは思います。
昨日も、企業の倒産状況を伝える帝国データバンクの記事で、「居酒屋の倒産、コロナ禍背景に急増 過去20年で最多更新が確実」というものがありましたが、緊急事態宣言が出された後の売上の推移は以下のような感じですから、たまったものではないと思います。
日本の飲食業の売上の推移
・帝国データバンク
帝国データバンクが扱うのは、あくまで「倒産」であって、自主的な廃業などは含まれませんし、また非常に小さな個人店なども数値に入らないですので、実際にはこれどころではないと思われます。
しかも、生活全体に対しての影響(マスクとか社会的距離とか)が、今でも基本的に変化していないですので、この先も明るい展望を探りにくいようにも感じます。
私の住んでいる周囲でもチェーン店も個人の店も含めて、複数閉店していっています。
・・・まあ、ただ。
実際には、パンデミック前とまったく変わらず繁盛している個人店は数多くありまして、何かご迷惑があるとあれですので、どのあたりのどんな店だとかは絶対に書けないですが、そういう繁盛しているお店の特徴は「以前とまったく同じにやっている」ことです。
そういう焼き鳥屋さんの前なんかを通ると、店の中はびっしりとオジサンたちで埋め尽くされていて、みんな楽しそうにチューハイとか飲んでガハガハ笑っている。
そういうお店は複数見聞していまして、むしろ以前より混んでいて店に入ることがないことが多いというようなお店もあります。
そういう店に共通なのは「健全」という概念であり、「人と人とがガハガハと交流している」ということで、たとえば、ただお酒を飲みたいのであれば、部屋で飲んでもいいでしょうけれど、「ガハガハ」したい。
今回の日本の政策では、とにかく「夜の街」が攻撃され続けていましたが、考えてみれば、
「そもそも、どうして夜の街に人は行くのか」
という根本には「人に会いたい」という単純な心理があります。夜の街というと、クラブとか女の子のいるような店を想像されることが多いかもしれないですが、「夜の街という場所に行くこと自体」が、どこかで、人との交流を心が望んでいるからで、私などは昔から、「夜の街を行き交う人々をぼんやり眺める」というのが好きでした。
人との直接的な交流ではなくとも、どうやら、「人々(マスクをしていない人)を見ているだけで心理的に救われる」という面もあるのかもしれません。少なくとも私にはあります。
その「人との接点が突然絶ち切られた」のです。今回の場合。
これが人の精神状態に良い影響を与えるわけはないことは、以前から書いていましたが、社会は多くが「そちらに進んで」しまった。
そして、これはアメリカの例ですが、以下のような過去の記事でも書きましたように、ロックダウン中のアメリカ人のメンタルは、壊滅的なものとなってしまった。
絶望の未来は今:CDCの調査でアメリカ人の3分の1がロックダウン中にうつ病を発症していたことが判明。あまりの患者の急増に「抗うつ剤の枯渇」も
投稿日:2020年6月9日「過去4週間で1年間分の自殺企図と遭遇しました」:アメリカで爆発する自死の波。そして、ロックダウン緩和後もさらに増加し続ける失業率
投稿日:2020年5月23日
以前も書いたことがありますが、PTSD を始めとするメンタルの問題は、「後になってから出てくる」のが普通です。
これに対しての影響は、かなり早い段階から、日本でも精神医学の専門家たちが、とても危惧していました。
国際医療福祉大学大学院の和田 秀樹教授は、今年 5月にプレジデントに「コロナ死よりはるかに多い「外出自粛死」「経済自粛死」の恐怖」という記事を書かれていますが、その中に、以下のように記されています。
過大なストレスや苦難に見舞われた場合、人は最初の1カ月くらいは気が張っているが、それ以降にうつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)のような症状が急に増え始めるとされている。 (president.jp)
また、それと共に、和田教授は、このような「社会の状態」を招いたことに対して、アメリカの実験心理学者であるアーヴィング・ジャニスという人による「集団的浅慮」という思考パターンを述べていまして、たとえば、その集団的浅慮というものの結果として、
「その社会の人々がどのようになる傾向があるか」
ということを述べています。
アーヴィング・ジャニスさんによれば、このような集団的浅慮に陥った社会の人々の行動パターンは、以下のようになるそうです。
集団的浅慮の状態になった社会集団の行動パターン(アーヴィング・ジャニス)
・自分たちは無敵だという幻想が生まれる
・集団は完全に正しいと信じるようになる
・集団の意見に反対する情報は無視する
・ほかの集団はすべて愚かであり、自分たちの敵だと思う
・集団内での異論は歓迎されない
・異論があっても主張しなくなる
まさに「今これ」という感じで、そして、緊急事態宣言や各国のロックダウンの後も、この状態が連綿と続いているわけです。
特にこの中の、
> 異論があっても主張しなくなる
というのは、本当に感じます。
しかし、国家や社会というものは、それが発展するために、「個人個人の精神的な健全をどれだけ保つか」ということを目標にするものだと思うのですが、そこから考えますと、世界のさまざまな国での「対策」は、本当に問題だったと思います。
しかも、先ほどの居酒屋の売上の例を見てもわかりますが、この集団的浅慮が社会で続く限り、何も復活しないはずなのです。
たとえ来年になろうが、基本的な部分で変化する(あるいは元に戻る)余地がなくなってしまう。
今でも専門家の方々には、この状況の問題ついて発表されている方々も多いです。9月8日のやはりプレジデントには、熊代 亨さんという精神科医の方が文章を寄稿していまして、その締めは以下のようなものでした。
どんなに健康的で清潔で道徳的な生活を実現しても、人間は、コミュニケーションする動物としての性質をそうそうやめることはできません。
やめるべきでもないでしょう。
今、私たちが感じている窮屈さやストレスは、人間にとって必要不可欠なコミュニケーションとはどういうものなのかを教えてくれていると思います。感染症が一段落したら、ですが、私たちはそれを取り戻しにかかるべきではないでしょうか。 (president.jp)
ここにありますように、
> 人間は、コミュニケーションする動物としての性質をそうそうやめることはできません。
という部分が、人間が、その文明の中に、たとえば夜の街というものを作って……あるいは夜の街ではなくても何でもいいです。社交ダンスでも昼麻雀でも昼カラオケなんでもいいのですが、人とのつながりの場を作り続けてきた。
この「人とガハガハと過ごしたい」というのは、
「コミュニケーションする動物としての性質を持つ人間の本質」
なのだと思います。
その人間の本質を攻撃されたわけです。
まあ、やや意地悪な部分からいえば、「そういう人間の性質を知っていて、だからこそ行った」というようなことも、日本はともかくとしても、「どこかの国」ではあるのかもしれません。
人間を弱らせるのは簡単であることがわかります。
人と人とを物理的に離してしまえばいいのです。
コミュニケーションを断ってしまえばいいのです。
今回は、アメリカのマサチューセッツ総合病院やハーバード大学公衆衛生学部などの研究者たちが発表した論文を紹介していた医学記事で締めさせていただきます。
「うつ病を予防する最大の要因は、人とのつながり」
という結論を、膨大なデータベースから調べ上げたものです。
ここでは「うつ病」に特化した論文ですが、精神衛生全体において同じようなことが言えると思われます。
今回のパンデミックでは、その「人とのつながり」が強制的に断ち切られたわけで、今後も、精神衛生的な問題は拡大し続けると思われます。
ここからです。
研究は社会的つながりをうつ病の最も強力な保護因子として特定した
Study identifies social connection as the strongest protective factor for depression
medicalxpress.com 2020/08/14
マサチューセッツ総合病院の研究者たちは、成人のうつ病を予防するための貴重な目標を表すことができる 100を超えるうつ病の因子のカテゴリーから、変更可能な(予防として実行できる)一連の要因を特定した。
アメリカ精神医学雑誌 ( The American Journal of Psychiatry )で発表された研究で、研究チームは「社会的つながりが、うつ病を予防する最も強力な保護因子だ」として挙げた。
また、テレビを見ることを減らすこともうつ病のリスクを下げるのに役立つ可能性があり、それと共に、座りがちな生活を減らすこともうつ病のリスクを下げるのに役立つ可能性があることを示唆した。
ハーバード大学公衆衛生学部の精神医学研究者であり、この論文の筆頭著者であるカーメル・チョイ博士(Karmel Choi, Ph.D.)は以下のように述べる。
「うつ病は世界中でメンタル障害の主要な原因となっていますが、これまで研究者たちは、ほんの一握りのリスク要因と予防の要因のみに焦点を合わせてきていた傾向があります。多くの場合、 1つまたは 2つのリスクや予防の分野のみを調査してきていました」
「私たちのこの研究は、うつ病のリスクに影響を与える可能性のある修正可能な要因の最も包括的な状況を提供したものだと思います」
そのために、研究者たちは 2段階のアプローチを採用した。
最初の段階では、世界的に有名な成人のコホート研究である UK バイオバンク (遺伝的素質やさまざまな環境曝露が疾患に対して与える影響を調査するイギリスの大規模バイオバンク研究)の 10万人分以上の参加者のデータベースを利用し、社会的相互作用やメディア、睡眠、食事、身体活動、および環境など、うつ病のリスクに関連する可能性のあるさまざまな修正可能な要素を体系的にスキャンした。
これは「全エクソン関連解析(ExWAS)」として知られている手法で、この方法は、ゲノム全体の研究の「ゲノムワイド関連解析(GWAS)」と類似している。
ゲノムワイド関連解析は、疾患の遺伝的危険因子を特定するために広く使用されている。
第2段階では、全エクソン関連解析から変更可能な最強の候補を選び、メンデルランダム化 (MR / 因果関係を明らかにする生物学の方法)と呼ばれる手法を適用し、うつ病リスクと因果関係がある可能性のある要因を調査した。
メンデルランダム化とは、相関が単なる相関ではなく因果関係を反映する可能性が高いかどうかを判断するための自然な実験の一種として、人々の間の遺伝的変動を扱う統計的手法だ。
この 2段階のアプローチにより、研究者たちは、うつ病の主要な原因となる可能性のあるターゲットのフィールドを絞り込むことに至った。
研究者は以下のように言う。
「遠く離れたそれぞれの要因の最も顕著な要因は、そのすべてが、家族や友人との訪問を含んだ、社会的つながりと社会的結束が、うつ病の重要な保護効果となるということを浮き彫りにしました」
「人とのつながりがうつ病の予防と密接に関係している要因だと判明したということは、(パンデミックの中で)社会的距離が離れており、そして、友人や家族から離れている今の時期には、これまでになく重要なことかもしれません」
また、うつ病のリスクに関連する要因には、「テレビの視聴に費やされた時間」が含まていた。しかし、そのリスクがテレビの視聴そのものによるものか、他の要因(テレビを見ている時に座りがちになることなど)なのかを判断するには、追加の調査が必要であると著者は述べている。
さらには、もっと意外なことには、昼寝と、マルチビタミンの定期的な使用の傾向はうつ病のリスクと関連しているように研究では見えるが、これらもどのようにうつ病に寄与するかを判断するにはさらに調査が必要だろう。
ここまでです。
全エクソン関連解析などという初めて聞く用語が出てくる大研究だったようですが、その解析から出た最も「うつ病と関係する要因」は、
・人とのつながり
だったということです。
それが少ないと、うつ病のリスクが高まる。
他に、
・テレビを長時間視聴する
・マルチビタミンを摂取している
というのも、要因の因果関係はわからないながら、それぞれうつ病のリスクと関係しているようです。
以前、過去記事で、英ロンドン大学の研究者たちの「過剰なテレビの視聴は認知症の進行と関係している」という研究を以下の記事で取りあげたことがあります。
多大なテレビ視聴が高齢者の認知症を増加させている可能性がロンドン大学の研究により判明。そして、脳はいつでも「静かな状態」を望んでいる
投稿日:2019年3月7日 更新日
テレビを見れば見るほど、「言語の記憶が減少する」傾向がはっきりしたのだそうです。
こういう問題と共に、今やテレビは、先ほど書きました「集団的浅慮」を喧伝する最大のメディアとなっていますし、できれば、あまり見ないほうがいいのは確かだとは思います。
そして、何より今の時代は、人とのつながりを何とか保持する、ということが最大のサバイバル的行動であるようです。
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