今秋からの圧倒的な小麦不足はもう避けられない
最近、私の住むエバーグランデ市でも(いい加減にしろ)、小さな飲食店が新たにオープンする光景をよく見るようになりました。
4月にはすぐ近くのパンデミック中に閉店した時計屋さん(閉店はパンデミックとは関係ないでしょうが)で改装が始まり、若い人たちがいろいろとやっていまして、「ほお、新しく店ができるのか」と、まあ最近は外食なんて全然していないのですが、それでも新しくお店ができるというのは何だかワクワクします。
「焼き鳥屋さんかなあ。バーというのもありかも」
と勝手に飲み屋系で想像していましたら、いよいよ看板がとりつけられた時には、それを見ますと、英語で「コーヒー&ドーナツ」と書かれてありました。
「ああ……」
と、やや落胆していましたが、今度はその向かいの、やはりパンデミック中に閉店した元和風スナックだった店があったところで若い人たちが改装を始めていまして、「あー、こっちは元スナックだし、焼き鳥屋さんかバーなどの……」と思っていましたら、最近「開店のお知らせ」の紙が貼られていまして、ラーメン屋さんということでした。
「ああ……」
と思い、いやまあ、もう結構長くグルテンフリーの生活をしているので、ドーナツもラーメンもどうにもならないのです。
それでも若い店主さんたちには頑張ってほしいとは思うのですけれど、ドーナツもラーメンも「思いっきり小麦粉に依存している」存在です。
「ああ……この時期の開店か……」
と思わざるを得ない部分もないではないです。
現在、小麦の国際先物価格は、ほぼ史上最高値となっていて、数十年の長期のチャートを見ますと、とんでもない高値となっています。
過去約40年間の小麦先物価格の推移
tradingeconomics.com
これを見ますと、2008年のリーマンショックあたりまでは、小麦価格というのは比較的安定していたことがわかりますが、最近の上昇ぶりは、2020年あたりの 3倍の価格となっていて、(商品市場崩壊とかそういう非常事態以外では)基本的に下がる要因が見当たらないですので、まだ上昇しそうです。
しかし、パンもうどんもラーメンも、今のところは 2020年の数倍などにはなってはいないわけですが、「今後は?」と思うと、なかなか複雑です。
小麦の先物価格は、本日 5月16日にまた一段と上昇したのですが、理由はインド政府の「小麦輸出停止」でした。
インドは、もともと今年の小麦の大豊作を予測していて、世界最大の小麦輸出国のひとつであるロシアやウクライナの小麦の輸出が停止したことに対しての「最大の代替」と考えられていました。
そのインドが、極端な熱波に襲われているために、当初の収獲予測が崩壊したと共に、インド国内でも小麦価格が高騰しているようなのです。
[記事] インドで120年ぶりの熱波により電力危機の恐れ。そして何より豊作が予想されていた小麦の収穫が「大きなダメージを受ける」可能性
地球の記録 2022年4月30日
インドの隣国であるパキスタンでは、5月13日に「 50℃」を記録したと報じられていますので、インドの熱波も続いているというより、さらに激しくなっている可能性もあります。
パキスタンの気温が50℃に急上昇し、猛烈な熱波が南アジアを席巻している
南アジアは 5月13日に猛暑に見舞われ、パキスタンの一部地域では摂氏 50℃に達し、深刻な水不足と健康への脅威が警告された。
4月以来、パキスタンと隣接するインドの帯状地帯は高温に見舞われている。パキスタン気象局によると、5月13日にシンド州のジャコババード市は 50℃に達し、5月15日まで気温は高いままであると予測されている。 (france24.com)
こういう南アジアの気象状況の中で、インドが「小麦の輸出禁止」ということになったわけですけれど、いろいろな国が保護主義として、小麦の輸出を禁止、停止している中で、
「あと、どこがあるの?」
と、つい思ってしまいます。
日本は、供給されている小麦の 86%が海外からの輸入によるものです。
アメリカ農務省による 2022-2023年の「小麦の輸出量のランキング予測」は、以下の 10カ国でした。
このうちの世界最大の小麦輸出国となるはずだったロシアは、「敵対国には穀物の輸出はしない」と 3月に発表しています(記事)。ウクライナも 3月に小麦の輸出を停止しました。
インドも先ほど書きましたように、小麦の輸出を禁止しました。
カザフスタンは小麦の輸出を禁止はしていないですが、「ロシア産の小麦不足のために小麦粉製粉所が操業停止」という報道がなされており、あまり状態が良いようではないようです。
アルゼンチンは、小麦の輸出は停止していないですが、大豆の輸出を停止したことが報じられていますので(記事)、保護主義を進めた場合、小麦も今後どうなるかわかりません。
結局、上のグラフで残る小麦の輸出国は、
・アメリカ
・カナダ
・EU
・オーストラリア
となりますが、このうち、アメリカとカナダの農業状況は、次第に厳しいというより、悲惨な状態となってきていまして、以下の地球の記録のいくつかの記事でご紹介しています。
[記事] 5月の北米で異常な寒さが続き、カナダとアメリカの一部では作付けが5月になっても始められず、アメリカでは穀物備蓄が大幅に低下する予測も
地球の記録 2022年5月7日
オーストラリアは、今年2度目の大洪水に見舞われています。
[記事] オーストラリアのクイーンズランド州で季節外れの豪雨。2日で4ヵ月分の雨が降る
地球の記録 2022年5月16日
こういう様々を見ていますと、
「秋以降、日本に小麦くるんか?」
と思わずにいられないような状況が続いている上に、「中国」では、ロックダウンで農作の停滞が起きていると見られ、そして、この国は食糧安全保障のために、他国から食物を強引に集めるでしょうから、それもまた厳しさを増す部分です。
[記事] 歴史上最悪の食糧危機の「最期のトリガー」を引くのは「中国」。それが故意か故意ではないかは別として
In Deep 2022年4月21日
どうなりますかね。
近所に新しくできたドーナツ屋さんとラーメン屋さんを応援したくはありますが、小麦粉に依存した外食業態が今後どうなるのかは、かなり微妙……というより危険な領域に入りそうなのではないかとも思う部分もないではないです。
日本では、秋以降くらいからの話でしょうけれど。
なお、アメリカ農務省が、小麦収穫量に対して悲観的な展望を出したことが伝えられています。それと共に、ブルームバーグがまとめた世界の小麦生産の状況について、米ゼロヘッジがまとめています。
その記事をご紹介して、締めさせていただきます。
アメリカ農務省が悲惨な穀物の見通しを明らかにし、そして世界中で脅威にさらされている小麦農地
Wheat Farmland Under Threat Worldwide As USDA Reveals Dismal Grain Outlook
zerohedge.com 2022/05/14
世界中の小麦の生産量が最も多い地域で、生産を脅かす可能性のある悪天候が発生している。小麦の主要生産国であるウクライナでは、ロシアによる軍事侵攻が生産を大幅に削減した。これらすべては、世界が食糧危機の瀬戸際に瀕していることを示唆している。
干ばつ、洪水、あるいは熱波が、米国、ヨーロッパ、インド、中国の農地を悩ませている。
世界最大の小麦生産国のひとつであるウクライナに関しては、戦争により生産量が 3分の 1以上削減される可能性がある。
小麦について、例外は一カ国だけで、ロシアの小麦収穫は今年、豊作になると予想されている。
米ブルームバーグは、小麦に世界的に起きている状況を以下のように説明した。
欧州連合
ヨーロッパで続く高温の乾燥した天候が、世界の最大小麦輸出国のひとつである欧州連合での懸念事項だ。小麦地帯の半分の地域では、重要な小麦の成長期間の開始時に雨が降らず、最大の小麦生産地であるフランスの気温は、季節外れに早い時期に夏のようなレベルに急上昇した。今のところ、小麦生産の見通しは依然として明るい可能性があるが、水不足が今後数週間で緩和されるかどうかに大きく依存している。
「雨不足が月末まで続く場合、ヨーロッパの収穫量の予測をもう一度見直す必要があります」と、作物アナリストは述べる。
アメリカ
アメリカ中央平原を悩ませている干ばつにより、一部では、製粉業者やパン職人がパン粉に使用している冬小麦がすでに消えかかっている。カンザス州の小麦の専門家であるアーロン・ハリーズ氏は、最大の生産地であるカンザス州での収穫が来月から始まるが、生産量は、過去 5年間の平均を「はるかに下回る」と述べた。作物保険代理店は、通常、収穫は 35〜 40ブッシェルに対して、一部の畑では、 1エーカーあたり 0〜 5ブッシェルになると予想していると彼は述べた。
アメリカでの小麦供給のピンチは、穀物価格の上昇をさらに高くし、サプライチェーン全体のインフレを悪化させ、輸出を傷つける恐れがある。「ミシシッピ川より西側のすべての地域に雨が必要なのです」とハリーズ氏は語った。定期的な降雨がなければ、作物のサイズは日々小さくなる。
一方、さらにアメリカ北部では、過度の降雨により、ベーグルやピザの製造に使用される春小麦の植え付けが困難になっている。ミネソタ州の生産者であるティム・デュフォール氏は、彼の州は、遅れにより、1エーカーあたり約 5ブッシェルの収穫量をすでに失っていると推定している。ノースダコタ州の小麦委員会によると、ノースダコタ州での播種は「痛々しいほど遅い」もので、昨年のこの時期では、60%ほどが播種されていたものが、今年は 8%しか播種されていない。
カナダ
同様の天候問題がカナダにも起きている。カナダは、気温が低いため播種が遅れ、生産者たちは現在、湿りすぎているか乾きすぎている畑と格闘している。
パスタに使用される春小麦とデュラム小麦の栽培地域であるアルバータ州南部では、干ばつが懸念されている。逆に、マニトバ州の東部では、一連の嵐による多すぎる雨が農民を失望させている。今週はさらに雨が降ると予想されており、近いうちに生産の進行状況が明らかになる。
キーストーン・アグリカルチュラル・プロデューサーズ社のビル・キャンベル社長は、「カナダの生産者は、実質的には 99%、まだ畑に出ることができていない」と述べている。
インド
世界第 2位の小麦生産国であるインドは、灼熱が小麦畑を疲弊させている。インドは、世界的な小麦不足を緩和するための輸出への期待を高めていたが、その期待が弱まっている。3月の気温は、1901年にさかのぼる記録となる高温で、その月の過去最高気温に急上昇した。小麦の生育に重要な時期にこの熱波が来た。これにより、今シーズンの収穫は 10%から 50%低下すると予測されている。
中国
中国は世界の小麦生産をリードしており、異常な秋の洪水後の冬小麦が懸念されている。
中国は過去 2シーズンで世界最大の「小麦輸入国」の 1つになった。今後も、外国への小麦供給を制限したいと考えているはずだ。
黒海沿岸
ウクライナの現在の土壌は小麦生育に理想的なものであり、小麦収穫量の見通しは明るい。しかし、それを阻害しているのが戦争だ。この戦争が小麦の生産を抑制しているだけではなく、輸出できない穀物が、昨年のサイロに積まれたままとなっている。
ロシアも好天に恵まれており、記録的な小麦収穫を達成する可能性がある。運賃と保険のコストが高く、一部のバイヤーたちはロシアの商品を避けているが、ロシア産小麦の輸出量の増加の見通しは強化されている。
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