・Amy Reichelt / The Conversation
砂糖が脳に与える影響が明らかに
今回は「砂糖が脳に与える影響」について書かれていたアメリカのメディアの記事をご紹介したいと思います。
私自身は今は、お菓子などの甘いものを、ほぼ完全に食べない生活をしていまして、少なくともそのようなものを自主的に摂取することはないのですが、しかし実は、数年前までは、時に「甘い物中毒」のようになることがあり、そのような時には、本当に「依存症のように甘いものを日常的に食べていた」こともあったのです。
今回ご紹介するのは、カナダ・ウェスタン大学の神経科学教授の方の書かれた記事で、その中に「砂糖への依存がなぜ起きるのか」を説明している部分もあるのです。
これを読みまして、「なるほどなあ」と思いました。
脳とその神経メカニズムの性質上、
「甘いものを日常的に頻繁に食べていればいるほど、甘いものの呪縛から逃れられなくなる仕組み」
がよくわかる話です。
確かに、ほぼ完全に砂糖や甘いものを食べることをやめると、砂糖を摂取しない期間が長くなるほど、「まったく甘いものを欲しいと思わなくなる」ことは体感できます。
甘いものを食べるのを完全にやめたのは、1年数カ月前くらいで、わりと最近のことですけれど、今ではまったく甘いものを食べたいとは思うことはないです。
甘いものを食べなくなったキッカケは、In Deep で自分で書きました以下の記事で「砂糖は腸内細菌環境にとても悪い」ことを知ったからでして、ちょうど、そのころ頃から腸内細菌環境について興味を持っていましたので、「そんなに悪いのなら完全にやめよう」と。
「砂糖という存在の正体」の衝撃 : 単糖は「重要な腸内微生物を腸内から《消し去る働き》」を持っていたことが米国の研究で判明 (In Deep 2018年12月19日)
この研究で判明したことは、砂糖そのものが腸内細菌を殺すのではなく、「砂糖が、腸内細菌が生息するのに必要なタンパク質の産生を停止させる」ことがわかったのです。
つまり、腸内細菌が生息や増殖できるための腸内の環境が損なわれるため、結果として、砂糖を摂取している時間が長ければ長いほど、あるいは砂糖の摂取量が多ければ多いほど「腸内細菌にとって生息しにくい腸内環境となってしまう」のです。
なお、これは、精製された砂糖のことであり、自然環境の食糧にある「糖質」とは関係ありません。
つまり、野菜や果物や炭水化物に含まれている糖類は、このような悪さはしません。精製された糖、つまり「砂糖」がこのようなことを起こします。
ちなみに、私自身は、砂糖を食べないようになって以来、むしろ糖質をどれだけきちんと摂取するかを気にしていまして、「ご飯」はたくさん食べるようにしています。
野菜もできるだけ糖質の多いもの、イモ類とか海藻類とか、そういうのを食べるようにして、糖質不足にだけはならないようにしています。
糖質に関しては、糖質制限などを含めて、いろいろな考え方があることは知っていまして、それに関して言及するつもりはないですが、あくまでも私個人は、人間の細胞と筋肉と臓器を正常に維持させていくためには糖質は絶対に必要なものだと考えています。
いずれにしましても、ここで言うのは精製された「砂糖」のことであり、食物成分中の糖質とは関係ありません。
今回の記事で、私が初めて知ったことであり、そして、最も興味深かったのは、
砂糖を摂取すると、神経伝達物質の GABA の産生が阻害される可能性がある
ということでした。
GABA (ギャバ)というのは、興奮した神経を落ち着かせたり、ストレスをやわらげたりする作用を持つ神経伝達物質のことでして、パニック障害や不安障害、うつ病、不眠症、統合失調症などを含む、「あらゆるメンタル系の疾患を持つ人たちは、この GABA の産生が少ない」のです。
逆にいえば、メンタル系の疾患を持つ人たちは、「 GABA の産生が増えていけば、症状は良くなる」のです。
たとえば、メンタル系の疾患に広く使われているベンゾジアゼピン系と呼ばれている抗不安剤や睡眠などの薬は、この GABA の産生を強引に活性化させるものです。そのために、パニック障害などに大きな効果があるのです。
しかし、このベンゾジアゼピン系の薬には、強い習慣性と依存性があり、簡単にいうと、「なかなかやめられない」のです。パニック障害だった私の場合、23歳から飲み始めて、完全にやめられたのは、五十代になってからです。ほぼ 35年間やめられませんでした。やめられたのはつい最近です。
また、アメリカでは、このベンゾジアゼピン系の薬による死者数が急激に増加していまして、社会問題にもなっています。以下の記事で取りあげたことがあります。
日本では数百万人が服用しているあまりにも一般的な処方薬であるベンゾジアゼピン系の薬がアメリカで殺人ドラッグになり始めている (In Deep 2019年12月9)
そういうようなこともありますので、できるなら、「ベンゾジアゼピン系の薬を使わずに、GABA の産生を強くする」ということが、メンタル系疾患の人たちの最終的な目標となると思うのですが、そのための最初の方法も私は自分のブログの記事で知ることになりました。
「腸内細菌環境を改良することで GABA の産生を増やすことができる」ということを知ったのです。
このメカニズムについては、以下の記事に、2018年12月の科学誌ネイチャーで発表された論文の内容などと合わせて、記しています。
「子どもに抗生物質を使ってはいけない」 : デンマークで行われた世界最大規模の調査により、幼少時の抗生物質の使用は若年時の精神疾患と強く関係することが明確に (In Deep 2019年2月28日)
そこには、以下のようにありました。
KLE1738 という稀少なバクテリア(腸内細菌)は、GABA として知られているγ-アミノ酪酸を食べる。
そして、異なる種類のバクテリアであるバクテロイデスという腸内細菌は GABA を産生し、それらを供給することによって バクテリアKLE1738 を生存させていることがわかった。
つまり、腸内には、
・GABA を食べる腸内細菌
・GABA を産生する腸内細菌
が共にいるのです。
そして、「GABA を産生する腸内細菌」は「GABA を食べる腸内細菌」を生存させるために、GABAを作り出している。
このふたつの細菌の状態のバランスが良ければ、体内での GABA の生産能力が高まり、精神的にとても良い状態でいられる、ということのようなのです。
つまり、「精神状態は、腸内細菌環境と密接に関係している」のです。
というより、人間の精神状態は、腸内細菌に「コントロールされている」と言ってもいいのかもしれません。
この「 GABA の産生」についてだけを見れば、砂糖は百害あって一利なしといえそうです。
今回ご紹介する記事の内容を含めて、砂糖には、以下のふたつの作用があることがわかるのです。
・砂糖は、ある種の腸内細菌を腸内で生きられなくする
・砂糖は、GABA を産生する神経の働きを阻害する
また、ご紹介する記事の中に、「砂糖を摂取すると、神経伝達物質のドーパミンが過剰に産生される」とあります。
このドーパミンというのは、「統合失調症の時にはこのドーパミンが過剰になる」ことが知られていまして、精神疾患との関わりが考えられている物質です。砂糖を大量に食べる状態というのは、そのような状態と似た状況を引き起こしている可能性があるかもしれません。
少なくとも、GABA の産生が減少し、ドーパミンの産生が増加するというのは、精神衛生的に良い状態とは言えません。
これらの意味から、メンタル的に大丈夫な人はともかくとして、問題があるかもしれないと思われる方々は、「砂糖をほぼ完全にやめてみる」ということについて、試してみる価値があると思います。考えてみれば、私も、砂糖を含む甘い食品を食べることを完全にやめてから、ベンゾジアゼピン系の薬もほぼ完全にやめられたように思います。
ところで、今回の記事を書かれてらっしゃるのは、エイミー・ライヒェルトさんという脳神経などの専門の神経科学者ですが、エイミーというお名前からわかる通り、またも女性の科学者でありました。
エイミー・ライヒェルト博士
・amyreichelt.com
この記事は、甘いものがやめられない方にとっては「脳が砂糖に対してどのように反応しているのか」ということを知るきっかけにもなるものかもしれません。砂糖は、薬物と並んで「中毒になりやすい性質」を持っています。
なお、オリジナルの記事では、すべての医学的主張についての論文や科学記事へのリンクがほどこされていますが、ここではしていませんので、専門的にお知りになりたい方は、オリジナルの記事をご覧下さると幸いです。
では、ここからです。
Your brain on sugar: What the science actually says
Amy Reichelt / The Conversation 2019/11/15
砂糖が脳に与える影響 : 科学はこのように言っている
誰もが甘いお菓子が好きだ。しかし、食事に含まれる糖分が多すぎると、体重増加や肥満、2型糖尿病、虫歯になりやすくなることもまた誰もが知っていて、キャンディーやアイスクリーム、クッキーやケーキを食べたり、甘いドリンクをあまりにも摂取すべきではないことも誰もがわかっている。
しかし、それでも甘いものに対して抵抗することが難しい場合もあるだろう。
まるで人間の脳がもともと甘いものを欲するように作られているように感じることさえあるかもしれない。
私の研究は、神経科学者として、現代の「肥満誘発食」あるいは「肥満促進食」つまり、砂糖の過剰な摂取が脳をどのように変化させるかに焦点を当てている。
私たちの食べるものが私たちの行動を脳レベルでどのように変化させるか。そして脳の変化をライフスタイル要因によって緩和できるかどうかを理解したいと考えている。
あなたの身体は「糖で動いている」という事実がある。正確にはグルコースあるいはブドウ糖は、ギリシャ語で「甘い」を意味する「 glukos / グルコス」に由来している。グルコースは、脳神経細胞を含む私たちの体を構成する細胞に燃料を供給する。
神経伝達物質ドーパミンは砂糖を食べることで過大に産生される
進化的に、私たちの原始祖先は雑食だった。しかし、甘い食べ物は人間にとっての優れたエネルギー源であるため、甘い食べ物を特に楽しめるように進化した。これは、種としての生存力を最大化するために脳システムが認識していった経過としては当然のことでもある。
甘い食べ物を食べると、脳の報酬系、これは中脳辺縁系ドーパミン経路と呼ばれるが、それが活性化される。ドーパミンは、ニューロンによって放出される脳内化学物質だ。報酬システムが作動すると、行動が強化され、これらの作動が再度実行される可能性が高くなる。
砂糖を食べることによる「ドーパミンの大きな産生」は、甘い食べ物を優先的に見つけるための迅速な学習を促進する。(※訳者注 / 脳が甘いものを優先的に欲しがる)
今日の私たちの環境は、エネルギーに富んだ甘い食べ物が豊富だ。なので、甘い物を探すために特別な行動をする必要はない。どこでも入手できる。
そして、私たちの脳は機能的に私たちの祖先と非常に似ている。つまり私たちの脳は本当に砂糖が好きなのだ。
砂糖を過剰に消費すると、脳で何が起こるのかをご説明したいと思う。
砂糖は脳を「再配線」する
脳は、神経可塑性(脳の神経の機能的あるいは構造的な変化)と呼ばれるプロセスを介して、絶えず改造および再配線される。この再配線は報酬系で発生する可能性がある。たとえば、薬物によって、これが起きる場合もあるし、あるいは、砂糖分の多い食物の摂取によって、この報酬経路の繰り返しが活性化されることにより、脳を頻繁な砂糖に対しての刺激に適応させ、寛容をもたらす。(※訳者注 / 難しい説明ですが、過剰な砂糖摂取に対して、脳はどんどん麻痺していくというような意味かと思います)
これは、甘い食べ物を摂取した場合、同じように満足する感覚を得るために、もっと甘い物を食べる必要があることを意味し、典型的な中毒の特徴と一致する。
食物への中毒については、科学者と臨床医の間で議論のあるテーマでもある。薬物の場合、特定の薬物に身体的な依存が生じるようになることは事実だが、基本的な生存に必要な砂糖のような食物に対して依存が生じるようになるかどうかは議論されている。
脳は砂糖を欲しがる
私たちが身体を動かすために必要であるための糖分を含む食べ物の摂取とは関係なく、多くの人々は、特にストレス、空腹、あるいは、お店などで魅力的な甘いお菓子を見たときなどに、甘い物を欲することが多い。
このような甘いものへの渇望に抵抗するためには、私たちはこれらの甘い食べ物に耽溺する自然な反応を抑制する必要がある。
「抑制性ニューロン(抑制性神経細胞)」と呼ばれる神経のネットワークが行動を制御するために重要だ。これらの神経細胞は 、意思決定、衝動制御、満足の遅延に関与する脳の重要な領域である前頭前野に集中している。抑制性ニューロンは脳のブレーキのようなもので、化学物質 GABA を放出する。
ラットの研究では、砂糖を多く含む食事を食べると、抑制性ニューロンが変化することが示されている。それと共に、砂糖を与えられたラットはまた、行動を制御したり決定を下すことができなくなった。
重要なことは、このような「行動を制御し決定することができなくなる」ということが、私たちが甘い物への誘惑に抵抗する能力に影響を及ぼしているということだ。つまり、砂糖を多く食べること自体が、砂糖を摂取しない食生活への行動を起こすことを妨げることになるということだ。
最近の研究で、高カロリーの甘いお菓子を食べたいと思う時はどんな時かということについて、「空腹を感じているとき」と「最近、甘いお菓子を食べたとき」で、どちらがより甘いお菓子への欲求が強かったかということについて調査したものがある。
その結果、高脂肪で高い糖質の食べ物を定期的に食べている人たちは、お腹が空いていない時でも甘いお菓子への欲求を高く持っていた。
甘いお菓子などの高い糖質食品を定期的に食べると、脳の甘い物への渇望が増幅し、そのような食品をますます欲しくするという悪循環を作り出すことを示唆している。
砂糖は記憶形成を混乱させる
砂糖を多く含む食事の影響を受けるのは、脳の他の部分にもある。海馬だ。海馬は記憶や認知に関する中枢である重要な部分でもある。
研究では、砂糖を多く含む食餌を食べているラットは、以前に特定の場所でその物体を見たことがあったかどうかを思い出すことができなかったことが示された。
海馬における糖誘発性の変化は、記憶のコード化に不可欠な新しく生まれる神経系の減少と、炎症に関連する化学物質の増加の両方を示した。
砂糖から脳を守る方法は?
世界保健機関は、砂糖の摂取量を 1日のカロリー摂取量の 5%に制限することを推奨している。これは砂糖 25g(小さじ 6杯)に相当する。
カナダでの平均的な成人の 1日あたりの砂糖の摂取量は 85g(小さじ 20杯)となっており、それを 25gに減らすことは、確かに容易なことではないかもしれない。
しかし、砂糖摂取を減らすことで重要なことは、脳の神経可塑性機能により、食事の中の砂糖分を減らした後に、脳がある程度リセットされることを可能にし、身体的運動がこのプロセスを増大させることができることだ。
オメガ3脂肪酸が豊富な食品(魚油、ナッツ、種子などに含まれる)にも神経保護作用があり、新しいニューロンの形成に必要な脳内化学物質の産生を増加させる。
甘いお菓子やデザート、ドリンクなどを摂取することが日常になっている場合、砂糖を減らす習慣は難しいかもしれないが、砂糖を減らすことにより、脳は前向きな一歩を踏み出してくれ、脳はあなたに感謝するだろう。
砂糖を減らすことについては、多くの場合、最初のステップが最も困難だ。しかし、先ほど述べた脳の抑制性ニューロンの働きなどになぞらえれば、砂糖摂取を減少していけばいくほど、甘いものへの渇望もそれに伴い減少していく。
そして、その経過と共に砂糖を大幅に減らした食生活にしていくことは容易になっていくはずだ。
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