ヨーロッパへの天然ガス貯蔵は来年初めまでに枯渇する
最近、ドイツに関しての記事をふたつ書かせていただきました。
[記事] 街灯は消され、レジャーも消え、お湯も配給制、薬もない…ついでに医者もいない…。ドイツの現在の「破綻」の状況を日本もそのうち経験する?
In Deep 2022年7月10日
[記事] ドイツ政府のグレートリセット実験を見ていて呟かざるを得ない「ファッキン・ハードコア…」な日々
In Deep 2022年7月14日
ドイツがエネルギー問題で深刻な状況となっていることを取りあげたもので、石油、石炭、天然ガスなどのエネルギーをロシアからの輸入に大きく依存していたドイツは、対ロシア制裁という「自らの政策」により、
・ロシアからの原油の輸入停止
・ロシアからの石炭の輸入停止
を順次おこなうことを発表しています。
そして、7月11日には、ロシアからドイツに天然ガスを送っているパイプライン「ノルドストリーム」が、ロシア側の定期検査で、「 10日間ほど停止する」ことになりました。
スケジュールでは、7月21日には、またガスの供給が再開されることになっているのですが、「本当に再開されるのだろうか」という声は多くありました。以下は、7月11日の日本経済新聞の記事です。
ノルドストリーム、検査でガス供給停止 再開不透明
日本経済新聞 2022/07/11
ロシアとドイツをつなぐ天然ガスの主要パイプライン「ノルドストリーム」は11日朝、定期検査で供給が止まった。毎年恒例の検査で21日ごろまで続く予定だが、経済制裁やウクライナへの武器供与を理由に、ロシア側が検査終了後も供給停止を続ける恐れがある。
そして、今日 7月19日、米国ロイターが「独占記事」として、ガスプロムが、
「不可抗力によりパイプラインが再開されない可能性がある」
とドイツの複数の天然ガス購入企業に通告したことを報じていました。
以下のような記事です。
独占:ロシアのガスプロムはヨーロッパのバイヤーたちにガス供給がその制御を超えて停止することを告げる
Exclusive: Russia's Gazprom tells European buyers gas supply halt beyond its control
Reuters 2022/07/19ロイターが手にした書簡によると、ロシアのガスプロムは、「異常な状況」のためにガス供給を保証できないとヨーロッパの顧客たちに伝えた。これは、ロシアのウクライナ侵攻に対しての制裁への強烈な経済的報復となる。
パイプラインのメンテナンス自体は 7月21日に完了する予定だが、このロシア国家ガス企業は、7月14日付けの書簡で、6月14日からの不可抗力を遡及的に宣言したと述べた。
この書簡は、ウクライナ紛争でロシアに課せられた制裁に対する報復として、モスクワがメンテナンス期間の終わりにパイプラインを再開できない可能性があることへのヨーロッパ側の懸念が示されたことになる。これは、ヨーロッパを不況に陥れる危険性のあるエネルギー危機を高めることにつながる。
「不可抗力」条項として知られる、この不可抗力は、ビジネス契約の標準であり、当事者を法的義務から解放する極端な状況を定義する。この宣言は、契約条件を満たさない場合に責任を負わないようにする必要がある、というものだ。
エネルギーエコノミストのハンスバン・クリーフ氏は、以下のように述べる。
「これは、10日間のメンテナンスが終了した後、ノルドストリーム1を介したガス供給が再開されない可能性があるという最初のヒントのように聞こえます」
「不可抗力を宣言するためにどのような「異常な」状況を念頭に置いているのか、そしてこれらの問題が、技術的であるかより政治的であるのかに応じて、それはロシアとヨーロッパ/ドイツ間の段階的拡大の次のステップであることを意味する可能性があります」と彼は付け加えた。
ドイツ最大のロシアの天然ガス輸入企業であるユニパー社は、書簡を受け取ったとは述べたが、その主張は不当であるとして、正式に拒否したと述べた。
ドイツ最大の電力生産者であり、やはりロシアのガスの輸入業者である RWE も、不可抗力の通知を受けたと述べた。
「詳細や法的な意見についてはコメントできないことをご理解ください」と同社は述べた。
ここまでです。
この記事からは、ロシア側は「パイプラインを再開しないと言っているのではない」ということはわかりますが、「不可抗力」という言葉を使っており、この不可抗力という言葉は、辞書的には、
> 当事者が制御可能な範囲を超えた状況により、当事者の一方、または双方が契約上の義務を果たせなくなった場合に、双方の責任・義務を免除するという契約上の一般条項 (不可抗力)
であり、「現在の状況」の中に、何らかの「当事者が制御可能な範囲を超えた状況」があるということになります。
それが対ロシア制裁なのか、他の何かなのかはわからないですが、結局、
「ドイツ(あるいは西側)が折れるまではガス供給は再開されない可能性が高い」
というようには読めます。
西側諸国が、すべての対ロシア制裁と、ウクライナ援助等をやめない限り、ガスは流れないかもしれません。
先日、報道で、プーチン大統領が
「我々はまだ何も本気で始めていない」
と述べたことが報じられていましたが、この欧州へのガス供給の停止ということには、かなり本気な面が見えます。
単なる経済制裁への報復とは言えないものとなっている。
つまり、これは「冬のヨーロッパでの人々の大量死に結びつく」ことだからです。
昨年 11月に、エネルギー危機が「経験したことのない過剰死」に結びつくことに関して記事を書いたことがありますが、そこで紹介した記事に、
> 暑い時や熱波のときより、寒い時にはるかに多くの人が亡くなる。米国とカナダでは、寒さは暑さの 45倍の死者を出す。
とあり、気候による過剰死の多くが「冬に起きる」のです。
今のヨーロッパは、熱波で、すでに 1,000人以上が亡くなったと報じられていますが、冬に暖房がない状態のほうが、はるかに死者が出やすいようです。
そういう意味では、ガス供給停止というのは、ほとんど「世界大戦」と同様の意味を持ちそうです。
仮に、ガス供給が今後、完全に停止した場合、ヨーロッパ側は、受ける影響も被害も(人命の損失を含めて)下手な戦争より、むしろ大きいのではないでしょうか。
ただ……。
先日の記事「ドイツ政府のグレートリセット実験…」でも書いたのですが、どうも、ドイツというのかヨーロッパの諸政府は、
「こうなることを予測していたのでないか」
という気がしてならないのです。
あるいは、
「こうなるように(ヨーロッパが死ぬように)今までヨーロッパ自身で努力していた」
と。
国際エネルギー機関の理事の最近の文章などを見ましても、これが予測されていなかったとは思えないのです。
自分たちの国が深刻なエネルギー危機になり、深刻な不況に陥るということに突き進むためにやっていたとしか思えないのです。
ふと、「グレートリセット」の観念を再び思い出します。
もう少し書かせていただきます。
ヨーロッパのグレートリセットへの道は続く
もともと、自死のために始めた対ロシア制裁のような気はしていました。以下は、4月の記事です。
[記事] 誰を崩壊させるための対ロシア制裁なのか。目指すのは西の自死? それともこれもいわゆるグレートリセットへの道?
In Deep 2022年4月2日
スイス UBS 銀行のエコノミストは、
「ロシアがガス供給を完全に停止すれば、欧州の企業収益は 15%以上減少し、株価は 20%下がる」
と述べていたことが伝えられています。
国際エネルギー機関(IEA)は、7月18日に「主要なガス危機を防ぐために、ヨーロッパ全体で調整された行動が不可欠だ」という緊急記事を発表していますが(先ほどのロイターの独占報道の前日)、その記事にあるグラフでは、仮に現在、ヨーロッパの天然ガスの貯蔵量が 90%あったとしても、「ロシアからのガスの供給が止まり続けた場合」来年 3月までには以下のようになっていくとしています。
ロシアからのガス供給が再開されない場合、来年早々にも、「それぞれの国内でのガス供給が途絶するレベル」にまで下がると警告しています。
国際エネルギー機関は、このために「 5つの提案」として以下を挙げています。
1. EUの産業ガスユーザーに需要を減らすよう奨励する。
2. 電力部門でのガス使用を最小限に抑える。
3. ヨーロッパ全体のガスおよび電力事業者間の調整を強化する。
4. 冷房と暖房の基準と制御を設定することにより、家庭の電力需要を削減する。
5. 国家および欧州レベルでEU全体の緊急時計画を調和させる。
そして、IEA は以下のように書いています。
> これらのタイプの措置が現在実施されていない場合、ヨーロッパは非常に脆弱な立場にあり、後ではるかに大幅な削減に直面する可能性がある。
>
> 上記の措置に加えて、ヨーロッパの政府はまた、来るかもしれないもののためにヨーロッパの人々を準備させる必要がある。エネルギー危機の文脈での国民の意識向上キャンペーンは、以前は短期的なエネルギー需要を数パーセント削減することに成功してきた。
>
> すべてのアクションが重要だ。ヨーロッパで暖房を数度下げるなどの簡単な手順で、冬にノルドストリームパイプラインから供給される天然ガスと同じ量を節約できる。
ヨーロッパの人々に、節電、節ガスを徹底させろ、ということですね。
現在、ヨーロッパの一部では、熱波が激しいですけれど、夏がこんなに暑いからといって、冬が暖かいわけでもないでしょうし。
いずれにしましても、ヨーロッパにとんでもない事態が迫っているようです。
もちろん、日本も先はどうなるのかはわからないですが、まずストレートに影響を受けるのが、ドイツ、そしてヨーロッパということになりそうです。
なお、先ほどの国際エネルギー機関の緊急提言文書は、以下のように締められています。
(IEAの文章より)
> ヨーロッパが天然ガスの貯蔵レベルを最大90%にする以前に、ロシアがガス供給を完全に遮断することを決定した場合、状況はさらに深刻で困難になるだろう。
>
>それには、冷静なリーダーシップ、慎重な調整、そして強力な連帯が必要だ。欧州の指導者たちは、ばらばらで不安定な対応から生じる潜在的な損害を回避するために、この可能性(※ ロシアからのガス供給が完全に遮断される可能性)に、今すぐ備える必要がある。
>
>今日、ヨーロッパは、主要なガス不足と配給のリスクを減らすためにできる限りのことをする必要がある。特に、次の冬の間はそうだ。同時に、クリーンなエネルギー転換のコースを維持する必要もある。
>
>この冬は、エネルギー部門をはるかに超えた意味合いを持つヨーロッパの連帯の歴史的な試練になる可能性がある。ヨーロッパは、その連帯の真の強さを示すよう求められるだろう。
なんかこう「クリーンエネルギー」などの言葉が出てきたり、あるいは、この記事を書いているのは、国際エネルギー機関の常務理事の方で、これは、ロイターの特報の前に書いているものなのですが、「ロシアが完全にガス供給を停止する」ことを予測していたように響きます。
ロシアのヨーロッパへの天然ガス供給の遮断は「おこなわれる可能性のほうが高い」のだと思われますが、そうなった場合、試練の冬になると共に、どうやら、ヨーロッパは、世界で最初にグレートリセット的なムーブメントに邁進する姿勢のようにも見えます。
経済的にも物質的にも「何もなくなる」状況にまで走り続けているようにさえ見えます。
なお、世界経済フォーラムの「グレートリセット」では、2030年までに、世界を以下のような状態にすることを目標としているとされています。オーストリアの政治経済分析組織「ミーゼス研究所」が2020年12月に報告していました。
世界経済フォーラムが2030年までに達成しようと声明している社会
1. 人々は何も所有しない。物品は無料であるか、あるいは国から貸与されなければならない。
2. アメリカはもはや主要な超大国ではなく、少数の国が支配するだろう。
3. 臓器は移植されずに(3Dプリンター等で)印刷される。
4. 肉の消費は最小限にまで抑制される。
5. 人々の大規模な移動により、数十億人の難民が発生する。
6. 二酸化炭素排出を制限するために、エネルギー価格は世界的に法外なレベルに設定される。
7. 人類は火星に行き、エイリアンの生命を見つけるための旅を始める準備をすることができる。
8. 西側世界の価値は限界点までテストされるだろう。
これは、2020年12月のこちらの記事で少しふれています。
それにしても、ずいぶん前の記事ですので、忘れていましたけれど、世界経済フォーラムは、
> 数十億人の難民が発生する。
ということを予測…というか、目標としているのですね。
先日のメルマガで、アフリカなどで深刻な食糧危機が起きた場合、「 2000万人以上の難民がヨーロッパに押し寄せる」ことを、EU の代表、そして、イタリア元副首相である政党党首が述べたことについて書かせていただきました。
これは、ほぼ確実に起きることとして述べていましたが、世界経済フォーラムは、2030年までに、難民の数をさらに「数十億人」と設定しているようです。
ヨーロッパ自体にエネルギーも食糧もないような状態になっているところに、何千万人もの食糧難民が押し寄せた場合、結局、「共に崩壊するしかない」ということでしょうか。
どうなっちゃうのかなあとは思いますが、そのうち、日本もヨーロッパの心配などしている暇もなくなる事態に陥るのかもしれません。
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