受動吸入型の遺伝子ワクチンという概念
ここのところコロナというか、そのワクチンの話ばかりとなってしまっていて、たまには、自分でも他の話題にふれたいのですが、その日、朝など報道を見ていますと、
「マジかよこれ。びひょーん(何の感情表現だよ)」
というようなニュースにこのところ毎日つきあたります。
最近はあまり多くの時間パソコンの前にはいなくて、ニュースを探す時間は朝の少しの時間なのですが、最初の一発目か二発目で、そういう「びひょーん」という感嘆を受けるものに巡りあうのですね。
今日メディアの記事で見たものは、タイトルにも書いたのですが、
「受動吸入型の mRNAコロナワクチンで未接種者たちに一気に大量接種するべきだ」
という科学的提案についての論文でした。
以下の論文です。
Passive inhaled mRNA vaccination for SARS-Cov-2
受動吸入型 mRNA ワクチン接種 : SARA-Cov-2の場合
特段新しい論文ではなく、2020年11月に承認と書かれています。
世界的なワクチン接種が始まる前に計画というか、提案されていたもののようです。
これは文字通り、「吸入型」のワクチンで、これだと複数人数に一気に接種できることになり、そのようなものが遺伝子ワクチンだというあたりは、もうもう……という感じです。
この論文は、医学的仮定に基づく提案ということで、具体的な方法に言及しているわけではないですが、
「現在までの科学的見識で実現の可能性がある」
もののようです。
論文の冒頭には以下のようにあります。
「受動吸入型 mRNA 新型コロナワクチン接種」より
世界は現在、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の前例のない発生に直面しており、これがヒトにコロナウイルス感染症 2019(COVID-19)を引き起こしている。科学者たちは、SARS-CoV-2 に対する安全で効果的なワクチンの開発を緊急に試みている。これは、SARS-CoV-2 から脆弱な集団を保護するためにも大量に生産をおこなう必要がある。
これを達成するためには、 SARS-CoV-2 に感染したが、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(PCR検査)では非感染性(陰性)とみなされる個人とのコホーティングを介して、リスクのある集団の大規模かつ受動免疫を提案する。(略)
SARS-CoV-2 に対する mRNA ワクチン接種の潜在的な役割は、モデルナ社の mRNAワクチンを含むいくつかの製薬会社によって実施されているワクチン試験によって証明されており、有望な結果が得られている。
受動処理のための吸入 RNA の実現可能性は、多くの研究でも証明されている。吸入された RNA は、細胞トランスフェクション機構を使用した非感染性スパイクタンパク質の受動的合成につながる可能性があり、したがって、個体の免疫化につながる可能性がある。 (researchgate.net)
このようなものです。
要するに、
「鼻や口から空気的に吸うタイプの遺伝子ワクチンにより、体内に新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を生成することができるワクチン」
ということですね。
ひィッ(落ちつけ)。
そうはいっても、たとえば、これがエアロゾルタイプなのかどうかはよくわからないですが、一人一人にシュッとやって接種するにしても、領域全体にシューッとするにしても、「関係ない領域の大気中にもそれは漂う」はずです。
あるいは、たとえば、ある地域のワクチン接種が全然進まない中で、ヤケになった保健当局が、
「地域の空から吸入型 mRNA ワクチンを航空機で散布しよう」
とか、「市全域に mRNA ワクチン噴霧装置を設置しよう」とか(ひィ…)、もう可能性はとても幅広いですよ。
現段階では、この吸入型遺伝子ワクチンは、提案されている段階で、まだ具体的なメカニズムが見出されているわけではないと思われますが、「こんなこと考える人がいるんだなあ」と思うと同時に、「こんなことが実現できる可能性のあるテクノロジーが今はあるんだなあ」とつくづく思います。
なお、このことは、時期的にも「今」知ったというのは、私にはジャストなタイミングで、たとえば先日の以下の記事で「エクソソーム」というものに少しふれました。
遺伝子ワクチン時代後の赤ちゃんたちは……と考えながら調べものをしていたら、胎児の世界…羊水…エクソソームとめぐり最後に遺伝子ドライブ技術につきあたってしまった
投稿日:2021年5月6日
エクソソームとは、細胞から放出される小さな( 1ミリの 1万分の1程度の)物質で、しかし細胞から単に脱落したような意味の薄いものではなく、カプセルのような構造の中に、マイクロ RNA という「遺伝子情報を含むもの」が入っています。
そのマイクロ RNA という RNA は、ヒトの各細胞から細胞に情報を伝達しているもので、重要なのは、
「これは人間の体内だけで情報を伝達しているものではない」
ということです。
先ほどの記事では、東京医科大学医学総合研究所・分子細胞治療研究所の落谷孝弘教授の著作からご紹介していますが、そこには以下のようにあります。
お母さんが赤ちゃんにあたえる母乳、あるいはお腹のなかにいるときの羊水、また、場合によっては唾液や精液など、個体同士が交換する体液のなかには、エクソソームが含まれています。
エクソソームには、マイクロ RNA が含まれていて、そこには何らかのメッセージが書き込まれています。それによって相手の遺伝子に影響を与えている。
さらに驚いたことに、エクソソームを使ったコミュニケーションは、細胞間、臓器間、人と人だけではなく、どうやら人間と、別の種の生き物、つまり人間以外の生物との間にも存在しているらしいのです。
ここに、
> 人と人
とありますように、このエクソソームという「遺伝子カプセル」は、人と人の間で遺伝情報のコミュニケーションをとることをしているようなのです。
それで、このエクソソームというものに興味を持ち、少し調べていたところだったのですが、そのような時期に、今回の「吸入型遺伝子ワクチン」の話が出てきました。
エクソソームが医学でどのように有効に使われようとしているか少しご紹介したいと思います。もしかすると、吸入型遺伝子ワクチンが開発されるとすれば、媒体として使用されるかもしれません。
血液脳関門(BBB)を突破できるエクソソーム
エクソソームは、医学界や科学界で非常に注目されているものであるらしく、関連する論文はかなりたくさんありましたが、その中で、「エクソソームの特性」と、今後の医療品での適用について書かれていた以下の論文はショッキングでした。
Exosomes as therapeutic drug carriers and delivery vehicles across biological membranes: current perspectives and future challenges
生体膜を通過する治療薬担体および送達媒体としてのエクソソーム : 現在の展望と将来の課題
この中で最初に驚いたのは、このエクソソームというのは、脳を血流の中にある異物から守るためのバリアである血液脳関門(BBB)を「突破する物質」であることを知ったことです。
論文には以下のようにあります。
エクソソームは、薬物の特性を高めるだけではなく、血液脳関門(BBB)を越えて小分子薬物を運ぶためにも使用される。
強力な中枢神経系薬の 98%は BBBを通過できず、研究室で示されたそれらの概念的有効性は臨床試験で成功していない。
BBBを通過する薬物の透過性に関連する問題を解決するために、多くのナノ製剤が採用されてきた。しかし、単核食細胞系(食細胞を構成する免疫系の機構)によるナノ毒性や、迅速な薬物クリアランス(排泄能力)においてなど他の問題も観察されている。 (sciencedirect.com)
「血液脳関門を突破する物質」なんて概念を私が知ったのも、新型コロナが出てきてからのことで、コロナウイルスのスパイクタンパク質(表面のトゲトゲの部分)は、やはり血液脳関門を「突破する」ものです。以下の記事に書きました。
血管に注入された新型コロナのスパイクタンパク質は、脳のバリア「血液脳関門」を簡単に通過し脳全体に広がることを知った日に、100年前のシュタイナーの「アーリマンに関する会議」の議事録を読めました
投稿日:2021年2月11日
コロナがなければ、一生知らないでいたようなこれらのことですが、それはともかく、医薬品において、この「血液脳関門を突破する物質」が、なぜ重要なのかといいますと、上の論文の抜粋にありますように、
「血液脳関門はあらゆる物質を弾くので、脳に薬品を送ることが難しい」
のです。
たとえば、脳疾患などで、ある薬剤に効果があることがわかったとしても、薬剤単体では脳に入る前に、血液脳関門がシャットアウトしてしまうのです。人体は基本的にこのように脳への異物の流入を防いでいます。
しかし、エクソソームは突破するんですね、ここを。
これまで、人工化合物としての血液脳関門を突破する物質、つまり「脳に入ってしまう」物質はありまして、論文には以下のように書かれてあります。
合併症を補うために、ポリエチレングリコール(PEG)が、MPS (生体模倣システム)薬物の取り込みを減らすために導入された。しかし、これは結果的に、脳内の薬物分布の減少、標的細胞間の相互作用の減少になった。(sciencedirect.com)
ここで「ポリエチレングリコール」が出てきましたが、米ファイザー社のワクチンにも加えられているもので、このポリエチレングリコールによる直後の副反応、副作用ということも言われています。
もうひとつ化合物で「血液脳関門を突破する」ものが、これもまた多くのワクチンに使われている「ポリソルベート80」という化合物です。
これについては、以下の記事でふれていますが、今回とはまた別の話です。
「脳と生殖機能を破壊せよ」 : 青空の実験室と課した地球の中でポリソルベート80を調べる
投稿日:2021年3月7日
このような化合物であるポリエチレングリコールやでポリソルベート80ではなく、純粋な生体由来であり「脳に入りこむ」エクソソームが薬剤として研究されていることは理解できます。
ちなみに、ご紹介しているエクソソームの論文は、2016年のもので、コロナ等とはまったく関係のない時代ですが、「現在のコロナワクチンが、体内でスパイクタンパク質を生成する仕組み」つまり、タンパク質を体内で生成するということを前提に論文の以下の部分を読みますと、以下の記述は「いろいろな可能性」を感じます。
エクソソームは、小分子の送達に加えて、タンパク質などの大分子の送達にも使用される。(sciencedirect.com)
エクソソームは、薬の伝送だけではなく、タンパク質などの伝送補助として使えるということのようなんですね。
だったら、遺伝子ワクチンなんてややこしいことしなくとも、「直接スパイクタンパク質を体内に注射する」のも可能性としてはできそうですね(ぞくッ…)。
脳にも届きますし(ぞくッ…)。
すべての血管中に行き渡らせることもできる (ひィ…)。
しかし、タンパク質はともかくとして、mRNA ワクチンにエクソソームが利用できる可能性を示しているのは論文の以下の部分です。
エクソソームは、DNAや RNAなどの核酸を標的細胞に自然に運び、生物学的プロセスと病原性プロセスの両方で遺伝子組み換えを誘発することも示されている。
エキソソームのこれらの特徴は、遺伝子治療を含む治療戦略において大きな関心事となり、特定の疾患における遺伝子発現を変化させ、遺伝子治療を改善する治療用遺伝物質を送達するために、エキソソームを薬物送達システムとして使用する研究が行われている。(sciencedirect.com)
このように、
> 遺伝子組み換えを誘発する
という記述もあり、エクソソームは、DNAや RNA の伝送物質として使えるということで、実に幅広い可能性を提示してくれるわけです。
なんかしかし、医学的知識のない私が言うのもなんですが、もともと自身の中に遺伝情報(マイクロRNA)を持っている存在であるエクソソームに「異なる遺伝情報の搬送者となってもらう」ことって問題ないんですかね。
免疫系が混乱するとか……。まあわかんないですね。
少し違う話ですが、今回の吸入型遺伝子ワクチンという言葉の響きに反応した理由としては、最近、
「大気中から DNAを収集して配列決定する研究が成功した」
というものを読んだこともあるかもしれません。
4月のライブサイエンスの記事でしたが、冒頭は以下のようなものでした。
研究者たちは、空気からDNAを収集して配列決定することに成功した
新しい研究によると、私たちは空気中を含むあらゆる場所に DNA を残している。今回、研究者たちは初めて単なる空気サンプルから動物の DNA を収集することに成功した。
人間や動物においての生きている DNA が環境に残り、水や土壌などさまざまな場所から採取される生物由来の DNA を「環境 DNA」または eDNA と呼ぶ。
eDNAは、水中に生息する種について学ぶために水から採取することはかなり一般的になっているが、これまで、空中から動物の eDNA を収集する試みがおこなわれたことはない。
概念実証実験として、ロンドンのクイーンメアリー大学の生態学者である研究著者エリザベス・クレア博士と研究チームは、モデル生物であるハダカデバネズミを収容する動物施設で空気から DNA を収集する試みをした。研究者らは、ハダカデバネズミの囲いと囲いが収容されている部屋の両方から、空気中に、ヒトとハダカデバネズミの両方の DNA を検出した。 (livescience 2021/04/05)
ここまでです。
私は知らなかったのですが、このように「大気中には DNA が漂っている」ものなんですね。
常に体からは何かが脱落しているわけですので、考えれば当たり前のような気もしますけれど、それでも「 DNA が生きたまま大気中に残る」というのは、想像したことがなかったです。
なんというかこう、「大気中は、さまざまな DNA や、エクソソームのカプセルに保護されたマイクロRNAで満たされている」ということになるのかもしれません。
なお、マイクロRNAを内部に含むエクソソームには「水平伝播」という概念があり、また「遺伝子の水平伝播(あるいは水平転移)」という科学用語もありまして、遺伝情報というのは、この地球上に無数に飛び交っているものなのかもしれません。接触は当然としても、接触以外にも、ヒトとヒトとの遺伝子の伝送とコミュニケーションは、常に休むことなく起きていることのようです。
そういう中で、
「さあ、皆さん、部屋に入って下さい。これから吸入型 mRNAワクチンの散布いきます。シューッ」
「シューッじゃねえだろ」
というような現実性も可能性としてはなくもないという複雑な時代です。
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