私たちの体に不要なものはひとつもない可能性がさらに高まる
2017年1月の米タイムの記事より
・TIME
虫垂は腸内細菌環境を守る最前線だった
今日、アメリカの医学系メディアを見ていましたら、以下のような記事がありました。
虫垂いわゆる盲腸とパーキンソン病との関係についてなのですけれど、内容を簡単に書きますと、6000万人分(!)のアメリカ人の医療データから、
「虫垂を切除した人は、パーキンソン病の発症率が虫垂を持つ人の 3倍になる」
ということが判明したというものです。
その記事では、やたらと文中に「驚くべきことに」というような医学メディアらしからぬ表現がたくさん出てきまして、「どうして、こんな表現がたくさん使われるのかな」と調べてみますと、なんと、少し前までの医学界では、「その真逆」が説として定着していたのです。
すなわち、「虫垂を切除することがパーキンソン病の予防になる」と。
下は 2018年11月の AFPの報道の冒頭部分です。
パーキンソン病、始まりは腸から? 虫垂切除で発症リスク19~25%減
AFP 2018/11/01
これまで脳の病気と考えられてきたパーキンソン病は、腸内、特に虫垂から始まる可能性がある。成人早期に虫垂を切除すると、パーキンソン病の発症リスクが大幅に下がることを、米国の研究者らが突き止めた。
この「虫垂を切除すると、パーキンソン病の発症リスクが下がる」という研究が、今回の 6000万人の医療データ記録の調査から、「完全に否定された」のでした。それどころか、虫垂を切除した人は、著しくパーキンソン病の発症率が高いということがわかってしまったのです。
それで、医学メディアの記事も大騒ぎとなっているようなのでした。
それにしても、どうして「虫垂とパーキンソン病に関係がある」というようなことを考えたのだろうと思い、それも調べてみますと、何と、
「虫垂は、腸内細菌を保護している臓器である可能性」
が、以前から指摘されていたのでした。
腸内細菌環境の話にとても興味のある私は、「それは知らなかった」と大いに悔やみ、悔やみながら、お酒を飲んで眠ることにしました(そうかよ)。
まあ、それで起きまして、また調べてみますと、2017年に冒頭の米タイムの「虫垂は、腸内細菌を保護している臓器である」ことが示されていた記事を見つけたのです。
今回は、順序として、まずこちらからご紹介したいと思います。
この研究からわかるのは、
「虫垂という臓器は、果てしない進化の末についに登場したもので、もしかすると、体内で最も重要な臓器のひとつかもしれない」
ということなのです。
素晴らしい研究だと思います。
ここからです。
Your Appendix May Not Be Useless After All
TIME 2017/01/11
私たちの虫垂は無意味な器官では決してない可能性がある
虫垂は炎症を起こす傾向があることで有名で、医学の歴史では、虫垂は実際の機能を持たない臓器と見なされてきた。
しかし、アメリカでの新しい研究は、虫垂が実際には機能を果たしているかもしれないという考えを支持することを示した。
その機能とは、腸に住む有益なバクテリアを保護することだ。
米アリゾナ州立ミッドウェスタン大学のオステオパシー医学部の准教授であるヒーザー・F・スミス (Heather F. Smith)博士は、さまざまな動物種にわたる消化管の形質の進化について研究している。
科学誌コンプテス・レンドゥス・パレボル (Comptes Rendus Palevol)に掲載されたスミス博士の新しい研究では、533種の異なる哺乳類における虫垂の有無を分析した。
博士は、虫垂は、「異なる遺伝的な樹形図」の中で独立して 30回以上進化を繰り返したことを発見した。さらに、進化の中で、虫垂が出現すると、その虫垂は進化の系統から消えることはほぼなかった。
この意味は、虫垂という臓器が「存在する意味がある」合理的な意味を持つ、すなわち適応目的を持つために残ってきたことを示しているとスミス博士は述べる。
スミス博士と共同研究者たちのこの研究では、これまでの虫垂に対しての医学的な仮説がことごとく否定される示唆が提示されている。たとえば、虫垂は、食事や環境要因と関連しているかもしれないというような仮説だ。
研究者たちは、1つの興味深い発見をした。
それは、虫垂を持つ動物種は、彼らの小腸と大腸をつないでいる小袋に高濃度のリンパ組織を持っている傾向があることを見出したのだ。
この種の組織は免疫において役割を果たし、そしてまた、健康な腸内細菌の増殖を刺激する能力を持つ。
そのために、虫垂が、これらの有益な腸内細菌に対する「安全な住処」としての役割を果たしているという説は理にかなっているとスミス博士は言う。
もちろん、今回のこれらの調査が、虫垂がそのような機能つまり「腸内細菌を保護する」という役割を果たす可能性があることを証拠として示したわけでない。
この「虫垂が腸内細菌の安全な住処」」だという考え方は、2007年の研究によって初めて提起された。そして、この考えが、スミス博士に、虫垂が「腸内細菌を保護する機能を果たすために」人間や他の哺乳動物において進化したかどうかを研究をさせる動機となった。
しかし、仮にスミス博士の言うように、虫垂が腸内細菌を保護しているのだとすれば、虫垂を除去した人にはどのような意味となるのだろう。
スミス博士は、その影響は特にはないとして以下のように言う。
「一般的に、虫垂切除術を受けたことのある人たちは、比較的健康で、大きな有害な影響はありません」
しかしながら、いくつかの研究では、虫垂のない人たちは、虫垂を持つ人たちよりも、感染症への感染率がわずかに高いことが示されている。
博士は以下のように言う。
「虫垂のない方々は、病気から回復するのに、特に有益な腸内細菌が体から失われた方の場合は、病気からの回復に少し時間がかかるかもしれません。」
スミス博士自身も、12歳のときに虫垂を切除している。
より広い意味では、スミス博士は、虫垂に関する研究の中で、「過剰衛生と過度の衛生に対する別の一連の証拠」を提供したと述べている。虫垂は免疫組織に満ちているので、虫垂炎の主な原因の 1つは、免疫の発達不良と関係があると言う(過剰衛生が虫垂炎と関係があるという意味)。
そして、博士は次のように言う。
「細菌やウイルスのような病原体や感染因子への曝露は、免疫システムの正常な発達過程にとって重要です」
細菌やウイルスへの曝露がないと、発症が抑制され、免疫系が過敏になることがある。これは、喘息やアレルギーなどの病気を説明するためによく使用される説だ。そして、この分野に関するさらなる研究は、虫垂炎の問題に取り組むことに役立つ可能性がある。
「他の自己免疫疾患や反応に対する治療法が進展していますので、虫垂炎の治療にも似たような方法により、その治療法が開発される可能性があると思います」とスミス博士は述べる。
ここまでです。
しかし、このスミス博士の
> 533種の異なる哺乳類における虫垂の有無を分析した。
という、盲腸に対するこの奇妙な執念の源泉はなんだろう・・・と思いながら、ふと、
「この方、女性の医学者では?」
と思いまして、調べてみましたら、女性の方でした。
下の写真の中央の方です。
ミッドウェスタン大学のヒーザー・F・スミス博士(中央)
・Dr. Heather F. Smith
過去記事でも、よく書かせていただくことがありますけれど、社会全体からの評価はともかく、私が個人的に注目する科学・医学研究の研究者たちには、ものすごく女性科学者の比率が高くて、腸内細菌に関しての研究もそうですね。
下の記事で取りあげた「腸内細菌とアレルギーの関係」に関しての研究を主導したのも、米シカゴ大学の女性科学者でした。
米シカゴ大学が乳幼児の腸内細菌を用いて食物アレルギーを改善する画期的な方法を発見。そして、キーである「酪酸菌」を用いて、日本人も誰でも食物アレルギーを飛躍的に改善できる可能性があります!
私自身、この記事を書く動機ともなった酪酸菌には大変に感謝しています。
まあ、あまり個人的なことを書くのはいいことではないかもしれないですが、腸内環境改善に取り組んで、半年くらいですかね。本当にずいぶんと良くなりまして、ありがたいことだと思います。
といっても、上の記事で取り上げました酪酸菌(商品名:強ミヤリサン)と、以下の記事で取りあげていますアーユルヴェーダのトリファラというものを飲んでいるだけではあります。
・アーユルヴェーダの重要ハーブ「トリファラ」を3ヵ月飲んで良かったですので、医学論文を検索してみると、腸内環境改善、ダイエット、ガンの予防といろいろと
In Deep 2018年11月14
まあしかし、こういう個人的な話は、とても長い無駄話につながっていく可能性もありますので、また別の機会ということで、さらに本題を続けてまいります。
次は、先ほどもご紹介した「虫垂とパーキンソン病の関係」です。
しかし、先ほどのスミス博士の研究の内容である「虫垂が腸内環境を保護している」ということが事実であるならば、現在の医学では、「腸内環境は脳に直結している」ことが少しずつわかり始めているのですから、「腸内細菌の保護を失った場合の、脳への影響は多少なりともあるのではないか」とは思います。
ここから記事です。
There's a Bizarre Link Between Losing Your Appendix And Parkinson's, Huge Study Shows
sciencealert.com 2019/05/10
虫垂の切除とパーキンソン病の間に奇妙な関係があることが研究で見出された
進行性の変性神経疾患であるパーキンソン病の発症と虫垂の間に関連がある可能性が見出された。
その関係性がどのようなものであっても、容易に納得できるものではないかもしれないが、しかし、その関係性が示されたことは事実だ。
昨年末、 170万人の分析により、虫垂を取り除いた場合、25%の割合でパーキンソン病の症状が悪化する可能性が低くなったことが示されていた。
ところが今度は、より大規模な研究が、完全にその反対を示したのだ。
米ケース・ウェスタン・リザーブ大学の医師モハメッド Z. シェリフ(Mohammed Z. Sheriff)博士は、この混乱した状況をよく理解している。
何年にもわたって、虫垂とパーキンソン病については議論がある。虫垂を取り除くことがパーキンソン病の発症を遅らせる、あるいは、虫垂の切除はパーキンソン病を発症するリスクを増大させる、または、それにはまったく効果がないと主張するなどの多くの研究があった。
この関連性が注目されることになった原因は、パーキンソン病の背後にあると考えられているタンパク質の存在だ。そのタンパク質は炎症後の腸にも見られる。
シェリフ医師は以下のように述べる。
「パーキンソン病の原因に関する最近の研究は、発症の早い時期に胃腸管で発見される αシヌクレインというタンパク質に関しての研究が中心でした」
そして、最近では、虫垂が、腸内細菌叢を保護する安全な砦を提供するという潜在的な役割を持っていることがわかりつつある中で、虫垂の存在に関心が集まっている。
その中で、虫垂を取り除くと、パーキンソン病の原因でもある α-シヌクレインのレベルが上昇する可能性があるのではないかという懸念も浮上していた。しかし、科学でこれを語るためには、エビデンスが必要だ。
そして、今までのところのエビデンスは、虫垂の切除がパーキンソン病に対してどのように作用するかの結論は出ていないままであった。
そのような中、シェリフ医師は、大きな研究を開始することにした。
アメリカの電子医療記録にある 6,221万8,050人分の膨大なデータの検証に乗り出すことにしたのだ。
シェリフ医師と研究チームは、その中から、虫垂の切除手術を受けた 48万8,190人の患者を選び出した。その中で、4,470人が、パーキンソン病を発症していた。
そして、虫垂切除をしていなかった 17万7,230人のパーキンソン病のケースと比較したところ、驚くべき対照が明らかとなった。
調査で示された数字に基づくと、虫垂を除去した場合、その後にパーキンソン病を発症する可能性が、除去していない場合より 3倍高いことを示したのだ。
この事実は、虫垂の切除が、パーキンソン病の症状の原因となる神経組織の変性を引き起こすことの理由を示しているわけでない。しかし、関係性が明らかであることを示唆しているものではある。
シェリフ医師は次のように述べる。
「この研究は、虫垂、または虫垂除去とパーキンソン病の間の明確な関係を示していますが、それはただの関連性を示しているに過ぎません。この関係を確認し、そこに関与するメカニズムを、よりよく理解するためには、さらなる研究が必要です」
このシェリフ医師の研究の結果が、虫垂とパーキンソン病の関係についての議論を呼ぶことは間違いないだろうし、もし、この研究が示す通りであるならば、腸内の免疫プロセスがどのようにして脳内の問題を引き起こすのかという謎の底にたどり着くことへの関心を喚起する可能性がある。
これらのような相反する結果(虫垂の切除が、パーキンソン病を抑制するか、しないかという相反)は、健康科学がどのように機能するかについての、より複雑な側面を強調しているともいえる。
その一方で、私たち一般人がパーキンソン病からの予防に対してできることは多くはないが、しかし、この研究から考えると、パーキンソン病の発症を避けるためだけに虫垂を除去することは良くないと考えられる。3倍という数字の意味は大きい。
2016年には、世界中で推定 610万人がパーキンソン病を患っていた。これは、1,000人に 1人から 2人程度が発症している数値となる。
また不思議なことに、喫煙は、最大 40パーセントもパーキンソン病を発症するリスクを下げる。もちろん、喫煙に伴うさまざまな健康上の懸念を考えると、パーキンソン病の予防のために喫煙を始めるのは馬鹿げているが。
さらなる研究の結果が期待される。
ここまでです。
なお、パーキンソン病というのも、年々増えているも疾患で、40年くらい前と比較すると、発症率数が 10倍などになっていますので、上には 1000人に 1人から 2人とありますが、グラフを見ている限り、今後その比率は高くなっていくのではないでしょうかね。
ところで、虫垂つまり盲腸は、英語では Appendix というのですけれど、この単語の主要な意味は「付録」とか「おまけ」なんですね。それが医学用語の虫垂に適用されたようです。日本語でも、盲腸というような「機能しない腸」というように言われていて、このあたりからも、現代医学が盲腸を「機能しないおまけのもの」と見なしていることがわかります。
しかし、最先端の医学の認識である
「腸内細菌環境は、身体と精神の健康のための最も重要なもの」
だとわかりはじめている中、今回のふたつの研究が示していることは、
「虫垂は、あらゆる臓器の中で最も重大な臓器かもしれない」
という可能性が浮上したことになります。
これは、そのことを立証していくためには、
・虫垂の切除と花粉症の関係
・虫垂の切除とメンタル系疾患の関係
・虫垂の切除と自己免疫疾患の関係
などを大規模に調査すれば、ある程度わかるのではないかとも思います。
アレルギーも自己免疫疾患もメンタル系疾患も、その根底には腸内細菌環境が関係していることが明白となっています。
なお、「腸内細菌が脳を支配している可能性」については、以下の記事などでふれさせていただいています。
・「腸は第二の脳」……ではない。腸内システムは脳をも支配している「第一の脳」である可能性が高まる。それが意味するところは「人間は細菌に理性までをも支配されている」ということで……
In Deep 2018年6月2日
いずれにしても、
「人体に不要なものは何ひとつない」
ということが真実であるという可能性がますます高まっていると感じます。
あるいは、ジャンク DNA などと呼ばれている機能がわからない大部分の DNA にもすべて意味があると私は確信していますが、そうなのだろうと改めて思います。
以前、「扁桃腺を切除すると、成人後に高い疾病率となる」ことが判明したという医学記事を以下の記事で取りあげたことがあります。
・不調子の中でぼんやりと考える「人体から取り除いてはいけないもの」を排除してきた自分の人生…。そして今、扁桃腺を切除した子どもは「一生、極めて高い疾病率を背負う」ことが研究によって明らかに
In Deep 2018年8月7日
どの部分にしても「とってはいけない」のだと。
日本最初の整体師である野口晴哉さんは、「いかなる臓器であろうと切除することは良くない」と繰り返し述べてらっしゃいました。
もちろん、現在の医学では、大きな疾病の場合、臓器の切除しか方法がない場合はたくさんあるでしょうけれども、そういう方向ではない治療法というものが、少しでも多く出てくるといいですね。
そして、今回ご紹介したどちらのものも、「まちがいなく最先端の医学理論」であるわけです。
つまり、西洋医学もまた、一方ではこのように確実に良い方向に進んでいる。
この方向でさらに進んでいけば、いつかは素晴らしい医療やすばらしいお医者さんがあちこちから出現するようになるのかもしれません。
その頃には私自身は生きていないでしょうけれど、これから後の人たちのためにもそうなっていくといいですね。
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