2023年5月10日 視察中の最高指導部の全員がマスクを着用している光景
マスクとサングラスを着用をして視察する習近平主席(右)と李強首相(右から三人目)。 epochtimes.com
「霊的洗礼」
先日、アメリカの子どもたちの言語の遅れが非常に深刻な状態にあることについて、米ウォールストリート・ジャーナルの報道をこちらの記事でご紹介しました。
その 2日後のウォールストリート・ジャーナルで、「中国の習主席、広範囲にわたる教化推進で毛沢東の危機対応を模倣 (WSJ)」というタイトルの非常に長文の報道というか論説というのか、そういう記事が掲載されていました。
興味を持ったのは、その最初のリードで、以下のように書かれていたことでした。
「パンデミック、経済、そして米国との緊張によるダメージを受ける中、中国の指導者は「霊的洗礼」キャンペーンを開始した」
さらに、以下のように続きます。
「習近平氏の過去の教化活動の中で、毛沢東の時代をこれほど直接的に傾聴しながら、これほど大規模に推進されたものはほとんどない 」
興味を持ったのは、上のほうのリードに、
「霊的洗礼」
という言葉があることでした。英語で、Spiritual baptism と書かれていますので、「霊的洗礼」という訳でいいと思うのですが、ちょうど少し前のメルマガで「霊的戦争」という言葉 (Spiritual War)を多用したものを出させていただいたこともあり、なんとなく時期的にシンクロした話だなあとも思いました。
そのメルマガは、「霊的戦争の戦士たち」というタイトルでした。
ところで、霊的洗礼って何の意味なんだ? と思いましたが、ウォールストリート・ジャーナルの記事の最初の部分に説明がありました。
2023年5月21日のウォールストリート・ジャーナルより
中国の指導者、習近平氏は、毛沢東の危機戦略の 1ページを抜粋して、ゼロコロナ政策の最後の数カ月間の激動によって引き起こされた中国のダメージを封じ込めようとしている。
ここ数カ月、習氏は自らの政治的教義を広めるための大衆学習キャンペーンなど、教化活動を開始した。
このキャンペーンは学校、病院、銀行、裁判所、警察署、軍事基地、礼拝所を駆け巡り、同氏はこれらを、共産党員全員に対する「霊的な洗礼」と表現した。
習主席は 4月の会合で当局者たちに対し、中華民族の復興という使命を果たすために「党全体が思想を統一し、意志を統一し、行動を統一しなければならない」と述べた。
wsj.com 2023/05/21
このウォールストリート・ジャーナルの記事を後でご紹介したいと思いますが、以前から、中国で習主席が行おうとしていることは、「新たな文化大革命ではないか」ということに何度かふれたことがありました。
[記事] 中国で8万人収容の「検疫センターという名の強制収容所」的な施設が建設される中、おそらく進んでいるのは「新たな文化大革命」
In Deep 2022年11月28日
[記事] これは文化大革命の中での単なる粛正か…それとも新たな生物戦か…。最悪の想定は起こり得ないと願いつつ
In Deep 2022年12月27日
昨年11月には、米ブルームバーグが、「中国政府が経済成長より、安全保障やイデオロギーを一段と重視する」との懸念を述べていたりしたこともありました。
(2022年11月8日のブルームバーグより)
> …この改正案は、「中国の特色ある社会主義法治体制を発展させる」ため、「共産党指導部に厳格に従い、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論」などと共に「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想の導きを順守すべきだ」としている。(bloomberg.co.jp)
このことが、2023年の今になって顕著に出てきたということのようです。
ちなみに、冒頭の写真にありますが、習主席と最高指導部は、最近、精力的に全国を視察しているのですが、
「 5月上旬から、またマスクをし始めた」
ということで、一部では疑念、一部では失笑が起きています。
(報道) [習近平氏はなぜマスクをしているのか?]という中国語報道。そして、北京の新たな感染数は過去最大となっている模様 (2023/05/21)
冒頭の写真の視察の際には、サングラスまでしているという状態となっています。過去はわからないですが、習氏が公式な視察でサングラスをしたというのは、聞いたことがないです。
5月10日 マスクとサングラスで指導にあたる習近平氏
soundofhope.org
中国のコロナは現在拡大しているようなんですが、中国当局がデータをまったく公表しなくなっていますので、実態はわかりません。
ともかく、毛沢東時代へと突き進んでいる中国の報道をご紹介したいと思いますが……ひとつだけ書いておきたいことがあります。直接関係のある話ではありません。
今回のタイトルに、以下の文言が入っています。
「世界一幸福な国」で進む「毛沢東時代への回帰」
これと関係することです。
「世界一幸福な国」
中国は、世界に先駆けて、「完全な民衆コントロール政策」を淡々と行っていました。以下は、2018年4月の記事ですが、中国の人々が「信用ポイント制」で立場や身分が変動していく報道を取り上げたものです。
[記事] 未来世紀チャイナが作り出す中国式ディストピア : 人々はシミュレーションゲームのような「変動するポイント制度」による信用システムの中で生きていく
In Deep 2018年4月3日
簡単に言えば、
「中国政府の気に入る行動をすることでポイントアップ」
「その逆でポイント減算」
というものです。以下は、2018年4月3日の米ABCニュースからの抜粋で、このようなものです。
(ABCニュースより)
> …すなわち中国 14億人の市民に対して「得点付け」することで、良い個人行動と見なされた人たちに高い評価を与え、「体制に不服従である」ことに対して処罰を下すという試みだ。 ABC
結果として、ポイントが著しく下がり、ブラックリストに入ると、それはどんな著名人や有名人であっても、以下のようになります。
> …そのため、リウ氏は星付きの各付けホテルに宿泊することはできない。また、家を買うもできないし、休日に遠方への旅行に行くこともできない。さらには、彼の 9歳の娘を私立学校へ入学させることもできないのだ。 ABC
このようになる政策が継続しているのだと思われます。
それだけに、昨年 11月から中国各地で起きて、それがゼロコロナ政策を撤廃に導いたと「西側のメディアでは報道されていた」白紙運動というものも、非常に怪しく感じていました。
中国のエリート大学の学生たちなら、こんなものに参加したことが少しでもわかった時点で「完全なブラックリスト入り」することは確実に知っていると思います。
中国の顔認識システムは世界一であり、マスクをしていようが何だろうが関係ありません。突きとめられます。
以下の記事は、白紙運動というものが終わった後のものです。
[記事] 白紙運動に参加した若者たちが「次々と忽然と消え」、共産党の元最高エリートたちが次々と「病死」する中、今後の中国で起きることは?
In Deep 2023年1月19日
ともかく。
このような中国は、どの側面からどう見ても「超絶ディストピア」であることは間違いないわけです。
そんな国に生きていて、「幸せだなあ」と感じることがあると思われますでしょうか。
それが起きていたのです。
これは、今年 3月終わりの報道だったのですが、ちょっと訳がわからないなり疑心暗鬼なりで、一切ふれたことがなかったのですが、
「国際調査で、幸福だと感じている人が最も多い国は中国だと発表されていた」
ことがあったのです。
調査したのは、中国ではありません。
調査組織としては世界最大規模のフランスにある多国籍市場調査コンサルティング会社であるイプソス社によるもので、3月20日に発表された、「世界の幸福度 2023年レポート」(こちらにあります)が、それを示しているのです。
中国の国営メディアのほとんどが、喜々としてこれを報じていました。以下は中国国営のグローバルタイムズの記事からの抜粋です。
2023年3月29日のグローバルタイムズより
最近の国際調査では、中国本土の人々の幸福度が近年大幅に向上していることが示されており、ある調査報告では中国人が世界で最も幸福度の高い国の一つであることが示唆されている。
多国籍市場調査コンサルティング会社イプソスが 3月20日の国際幸福デーに先立って発表した「世界の幸福度2023年レポート」によると、調査対象となった 32の国と地域の中で中国人が最も幸福度が高く、中国人回答者の 91%が幸福度が高いと回答した。国民は、概ね満足しており、10 年前と比べて 12%増加した。
「国がディストピアになればなるほど、人々は幸福を感じるのかよ」
と、さすがにどう捉えていいのかわからない面もありますが、あるいは唐突に、「中国ワクチンになんかそういうのが……」などという蒙昧な考えまで浮かびましたが、そういう幸福度に関しての調査結果があったというお話でした。
ただまあ、今後の世界の傾向として、
「国家に従順であれば幸福に生きることができる」
という感じは拡大するのかもしれません。
多くの国では、大部分の人たちは基本的に国家に従順ですので(たとえば、コロナワクチン接種率を見ると国家への従順度がわかります)、将来的には、国家に対しての信頼度ゼロというような人間は駆逐されていくのでしょうね。たとえば、私のような。
なお、そのイプソス社の「世界の幸福度 2023年レポート」で、幸福度の高い上位 5カ国は以下でした。パーセントは、「調査した中で、自分は幸福だと答えた人の割合」です。
幸福度の高い上位 5カ国
中国 91%
サウジアラビア 86%
オランダ 85%
インド 84%
ブラジル 83%
下位の 5カ国は以下のようになっています。
幸福度の低い 5カ国
トルコ 61%
日本 60%
ポーランド 58%
韓国 57%
ハンガリー 50%
日本と韓国は、下位グループに入っていました。
まあ、ともかく、最近こういうことがあったことをお伝えしたいと思いました。
最近は、人間というものの思考のメカニズムや、その考え方自体に疑問がわき起こることが多いですが、なんか妙な「変化」が人の心に起きているのですかね。
これは中国に限ったことではなく、日本でも感じます。
毛沢東時代への回帰について、ウォールストリート・ジャーナルの報道をご紹介します。
習主席、広範囲にわたる教化推進で毛沢東の危機対応を模倣
China’s Xi Mimics Mao’s Crisis Response in Sweeping Indoctrination Drive
Chun Han Wong 2023/05/20
パンデミック、経済、そして米国との緊張によるダメージを受ける中、中国の指導者は「霊的洗礼」キャンペーンを開始した。習近平氏の過去の教化活動の中で、毛沢東の時代をこれほど直接的に傾聴しながら、これほど大規模に推進されたものはほとんどない 。
中国の指導者、習近平氏は、毛沢東の危機戦略の 1ページを抜粋して、ゼロコロナ政策の最後の数カ月間の激動によって引き起こされた中国のダメージを封じ込めようとしている。
ここ数カ月、習氏は自らの政治的教義を広めるための大衆学習キャンペーンなど、教化活動キャンペーンを開始した。
このキャンペーンは学校、病院、銀行、裁判所、警察署、軍事基地、礼拝所を駆け巡り、同氏はこれらを、共産党員全員に対する「霊的な洗礼」と表現した。
習主席は 4月の会合で当局者たちに対し、中華民族の復興という使命を果たすために「党全体が思想を統一し、意志を統一し、行動を統一しなければならない」と述べた。
並行して、習主席はあらゆるレベルの当局者たちに現場での「調査と研究」を実施するよう命じているが、これは毛沢東が 1960年代初頭に指揮した計画を反映しており、歴史家によれば、大帝の悲惨な結果に対する責任を転嫁する試みだったという。
北京の独立政治アナリスト、呉強氏は、習氏のキャンペーン活動の熱狂は、最近の出来事が中国指導者のイメージをどれほど傷つけているかを反映していると述べた。同氏は、習氏の目的は「国民の言論に対するコントロールを再確認し、自身の失敗を隠すこと」だと述べた。
習氏は外面的には強さを誇示している。
昨秋、彼は常識を打ち破る 3期目の主席を務め、ほぼすべての重要な権力の地位に近い同盟者を誘導した。昨年末に新型コロナウイルス感染症対策の終了を命令して以来、同氏はサウジアラビアとイランの間の突然の緊張緩和を仲介しながら、ロシアのウラジーミル・プーチン氏やフランスのエマニュエル・マクロン氏を含む世界の指導者らと直接会ってきた。
しかし、習主席は重大な課題にも直面している。
11月に同氏の新型コロナウイルス政策に対する全国的な抗議活動が国民の信頼の揺らぎを指摘する一方、「ゼロコロナ」対策からの突然の転換が計り知れない死者数をもたらした。
一方、中国経済はパンデミックによる二日酔いを打破するために懸命に努力しているが、米国との緊張激化によりその課題はさらに困難になっている。
国家主導による個人崇拝をあおるなど、習政権下で変化する中国の政治・ビジネス環境への不安から、より多くの中国人、特に富裕層が海外移住に駆り立てられている。
習氏は過去にも教化活動を指揮したことがあるが、毛沢東の時代をこれほど直接的に念頭に置きながら、これほど大規模に推進されたことはほとんどなかった。
最新の教化キャンペーンは 3月下旬に注目すべき形で始まった。
共産党指導部は「調査研究」(政策改善のため当局者が自ら現場に出て事実調査を行う)を奨励する指令を出した。
この指令は、当局に対し、経済安全保障、環境保護、「共同繁栄」を通じて、より平等な中国を形成する取り組みなど、習主席が行動を求めている広範な分野にわたって「事実から真実を探求する」よう求めたものだ。
この習氏の指示は、毛沢東が中国を急速に工業化するという急進的な計画から生じた大飢饉の最中に始めた、幹部らに問題の調査と研究を呼びかけた 1961年のキャンペーンを直接反映したものといえる。
歴史家たちは、毛沢東は、政策の誤りを正し、批判から身を守るための手段として「調査と研究」を利用したと述べている。このキャンペーンは、下級官僚が現場の現実について十分な情報を持っておらず、したがって、そこに失政の責任があることを示唆していた。
「調査がなければ、発言する権利はない。調査がなければ、決定を下す権限はない」とという 3月の習氏指令は、毛沢東のスローガンの言葉を引用して述べられた。
中国国営メディアは、習主席が地方行政官時代から草の根を頻繁に訪れ、一般の人々から直接話を聞いていた様子を詳しく伝えた。
キャンペーンの第 2段階は 4月に始まり、習主席は、政府高官たちに対し、北京から全国 2,800人以上の幹部の心に「習近平思想」を浸透させるための新しい「テーマ別教育」プログラムを、郡レベルの地域で準備するよう命令した。
党指導部は、この調査キャンペーンを指揮するために中国全土に 58の「指導」チームを派遣している。
新華社通信によると、4月中旬までに中国本土のすべての地方政府、約 120の中央党・国家機関、70以上の主要国営企業や金融機関が習近平思想の普及プログラムを開始した。
共産党出版社は政治教科書として使用するための、習主席の発言を集めた新しい選集を出版した。
国営企業や大学は文化公演や詩のコンテストを開催し、芸術的才能を交えて習氏の考えを宣伝した。
公式説明によると、4月中旬のある勉強会では、江西省南東部の小さな町の病院で十数人の党員が地元の革命現場を視察した。参加者たちは党旗ピンを身につけ、習主席の演説や党統治憲章の一節を朗読した。彼らはまた、すべてのメンバーが最初に参加するときに誓う入党宣誓も暗唱した。
「新しい時代の私たちは、革命の先人たちが血で赤く染めた真紅の旗を大切にしなければなりません」と参加者の一人はセッションから学んだことを語った。
過去の教育キャンペーンと同様、最新の勉強会の参加者たちは通常、集めた洞察や教訓をノートに書き留めることを求められ、その後、レビューのために上層部に提出される。
このようなキャンペーンは一般に、実質より形式を優先する「形式主義」に発展しがちだ。しかし、米国を拠点とする政治評論家であり、北京のエリート組織である中央党学校が発行する新聞「スタディ・タイムズ」の元編集者である鄧宇文氏は、当局者たちがこれまで無視してきた社会経済問題に取り組むよう促すのであれば、習主席の今回の取り組みは依然として前向きな結果をもたらす可能性があると述べた。
鄧宇文氏は「最終的な目標は、習氏の指導者の地位を維持することだ」と述べた。
「習近平氏を忠実にフォローし、彼の考えや政策に忠実に従っていれば、テストに合格できるだろう」
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