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人類の未来 健康の真実

米マサチューセッツ工科大学の科学者たちが「音と光だけ」を用いてアルツハイマー病での脳内プラークを消した

投稿日:2019年12月29日 更新日:


sciencealert.com




 

音と光での

この数年、世界大学ランキングにおいて、ずっと第 1位が続く、世界屈指のエリート校であるアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)ですが、今回はその科学者たちによる画期的な研究をご紹介します。

考えれば、In Deep でも、マサチューセッツ工科大学の研究や論文については、ずいぶんご紹介してきた気がします。素晴らしい研究もややコワイ研究もありますが、どれにおいても「視点が違う」というような研究が多いような気はします。

今回ご紹介しますのは、

「アルツハイマー病のプラークを光と音だけで消し、脳機能も改善させた」

ということに関しての研究発表で、マウスでの試験段階ですが、脳機能にも劇的な変化が見られたようです。

アルツハイマー病の発症要因は正確にわかっているわけではないですが、この「プラーク」というのは、たとえば、以下の説明のようなものです。

アルツハイマー病がどういう原因で起こるのか、その詳細はまだわかっていない。以前の研究で、この病気は脳内にプラークとして、あるいは絡まり合った状態で存在するタンパク質と関連があることが明らかにされている。

アミロイドβと呼ばれるこのようなタンパク質断片は、脳の細い動脈にも蓄積し、アルツハイマー病が進行するのに伴って起こる異常の一因となっている。

nature 2008/12/22)

つまり、脳内に蓄積した、このアミロイドβ(ベータ)と呼ばれるタンパク質の塊や断片を「除去」することができれば、アルツハイマー病の進行を食い止めたりできる可能性があるかもしれず、あるいは「病状を改善」できるかもしれないということで、このアミロイドβを脳から取り除くための研究はさまざまに行われています。

これまで、投薬治療を始めとして、アルツハイマー病に対しての決定的な治療法は見出されていないのですけれど、今回のマサチューセッツ工科大学の研究は、

「音と光だけ」

で、このアミロイドβの塊を脳内から取り除くことに成功したというものです。

ちなみに、「物理的に音と光での刺激を与える」という方法論ではなく、「脳内からもともと出ているガンマ波を惹起させるために音を使う」ということのようです。

その研究についての科学記事をご紹介します。


Scientists Have 'Cleared' Alzheimer's Plaque From Mice Using Only Light And Sound
sciencealert.com 2019/12/28

MITの科学者たちが「光と音だけ」を使ってマウスからアルツハイマー病のプラークを「消去」することに成功

脳の機能を妨げる有害なタンパク質のプラーク(塊)が、光と音だけを使用して、マウスから部分的に除去された。

今年初めにマサチューセッツ工科大学(以下、MIT)が主導した研究により、科学者たちは、ストロボのライトと低ピッチのノイズ音を使用して、病気で失われた脳波を再現することに成功した。これにより、アルツハイマー病のような行動を示すように設計されたマウスのプラークは除去され、認知機能の改善が見られた。

これは、例えば、光と音を使って自分の脳波を惹起させ、アルツハイマー病と戦うことを助けることにつながる可能性がある。

ただ、この技術はまだ人間に対しては臨床的に試験されていないため、あまりにも期待を高く持つのは時期尚早ではある。人間とマウスでは脳波が異なる働きをすることが知られているからだ。

しかし、仮にヒトの臨床において、マウスと同じことが起きた場合、現時点での試験の結果は、認知症の一般的な症状を治療するための方法として、とても安価で、しかも薬物を使用しない方法が見いだせることを示唆している。

 

試験の方法

以前の試験で、アルツハイマー病の様態になるように処置を受けたマウスの目に、 1秒間に 40回の点滅をする光を示す研究が行われたことがあるが、研究者たちは、今回、光と共に、同様の周波数の音を追加したところ、その結果が劇的に改善されることを発見した。

MIT にあるピコワー学習記憶研究施設(The Picower Institute for Learning and Memory)の研究者のひとりであるリー-フュエイ・ツァイ(Li-Huei Tsai)氏は、以下のように述べる。

「光による視覚の刺激と、音による聴覚の刺激を 1週間組み合わせると、前頭前野のより良いかみ合わせと共に、アミロイドの劇的な減少が見られたのです」

アルツハイマー病の原因のひとつであると考えられているタウとアミロイド・タンパク質のもつれや塊を部分的に脳から取り除くことに関して、「音が果たす役割」を研究したのは、これが最初のことではない。

以前の研究では、超音波の連射によって血管の通りが良くなり、脳に血液が通り、あるいは神経系の老廃物除去を行うミクログリア(中枢の免疫担当細胞)が働きのペースを回復することが促進されることが確認されており、強力な治療法になる可能性を示した。

ツァイ氏は、数年前に、1秒間に約 40回の閃光の頻度で明滅する光が、脳の神経細胞にアミロイドが蓄積されたマウスに対して同様の利点(脳への血流と、免疫担当細胞の活性化)があることを発見した。

「その時の結果に私たちは非常に驚くと共に、非常にパワフルなものだと感じました。これをヒトで試す方法を考える必要があると、当時から考えていました」と、当時のツァイ氏は、科学誌ネイチャーの記者に語っていた。

唯一の問題は、この数年前の試験での効果が、脳の視覚部分に限定され、記憶の形成と検索に寄与する重要な領域に作用しないことだった。

その後、研究では、「振動(音)」が、脳がアルツハイマー病から回復するのを手助けすることが示された。

脳のニューロンは信号を送信するので、遠隔領域の同期を保つ電磁波、いわゆる「脳波」も生成する。

このような振動のセットの 1つはガンマ周波数として定義され、1秒間に約 30〜 90波で脳を波打つ。これらの脳波は、何が起きているのかを理解するために私たちが記憶を頭の中で検索し、そのために細心の注意を払っているときに最も活発となっている。

ツァイ氏の以前の研究は、アルツハイマー病の場合、脳波のうちの、これらガンマ波が妨げられており、このことが、アルツハイマー病の病理学自体に極めて重要な役割を果たしている可能性があることを示唆していた。

ツァイ氏は、新しい試験で、超高音の連射の代わりに、人間の耳に聞こえる高さである 40ヘルツという非常に低いノイズを使用した。

被験マウスを毎日 1時間、この単調なノイズに 1週間曝露すると、聴覚領域に蓄積するアミロイドの量が大幅に減少し、同時にこれらのミクログリア細胞と血管も刺激されたのだ。

「この実験により、脳波とはまったく異なる感覚的様式を使用して、脳のガンマ波を誘発させることができることがわかったのです」とツァイ氏は言う。

また、この方法は、脳の海馬からもプラークを除去していることもわかった。海馬は記憶に関連する重要な脳の部位だ。

この光と音の試験が及ぼした影響は、被験マウスの脳の化学的性質の変化(アミロイドなどが減少したこと)だけが明らかになったのではない。実際の機能も改善しており、治療されたマウスは、認知タスクの試験で、より良いパフォーマンスを示した。

以前の研究からの光療法を追加すると、さらに劇的な効果が見られ、前頭前野を含む脳全体の多くの領域のプラークが除去された。それらの不要物をきれいに除去するミクログリア細胞も活性化した。

神経系においての病気の原因を取り除き、脳波を同期させる方法により新しいメカニズムを発見したことは、あらゆる種類の神経障害の治療法の開発における大きな前進だといえる。

しかし、今回のような発見を人間の脳で試験するには、特にマウスと人間のアルツハイマー病の脳でガンマ波がどのように現れるかについて潜在的な対照がある場合、より多くの作業が必要になる。

これまでのところ、安全性に関する初期のテストでは、この光と音による治療プロセスには特別な副作用はないようだ。

 


 

ここまでです。

ちなみに、最近、このブログで科学記事にするものは、主導する科学者がほとんど女性だということが続いていますが、この研究を主導したリー-フュエイ・ツァイさんも女性の科学者です。リーとつくので男性かと思っていましたら、MIT のウェブサイトで調べてみますと、女性の神経科学者でした。

それはともかく、「音のパワー」ということについては、いろいろな面から何度か記事にさせていただいたりしていますが、最近では、以下のふたつの記事などは、「音の影響」というものに関して、興味深い部分があることを取り上げたものでもあります。

ピタゴラスが2500年前に述べた「病気は音で治療できる」という主張に対しての本格的な試験が始まる。現段階でわかっていることは、細胞内のひとつの繊毛が周波数に対して反応するということ
In Deep 2018年11月22日

「音のパワー」が次第に明らかに : 「音波は《質量》を移動させている」ことを示した米国の実験。そして、 特定の音楽によりチーズの味が明確に変化することを明らかにしたヨーロッパの実験
In Deep 2019年3月18日

ちなみに、今回の研究では、「音」と「光」が、脳のプラークを消去し、脳機能や海馬の機能までも改善したことを示していますが、この記憶や認知を司る「脳の海馬」に関しては、「匂いに最も反応する」ことが、以前のイスラエルの研究でわかっていまして、「匂い」にも脳機能を改善させる役割があることが明らかになっています。

これに関しては、当時の報道から抜粋しておきます。

イスラエルの研究:特定のにおいは脳に刻まれて消えない

epochtimes.jp 2009/11/09

イスラエルのワイツマン科学研究所のYaara Yeshurun氏が、科学誌「カレント・バイオロジー」で発表した論文によると、初めて認知する物体とそのにおいとの関係性は、人間の脳に非常に深い印象を残す。

磁気共鳴画像法(MRI)の実験も行なわれた。提示された物のにおいの変化に対して、人間の脳の海馬と扁桃体という記憶や感情に関わる器官は、においに直ちに反応を示すが、音の変化に対しては全く反応しないという結果が示された。においと記憶には密接な関係があり、五感の中で嗅覚だけが海馬や扁桃体と直結しているそうだ。

今回のマサチューセッツ工科大学の研究も合わせますと、

・光
・音
・匂い

こういうところから生じる「感覚」というのは、すべて重要なようですね。

考えてみれば、今の私たちの生活は、テレビなどの影響もあるのでしょうが、光や音などに対しての繊細な感受性が失われやすい環境すぎるような気はします。「感覚不全と認知症」ということが関係するのなら、騒然とした現代の生活というのは、あまり良い状態ではないのかもしれないですね。

以下の過去記事で、「テレビを視聴する時間が長いほど、認知症になりやすい」という英国の研究をご紹介したことがあります。

多大なテレビ視聴が高齢者の認知症を増加させている可能性がロンドン大学の研究により判明。そして、脳はいつでも「静かな状態」を望んでいる
In Deep 2019年3月7日

 

ちなみに、マサチューセッツ工科大学の研究を最初にブログでご紹介したのは、2011年の春のことで、2011年3月11日の東北での大震災の直前に「日本上空の電離層の状態が大きく変化していた」という研究をご紹介したのでした。

以下の記事でご紹介しています。

衝撃のデータ: 3月11日の地震の前に観測された日本上空の赤外線と電子量の急激な変化
 In Deep 2011年05月20日

これは、「大地震のトリガーが宇宙から来ている」ことを示した最初の研究だったと思います。

他に、マサチューセッツ工科大学の研究を記事にしたもので、印象的だったものを、いくつかリンクさせていただきます。

「2040年頃に人類の文明は終焉する」 : 米マサチューセッツ工科大学のコンピュータが弾き出した人類文明の崩壊と終焉……そしてその状況を最も現実化しているのはおそらく「日本」

放射線の長期被爆によっての遺伝子への損傷は「ない」ことがマサチューセッツ工科大学の実験で判明

地球に「第3の月」が出現した日 : 2つめの月RH120に続き、地球を周回する新たな準衛星が発見されたことをNASAが発表。その存在は希望なのか脅威なのか

瞬間最大風速200メートルの台風やハリケーンが現実化する?:モンスター・ストームと、海底火山、小惑星の衝突の関係が MIT の研究により明らかに

世界は振動からできている:微細な震えの積み重ねからできている「日常の隠された風景」が MITの研究者による新しいビデオ解析で明らかに

真に優秀な科学者の方々の研究は、場合によっては世界中の人々の意識や認識を変えます。人々の意識や認識が変わるということは、すなわち「世界そのものが変わる」ということでもあります。そういう意味でも、世界中の優秀な科学者の方々には、優れた見識と共に「良心」を保ちながら研究をしていただきたいと切に思います。

というわけで、今回はアルツハイマー病の発症要因のひとつとされる脳内のプラークの除去についての研究をご紹介しましたが、アルツハイマー病を含めて、認知症全般の発症要因や原因は非常に多岐にわたったもので、単純なことではないことは確かです。

それでも、治療法が見出させていない現状では、アルツハイマー病に対して、この「光と音」のような、薬物治療以外の方法が少しでも実用化に近づけば、少しは希望が見えるのかもしれないですね。

 
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