国別の「正直度」を調査する初の大規模実験にて
今日、下のようなタイトルの記事を見かけました。
▲ 2015年11月16日の英国 Daily Mail より。
イギリスの名門、イースト・アングリア大学が、15カ国からの 100人ずつ 1500人を対象に、
「人たちの集団が正直かどうかが、国によって差があるのかどうか」
ということを「2つの実験」から調査したというものでした。
いろいろな意味で興味深いもので、今回はこの記事をご紹介したいと思います。
実験は、
1. コイン投げ実験
2. 音楽クイズ実験
という2つの実験で、最初に結果を書いてしまえば、それぞれの実験に「国別の正直度には、かなりの差があった」ということになります。
上のそれぞれの実験のランキングは下のようになります。上位になればなるほど、正直度が高いということになるという解釈でよろしいかと思います。
本記事中に詳細なスコアのグラフもあります。
いろいろな国があるのですが、何はともあれ、日本。
「音楽クイズ実験」では、日本の正直度は1位です。
しかし、それに対して、「コイン投げ実験」では下から2位。
ずいぶんと違った結果となっています。
実験の内容は、本文にも書かれてありますが、少しわかりにくい部分があるかもしれないですので、それぞれが、どういう実験かを記してから、本記事に進みたいと思います。
私も理解するまで少し時間がかかりました。
「各国 100名からなる 15カ国総勢1500名の被験者からのオンラインでの回答」ということが前提で、
正直測定実験1 / 「コイン投げ実験」
・各自でコインを投げてもらい、それが表向きとなって落ちたか、下向きとなって落ちたかを申告してもらう。
・「表」が出たと申告した場合は、5ドルなどの「報奨金」が出る。
・その統計結果を調べてみる。
というものです。
オンラインでの申告で、他者のチェックはありませんので、「正直に言ったかどうかはわからない」ものとなるかと思われるかとも思いますが、このテストのポイントは、
「表が出た場合しか報奨金は出ない」
というところで、つまりは、
「表が出たと申告すればするほど、報奨金がもらえる」
ということになります。
それに対して、
「コイン投げで表と裏が出る確率は同じ」
ですので、表(こちらだけ報奨金が出る)に偏った回答が多すぎると、嘘である可能性が示唆されるということです。
それで、そのデータの結果、
「ある国の人々の【表】の回答が 50%(コイン投げの表の確率は 50%)と乖離していればいるほど、その国は不誠実な回答が多い」
ということになるようです。
そして、結果として、
・最も正直と判定された英国は「表」と報告した人の数が「ほぼ 50%」
・最も不誠実と判定された中国は「表」と報告した人の数が「全体の 80%以上」
となったと。
ちなみに、日本も「表」と申告した人の数は 80%に近くとなっており、50%を大きく上回っていて、かなり多くの日本の人たちが、「報奨金をもらうためにウソの申告をした可能性がある」ということが言える結果とはなっています。
この実験での日本人の正直度は、15カ国中、下から2番目という結果となっています。
しかし、もうひとつの「音楽クイズ実験」というものでは、日本人は正直度第1位となっていて、先ほどとはずいぶんと違います。
これはどんな実験だったのでしょうか。
正直測定実験2 / 音楽クイズ実験
・音楽に関しての6問のクイズを被験者たちにオンライン経由で回答してもらう。
・6問全部正解した場合には、報奨金が出ることが予め伝えられている。
・事前に「答えについてインターネットで検索しないで自分の知っている範囲で回答する」ことを確認するボタンを押してから、回答してもらう。
・6問のうちの3問は、普通の人では回答が難しいものとなっていて、インターネットで検索しないと、まず答えられない。
・その難しい3問の正解率の「高いグループ」は、インターネットで調べて答えた可能性が高いということになり、「事前に、インターネットで検索しない」いう約束に反していることになる。
というものです。
ちなみに、その6問の問題は翻訳記事の方にありますが、どれが難しいかとの判断事態が難しいですが、
・レディー・ガガの本名のファーストネームは?
・クロード・ドビュッシーが生まれたのは何年ですか?
などは、検索せずに答えられる人は、いることはいるでしょうけれど、多くはないと思います。
レディ・ガガという人は、本名そのものを知りませんが、Wikipedia で調べてみますと、
「本名:ステファニー・ジョアン・アンジェリーナ・ジャーマノッタ 」
となっていて、どこがファーストネームかもよくわかりません。
ともかく、要するに、事前に「インターネットで検索して答えてはいけない」というルールがあることが前提のテストで、「こういう難しい3問の問題を全問正解している人が多ければ多いほど、(検索で答えている可能性が大きく)あまり誠実ではない可能性が高い」ということになると思われます。
日本に住んでいる日本人だからちょっとわかるのかも
その音楽クイズ実験実験においては、日本は、その難しい問題の正解率は 1.0以下で、つまり、
「多くが答えられなかった(=検索して答えを調べていない可能性が高い)」
ということになり、正直度として高いという判断となった一方で、中国やトルコなどは、「正解率が高い(=検索して答えを調べている可能性が高い)」ということになったようです。
まあ、しかし・・・これらは「お金がかかっている」という部分から、「それぞれの国でのお金の価値の差」というものを考える必要もあるかなあとも思います。
5ドルの報奨金だとして、これは日本円で 600円くらいですが、日本国内でも、600円の価値の感じ方は違うと思いますし、いろいろな国の無差別に選んだ人たちの間での「 5ドル」はまったく違うもののように感じて、そこ自体も考えないとアレかなあとは思いますが、まあ、他の国のことはともかくとして、日本。
なぜ、日本は、
「音楽クイズ実験では正直度1位」
なのに、
「コイン投げ実験では最下位に近い正直度」
となったのか。
デイリーメールの記事では、そこについて具体的に書かれてあるわけではないですが、私は読んだ瞬間にこの答えがわかりました。
ポイントはルールです。
・1の「コイン投げ実験」は、「約束やルールの規定」が告げられていない上での自己申告。
・2の「音楽クイズ実験」は、「約束とルール」(インターネットで検索してはいけない)ことを告げられた」後に、自分で「確約ボタンを押して、その約束を確認して契約する」という作業の後から実験が始まる。
ということです。
もっといえば、コイン投げは、単なる自己申告だけの実験ですので、「表と言った方がほうが 600円もらえて、やっぱり得だべ」ということになっても、特に、それ以上の罪悪感というのか、破戒感というのか、そういうものはないはずでしょうし、600円なら、「イースト・アングリア大学の科学者たちを欺いて、オレは大金持ちになったぜ。うひゃひゃひゃひゃひゃ! ぶひゃひゃひゃひゃ!」というほどのものになるわけでもなさそうです。
しかし、「音楽クイズ」の方には、「検索して回答してはいけない」という「厳密なルール」が告げられている上に、自ら確約ボタンを押して、それを認めている。
おそらく、100人の日本人被験者の多くは、「そのルールを破ってまでも、不正行為(検索して回答すること)をしようとは思わない」ということだったと思います。
要するに、正直者であるとか、そうではないという以前に、
「決められたルールに自然に従う」
という傾向が、飛びつけて強いということかもしれません。
これは、法律だとか校則だとかの、いわゆる「明文化したもの」に対してという枠を超えて、日本人には、大昔からあることだと思っています。何でもいいのですが、道にみだりにゴミを捨てないとか、そういう、ささやかな日常の行為を、「法律で決められているからおこなっている」という人はいないと思います。道のゴミ捨ても国によっては罰金ですが、まあ、日本には、基本的にはそういものは必要ない(最近は例外も多いですが)。
そういう意味での「正直」なら、あるかもです。
確かに、あまりにも多くの問題を抱えたこの日本が、それでも(少なくとも私たち日本人とっては)住みやすいし、比較的穏やかで、比較的安全で、比較的犯罪率の少ない中で暮らせる事実は、多少今回の実験の結果を反映していると思います。
ただし、「規則を定められていないこと」については、「ちょっとズルする傾向」が日本人にはあることも、今回の実験からわかりますが、まあ・・・私なんかも、そういう人生そのもののような気もします。
人に迷惑がかからないことについては、あまりシロクロ真剣に分けてしまうことは、そんなに好きではないのかも(これも最近の日本は違う部分もありますが)。
では、ここからデイリーメールの記事です。
グラフなどで、一部、読みやすさの点などから上と重複するものがあります。
How honest is YOUR country? People in the UK are most likely to tell the truth while the Chinese are the most deceitful
Daily Mail 2015/11/16
あなたの国はどのくらい正直だろうか? 英国の人々は最も真実を語る可能性が高く、そして、中国の人々は最も偽りを言う可能性がある
正直であることは最善の生き方だと語られるが、そのことに全員が同意しているわけではない。
研究者たちは、人々の真実性は国家の間で大きく異なることを見出した。その結果では、英国人と日本人は道徳について最高のスコアを持ち、中国とトルコは正直度において、最も少ないスコアとなった。
英国イースト・アングリア大学( UEA )の研究者たちは、オンライン調査で、世界 15カ国 1,500人を対象に調査をおこなった。
これは「正直な行動を測定する」ように設計された2つの実験が含まれている。
研究者たちは、それぞれの国のどの人たちがより正直で、どの国の人たちが正直でないのかということについて、国家間で違いがあるのかどうを知りたいと考えており、また、その正直の度合いが、その国の経済的発展と関係があるかどうかをも、また知りたいと考えていた。
実験に参加した人たちは、ブラジル、中国、ギリシャ、日本、ロシア、スイス、トルコ、米国、アルゼンチン、デンマーク、英国、インド、ポルトガル、南アフリカ、韓国からの人々が含まれる。
まず、被験者たちは、コイントスをし、それが落ちた時に、コインの「表」か「裏」か、どちらが出たかについての質問にオンラインで答えた。
被験者たちは、「表」が出た場合には、2ドル( 240円)か、5ドル( 600円)の報奨を得られることを告げられていた。
もし、特定の国の人々の半分以上が、コインが表に出たと報告した場合、これは、その人々の不正直を示す。
同じ被験者たちは、その後、「音楽クイズ」を行うよう求められた。これもまた、全問正解なら、報償が支払われることになっていた。
この音楽テストでは、被験者たちに対して、クイズの答えを Google などで検索しないように求め、次の質問に移る前に「回答はネットで検索せずに自分でおこないました」という確認ボックスにチェックを入れなければならない。
音楽クイズ6問のうちの3問は、意図的に困難な質問となっており、被験者たちが答えるためには、インターネットなどで検索しなければ不可能だと思えるものとなっている。
つまり、その3つのクイズに平均以上に答えていた場合、事前の約束の「インターネットで検索せずに自分で回答した」に反している示唆につながる。
この音楽クイズの試験の結果を比較したところ、特定の人たちは真実を伝えていたと考えられ、下の図のように、日本からの参加者は、ほとんどが正直(下図)という結果となった。
そして、 中国とトルコは最も正直度が低かった。
音楽クイズの内容
研究の被験者たちは、オンラインで検索して調べずに次の質問に回答するように求められていた。あなたは何問答えられるだろうか。
1. 「エリーゼのために」を書いたのは誰ですか?
2. レディー・ガガの本名のファーストネームは?
3. ロックバンド「ニルヴァーナ」のドラマーの名前は何ですか?
4. クロード・ドビュッシーが生まれたのは何年ですか?
5. 標準的なトランペットにはいくつのバルブがありますか?
6. マイケル・ジャクソンが生まれた町と州の名前は?
この研究論文の著者であり、イースト・アングリア大学経済学部のデビッド・ヒュー=ジョーンズ博士( Dr David Hugh-Jones )は、今回の実験において、すべての国で、不正行為の証拠を発見したが、そのレベルは、国によって大きく違ったと語った。
例えば、コイン投げ実験で、最も不誠実だったとみられる中国の人たちでは、 70パーセントに不正が見られたが、英国の人たちの不正は 3.4パーセントだった。
音楽クイズ実験では、日本人の被験者たちが最も正直で、英国が続いた。最も不誠実だったのはトルコだった。
また、被験者たちは他の国の正直度の平均数を予測するように求められていた。ヒュー=ジョーンズ博士は、こう言った。
「正直についての違いが国家の間にあることが見出されましたが、これは必ずしも、人々が期待したものとは対応していませんでした。」
「正直に関する信念は、自己投影としての心理的特徴によって動かされているもののようにも思います」
「そして、驚くべきことに、被験者の人たちは、自分の国の人々の誠実さについては、他の国の人たちよりも悲観的に捕らえていたのです」
「どうしてこのようなことになるのかというと、人々が自分の国でたくさんのニュースに晒されている中で、自分の国で起きている不誠実な出来事を数多く知ることにあるのかもしれません」
「コイン投げ実験で、最も不誠実な4つの国は、中国、日本、韓国、インドでした。しかし、音楽クイズ実験において、アジア諸国は他より著しく不正は見られなかった。日本は、音楽クイズでは、最も正直である結果が出ているのです」
ヒュー=ジョーンズ博士は、コイン投げ実験においての、アジア諸国と他の地域の国との差を、この種の実験の際の固有の文化的な観点から説明することができると述べる。むしろ、それぞれの国の正直度よりも、たとえば、それぞれの国のギャンブルに対しての態度などで説明できると語る。
コイン投げ実験では、ギリシャが最も正直ではない国のひとつだった。しかし、ギリシャは、音楽クイズ実験では中央にランキングしている。
「自分の国の正直度はどうなると予測しているか」という質問に対して、最も自分の国に悲観的だったのは、ギリシャと中国だった。
ヒュー=ジョーンズ博士は、経済発展の中での文化や行動のルーツへの関心についても説明した。
博士は、誠実な回答の多い国は、経済成長に関連している一方で、 貧しい国々は豊かな国より正直ではなかったと述べた。
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