1月7日のジョージ・ソロス氏の発言を速報で取り上げたブルームバーグ
崩壊の向こうへと
さきほど、ニュースを見ていましたら、本日( 1月7日)、スリランカで行われている経済フォーラムで世界で最も著名な投資家のひとりであるジョージ・ソロス氏が「世界市場は危機に直面している」と語ったことをブルームバーグが報じていました。
速報扱いですので、短いものですが、以下のようなものでした。
世界市場は危機の入り口にいる - ジョージ・ソロスは語る
グローバル市場は危機に直面しており、投資家たちは非常に慎重に行動する必要があると億万長者ジョージ・ソロス氏は 1月7日、スリランカでおこなわれた経済フォーラムで語った。
ソロス氏は、中国は新たな成長モデルを作り出すことについて難航しており、また、中国通貨の切り下げは、世界の他の国や地域に問題を転送させていると述べる。そして、マイナス金利から正金利へと戻ることは、発展途上国にとって大きな問題だとも言う。
今の状況については、「 2008年の危機(リーマンショック)を思い出す」とソロス氏は、スリランカの首都コロンボの中で述べた。
こんな1人の発言がどうして速報なのかというのは、おそらくは、このジョージ・ソロスという人は、リーマンショック後のこの8年間くらい、これほど明確に「危機に直面している」と発言したことがあまりなかった(あるいは一度もなかった)からではないかというような気もします。
この人と同じように世界三大投資家と言われるうちのひとりのジム・ロジャースという人は、昨年の夏に「金融危機の爆発は近い。私は日本株をすべて投げ売った」と述べていたというようなことが、報じられていましたが、ジョージ・ソロスさんの発言のほうが、やや重みがあるのかもしれません。
ただ、ジム・ロジャースさんは 70歳を越えた方にも関わらず、奥さんがとてもお若い方で、そちらの面に関しては、最も多くの投資家があやかりたいとしている人物だとしているという話も聞いたことがあります(そうですか)。
いずれにしても、全員があと数年程度と想像される老いていく世界三大投資家たちの話はともかくとして、ここ数日は市場の話題が確かに気になります。
私は投資家ではないので、そんなに市場に敏感になる必要はないのかもしれないですが、私自身の持論というか思い込みとして、
「社会の大きな変化の際には市場は崩壊するか、崩壊に近くなる」
という理念のようなものがあります。
市場というのは、築地の市場とかそっちの市場ではなく、株式市場とか金とか原油とかの商品市場とか債券市場とか、そういうのですね。そういうのが崩壊するのも、ひとつの変化の序章だと。
それが 100年後なのか今年なのかはわからないですが、社会が巨大な変化に向かっているのなら、いつかはそうなるはずだと。
そんなこともあり、昨年あたりから続く不安定な状況を、わりと注視させていただいています。
さて、そんな中ですが、先日の、
・世界も個人的にも波乱含みの2016年の年初:売却禁止の期限があと3日となった中国株、アメリカに近づくジカウイルス。そして、私は療養の準備中
2016/01/04
という記事で、 1月4日の中国株取引において、サーキットプレーカー(決められた値幅制限まで株価指数が下がると、取引が強制的に中止となる)というものが発動して、取引が終了となったことを書きました。
そこで、
> 仮に 7パーセント以上の下落が続いた場合、連日のように、株式取引が停止される状態になるということになります。
と書いたのですが、今日、またサーキットブレーカーが発動したのでした。
しかも、おそらくは世界の株式市場の歴代最速。
上海市場の「857秒」のあいだに起きたこと
下はその時の中国メディアの速報です。
2016年1月7日の中国メディアより
そうなのです。開始後 15分間で取引は停止に追い込まれたのでした。
中国市場のサーキットプレーカーは、ちょっと妙なシステムで、
・マイナス5%下落 → 15分間の取引停止
・マイナス7%下落 → 終日取引停止
というもので、しかし、普通に考えれば、
「 5%下落した時にいったん取引を停止して、また 15分後に再開しても、すぐに 7%下落するのでは?」
と思うのですが、1月4日は、その懸念通りに、再開された後に今度は終日停止されました。そして、今日はもっと派手でした。
日本時間の 10時30分に開始した取引は、あっという間に最初の制限値幅のマイナス5%(取引 15分間停止)に近づき、取引開始後 15分後に 5%に到達し、ただちに取引停止。
先ほどの中国メディア報道によれば、正確には、開始後 857秒だったそうで、つまり、14分17秒後に強制停止。
この「 15分間の取引停止」というのを当局が採用した理由はよくわからないながらも、おそらくは、当局が、投資家たちに対して、
「頭を冷まして、冷静に対応してほしい」
という想いからの「タイム」みたいなものなのかもしれないとは思いました。
当局の思惑通りに、その 15分間で、投資家たちは冷静に考えたようです。
そして、15分後に取引再開。
冷静に考えた(かもしれない)投資家たちは、
「取引停止直前の倍ほどの量の怒濤の売りを一気に浴びせてきた」
のでした。
上海株価指数は「瞬時」に、マイナス 7%に到達。
そこで「終了」でした。
再開してから1分くらいですかね。ちょっとわからないですが、あっという間に怒濤の売りが押し寄せて、あっという間に「強制終了」でした。
普通の市場取引ではこういう光景はまず見られないです。
日本でならストップ安で一日中張り付いているとか、そういうのはありますけれど、強制取引停止がないですので、どんなに下落しようと、最後まで取引は続く(はず)です。
それはともかく、今日の上海市場の「再開時」の売りの殺到の壮絶さは、取引中の取引量を見ればわかります。
1月7日の上海の怒濤の30分間(実質15分間)の取引の全貌
・finance.sina.com.cn
大変に希有な状態を目撃した日だったわけですけれど・・・まあ・・・こういうことは、単なる一時的なものかもしれないですし、それに、どんなものでも、「一辺倒に下がっていく」なんてものもないでしょうしね。
中国当局も手を打ちますでしょうし。
中国市場の特徴は「主力が一般の人たち」であること
実際、今日の株価急落を受けて、中国証券監視委員会は、すぐに緊急会議を招集しました(Klug)。
その結果は・・・、
中国当局が市場めぐる会議を終了、行動に関する決定はなし(ブルームバーグ)
ということで、あー・・・今回は特に何もせずに静観ということのようです。
中国当局が手を打ったといえば、先ほどリンクしました In Deep の記事に、昨年の夏以来、「大量保有株主の株式売却を半年間禁止」されていたものの、売却禁止の期間が 1月8日に切れるということにもふれたのですが、それには手を打ってきています。
想定していた「売却禁止措置の期間延長」が発動されるということではなかったですが、その内容は、昨日の米国ロイターで報じられていました。
それによりますと、
・毎3ヶ月以内に時価総額の1%以上を売却してはいけない
・株式を売却する場合には15日前に売却計画を当局に提出しなければならない
などとなっているようです。
時価総額というのは、その会社の全株式の持つその時の総額ということで、たとえば、日本で最大の時価総額を持っているのはトヨタ自動車で、日々変動するものですが、大体、今日 1月7日で 23兆円くらいです。
たとえばですが、その1%ですと、2300億円。それ以上を売った場合、次の3ヶ月以内に株を売ってはいけない、というようなことです。
そして、急場しのぎの対策として有効だと思ったのは「 15日前に株売却に関しての書類を提出しなければならない」ということかもしれません。
この措置により、売却禁止期間が切れる 1月8日には、大株主たちは「株式を売却したくても、書類を提出していないのできない」ということになり、大量の売却が この日に殺到する可能性はなくなったのだと思われます。
しかし、次の「問題日」が、1月8日の 15日後の 1月23日にやってきます。この日あたりから大株主の大量売却が殺到し始めるのかもしれません(問題の先送り)。
ただ、中国の場合、日本などとは事情が違い、大量保有株主だけ押さえ込んでも、あまり意味がないかもしれません。
というのも、中国の株式市場の「主」は、庶民たちだからです。
下は、しんきんアセットマネジメントの「中国株を支える個人投資家」というものからのものです。
上海の株式市場では、個人投資家によるものが売買代金の約 8割を占めています。これまでの経済成長の恩恵を受けて豊かになった人々が株式投資を積極的に行い、最近の株高をけん引しているのです。
投資家のすそ野が広がっていることは、様々な角度から示されています。例えば教育水準ですが、この 1年間に株式投資を始めた人のうち、約 4分の 1は初等教育レベル、といった報告もあります(中国家庭金融調査)。身近な人が投資で大儲けをしているのを見て自分も始めた、というケースも多いようです。
また、中国では年金など社会保障がいまだに貧弱であるため、多くの人は、自助努力で資産形成を行う必要性を真剣に考えざるを得ません。
とありまして、後の方には、
これらを背景に中国では株式口座数が爆発的に増え、2億口座を上回っています。1 日の株式売買代金は円換算で 20兆円を超えるときもあり、東証 1部市場の 10倍近く、もちろん世界一です。
注意すべきは、信用取引が増えていることです(売買代金の 2割程度)。信用買いは借金による投資なので、担保の株式が値下がりすると借金返済を迫られ、「売りが売りを呼ぶ」連鎖を招く恐れがあります。
これがリリースされたのは、昨年6月19日のことですので、今は多少事情は違うかもしれないですが、大筋では同じと考えますと、
> 1 日の株式売買代金は円換算で 20 兆円を超える
という膨大な株式取引の「8割」を、専門家ではない個人たちが占めているというのは、ものすごいことだと思います。
昨年夏の中国株の大幅な下落と、そして、今年 1月4日と 1月7日に起きた「サーキットプレーカーの発動」の原動力は、おそらく一般の人たちであり、大量保有株主だけを相手にしていても本質はどうにもならない面はあるように思います。
そして、原油価格などもリーマンショック後につけた安値を、ついに更新してきました。
リーマンショック後の安値をつけた原油価格
何だか、中国株の話が中心となってしまいましたが、昨日今日に関しては、北朝鮮の核実験と中国の株安に、ある程度は世界は振り回されていたことは事実かとも思います。
そして、それと同時に、何だか全体的なメルトダウンも感じる気配の年始めでもあります。
とはいえ、先ほども書きましたけれど、世界の先行きは本当に不安定で、よくわかりません。「よくわからない」ということは、文字通り、どうなるかというようなことなんてわからないということでもあります。
こんな中国や世界の株安とか原油安なんてのは一種の気迷いで、あっという間に、中国市場は復活して、日本市場も毎日毎日うなぎのぼりに株価は上昇し、景気は上向き、GDPは上昇を続け、国家財政は安定し・・・。
そして、給料も上がり、結婚する人々が増え、次々と子どもが生まれ、出生率はどんどん上がり、あっという間に、若者人口が高齢者人口を抜いて・・・。
どういうわけだか、認知症の人たちが減って、ガンもあらゆる病気も劇的に減り、日本の人々は毎日幸せに暮らすのでした・・・・・というようなおとぎ話まで考えられるほど私は若くはないです。
やはり「崩壊」の文字のほうが先に浮かんできますけれど、しかし、その「崩壊」のずっと先にあるものを想像して、造り上げていく気持ちで生きていくしかないのかもしれないです。
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