偏頭痛や重度の頭痛の発生確率が最大70%増加
少し前に、胃酸を強力に抑制する胃薬であるプロトンポンプ阻害剤が、「インフルエンザや新型コロナの発症リスクの上昇と関連している」という論文について、こちらの記事でご紹介しました。
そうしましたら、今度は、
「胃酸を抑制する薬は、偏頭痛や重度の頭痛の発生を大幅に高める」
という論文が出されていました。
論文の概要にある「結果」は以下のように書かれています。
論文より
11,818人の米国成人において、胃酸抑制剤の使用は、胃酸抑制剤を使用しなかった人々と比較して、あらゆる種類の胃酸抑制剤および使用のいずれにおいても、片頭痛または重度の頭痛の発生確率が高いことと関連していた。
プロトンポンプ阻害剤 (70% 高)、H2ブロッカー (40% 高)、およびジェネリック制酸薬 (30% 高) の割合で高かった。
使用していない人と比較して、プロトンポンプ阻害剤を服用している人では、偏頭痛か重度の頭痛の発生確率が 70%も高い。
プロトンポンプ阻害剤って偏頭痛まで誘発するのか…。
また、非常に一般的な制酸剤で、ガスターなど市販もされている H2ブロッカーでも、使用していない人に比べて 40%も高い。他のさまざまな制酸剤でも、30%ほど高い。
「うーん」とは思いました。
「機序は何だろう」と。
なぜ、胃酸を抑制することが、重度の頭痛につながるのか。
思い出しますと、2019年に以下の記事で、プロトンポンプ阻害剤が胃ガンのリスクを非常に上昇させることを書きました。
・胃潰瘍や逆流性食道炎に幅広く処方される胃薬「プロトンポンプ阻害剤」は胃ガンのリスクを最大で8倍にまで上昇させる可能性。そして腸内細菌環境を破壊する示唆も
In Deep 2019年9月30日
この記事に、滋賀医科大学消化器内科の医師たちによる論文もリンクしているのですが、そこには、以下のように書かれています。
滋賀医科大学の論文より
これらの結果から、酸分泌を強力に抑制することで腸内細菌叢は変化し、クロストリジオイデス・ディフィシル感染症や炎症が惹起されやすい状況になっていることが考えられ、今後の酸分泌抑制薬の投与法および適応については再考する必要があると考えられた。
胃酸の分泌を強く抑制すると、「炎症が起きやすい」ことがわかったということです。つまり、痛みが出やすくなる。ここにある「クロストリジオイデス・ディフィシル感染症」というのは、「腸内細菌叢が、薬などによって撹乱された状態で発症することが多い消化管感染症」のことだそうです。
腸内細菌叢に大きく影響を与える薬剤のひとつには抗生物質などがありますが、プロトンポンプ阻害剤などの「胃酸を抑える薬」でも同様のことが起こり、感染症や炎症が起きやすくなるようです。
なお、上の滋賀医科大学の論文は「2017年」もので、
> 今後の酸分泌抑制薬の投与法および適応については再考する必要がある…
とありますが、7年後の今も、特に処方について医学界で再考されていることはないと思われます。病院ではバシバシと処方されているはずです。
そういえぱ…かなり以前ですが、私は胃の調子が悪いことが多い人で、H2ブロッカーはよく飲んでいたのですが、確かにあの頃は頭痛が多かったなあと思い出します。
ふと、比較的最近書きました「医学という名の悪の輪廻」という記事などを思い出しました。
今回の場合の輪廻は以下のような感じでしょうか。
この場合の輪廻
胃の調子が悪くて胃酸を抑える薬を飲む。
→ その結果として、腸内細菌叢が乱れて頭痛や身体の痛みが出やすくなる。
→ 今度は、頭痛薬などの鎮痛剤を飲むことになる(解熱剤の NSAID は胃潰瘍を起こしやすい)。
→ そして、NSAID の影響で、さらに胃の調子が悪くなり、胃酸を抑える薬を飲む…。
人によっては、このような永遠のループが続くのかもしれません。
私自身、このループ経験していますし。結果として、あれは 17、8年くらい前ですか、大量の吐血で緊急搬送され、緊急手術と入院に至りました。ループはこのようなことにより一旦止まりますが、気づかない限り、またループが始まります。
解熱鎮痛剤の NSAID (非ステロイド性抗炎症薬)は、痛み止めとして処方でも市販でも、非常にポピュラーなものですが、少し前の記事で、元コクランのピーター・ゲッチェ氏の論文を取り上げていますが、以下のようにあります。
> NSAID による死亡者数は合計約 107,000人と推定される。
このようにあり、NSAID は、それなりの死者数を出しているものです。多くは、胃潰瘍や胃の出血などだと思いますが、仮に NSAID の副作用で胃潰瘍になったとした場合、
「処方される薬は、プロトンポンプ阻害剤か H2 ブロッカー」
ということになり、それにより、さらに腸内細菌環境が乱され、「炎症が起きやすくなる」ということになりまして、炎症による痛みが起きた場合、また NSAID に戻る、と。
そういうループですね。
ちなみに、 NSAID は、抗炎症薬となっていますが、過去の研究では、抗炎症作用が否定されており、ピーター・ゲッチェ氏は、
「非ステロイド性抗炎症薬という名前にもかかわらず、NSAID には抗炎症作用はない」
と述べていました。
そして、さらにとても大きな問題として、
「 NSAID 等の抗炎症薬は、痛みを慢性化させてしまう」
ということが 2022年の研究でわかっています。サイエンスに発表された研究について、こちらの記事でご紹介しています。
制酸剤により乱れた腸内細菌環境が炎症と痛みを誘発し、その痛みを抑えるために服用した NSAID などの鎮痛剤が、「痛みを慢性化させてしまう」というこの悪しきループ…。
では、NSAID ではない鎮痛剤のアセトアミノフェン(カロナール)はどうなのかというと、それもいろいろと問題があるものです。
・アセトアミノフェンの妊婦さんと乳幼児の服用は「子どもの自閉症や神経発達の問題の原因になる」エビデンスが示された論文が発表される
In Deep 2022年8月1日
それにしても、この「プロトンポンプ阻害剤やH2ブロッカーなどの胃酸を抑える薬が腸内細菌環境を悪いほうに変化させている」のだとしたら…とても広がりのある話となってしまいます。
腸内細菌環境の変化や悪化は、炎症や感染症だけではなく、メンタルの悪化にも大きく関係していることがさまざまな研究でわかっています。つまり、「たかが胃薬」だとして服用したものが、メンタルの悪化につながる可能性もあるということです。
以下は関係する記事の一部です。
・自殺の多くは腸内環境の改善で防ぐことができる可能性
In Deep 2019年11月25日
・原因不明とされる疼痛疾患「線維筋痛症」の根本的要因は「腸内細菌環境の変化」であることがカナダでの研究により判明
In Deep 2019年12月25日
・腸内細菌環境が老化プロセスを変化させている
In Deep 2019年11月16日
胃酸を抑制する薬というものは、もしかすると、人類の薬学史上でも最悪のもののひとつである可能性さえあります。
なお、胃の不調への対策としてですが、私は医療者ではないですので、推奨等はできないですが、経験上、「重曹」が最も効きます。これについて、こちらの製薬会社のページなどにもあります。重曹は過剰な胃酸の分泌を抑える作用がある、と書かれています。個人的には、胃の不調にはほぼ完璧に効きますし、副作用は…まあ、ないはずです。
ともあれ、処方薬の「相互の悪い作用」というものが最近少しずつ明らかにになっていて、それでも医療の世界はほとんど変化していないですので、処方薬を飲む場合は、注意深くあるべきだと思います。
あるいは別の面では、偏頭痛をお持ちの方や、線維筋痛症などの方は、制酸タイプの胃薬などを長期で服用していなかったかどうかなどを確認してもいいのかもしれません。
プロトンポンプ阻害剤と頭痛の関係についての論文を取り上げていた記事をご紹介します。
研究は一般的な胃酸の逆流薬が片頭痛リスクの上昇と関連していることを示している
Common Acid Reflux Drugs Linked to Higher Migraine Risk: Study
Epoch Times 2024/04/29
胃酸逆流を抑えるために薬を服用している人は、誤って片頭痛を発症するリスクを高めている可能性がある。
これらの一般的な薬剤と片頭痛との関連性は、米国神経学会の公式ジャーナルである Neurology Clinical Practice のオンライン号に掲載された。
米国の何百万もの人々がプロトンポンプ阻害剤やH2ブロッカーを誤用している
食後または横になっているときに胃酸が食道に逆流することを特徴とする胃酸逆流は、多くの場合、胃酸を抑える薬で治療される。これらの薬剤は、胃食道逆流症 (GERD)、バレット食道、消化性潰瘍などの胃酸関連の上部胃腸疾患に広く処方されている。
研究された薬剤には、プロトンポンプ阻害剤(PPI)や、ファモチジン(いわゆるガスター)、シメチジン、ニザチジン、ラニチジンなどのヒスタミン H2 受容体拮抗薬(H2ブロッカー)が含まれる。
研究者たちは、これらの薬剤は忍容性が高いと考えられているものの、過剰に処方されている可能性があると指摘した。セントルイスのワシントン大学医学部の報告書によると、 1,500万人以上のアメリカ人がプロトンポンプ阻害剤を処方されており、さらに多くの人たちが医療専門家に相談せずにこれらの薬を店頭で購入しているという。
「多くの人が胃酸逆流やその他の症状を管理するために胃酸を抑える薬を必要としていることに注意することが重要です」と管理栄養士であり、この研究の筆頭著者であるマーガレット・スラビン氏はプレスリリースで述べた。
「片頭痛や重度の頭痛に悩まされ、これらの薬やサプリメントを服用している人は、服用を続けるべきかどうか医師に相談する必要があります」
一部の胃酸逆流薬は片頭痛の確率が 70% 高いことに関連している
研究では、スラビン氏とチームは、胃酸を抑える薬を使用した約 12,000人のデータを分析し、過去 3か月以内に片頭痛や重度の頭痛を経験したかどうかを確認した。
プロトンポンプ阻害剤を使用している参加者のほぼ 25%が片頭痛または重度の頭痛を経験していると報告した。同薬を使用していない参加者では 19%だった。
研究チームは、プロトンポンプ阻害剤を服用している参加者は、薬を服用していない参加者よりも片頭痛を発症する可能性が 70%高いことを発見した。
H2ブロッカーを服用している参加者の 4人に 1人は重度の頭痛を経験していると報告したが、H2ブロッカーを服用していない参加者では 5人に 1人であった。 H2ブロッカーを服用している参加者は、服用していない参加者に比べて片頭痛を経験する可能性が 40%高かった。
単純な制酸薬でもリスクは増加していた。研究チームは、制酸薬を服用している人は、いかなる形の酸を抑える薬も服用していない人に比べて片頭痛を経験する可能性が 30%高いことを発見した。
研究チームは、年齢、性別、社会経済的階級間の違いも発見した。収入に対する貧困の比率が低い若い女性は、片頭痛や重度の頭痛を抱えている傾向があった。
食事も結果に影響を与えた。質の低い食事を摂っている人は、片頭痛や重度の頭痛を経験することが多くなった。また、アルコールをほとんどまたはまったく摂取していない参加者は、片頭痛や重度の頭痛の経験が少なかった。
研究チームは片頭痛と酸を抑える薬の使用との正確な相関関係を特定することはできなかったが、初期の研究では腸内微生物叢が片頭痛に影響を与える可能性があることを示唆している。
一部の研究では、特定の腸内細菌が偏頭痛や胃腸疾患の頻度の増加と関係しているとされている。多くの研究が、これら 2つの状態間の関連性を指摘している。
酸を下げる薬によって腸の pH (ペーハー / アルカリ性か酸性かを示す尺度)が変化すると、タンパク質に影響を与える腸内微生物叢の一部も同様に機能しなくなる。初期の研究では、このプロセスが片頭痛に反映されていることが示唆されていると著者たちは書いている。
リスクを冒す価値はあるのか?
研究チームは、酸を抑える薬に関連するリスクは片頭痛だけではないと指摘した。
「これらの薬は過剰処方されることが多いと考えられており、新しい研究では、認知症リスクの増加など、プロトンポンプ阻害剤の長期使用に関連する別のリスクが示されています」とスラビン女史はプレスリリースで指摘した。
プロトンポンプ阻害剤の長期服用に関連するその他の潜在的な健康リスクには、骨折、腎臓病、胃腸感染症、マグネシウム欠乏症のリスク増加が含まれる。
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