米オハイオ州立大学の研究で使われた抗ガン剤「パクリタキセル」
抗ガン剤で副作用が出る当然過ぎるメカニズムが判明
抗ガン剤については、「副作用があって当然」というような見方がありますが、そのように言われるような「強い副作用」がなぜ起きるのかを真剣に研究した医学研究は、これまで実はありませんでした。
その理由は、おそらくですけれど、「抗ガン剤の悪い部分を調べる」という研究には、製薬企業などを含めてのスポンサーがつきにくいということもあるのかもしれませんが、そのあたりはともかく、アメリカのオハイオ州立大学の科学者たちが、
「抗ガン剤が腸内細菌環境を破壊する」
という明らかな結果を研究で示しました。
結果は、11月11日に発行された科学誌ネイチャーの「サイエンティフィック・レポート」に掲載されています。
研究では、化学療法で一般的に使われるという「パクリタキセル」という抗ガン剤を使って、マウスにおいて行われましたが、結果として、以下の変化が「同時に起きる」ことが判明したのです。
抗ガン剤を投与された後の体内の変化
・腸内細菌環境が悪化する
・腸内部の腸壁が異常に拡張
・腸の密着結合部分が壊れ、そこから腸内細菌が流出
・血液に炎症が起きる
・続けて脳内に炎症が起きる
・脳内の炎症によって記憶障害、認知力障害(ケモブレイン)が起きる
というようなことが、「同時に起きていた」のだそうです。
ここまでの悪い変化が起きてしまえば、副作用が出ないほうがおかしいです。
今では人間の健康の根本は「腸内にある」という見識が一般的ですが、それがこのように徹底的にやられるのでは、どうにもならない。
腸内細菌環境の破壊と共に、脳の炎症もすべてのマウスに見られたようで、これが、抗ガン剤治療で起きやすい記憶力障害や認知力障害の原因となっていることがはっきりしたようです。
なお、試験で使用した「パクリタキセル」というのは、薬のページを見てみますと、以下のようなガンに適応されるものだそうです。
パクリタキセルが適応されるガン
卵巣ガン、非小細胞肺ガン、乳ガン、胃ガン、子宮体ガン、頭頸部ガン、食道ガン、血管肉腫、子宮頸ガン、胚細胞腫瘍(精巣腫瘍,卵巣腫瘍,性腺外腫瘍)
だそうで、これだと、化学療法で投与されている方はかなり多いように思います。
そのページには副作用も記されていて、ものすごい数の副作用が書かれていますが、その根本的な原因は、今回の研究で示された、
・腸内環境の悪化
・脳の細胞の炎症
・血液の炎症
でかなりの部分が説明できるもののように思います。
医学者としては、なかなか勇気ある研究だと思いますが、この研究の主任は女性科学者で、今回ご紹介するオハイオ州立大学のニュースリリースを書いたのも同大学の女性科学者でした。
それでは、そのオハイオ州立大学のニュースリリースです。
The gut may be the ticket to reducing chemo's side effects
オハイオ州立大学 / エミリー・キャルドウェル (Emily Caldwell) 2019/11/11
化学療法の副作用を減らすためのキーは腸内細菌環境である可能性が示される
マウスでの研究は、化学療法が腸内環境、炎症の発生、認知障害の問題に影響することを示した。
オハイオ州立大学でおこなわれた新しい研究で、科学者たちは、一般的な抗ガン剤を与えられたマウスにおいて、いくつかの同じ反応を示すことを観察した。
抗ガン剤を与えられたマウスたちは、すべて腸内細菌の組成が変化し、脳と血液において炎症の兆候を示し、そして、行動において疲労と認知障害を示した。
この研究は、化学療法との関連でこれらの複合的な事象を示す最初のものであり、抗ガン剤治療においては、腸内細菌を調節することで、悪心や下痢などの副作用を鎮めることができる可能性だけではなく、多くのガン患者に治療中に生じる記憶力障害と認知力障害の問題を軽減する可能性への扉を開くかもしれない。
オハイオ州立大学の研究室では、抗ガン剤と腸内細菌環境の関係をテストするためにマウスでの研究を続けており、またヒトの乳ガン患者においても平行した臨床試験を実施している。
研究の主任であり、オハイオ州立大学の精神医学および行動健康学の助教授であるレア・パイター(Lea Pyter)氏は、以下のように言う。
「化学療法と腸内環境の状態の関係、そして化学療法と脳の炎症状態の間に関連性があるかどうかを確認した研究はこれが初めてとなります」
「以前から、化学療法が腸内微生物の組成を変化させることを示す研究がヒトで行われていますが、マウスでの私たちの研究でも同様の結果が得られました」
「さらに、腸内環境の変化と共に、化学療法では、脳にも変化があることがわかりました。脳の炎症と関係があります。腸内環境の変化と脳の炎症という変化は、すべて同時に起きています。そのため、化学療法とこれらには相関関係があり、今はその因果関係を調査しています」
この研究は、「サイエンティフィック・レポート(Scientific Reports)」に掲載された。
研究では、雌マウスに、抗ガン剤「パクリタキセル」を 6回注射し、対照群のマウスにはプラセボ注射を投与した。
対照と比較して、パクリタキセルで治療されたマウスたちは体重が減り、疲労の兆候を示し、試験でのパフォーマンスにおいて記憶喪失を示した。
抗ガン剤で治療された動物の内臓、血液、脳も、対照群では見られない影響を受けていた。
抗ガン剤を投与されたマウスたちは、腸内微生物叢内の細菌の混合が変化し、結腸の内側を覆う組織が異常に拡張していた。そして、特定のタンパク質が血液および脳に出現し、脳内の活性化免疫細胞と共に、免疫系が全身の炎症反応を激しく生成したことを示した。
これら一連の出来事は、腸内細菌の組成の変化と、結腸の組織変化、そして脳と血液の生理学的変化がすべて化学療法と関連していることを示唆している。
さらに、抗ガン剤を与えられたマウスたちは、腸が透過性の兆候を示した。これが意味することは、つまり腸の密着結合(隣り合う上皮細胞をつなぎ、分子が細胞間を通過するのを防ぐ細胞間結合)から、腸内細菌の小片が通過し流出してしまう可能性があるということだ。これは、免疫系攻撃を引き起こす事象につながる。
そして、脳が血液の状態を通して、自らの体内の免疫系が活性化されていることを神経信号を通じて検出すると、脳は自身で炎症と同様の反応を起こす。この脳の炎症は、ケモブレイン(chemo brain / 抗ガン剤治療の影響で起こる認知障害)の原因となる。
パイター助教授のチームは、化学療法とこれらの体内で起きる状態の関連性に関するすべてのデータをテストした後に、腸内微生物と結腸内層の変化と脳内のミクログリアと呼ばれる免疫細胞の活性化との最も強い相関関係を発見した。
オハイオ州総合がんセンターのがん制御研究プログラムのメンバーでもあるパイター助教授は、「化学療法によって腸内の細菌が減少していくたびに、その減少は脳内の炎症の状態と相関しました」と述べた。
パイター助教授は以下のように述べる。
「これは、化学療法が腸内の微生物に影響を及ぼし、腸の内層に影響を及ぼしていることを示唆しています。これらの変化は両方とも末梢の炎症を引き起こし、脳の炎症を促進するシグナルを生成します」
「それが、免疫系を介して脳の炎症を引き起こすメカニズムです。脳の炎症は、疲労や体重減少、認知障害につながります」
これらの関係の確認は、プロバイオティクスなどの食事戦略、あるいは糞便移植などのガン患者への治療の介入につながる。すなわち、化学療法を受けているガン患者に腸内環境の改善治療を行うことにより、炎症から脳を保護する腸内の状態の改善を促進し、ケモブレインを軽減できる可能性がある。
ここまでです。
この研究者の方は、化学療法を否定しているのではなく、「腸内細菌や脳の炎症を保護する方法を兼用するべきではないか」というような考えに至っているようです。
ただ、医学者ではない私から見ますと、基本的に、
「一度破壊された腸内環境は自然には完全には戻らない」
という点から考えますと、たとえば、抗ガン剤でガンが寛解したり治ったとしても、「腸内環境が大きく毀損している可能性が高い」ということになると思われます。
つまり、抗ガン剤で治療して、仮にガンが治った場合でも、その後、さまざまな不調に見舞われる可能性があるわけで、抗ガン剤を用いる場合は、治療中も治療後も「腸内環境の改善」を徹底的に行うようにした方がいいのかもしれません。
腸内環境が悪いままですと、ガンが治ったとしても、その後もガン再発を含むさまざまな疾患にかかりやすくなる可能性が高く(もしかすると、ガンが再発しやすい最大の原因は抗ガン剤による腸内細菌環境の破壊によるものかもしれません)、それを防ぐためにも、
「抗ガン剤治療と、腸内環境改善は同時に行う必要がある」
という医学的アプローチが必要なのではないでしょうか。
今回の研究結果からはそう思います。
私のように「どういう状況でも抗ガン剤は使わない」と決めているならともかく、現実的には医療現場では、ガンに対しての化学療法は標準治療であり、第一選択ですから、ガンになられた場合、そうなる方が最も多いと思われますし、化学療法に挑む場合は腸内環境の悪化を極めて注意するべきかもしれません。
思えば、このブログでは、腸内環境に関しての記事がかなり多くなってきていますが、腸内環境改善と体調や精神状態の改善の関係は、私自身の「腸内環境改善の試験的生活」でも、ある程度は実証されています。
この 10年近く、胃やメンタルを含めたいろいろな不調に悩まされていましたが、以下の記事で取りあげたことがあります「酪酸菌」(と、トリファラ)を飲み続けて以来、少しずつ、いろいろと改善しました。
米シカゴ大学が乳幼児の腸内細菌を用いて食物アレルギーを改善する画期的な方法を発見。そして、キーである「酪酸菌」を用いて、日本人も誰でも食物アレルギーを飛躍的に改善できる可能性があります!
投稿日:2019年1月15日
酪酸菌には本当に助けられました。
食べ物に対してアレルギーや不耐性のある方や、いろいろと免疫的な問題のある方、あるいはパニック障害や、うつ傾向などがある方は試してみても良いと思います。すぐに効果は出なくとも、何か月単位で見れば、少しずつ確実に良くなると思われます。
たとえば、下のアマゾンの商品ページには、酪酸菌に対しての 500件以上のレビューがありますが、それなどを読まれても、すべての方に対してではないかもしれないですが、効果のある方が圧倒的に多いことがわかると思います。
In Deep の腸内環境に関しての過去記事をいくつかリンクして今回の記事を締めたいと思います。
In Deepの「腸内細菌環境」と関係した過去記事
・私たち人間の遺伝子情報(ゲノム)は「自らの腸内細菌によってコントロールされている」ことが判明
・6000万人の日本人が花粉症である現実と、それをもたらし続ける「腸内細菌キラー」の正体。そして、花粉症の症状が「酪酸菌」で改善される可能性
・食物アレルギーと関連する「腸内細菌の種類」がついに特定される。これにより、理論的には「すべての食物アレルギーを完治させる」ことが可能に
・ごく一般的な食品添加物である「二酸化チタン」が腸内細菌環境を破壊することがオーストラリアの大学の研究により判明
・低カロリーあるいはノンカロリー甘味料は「腸内細菌の環境を徹底的に破壊」し、健全な人間を2週間で糖尿病へと導く可能性
・「砂糖という存在の正体」の衝撃 : 単糖は「重要な腸内微生物を腸内から《消し去る働き》」を持っていたことが米国の研究で判明
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