何だかいろいろとこれからの世界は大変で…
私は、子どもの頃からテレビの娯楽やお笑いにどうも馴染めず、テレビを見なくなった理由もそこにあるのかもしれないですが、ただ、落語家の初代林家三平さんの噺は好きで、はじめてカラーテレビが我が家にやってきた四十数年前ころはよく見ていました。
初代林家三平さんは、話が暴走して暴走して暴走して、途中で収拾がつかなくなりますと、「もう本当に大変なんスから」と、そこでいったん流れを断ち切るということをされていましたが、最近いろいろと状況が暴走して暴走して暴走している中で、私も科学誌サイエンスに掲載された論文を見まして、
「もう本当に大変なんスから」
と、いったん流れを断ち切りたくなります。
今度は、新型コロナウイルスならぬ「新型エイズウイルス」の登場です。
まったく新しい変異種 HIV です。
しかし、変異種とはいいましても、HIV (ヒト免疫不全ウイルス)が最初に分離されたのは 1983年のことで、分離したのは、当時フランスのパスツール研究所の科学者だった、このブログにも何度か出てきましたリュック・モンタニエ博士でした。
登場は 40年前です。
しかし、この 40年間、 HIV が大きく変異したという話はあまり聞いたことがないように思うのですが、それが、ここにきて「変異種」です。しかも、進行のスピード、感染性などが全部強いようです。
科学誌サイエンスに掲載された査読済みの論文は以下にあります。
A highly virulent variant of HIV-1 circulating in the Netherlands
オランダで流行しているHIV-1の非常に毒性の高い変異体
この論文のタイトルには、「非常に毒性の高い変異体」とありますが、HIV はもともとが強い免疫不全を起こす毒性を持つ強力なウイルスですが、それがさらに強くなった、ということで、しかも蔓延が確認されたのは最近のことのようです。
論文は難しいですけれど、この新しい HIV 変異体は、
「もともとの HIV より、さらに急速な CD4細胞の衰退をもたらす」
と書かれてあります。
CD4細胞とは、Wikipedia の説明では以下のようなものです。
> 分子生物学において、CD4とはいわゆるヘルパーT細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞などの免疫系細胞が細胞表面に発現している糖タンパクで細胞表面抗原の1つである。
>
> CD4陽性T細胞はヒトの免疫系において必要不可欠な白血球である。 (CD4)
これが、もともとの HIV 感染でも、感染からの時間の経過と共に「枯渇」していき、さまざまな免疫不全が起こり、それにより致死的になるようです。
> 無治療の HIV-1 感染患者や臓器移植前の免疫抑制状態のように CD4細胞が枯渇してしまうと、健康な人では感染症を起こさないような様々な病原体に対して感染を起こしやすい状態(日和見感染)になってしまう。(CD4)
そして、HIV というのは、この CD4を「利用して」ヒトの細胞に侵入します。
> ヒト免疫不全ウイルス-1 (HIV-1) は宿主のT細胞へ侵入する際にCD4を利用する。…HIVの感染により、CD4を発現するいわゆるヘルパーT細胞の細胞数は段々と減少する。(CD4)
この度合いが新型の HIV 変異種では「さらに強い」ということのようです。
論文によれば、従来の HIV は、CD4細胞の大幅な低下までの期間(いわゆるエイズとしてのさまざまな症状が強く出る頃まで)は「平均 36ヵ月」となっていたとのことですが、この新しい HIV は、
「 9ヵ月でCD4細胞数の大幅な低下に至った」
とあるように読めます。
つまり、この HIV 変異種は、以前の HIV より時間的に早く重篤な免疫不全の状態が訪れるということだと理解します。
今回は、この論文の内容を説明していたタイランド・メディカルニュースの記事をご紹介させていただこうと思いますが、ただ、
「なぜ、今 HIV が変異した?」
とは思います。
時期的に、パンデミック、あるいは大規模ワクチン接種が開始された時期と重なっているために、推測や想像だけでしたら、いろいろと考えられる気もするのですが、その推測は書かないです。
いずれにしましても、この新しい HIV 変異体が世界中に広がるようなことがあれば、もうもう本当に大変で、「もう本当に大変なんスから」と話の流れを断ち切りたくもなります。
ただでさえ、多くの人々の免疫の状態に赤信号が灯っている中、こんな新型 HIV までも蔓延してしまうと、特に若い人たちなんかはどうしたらいいのだろうと。
…… HIV といえば、先日以下のイベルメクチンの記事を書かせていただきました。
[記事] オミクロン株をめぐる「イベルメクチン戦争」
In Deep 2022年2月4日
HIV 感染そのものに対してではないですけれど、イベルメクチンって、いわゆるエイズの皮膚症状に対してはかなり有効だという論文を見たことがあります。
以下は、1997年のもので、 25年くらい前の論文です。
イベルメクチンの有効性に重点を置いたHIV関連疥癬の治療 (1997年9月)
Treatment of HIV-related scabies with emphasis on the efficacy of ivermectin
この概要には、以下のようにあります。
> ヒト免疫不全ウイルス(HIV)関連の疥癬の治療はより困難であるという一般的な合意がある。その中で、経口イベルメクチンが安全で効果的な治療法であることがいくつかの国で示されている。200マイクログラム/ kgの 1回の投与が通常治癒的となる。HIV 関連の疥癬では、1回の治療で治癒する場合がある。 (pubmed)
HIVそのものを排除するというものではないであろうにしても、症状には効果があることが少なくとも「四半世紀前くらいまでは」わかっていたようです。今はどのような状態かはわかりません。
あと、HIV といえば、2007年に、英シェフィールド大学の研究者たちが、
「緑茶(の中のエピガロカテキンガレートという成分)は HIV を寄せ付けない」
とする論文を発表していたことがありました。
以下の記事でご紹介しています。
[記事] HIVからも防御 : 緑茶のエピガロカテキンガレートは、エイズウイルスの感染と発症を防ぐ…
In Deep 2020年4月14日
そのときのシェフィールド大学の「緑茶は HIV を寄せ付けない作用を持つ可能性がある」というタイトルのニュースリリースは、以下のようなものでした。
(シェフィールド大学ニュースリリースより)
> 英シェフィールド大学と米テキサス州のベイラー医科大学が発表した研究によると、緑茶を飲むことは HIV / AIDS との闘いに役立つ可能性がある。
>
> 研究者たちは緑茶に含まれる「エピガロカテキンガレート(EGCG)」と呼ばれる成分が、HIV が免疫系細胞に最初に結合することを妨げることを発見した。エピガロカテキンガレートが免疫系細胞に結合すると、HIV が定着する余地がなくなるのだ。
>
> シェフィールド大学の分子生物学およびバイオテクノロジー学部の研究を担当したマイク・ウィリアムソン教授は、次のように述べている。
>
> 「私たちの研究によると、緑茶を飲むと、HIV に感染するリスクが低下し、 HIVの蔓延を抑制することができる可能性があります」
Green tea could keep HIV at bay
新型コロナにもエピガロカテキンガレートが大変に有効であることがわかっていますが、やっぱり HIV とコロナは似たもの同士ですね。
ここからサイエンスの新型 HIV について説明していた記事です。
オランダで発見され、現在ヨーロッパ中に広がっている新しい非常に毒性の高い HIV 変異体
New Highly Virulent HIV Variant Discovered In Netherlands That Is Now Spreading Around Europe
thailandmedical.news 2022/02/04
英オックスフォード大学とオランダの HIV モニタリング研究所が率いる国際的な研究者チームが、現在、ヨーロッパ中に急速に広がっている、驚くべき非常に毒性の高い、新しい HIV 変異種を発見した。
この新しい亜種はより速く複製し、高いウイルス量を引き起こすと共に、CD4細胞をより積極的かつ迅速に攻撃および枯渇させ、また、より伝染性が高いことがわかった。
ヨーロッパ HIV モニタリングセンターのデータは、ヨーロッパの他の場所でも症例が特定されているが、オランダと英国がこの新しい HIV 変異種 (VB HIV)の現在のホットスポットであることを示している。
クラスターはすでに特定のゲイのグループ等でも発見されているが、この変異種は、同性愛者のコミュニティよりも、異性愛者の間で優勢だ。
この新しいサブタイプの HIV-1 または VB 変異体は、CD4細胞に対して非常に攻撃的であり、これらの細胞を非常に急速に枯渇させ、疾患の進行と重症度をより速くする。
この学際的研究チームには、他に、フランス、スウェーデン、ドイツ、アメリカ、フィンランドの大学や機関の専門家たちが含まれている。
研究チームは、最初、オランダでこの HIV の非常に毒性の高い変異体を発見した。
この変異体が検出された 199人は、他のサブタイプを有する 6604人と比較して、ウイルス量が約 3.5倍から 5.5倍増加しており、CD4細胞の減少数が 2倍速く示された。
この変異体を有する 30代の人物の診断後、治療しない状態の場合、進行した HIV に平均して 9か月後にその臨床結果に達すると予想されることがわかった。
遺伝子配列の分析は、この HIV 変異体が 1990年代に突然変異から生じ、伝染性が増加したことを示し、そして病原性の分子メカニズムが今のところ知られていないことを示唆した。
進行中の COVID-19 パンデミックでも、コロナウイルスの遺伝子配列の新しい突然変異がウイルスの伝染性と症状に重大な影響を与える可能性があることを示している。
HIV ウイルスはすでに世界中で 3800万人以上に影響を及ぼしており、これまでに 3300万人が死亡している。
その中で、新しい非常に毒性の高い HIV 変異体の発見されたということになり、HIV に対しての薬物と治療のプロトコルの分野が難しい局面に直面する可能性がある。
この亜種は現在はオランダと英国が最も多くの症例を抱えているが、その後、オランダと英国以外のヨーロッパの他の場所でも急速に広がっている。
今日までこの新しい HIV の亜種はアジアでは確認されていないが、国境を越えた性産業などについて考えると、この新しい亜種が、アジアに拡大するのは時間の問題なのかもしれない。
研究チームは、「この非常に毒性が高く伝染性の高いウイルス変異体の発見は、リスクのある人々が、頻繁に検査へのアクセスを行うことと、感染が判明した場合の即時の治療開始の推奨事項の順守の重要性を強調している」とコメントした。
仮に、SARS-CoV-2 変異株がこの新しい HIV 変異種と何らかの形で再結合したとすれば、それは想像するのも難しい展開となりそうだ。
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