こんな時代に生きているので
日本は今、連休だそうで、そんなことも知らずにいつもと同じように散歩していたのですけれど、何でも各地の観光地は大盛況のことで、それはそれでめでたいことだと思います。
しかし、コロナの中の社会で暮らして、そろそろ半年になる中で、もっとも心配なことのひとつが、「メンタルヘルスの状態が悪くなる人が極端に増える」という可能性です。
以前も、「今起きていることは通常のメンタルヘルス・カタストロフではない」という記事で、英ケンブリッジ大学出版局から発行された『災害精神医学の教科書(Textbook of Disaster Psychiatry)』を引用した米メディアの 7月の記事から以下の部分を引用しています。
心理的障害の発症は、時期的にずっと後になってから起きる可能性がある。
『災害精神医学の教科書』の内容からは、今後パンデミックが沈静化したとしても、現在すでに見受けられている深刻なメンタルヘルスケアの需要は、さらに急増する可能性があることを警告している。
このパンデミックが、今後、強迫性障害、広場恐怖症、および性恐怖症など広範に重大な拡大を見せることが懸念される。(Atlantic)
このようにありまして、「事態の発生から時間が経つほど、深刻なメンタルヘルスの問題は多くの人に拡大していく」ということが書かれています。
まあ、このようなものを引用しなくても、実際にメンタルヘルスの問題を持たれた経験がある方がいらっしゃいましたら、おわかりになるのではないかとも思います。
たとえば、私は 22歳の時に、詳細はともかく、ある出来事に遭遇しまして、そこから結果的に PTSD (心的外傷後ストレス障害)としてのパニック障害を発症したのですが、
「症状に耐えられなくなり、心療内科に飛び込んだのは、その 1年後」
でした。
PTSD のきっかけとなる出来事の体験の後、もちろん、その間もメンタルの調子は良くはないのですが、ついに耐えきることのできないパニック障害を発症するのにそれほどの時間がかかったのです。
これはそれぞれの人によって、あるいは、その経験の内容により、全然違ったものにはなりますでしょうけれど、「厳しい現実や事件の渦中にある時は多くは人はメンタルを何とか保てるもの」のようなのです。
もともとが、この PTSD というものが初めて理解されたのは、第一次大戦後に、戦場から帰還した兵士たちの多くにさまざまな精神的トラブルが見られたことから欧米で研究が進められたものです。場合によっては、戦争が終わり、ずいぶんと時間が経ち、平和な日常を送っている中で、突如、パニック障害になったり、激しいうつ症状に陥ったりする人がとても多かったのです。
戦場そのもので精神が破壊される人よりも、ずっと後になってから、精神が破壊される人が多かったと思われます。
ずいぶん以前、NHKスペシャルで『狂気の戦場 ペリリュー』という番組を、これは偶然テレビをつけましたら放映されていたのですが、見たことがあります。
それまで、ほとんど知られていなかった大平洋戦争での日米の戦闘で、アメリカにその記録フィルムが残っていることで判明したような「知られざる戦闘」でした。そして、この戦闘は、第二次大戦でアメリカ軍が最も大きな死傷者率を出した戦闘(部隊の半数が死傷)でもありました。ですので、アメリカ側からの資料もなかなか出てこなかったということもありそうです。
日本軍の精鋭部隊 1万人と、やはり精鋭のアメリカ海兵隊 2万人が戦い、当初、アメリカ軍は「 3日で片が付く」と見ていたペリリュー島という小さな島での戦闘で、日本軍は、それまでの玉砕攻撃から「徹底したゲリラ戦」に戦法を変更して抗戦しました。
当初、3日間ほどで米軍の圧勝に終わると予測されていたこの戦闘は、70日を超えて続き、その戦闘は凄惨きわまりないものとなりました。
結果は、開戦後 72日目(記憶なので違うかもしれません)に戦闘は終わり、
・日本兵 兵士 1万人のうち生存者は 32人
・米兵 兵士 2万人のうち 1万人が死傷
という悲惨な戦いとして終わりました。
この NHK スペシャルの映像は、今でも NHK オンデマンドに残っているはずです。
なぜ、こんなことを取り上げたかというと、その米軍のフィルムには、毎日の日本兵のゲリラ攻撃への恐怖から、精神に異常をきたしたアメリカ兵たちの姿がいくつか写っているのです。
しかし、フィルムを見る限り、圧倒的多数のアメリカ兵たちは、志気は落ちているとはいえ健常に見えました。
おそらく、あのような地獄そのものの戦闘の後は、実は母国に帰還して、時間が経てば経つほど、人により、その悪夢は「病気」という形で現れたはずです。
アメリカ海兵隊の兵士として、当時、ペリリュー島で日本兵と戦った今は 90歳を超えているご老人が表情のない顔つきでこう語っていました。
「私の記憶はあの時から止まったままです」
終戦から 70年近く経った時の言葉です。90歳になって、18歳の時の記憶で苦しんでいる。
このペリリュー島は極端な例かもしれないですが、「恐怖の記憶」は、どんなものであっても、非常に根強いものです。
今回の新型コロナウイルス対策下の社会では、多くの国で、夏前までに、すでに非常に多くのメンタルヘルスの問題が噴出していました。アメリカなどは 5月の時点で以下のように、かなり多くの人たちが、精神的な不調あるいは病的なレベルの状態となったことが示されています。
絶望の未来は今:CDCの調査でアメリカ人の3分の1がロックダウン中にうつ病を発症していたことが判明。あまりの患者の急増に「抗うつ剤の枯渇」も
投稿日:2020年6月9日
それに加えて、多くの国で経済の回復がなされていないばかりか、失業者は今も増え続けています。
日本は、欧米ほど厳しいロックダウンは課されなかったとはいえ、個人や中小企業に破壊的なダメージを与え、そして、人々は「遊び」や「娯楽」を剥奪された状態が続いていました。遊びに行くだけで、非難と炎上の対象となるような社会となり果てていました。
ライブや演劇やイベントは今でも通常通りに戻ってはいません。
このような状態で、社会が健全なメンタルヘルスの状態であり続けることは難しいことだとは思いますが、しかし、どんな地獄的な政策に叩き込まれたとしても、私たちはその社会に生きなければならないわけで、そして、先ほど書きました「メンタルヘルスの問題が深刻化するのは今後」だということも事実だと思われます。そういうところで生きなければならない。
9月20日に、日本でもメンタルヘルスの状態が悪化し続けていることを共同通信が伝えていました。
コロナ禍で「精神疾患が増加」 民間調査、医師の4割指摘
新型コロナウイルス禍での生活環境変化の影響で増えた疾患について、民間企業が全国の医師に尋ねた結果、回答した561人のうち4割近くが「精神疾患」を挙げ、最多だったことが分かった。
感染者の後遺症と思われるメンタル面の症状では「悪夢を見る」「うつ状態」「常にコロナにおびえている精神状態」などが多かった。
外出自粛や休業要請による生活環境変化を受け、患者が増えたり、症状が悪化したりした疾患を複数回答で尋ねると、「不安障害、うつ病などの精神疾患」が38%で最多だった。(共同通信 2020/09/20)
このように、現時点ですでに「精神疾患が増えた」と 4割の医師たちは回答しているわけで、これからの社会の状況を予想しますと、今後も増え続けていくとしか思えない部分があります。
そして現在の「医療」では、現実的には、どんなメンタルの疾患であって、ほぼすべて「投薬」治療です。 100%とはいいませんが、それに近い率となると思われます。
お医者さんによっては、よく話を聞いてくれたり、アドバイスをしてくれる人たちもいるかもしれないですが、しかし、その場合でも結局は解決法は「薬」だけなのです。
そして、特に不安障害やパニック障害などは「ベンゾジアゼピン系の抗不安剤」というものが多く処方されます。睡眠薬の多くもそうです。
これは人によっては、薬が合えば、とてもよく効きます。
ところが、非常に強い「依存性」があるのです。
私は、23歳の時に初めてベンゾジアゼピン系の抗不安剤(レキソタン)を処方され、そして、その後、自力で服用をやめることができたのは、それから32年後でした。つまり、つい最近です。
そのあたりについては、以下の記事などにも記したことがあります。
・意図して書き始めたわけではないけれど、話はナルコレプシーと脳萎縮と「30年間におよぶベンゾジアゼピン系薬物依存」のことへと転がる石のように
投稿日:2016年12月15日
この記事を書いた 2016年12月の時点では、私はまだ服用をやめられていませんでした。
努力はしていましたが、そうそう簡単にいくものではない。
ベンゾジアゼピン系の依存性は人により強烈です。
その後「腸内細菌環境の改善」を目指し始めた 2年くらい前から、ベンゾジアゼピン系の薬を飲まなくてもいい感じに徐々になっていきました。
腸内細菌環境の改善というようなことに興味を持ったのは、その頃、海外の論文で、「 GABA を産生している指令を出しているのが腸内細菌」であることがわかったからです。
そのことについて、少し書かせていただきます。
まずは腸内細菌環境の改善が最優先
GABA (ギャバ)というのは、メンタルヘルスと大変に重要な関係がある脳内の神経伝達物質で、この「腸内細菌環境とメンタルヘルスの関係」は、あまり日本では言われないです。
しかし、欧米などでは大変に研究されているものでして、それについては、以下の記事の中段あたりにある「私たちはベンゾジアゼピン系と同じ働きをするものを、本来持っている」というセクションに書かせていただいています。
日本では数百万人が服用しているあまりにも一般的な処方薬であるベンゾジアゼピン系の薬がアメリカで殺人ドラッグになり始めている
投稿日:2019年12月9日
詳しい部分は上の記事をご参照いただければ幸いですが、そこに、
「 GABA やセロトニンの産生が正常なら、メンタルの病気には極めてなりにくい」
と書かれてありますが、基本的にはこれがメンタルヘルスの根源的な部分です。
つまり、GABA やセロトニンの産生が正常な人たちは、「どんなに厳しい体験をしても、それがトラウマや PTSD につながりにくい」わけで、逆に
「GABA やセロトニンの産生が弱い人は、何かの経験によってトラウマや PTSD になりやすい」
とも言えるのかもしれません。
さらに「うつ病も腸内細菌環境と関係している」ことがわかってきています。
以下の記事では、科学誌ネイチャーに掲載された、ベルギーのルーベンカトリック大学の科学者たちによる研究をご紹介していますが、タイトルの通りで、腸内細菌環境の改善で、うつや自殺を予防できる可能性があるのです。
自殺の多くは腸内環境の改善で防ぐことができる可能性
投稿日:2019年11月25日
いくら腸内細菌環境を改善しても、社会が良くならない場合は、自分が生きる環境は同じです。しかし、「その環境にメンタルが耐えられるかどうか」ということについて、いくつかの腸内細菌たちは、神経伝達物質の産制を促すことにより、私たちを過度な恐怖や不安から守ってくれるのです。
これまで何度も書いてきましたが、現代生活は、腸内細菌環境が破壊されやすい環境であり、
・抗生物質の濫用
・過度に衛生的な生活
・農薬や化学物質
・遺伝子組み換え食品
・人工甘味料
などに満ちていまして、これらのほとんどが多かれ少なかれ腸内細菌を殺します。
それに加えて、新型コロナの社会下での「常軌を逸した消毒生活」も続いていて、このまま同じような状況が、あと半年や1年とかに及べば、
「多くの人たちの腸内細菌環境はボロボロになってしまう」
と考えています。
多くの人が思っている以上に、殺菌剤や消毒剤の多用は人の腸内細菌の組成を変えてしまうことがわかっています。
また、殺菌剤や消毒剤の多用は、「肺」への影響も大きいです。これは、「過剰な消毒と殺菌が「人間の肺を破壊するメカニズム」がわかった」などの記事をご参照下されば幸いです。
もちろん、腸内細菌の組成に変化があっても、影響が出るのは何年も後のことなのですけれど、「いつかは影響が必ず」出るものだと思います。
そして、
「プロバイオティクス食品(腸内細菌を改善する食品等)がメンタルヘルスの改善に効果がある」
ことについては、多くの医学論文があります。
プロバイオティクス食品を多くとることは、特にうつ病の発症と重症化を防ぐ効果があるようです。
以下は、2019年4月の研究で、アメリカ国立医学図書館のライブラリーにあるものです。
・うつ病と不安症のためのプレバイオティクスとプロバイオティクス:系統的レビューと比較臨床試験のメタ分析
Prebiotics and probiotics for depression and anxiety: A systematic review and meta-analysis of controlled clinical trials
プロバイオティクス食品は、特にサプリに頼らなくても、今なら、いろいろな本やサイトなどに「腸内細菌に良い食品」などが書かれてあるように思いますので、ご自分のお好きな感じでいいのではないかと思います。嫌いなものを無理に食べるのは、いろいろと良くないです。
サプリに関しては、私自身は、以前からもご紹介することもありますが、わりと一般的なものですが、以下の酪酸菌(商品名:ミヤリサン)を、もう2年くらいですかね。飲み続けています。食品不耐性やアレルギーはほとんどなくなりました。
かつて、東城百合子さんの書かれた『家庭でできる自然療法』の中に、「壊れた体を治すには7年かかる」というような記述がありまして、私も7年くらいは飲もうかな、とか(それまで生きているかどうかは不明ですが)。
そういえば、東城百合子さんのこの本にも、まだ医学の世界に「腸内細菌」というような概念が出る何十年も前(書かれたのは 1970年代)ですのに、「腸内バクテリアはとても大事です」というような記述が何度も出てきていました。
ちょっとここまで腸内細菌のことで長くなりましたが、今の社会、そして、これからの社会の中で、メンタルヘルスの問題と対峙する際に、
「これらは明らかに良い影響がある」
というようなことを、正式な医学論文が発表されているものについて、他にも要点としてご紹介させていただきたいと思います。
ただ、腸内細菌の改善にしても、これらは病院の薬のようにに即効性があるものとはちがい、期間の長い取り組みとなるのは仕方ないことですので、メンタルの問題でどうしても苦しくて仕方ない場合、薬でその状況から一時的に脱することは悪いことではないです。
メンタル疾患の状態が悪すぎると、まともに考えることもできなくなってしまいますので、落ちつける状態を生み出して、そこから「考えていく」ことだと思います。
では、それぞれ簡単にですが、「最も重要な要素」としてビックアップします。単純なことばかりですけれど。
ちなみに、最も大事だと思うのは、上に書きました腸内細菌環境の改善です。
メンタルヘルスに良い他のことを箇条書きにいたします。
リンクは、論文や医療機関のリンクですが、英語のものが多いです。
太陽光を浴びる
・太陽光から得られるビタミンDは、神経伝達物質や酸化ストレスに対する有益な効果を通じて、うつ病の症状を軽減する (2015年の研究論文)
・太陽光はセロトニンという脳内物質の産生を促すため、気分の安定や睡眠の改善に結びつく (米トリシティ・メディカルセンター)
・太陽の紫外線が、腸内細菌環境の組成を良くする (ブリティッシュコロンビア大学の研究の研究をご紹介したIn Deepの記事)
・太陽光への曝露が少ないと精神的苦痛を感じやすくなる(米ブリガムヤング大学の2016年の研究)
・統合失調症のある被験者の65%は、症状のない人と比較して、血中のビタミンDレベルが「大幅に」低いことが判明(イスファハン医科大学の研究)
他にも太陽の恩恵はいろいろあると思われますが、今回のロックダウンや、ステイ・ホーム対策で良くなかった部分に、この「太陽に当たらない人が増えた」ということがあります。
また、「ふだんより歩かなくなった」あるいは「ふだんより運動しなくなった」人も増えているようですが、どんな種類のものでも、「運動」とメンタルヘルスは、密接に関係していまして、2018年に発表された論文では、「かなりの運動をしている高齢者女性は、認知症にかかる可能性が最大 90%低い」ということがわかったのだそうです。
そして、もうひとつ、これも腸内細菌環境と並んで重要なことが以下のことです。
孤独に陥らない努力をする
これは、わりと最近の記事ですが、以下の記事で、アメリカのマサチューセッツ総合病院やハーバード大学公衆衛生学部などの研究者たちが発表した論文で、
「うつ病の発症要因として最大であるものは、社会的つながり」
だったことがわかったというものでした。
うつ病を予防する最も強力な因子は「人とのつながり」であることをアメリカの研究者たちが最新のデータ解析技術を使用して突き止める
投稿日:2020年9月9日
パンデミック下でのロックダウンや緊急事態宣言などでは、この「人とのつながりが断ち切られた」人たちも多く、人や地域によっては、その期間も比較的長いものとなったかもしれず、このあたりにもメンタルの悪化の要素が含まれています。
わかりにくくなったかもしれないですが、少なくとも、現在までに、医学的に明確な論拠がある「メンタルヘルスの改善」に良いものは以下の3つが最大のものだと思います。
・腸内細菌環境の改善(細菌環境の良い人ならその状態の保持)
・太陽光を無理のない範囲で浴びる
・孤独に陥らないように努力する
先ほども書きましたが、西洋薬とはちがい、どれも即効性があるものではないですが、今後長く続くかもしれない「暗い時代」の中をメンタルを保ちながら、つまり正気で生きていくには、これらは大事なことだと思っています。
いずれにしましても、人々のメンタルの状況がさらに悪くなっていくのはこれからであり、そして、数年後、十数年後はさらにそれが進むことは確実な予測となっています。
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